恵と凛の妄想幕末... 新撰組を捨てた男  

わらいしなみだし

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1 こんなの…ずるい

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 会いたかった……
 でも、会いたくなかった…… 会いたかった

 相反する想い。
 俺の気持ちそのままなんだ。

 俺は山南さん、敬さんに逃げて欲しかったんだ。
 誰にも捕まることなく、逃げ切って欲しかった。

 捕らえるのなら、誰の手にもさせやしない。
 俺の務めだ。

 そう腹を括って探索に出た筈なのに……

 敬さん、あなたは俺を待っていたのですか?
 こんな、嬉しそうな顔をして……ずるいじゃないですか!

 絶望に身を焦がしている俺を余所に屈託のない弾んだ声で俺を促す。

「沖田君、ぼうーっとしてないで座りなさい」

 俺は狼狽えながらも空席の膳の前に正座をした。

 皆と談笑していた時は胡座をかいて座っていて、そこには懐かしいあたたかさがあって皆が皆眩しかった。
 今の俺は胡座なんて出来ない。そんな懐かしく優しい空間なんてある筈がない……

 俺は両の手をぎゅっと丸めて膝の上に置き項垂れそうになる体重を支えた。
 俯きながら堪えるのはただただ溢れる想いと涙のみ。

 そんな俺に優しい言葉を、まるで唄でも奏でるように優しい言葉で俺を和ます。

「君のせいじゃないよ。そう、誰もせいでもないんだ……私の我儘だ。許しておくれ」

 『局ヲ脱スルヲ不許ユルサズ

 その言葉が俺の脳裏から離れない。
 どうしてこうなったの?
 問いただしたくて思いきって、正面を……真実を見据えようとした。
 山南さんの顔をしかと見ようと意を決して。

 顔をあげて見た敬さんの顔はすべてを受け入れた……菩薩の微笑みに等しい顔がそこにあった。

 なにも聞けない……。
 聞いてはいけない、そんな気がした。

「まだ刻を急いてはいないのなら、一杯くらい呑めるだろう?な、沖田君」

 敬さんは何処までも優しかった。
 俺はひとつの音もなく静かに頷いた。
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