75 / 339
『編み物男子部』?ができるまで。
51 決戦は金曜日? 1 鳴海side1
しおりを挟む
ベッドから起き上がるのさえ怠い。
ここ数日そうだ。それでも無理矢理身体を動かす。
重い足取りでランニング用の服装に着替えて走る。
この日課は何があっても欠かせない。
ただ違うのは走る時間が少し長くなったこと。
今日は特にそうしないといられなかった。
今日は……約束の金曜日。
何をされるのか恐怖でしかならない。
すべてを受け入れるつもりはないけど、あんな映像を脅迫の材料に使われたら……
シャワーを浴びながら気持ちを引き締める。
俺は自分に二択を迫っている。
あの映像を受け入れるか……否か……
悩んでたって今日と言う日からは逃げられない。
わかっている。
わかっているんだ。
最後にシャワーを冷水に変えて身体が冷えるまで浴びていた。
おむすびを三種類二個ずつ握って昼食を完成させる。
ひとつはもちろん俺用でもうひとつは弟の颯汰の分。
それから無駄になるかもしれない神崎川用のタオル・スポーツドリンク・はちみつ漬けレモンを用意し、次に智さん用のはちみつ漬けレモンをタッパーに入れた。
「じょうちゃん……今日は来るのかな……」
出来ることなら来ないで欲しい。
そう思うのは俺のわがままだ。
神崎川用の袋を見ながら……俺はひとつため息をついた。
足取りが重いまま登校する。
あの人に会うのは放課後……部活が終了してからだ。
猶予はある。
それまでにゆっくり考えればいいだけのことだと自分に言い聞かせる。
ここ数日、教室に入る前に朔田君が俺を待っている。
きっと心配させているんだと思う。
それでも暫くはそこに甘えさせてもらってる俺がいるんだ。
朔田君には悪いと思っているけど。
拠り所がないと……流石に辛くって、心が折れそうだから。
今日は教室前の廊下に朔田君はいなかった。
残念に思う気持ちを隠して諦めの極致で教室に入る。
一人であの異様な眼差しと野次に耐えねばならないから……。
視線をさ迷わせるまでもなく、見知った懐かしい顔に出合う。
会いたかった顔だ。
心が揺れそうになって顔を歪めそうになるのを必死に耐える。
朔田君が慌てて神崎川に僕のところへ越させないように両腕を目一杯横に広げ、
「近寄らないで!そっとしてあげて!」
必死になって神崎川に声を張り上げていた。
そして僕のところに駆けてきて、一所懸命俺を抱き締めてくれた。
「鳴海君、大丈夫?無理しなくていいから……ね?僕たちがついてるから……」
変わることなく俺にそう言って抱き締めてくれる朔田君に胸がジンと来てしまった。
こんなにも俺のことを……?
もう、心配させちゃ……イケないよね。
神崎川に、楯突くような君ではない筈なのに。
こんなにもちっちゃいのに俺なんかのために……
ごめんね、ごめんね。朔田君……。
「さくた……おい!」
神崎川が朔田を咎めようとするけど、野次が聞こえ出したのでそれ以上は何も言おうとはしない。
「うわぁー浮気だよ」
「やばいんじゃね?」
「キャー!朔田が鳴海をとるってマジ?」
「キャプテンにいいつけるぞ!朔田ぁ」
「鳴海はもうお手付きされてるんだからてめぇのもんじゃねーぞ!」
「朔田、勇気あるー!」
「鳴海君も貞操はちゃんと守らなきゃー!」
否定しても煽る行為になると思うから、ただただ聞こえていないかのように俺は無視を決め込んでいる。
それでも、今日は耳に入ってしまう。
神崎川に聞かれたくなかった言葉たちだからだろう。
心がズキズキ痛くってギュッて苦しくなる。
それでも耐えなければいけない。
あの噂がいつまで続くかわからないことだから。
だから……決心するしかなかった。
これ以上はみんなに甘えていられない。
朔田君、坂口君、相沢君の顔が浮かぶ。
そして最後に浮かんだのは……神崎川の顔。
本来は俺だけの問題なのだから。
腹を括る。心の中でそっと。
誰にも気づかれることは、決してしないよ。
だから……。
もう、大丈夫だから。
これ以上は心配させないからね。
だから……この状況を、受け入れるね。
そう、簡単なことなんだ。事実に蓋なんかできないんだから。
だから……。
決心したよ。今度こそ。
あの男を受け入れることにしたから……。
心も身体も決してあげはしないけど。
一緒にいることを……決めたよ。
だから……安心、してね。
朔田君……。
「朔田君、ありがとう。心配しなくても平気だから……ね?」
「でも……でも……」
泣きそうな顔をして……朔田君ったら……。
「やっぱり朔田君はやさしいね!」
もう心配しなくてもいいよ……という想いを込めて朔田君を抱き締め返した。
朔田君を見つめる眼差しが優しくなる。
心を込めて抱き締める。
感謝の気持ちを込めて……。
野次が飛んだって気にならなかった。
神崎川が固まっていたって……気になることはなかった。
ここ数日そうだ。それでも無理矢理身体を動かす。
重い足取りでランニング用の服装に着替えて走る。
この日課は何があっても欠かせない。
ただ違うのは走る時間が少し長くなったこと。
今日は特にそうしないといられなかった。
今日は……約束の金曜日。
何をされるのか恐怖でしかならない。
すべてを受け入れるつもりはないけど、あんな映像を脅迫の材料に使われたら……
シャワーを浴びながら気持ちを引き締める。
俺は自分に二択を迫っている。
あの映像を受け入れるか……否か……
悩んでたって今日と言う日からは逃げられない。
わかっている。
わかっているんだ。
最後にシャワーを冷水に変えて身体が冷えるまで浴びていた。
おむすびを三種類二個ずつ握って昼食を完成させる。
ひとつはもちろん俺用でもうひとつは弟の颯汰の分。
それから無駄になるかもしれない神崎川用のタオル・スポーツドリンク・はちみつ漬けレモンを用意し、次に智さん用のはちみつ漬けレモンをタッパーに入れた。
「じょうちゃん……今日は来るのかな……」
出来ることなら来ないで欲しい。
そう思うのは俺のわがままだ。
神崎川用の袋を見ながら……俺はひとつため息をついた。
足取りが重いまま登校する。
あの人に会うのは放課後……部活が終了してからだ。
猶予はある。
それまでにゆっくり考えればいいだけのことだと自分に言い聞かせる。
ここ数日、教室に入る前に朔田君が俺を待っている。
きっと心配させているんだと思う。
それでも暫くはそこに甘えさせてもらってる俺がいるんだ。
朔田君には悪いと思っているけど。
拠り所がないと……流石に辛くって、心が折れそうだから。
今日は教室前の廊下に朔田君はいなかった。
残念に思う気持ちを隠して諦めの極致で教室に入る。
一人であの異様な眼差しと野次に耐えねばならないから……。
視線をさ迷わせるまでもなく、見知った懐かしい顔に出合う。
会いたかった顔だ。
心が揺れそうになって顔を歪めそうになるのを必死に耐える。
朔田君が慌てて神崎川に僕のところへ越させないように両腕を目一杯横に広げ、
「近寄らないで!そっとしてあげて!」
必死になって神崎川に声を張り上げていた。
そして僕のところに駆けてきて、一所懸命俺を抱き締めてくれた。
「鳴海君、大丈夫?無理しなくていいから……ね?僕たちがついてるから……」
変わることなく俺にそう言って抱き締めてくれる朔田君に胸がジンと来てしまった。
こんなにも俺のことを……?
もう、心配させちゃ……イケないよね。
神崎川に、楯突くような君ではない筈なのに。
こんなにもちっちゃいのに俺なんかのために……
ごめんね、ごめんね。朔田君……。
「さくた……おい!」
神崎川が朔田を咎めようとするけど、野次が聞こえ出したのでそれ以上は何も言おうとはしない。
「うわぁー浮気だよ」
「やばいんじゃね?」
「キャー!朔田が鳴海をとるってマジ?」
「キャプテンにいいつけるぞ!朔田ぁ」
「鳴海はもうお手付きされてるんだからてめぇのもんじゃねーぞ!」
「朔田、勇気あるー!」
「鳴海君も貞操はちゃんと守らなきゃー!」
否定しても煽る行為になると思うから、ただただ聞こえていないかのように俺は無視を決め込んでいる。
それでも、今日は耳に入ってしまう。
神崎川に聞かれたくなかった言葉たちだからだろう。
心がズキズキ痛くってギュッて苦しくなる。
それでも耐えなければいけない。
あの噂がいつまで続くかわからないことだから。
だから……決心するしかなかった。
これ以上はみんなに甘えていられない。
朔田君、坂口君、相沢君の顔が浮かぶ。
そして最後に浮かんだのは……神崎川の顔。
本来は俺だけの問題なのだから。
腹を括る。心の中でそっと。
誰にも気づかれることは、決してしないよ。
だから……。
もう、大丈夫だから。
これ以上は心配させないからね。
だから……この状況を、受け入れるね。
そう、簡単なことなんだ。事実に蓋なんかできないんだから。
だから……。
決心したよ。今度こそ。
あの男を受け入れることにしたから……。
心も身体も決してあげはしないけど。
一緒にいることを……決めたよ。
だから……安心、してね。
朔田君……。
「朔田君、ありがとう。心配しなくても平気だから……ね?」
「でも……でも……」
泣きそうな顔をして……朔田君ったら……。
「やっぱり朔田君はやさしいね!」
もう心配しなくてもいいよ……という想いを込めて朔田君を抱き締め返した。
朔田君を見つめる眼差しが優しくなる。
心を込めて抱き締める。
感謝の気持ちを込めて……。
野次が飛んだって気にならなかった。
神崎川が固まっていたって……気になることはなかった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
娘の競泳コーチを相手にメス堕ちしたイクメンパパ
藤咲レン
BL
【毎日朝7:00に更新します】
既婚ゲイの佐藤ダイゴは娘をスイミングスクールに通わせた。そこにいたインストラクターの山田ケンタに心を奪われ、妻との結婚で封印していたゲイとしての感覚を徐々に思い出し・・・。
キャラ設定
・佐藤ダイゴ。28歳。既婚ゲイ。妻と娘の3人暮らしで愛妻家のイクメンパパ。過去はドMのウケだった。
・山田ケンタ。24歳。体育大学出身で水泳教室インストラクター。子供たちの前では可愛さを出しているが、本当は体育会系キャラでドS。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
男とラブホに入ろうとしてるのがわんこ属性の親友に見つかった件
水瀬かずか
BL
一夜限りの相手とホテルに入ろうとしていたら、後からきた男女がケンカを始め、その場でその男はふられた。
殴られてこっち向いた男と、うっかりそれをじっと見ていた俺の目が合った。
それは、ずっと好きだけど、忘れなきゃと思っていた親友だった。
俺は親友に、ゲイだと、バレてしまった。
イラストは、すぎちよさまからいただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる