恵と凛の妄想幕末... 新撰組を捨てた男  

わらいしなみだし

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7 屯所までの道のり 1

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 山南は縄で自分を縛れと言っても沖田は聞き入れなかった。
 沖田からすればこういう風な事になるとは想定外のことであった。
 こんなにも早く敬愛する山南を見つけてしまうことも、山南が抵抗もせずお縄につこうとすることもだ。
 山南は仕方なく出ていったままの姿で隣同士で歩いている。
 もちろん向かっているのは屯所である。

「どうして逃げ切ってくれなかったのですか?俺、山南さん、敬さんにはどこまでも逃げて欲しかったんですよ。なのに何故…」

 会えたのが、こんなにも嬉しいのに…俺はどうして素直に会いたかったって言えないんだろう?馬鹿だ、俺は…。

 沖田は素直に言えない自分がもどかしかった。
 土埃を立てつつ下を向いて歩く。足取りは重く風が冷たい。
 身も心も冷えてしまいそうだ。
 なのに山南の声は明るい。そこだけ日差しが暖かく感じるのは沖田の気のせいかもしれない。
 でも、沖田はそう思えてならなかった。

「わかってるくせに…いうなよ。それを許したら新撰組が困るだろ」

 お前が来てくれたんだ…こんなに嬉しいことはない…。いつもは人をからかって遊んでいるのに、こういう事になるとお前は真っ直ぐだな、何に対しても…。

 山南は嬉しさを噛み締めながら一歩一歩ゆっくり歩いていた。もう二度と一緒に歩くことはない沖田とのまるで逢瀬のような一時を楽しんでいるかのようだった。
 沖田の心中は複雑であった。

「それでも俺は…」

 あー!こんなこと言いたいんじゃない!

 言いたいことがなかなか口に出来ない自分にもどかしさを感じる沖田。
 それをわかっているかのように笑いながら山南が制する。

「諦めろ」

 こんなにも必死になりよって…俺なんかの為に…。

 こんな状態でも山南は優しい沖田を嬉しく思えた。

「だったら、わかってたんだったら、何故抜けたんですか」

 確信に触れる言葉がやっと出た沖田。「諦めろ」と言う言葉が沖田の心に刺さったのだ。

 俺が見つけた時のあの笑顔といい、俺に「戻るか」と言ったことといい…敬さんに会いたくてただただ会いたくて、逃がしたくてここまで来たのに…どうして敬さんはこんなにも穏やかな顔をしているんだろう…。


「俺の居場所はもうあそこにはないんだよ…」

 そうだ…もうない…なにもかも…

 山南は寂しそうに小さく笑った。
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