9 / 14
7 屯所までの道のり 1
しおりを挟む
山南は縄で自分を縛れと言っても沖田は聞き入れなかった。
沖田からすればこういう風な事になるとは想定外のことであった。
こんなにも早く敬愛する山南を見つけてしまうことも、山南が抵抗もせずお縄につこうとすることもだ。
山南は仕方なく出ていったままの姿で隣同士で歩いている。
もちろん向かっているのは屯所である。
「どうして逃げ切ってくれなかったのですか?俺、山南さん、敬さんにはどこまでも逃げて欲しかったんですよ。なのに何故…」
会えたのが、こんなにも嬉しいのに…俺はどうして素直に会いたかったって言えないんだろう?馬鹿だ、俺は…。
沖田は素直に言えない自分がもどかしかった。
土埃を立てつつ下を向いて歩く。足取りは重く風が冷たい。
身も心も冷えてしまいそうだ。
なのに山南の声は明るい。そこだけ日差しが暖かく感じるのは沖田の気のせいかもしれない。
でも、沖田はそう思えてならなかった。
「わかってるくせに…いうなよ。それを許したら新撰組が困るだろ」
お前が来てくれたんだ…こんなに嬉しいことはない…。いつもは人をからかって遊んでいるのに、こういう事になるとお前は真っ直ぐだな、何に対しても…。
山南は嬉しさを噛み締めながら一歩一歩ゆっくり歩いていた。もう二度と一緒に歩くことはない沖田とのまるで逢瀬のような一時を楽しんでいるかのようだった。
沖田の心中は複雑であった。
「それでも俺は…」
あー!こんなこと言いたいんじゃない!
言いたいことがなかなか口に出来ない自分にもどかしさを感じる沖田。
それをわかっているかのように笑いながら山南が制する。
「諦めろ」
こんなにも必死になりよって…俺なんかの為に…。
こんな状態でも山南は優しい沖田を嬉しく思えた。
「だったら、わかってたんだったら、何故抜けたんですか」
確信に触れる言葉がやっと出た沖田。「諦めろ」と言う言葉が沖田の心に刺さったのだ。
俺が見つけた時のあの笑顔といい、俺に「戻るか」と言ったことといい…敬さんに会いたくてただただ会いたくて、逃がしたくてここまで来たのに…どうして敬さんはこんなにも穏やかな顔をしているんだろう…。
「俺の居場所はもうあそこにはないんだよ…」
そうだ…もうない…なにもかも…
山南は寂しそうに小さく笑った。
沖田からすればこういう風な事になるとは想定外のことであった。
こんなにも早く敬愛する山南を見つけてしまうことも、山南が抵抗もせずお縄につこうとすることもだ。
山南は仕方なく出ていったままの姿で隣同士で歩いている。
もちろん向かっているのは屯所である。
「どうして逃げ切ってくれなかったのですか?俺、山南さん、敬さんにはどこまでも逃げて欲しかったんですよ。なのに何故…」
会えたのが、こんなにも嬉しいのに…俺はどうして素直に会いたかったって言えないんだろう?馬鹿だ、俺は…。
沖田は素直に言えない自分がもどかしかった。
土埃を立てつつ下を向いて歩く。足取りは重く風が冷たい。
身も心も冷えてしまいそうだ。
なのに山南の声は明るい。そこだけ日差しが暖かく感じるのは沖田の気のせいかもしれない。
でも、沖田はそう思えてならなかった。
「わかってるくせに…いうなよ。それを許したら新撰組が困るだろ」
お前が来てくれたんだ…こんなに嬉しいことはない…。いつもは人をからかって遊んでいるのに、こういう事になるとお前は真っ直ぐだな、何に対しても…。
山南は嬉しさを噛み締めながら一歩一歩ゆっくり歩いていた。もう二度と一緒に歩くことはない沖田とのまるで逢瀬のような一時を楽しんでいるかのようだった。
沖田の心中は複雑であった。
「それでも俺は…」
あー!こんなこと言いたいんじゃない!
言いたいことがなかなか口に出来ない自分にもどかしさを感じる沖田。
それをわかっているかのように笑いながら山南が制する。
「諦めろ」
こんなにも必死になりよって…俺なんかの為に…。
こんな状態でも山南は優しい沖田を嬉しく思えた。
「だったら、わかってたんだったら、何故抜けたんですか」
確信に触れる言葉がやっと出た沖田。「諦めろ」と言う言葉が沖田の心に刺さったのだ。
俺が見つけた時のあの笑顔といい、俺に「戻るか」と言ったことといい…敬さんに会いたくてただただ会いたくて、逃がしたくてここまで来たのに…どうして敬さんはこんなにも穏やかな顔をしているんだろう…。
「俺の居場所はもうあそこにはないんだよ…」
そうだ…もうない…なにもかも…
山南は寂しそうに小さく笑った。
2
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
妖刀 益荒男
地辻夜行
歴史・時代
東西南北老若男女
お集まりいただきました皆様に
本日お聞きいただきますのは
一人の男の人生を狂わせた妖刀の話か
はたまた一本の妖刀の剣生を狂わせた男の話か
蓋をあけて見なけりゃわからない
妖気に魅入られた少女にのっぺらぼう
からかい上手の女に皮肉な忍び
個性豊かな面子に振り回され
妖刀は己の求める鞘に会えるのか
男は己の尊厳を取り戻せるのか
一人と一刀の冒険活劇
いまここに開幕、か~い~ま~く~
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
ふたりの旅路
三矢由巳
歴史・時代
第三章開始しました。以下は第一章のあらすじです。
志緒(しお)のいいなずけ駒井幸之助は文武両道に秀でた明るく心優しい青年だった。祝言を三カ月後に控え幸之助が急死した。幸せの絶頂から奈落の底に突き落とされた志緒と駒井家の人々。一周忌の後、家の存続のため駒井家は遠縁の山中家から源治郎を養子に迎えることに。志緒は源治郎と幸之助の妹佐江が結婚すると思っていたが、駒井家の人々は志緒に嫁に来て欲しいと言う。
無口で何を考えているかわからない源治郎との結婚に不安を感じる志緒。果たしてふたりの運命は……。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
壬生狼の戦姫
天羽ヒフミ
歴史・時代
──曰く、新撰組には「壬生狼の戦姫」と言われるほどの強い女性がいたと言う。
土方歳三には最期まで想いを告げられなかった許嫁がいた。名を君菊。幼馴染であり、歳三の良き理解者であった。だが彼女は喧嘩がとんでもなく強く美しい女性だった。そんな彼女にはある秘密があって──?
激動の時代、誠を貫いた新撰組の歴史と土方歳三の愛と人生、そして君菊の人生を描いたおはなし。
参考・引用文献
土方歳三 新撰組の組織者<増補新版>新撰組結成150年
図説 新撰組 横田淳
新撰組・池田屋事件顛末記 冨成博
紫苑の誠
卯月さくら
歴史・時代
あなたの生きる理由になりたい。
これは、心を閉ざし復讐に生きる一人の少女と、誠の旗印のもと、自分の信念を最後まで貫いて散っていった幕末の志士の物語。
※外部サイト「エブリスタ」で自身が投稿した小説を独自に加筆修正したものを投稿しています。
甘ったれ浅間
秋藤冨美
歴史・時代
幕末の動乱の中、知られざるエピソードがあった
語り継がれることのない新選組隊士の話
https://www.alphapolis.co.jp/novel/852376446/419160220
上記の作品を書き上げてから、こちらの作品を進めたいと考えております。
暫しお待ち下さいませ。
なるべく史実に沿って書こうと考えております。
今回、初めて歴史小説を書くので拙い部分が多々あると思いますが、間違いがあった場合は指摘を頂ければと思います。
お楽しみいただけると幸いです。
調べ直したところ、原田左之助さんが近藤さんと知り合ったのは一八六二年の暮れだそうです!本編ではもう出会っております。すみません
※男主人公です
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
淡々忠勇
香月しを
歴史・時代
新撰組副長である土方歳三には、斎藤一という部下がいた。
仕事を淡々とこなし、何事も素っ気ない男であるが、実際は土方を尊敬しているし、友情らしきものも感じている。そんな斎藤を、土方もまた信頼し、友情を感じていた。
完結まで、毎日更新いたします!
殺伐としたりほのぼのしたり、怪しげな雰囲気になったりしながら、二人の男が自分の道を歩いていくまでのお話。ほんのりコメディタッチ。
残酷な表現が時々ありますので(お侍さん達の話ですからね)R15をつけさせていただきます。
あッ、二人はあくまでも友情で結ばれておりますよ。友情ね。
★作品の無断転載や引用を禁じます。多言語に変えての転載や引用も許可しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる