あみdan

わらいしなみだし

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『編み物男子部』?ができるまで。

10 妥協したくないこと

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 自宅に帰ってから自分の机に鞄の中身を無造作に広げた。
 自分らしくないけど、心が少しやさぐれてるからこれぐらいの物に八つ当たりは問題ない筈だ。
 必要なもの以外は両端に雑に退ける。
 物に当たるだなんて……最低だと思い、胸の中で謝罪する。

 生徒手帳……。

 ペラペラと捲って部活動規約を探す。

 大まかな概要はこうだ。

 部は最低十名の部員を必要とする。活動をせず名前だけの部員は除外とする。
 部活動には顧問一名副顧問一名を要する。
 部活動費は部員の人数一名につき五千円を最低保証とする。
 それ以外の活動費は部会にて決議する。

 部員が十名未満になると部としては消滅し同好会に格下げされる。
 同好会は原則五名以上。
 顧問一名を要し、副顧問は必要としない。体育会系はそれに概しない。

 同好会五名未満になった場合、同好会は消滅とする。

 新しく部・又は同好会の発足は四月末までの期限とする。

 季節は桜が満開の季節。
 心に吹くのは侘しさ漂う秋風か。
 気持ちがどんよりして頭を抱えてしまう。

 十名……。

 神崎川、もうじょうちゃんと呼べない……神崎川くんとも言えない……彼から聞かされた言葉よりも衝撃が大きかった。

 十名でもかなりの難関だと思っていたのに……。
 四月末までしか新しい部は認可されない!

 タイムリミットは、ゴールデンウィークが始まる前、実際三週間もない。
 門徒を広げる?女子を加入させる?

 ……絶対無理。

 邪推される。
 純粋に編み物が出来るとは想像出来ない。
 編み物への想いを、子供の頃の素敵な思い出を踏みにじられる気がする。
 女子に偏見を持っている訳じゃなく、自分の想いが偏見そのものだと知ってるから。
 同性愛だから。
 あいつだから好きになったんだ。ただ、同性だっただけ。
 同性だから好きになったんじゃなくても端から見たら同性愛者にしか見られない。
 世間一般では是としない行為だと。
 幾ら平等の権利を認められたとしても。
 現実は厳しいと、それもまだ学生でそういうことに好奇の目、嫌悪感を持つのは致し方がないと理解できる。
 女生徒は噂話が好きで、口が軽い。
 絶対避けたいのだ!
 だから、可能な限り男子のみの編み物部にしたい。

 俺の心の安静のためにも……。

 そういうことで、俺は女人禁制の『編み物男子部』を作りたい。
 例え蕀の道だとしても!
 末路がサッカー部だとしても……。

 もし、仮に部が成立しなければ……。
 俺の想いは封印しよう。
 編み物に……神崎川に縁がなかったとして、諦めよう。
 そうでなければ、教室、部活、ずっとあいつと一緒になんか居られない。
 編み物という手段で、想いを打ち明けようとしていたけど、それがなくなったら心が苦しくて怖じけてしまう。

 俺は、意気地無しだ。

 その時は、心を閉ざそう。
 中学時代の俺に……戻るだけだ。
 そう、慣れてる。
 もう、慣れてる。

 そうなる前に、最後の最後まであがこうじゃないか。
 蟻地獄に落ちた俺でも……空を見上げて、光を求めたっていい筈だ。
 たとえ、焦がれるものに焼き尽くされたとしても、求めずにはいられない!
 報われなくても、叶わなくても、俺の心はじょうちゃんを求めている!
 粉々に砕けても、せめて想いを伝えたいと。形にしたいと心が叫んでいる!
 自分の手で心臓を潰しそうだよ。握り潰しそうだよ。

 早く、俺から離れてよ。
 俺に穏やかな高校生活をくれよ……。
 言えない言葉に、どうしようもない痛撃に苛まれながら、見えない涙を溢れさせた。

 翌日。
 すべての授業が終わってから俺は職員室へ行くことにしている。担任に相談するために。
 神崎川はいつものように肩を抱いた俺を放課後になってようやく解放した。
 サッカー部の部員が練習着を来て集まり始めている場所へ行くために。

 それぞれが隠した想いを秘め、動き始める瞬間だった。




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