上 下
10 / 14

8 屯所までの道のり 2

しおりを挟む
 そんな笑顔を見ることになるだなんて…沖田には受け入れることが出来ない。
 まさかそんな言葉が山南から聞かされるとは思ってもいなかった沖田は知らず知らず言葉を荒立てていた。

「そ、そんなこと」

 い、嫌だ!

 沖田の中で拒否反応を示す。あり得ないと思いつつもそれを否定出来ない心の底が自分に対しても拒絶しようとした。

「わかってるくせに…いうなよ」

 お前にこんな辛い事言わせたくないんだが…もう…無理なようだと観念する山南。
 そんな思いを知ってるかのように沖田は呟くように言葉を繋げた。

「俺、敬さんの気持ちわかります。俺は、そんな事いっちゃいけないから…」

 敬さんの真意はわからないかも知れない…先生や歳さんと揉めていたから…敬さん、居たたまれないんだ。だからってなにも言わずに行くことなんてないよ。どうして俺に相談してくれなかったの?俺では役不足なの?それでも言って欲しかったんだよ。敬さん………。

 本当のことを知らない沖田は自分が未熟だから相談されなかったんだと思い込んでいた。
 誰も事実を知ることがなくても山南はすべて抱えて去ることを決意していた。
 そう、可愛がっていた沖田にも友として腹を割って話し合った仲の永倉にもである。

「なら聞くが、総司、お前は俺がずっと逃げ続けたら…屯所に戻る事なくずっと俺を追いかけるかい?」

 山南は沖田に振り向いて態と意地悪な言い方を笑顔をもってして見せた。
 その方が沖田の気持ちが苦しくないだろうと踏んでのことである。

 嫌なことを聞くな…わかっているのに俺としたことが。

 それでも酷なことを言っている自覚がある山南は出来うる限り嘘のない笑顔を見せようとしたのである。

「俺…」

 沖田は山南の顔を見つめ、自分の目の中にある動揺を隠せずにいた。

 本当ならそうしたい!ずっとずっと追い続けていたい。そう思ってここまで来たのに、問われると心が揺らぐだなんて…。俺って卑怯だ!

 沖田の気持ちは山南がずっと見つからないで欲しいと願っていた。
 ずっとずっと幻影でもいい、追い続けて二人ともそのまま屯所に戻らなくてもいい……そんなことさえ思っていた。

 戻れば待っているもの……

 沖田にはそれが耐えられなかったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淡々忠勇

香月しを
歴史・時代
新撰組副長である土方歳三には、斎藤一という部下がいた。 仕事を淡々とこなし、何事も素っ気ない男であるが、実際は土方を尊敬しているし、友情らしきものも感じている。そんな斎藤を、土方もまた信頼し、友情を感じていた。 完結まで、毎日更新いたします! 殺伐としたりほのぼのしたり、怪しげな雰囲気になったりしながら、二人の男が自分の道を歩いていくまでのお話。ほんのりコメディタッチ。 残酷な表現が時々ありますので(お侍さん達の話ですからね)R15をつけさせていただきます。 あッ、二人はあくまでも友情で結ばれておりますよ。友情ね。 ★作品の無断転載や引用を禁じます。多言語に変えての転載や引用も許可しません。

戦国を駆ける軍師・山本勘助の嫡男、山本雪之丞

沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。 この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。

永き夜の遠の睡りの皆目醒め

七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。 新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。 しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。 近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。 首はどこにあるのか。 そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。 ※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい

甘ったれ浅間

秋藤冨美
歴史・時代
幕末の動乱の中、知られざるエピソードがあった 語り継がれることのない新選組隊士の話 https://www.alphapolis.co.jp/novel/852376446/419160220 上記の作品を書き上げてから、こちらの作品を進めたいと考えております。 暫しお待ち下さいませ。 なるべく史実に沿って書こうと考えております。 今回、初めて歴史小説を書くので拙い部分が多々あると思いますが、間違いがあった場合は指摘を頂ければと思います。 お楽しみいただけると幸いです。 調べ直したところ、原田左之助さんが近藤さんと知り合ったのは一八六二年の暮れだそうです!本編ではもう出会っております。すみません ※男主人公です

かくまい重蔵 《第1巻》

麦畑 錬
歴史・時代
時は江戸。 寺社奉行の下っ端同心・勝之進(かつのしん)は、町方同心の死体を発見したのをきっかけに、同心の娘・お鈴(りん)と、その一族から仇の濡れ衣を着せられる。 命の危機となった勝之進が頼ったのは、人をかくまう『かくまい稼業』を生業とする御家人・重蔵(じゅうぞう)である。 ところがこの重蔵という男、腕はめっぽう立つが、外に出ることを異常に恐れる奇妙な一面のある男だった。 事件の謎を追うにつれ、明らかになる重蔵の過去と、ふたりの前に立ちはだかる浪人・頭次(とうじ)との忌まわしき確執が明らかになる。 やがて、ひとつの事件をきっかけに、重蔵を取り巻く人々の秘密が繋がってゆくのだった。 強くも弱い侍が織りなす長編江戸活劇。

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

新選組の漢達

宵月葵
歴史・時代
     オトコマエな新選組の漢たちでお魅せしましょう。 新選組好きさんに贈る、一話完結の短篇集。 別途連載中のジャンル混合型長編小説『碧恋の詠―貴方さえ護れるのなら、許されなくても浅はかに。』から、 歴史小説の要素のみを幾つか抽出したスピンオフ的短篇小説です。もちろん、本編をお読みいただいている必要はありません。 恋愛等の他要素は無くていいから新選組の歴史小説が読みたい、そんな方向けに書き直した短篇集です。 (ちなみに、一話完結ですが流れは作ってあります) 楽しんでいただけますように。       ★ 本小説では…のかわりに・を好んで使用しております ―もその場に応じ個数を変えて並べてます  

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

処理中です...