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第二部 建白書
第十九話 1 建白書
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例の食事処
永倉が店内に入る
永倉「おやっさん、いつもすまんな。そのうちまた埋め合わせする。もう少しだけ人払い頼む」
そう言って主人に金子を渡す。主人も慣れたように受け取った金子を懐に入れ笑みを返す。手で持った時一瞬見た金子はいつもより額が多めだ。
永倉(埋め合わせ……出来ぬかもしれんのう……)
主人に水を一杯催促し、受け取った後階段をゆっくりと上がっていく。
見知った顔がばらばらに円座に座っている。
その先の事を思案してか、それとも緊張の為の静寂なのか、誰も言葉を発する事なく、重苦しい雰囲気が部屋全体に漂っていた。
上がってきた自分を見やる視線を目にしつつ、永倉は軽く部屋を見渡した。
永倉(ん?居らぬようじゃ……)
永倉「一は?」
誰に聞くでもなく声を掛ける。
真っ先に目が合った左之助が首を横に振る。
永倉(何をしておるのじゃ……)
訝しく思いつつも左之助を見据え
「家に帰って女房と話し合えたのか?」
左之助に問うてみた。
左之助は声を出さず二度ほど大きく頷いて見せた。
何時になく真剣な目付き。
声を出すのを憚っているようだ。
永倉(嘘はついておらぬようじゃ)
何時もなら元気な声を発してもよさそうなものだが、あの左之助でさえ目に力が漲ってて真剣そのもの。
左之助の女房の笑顔を思い出して永倉は胸の痛みを覚えてしまう。
二人の恋路を見守ってきた永倉だけにこのような事で引き裂いてしまうことになるやもと案ずれば、女を哀れに思うのである。
永倉が店内に入る
永倉「おやっさん、いつもすまんな。そのうちまた埋め合わせする。もう少しだけ人払い頼む」
そう言って主人に金子を渡す。主人も慣れたように受け取った金子を懐に入れ笑みを返す。手で持った時一瞬見た金子はいつもより額が多めだ。
永倉(埋め合わせ……出来ぬかもしれんのう……)
主人に水を一杯催促し、受け取った後階段をゆっくりと上がっていく。
見知った顔がばらばらに円座に座っている。
その先の事を思案してか、それとも緊張の為の静寂なのか、誰も言葉を発する事なく、重苦しい雰囲気が部屋全体に漂っていた。
上がってきた自分を見やる視線を目にしつつ、永倉は軽く部屋を見渡した。
永倉(ん?居らぬようじゃ……)
永倉「一は?」
誰に聞くでもなく声を掛ける。
真っ先に目が合った左之助が首を横に振る。
永倉(何をしておるのじゃ……)
訝しく思いつつも左之助を見据え
「家に帰って女房と話し合えたのか?」
左之助に問うてみた。
左之助は声を出さず二度ほど大きく頷いて見せた。
何時になく真剣な目付き。
声を出すのを憚っているようだ。
永倉(嘘はついておらぬようじゃ)
何時もなら元気な声を発してもよさそうなものだが、あの左之助でさえ目に力が漲ってて真剣そのもの。
左之助の女房の笑顔を思い出して永倉は胸の痛みを覚えてしまう。
二人の恋路を見守ってきた永倉だけにこのような事で引き裂いてしまうことになるやもと案ずれば、女を哀れに思うのである。
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