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泣いてばかりいられない!
216 オムライス
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泣き疲れて眠っちゃったみたいで、からだがあちこち痛い。
着替えないままだったのでスーツも皺くちゃになってしまった。
ひとりで生きていくと決めてこの地にやって来たのだから、くよくよしてられない。
雨月が自分の意思で私から去った訳ではないと信じたい。
私と雨月との日々は短いけど濃密で素敵な日々だったもん。
絶対に、私のところへ帰ってくると信じるしかない。
どうにもならなかったら……探し出して迎えにいけばいいだけの事だもんね!
そうと決めたら、腹拵えだね。
明日も仕事が待っている。
陽愛さんが夏川上司のピンチヒッターで職場に登場するんだもん!
夏川上司の居所をもしかしたら知っているのかもしれないし、知らなくても手がかりを掴めるかもしれない。
元気にならなきゃ、決戦は出来ない。
雨月を連れ去った夏川上司と対峙しなきゃ……いけなくなるかもしれないんだもの。
心も体も力を蓄えなきゃ……泣いてばかりはいられないよね?
頑張れ、私!負けるな私!
自分に叱咤激励して顔を両手でパンッと思いっきり叩く。
ヒリヒリして痛い。でもこれは単なる表面的の痛み。
私は浴室に入って湯沸かしボタンを押した。
「お風呂を沸かします」
機械的な音が聞こえ、私はスーツを脱いでブラウス、スカートと脱いでいく。下着のまま台所へ行き、冷蔵庫の中に入っている麦茶ポットを手にとって棚からグラスを取り出して注いだ。
ゴクッゴクッゴクッ
涙の水分だけ喉が乾いていたみたい。
五臓六腑に染み渡るように水分が駆け巡っていくようだ。
グラスを机の上に置いてから玄関先まで歩いて鞄を見た。
鞄の横に置いてあるトートバックの中には空のお弁当箱とタッパーが二つとスプーンたち。
それらを眺めながら流しへ持っていく。
渡辺さんと美樹ちゃんが美味しそうに食べてくれて本当によかった。前日の飲み会のお礼だからって言ったんだけど、おにぎりも貰ったからって渡辺さんから野口英世を一枚、突っ返そうとしても拒否られてしまった。
飲み代は全部渡辺さん持ちだった上、おにぎりとオムライスのお弁当分まで払ってもらっちゃうなんて申し訳なく思ってしまう。
今度なにかお返ししなきゃ……
そんなことを思いながら空になったお弁当箱とタッパーの蓋を開けて水に浸けた。
寝室のクローゼットから羽織るものを見つけて下着の上から羽織る。淡い黄緑色のロングな部屋着で直径五センチほどの大きなボタンが三つ縦についてある。
ボタンを留めることなく羽織った状態で部屋をうろつけるのは独り暮らしならではの楽さだったりする。
だから……見た目はブラとショーツが見えた状態。
ははは……。
それでも下着姿のままでずっと部屋をウロウロするのはちょっと……って思うところは乙女心なのかしら?……なんちゃってね!
トートバックの所へ戻って最後のタッパーを取り出した。それはお昼休憩私が半分以上残してしまったオムライス弁当。
雨月と一緒に食べる筈だったそのタッパーを持って台所へ行き、残したオムライスをお皿に移してラップ代用のプラスチックの蓋をのせてレンジでチン!
スプーンともう一度麦茶を入れたグラスを置いてローテーブルに温めたオムライスを置いて蓋を取った。
うっすら湯気が昇っていく。
気をよくした私はケチャップを持ってキャップを外し、薄焼き玉子の上に平仮名で「うげつ」と書いてみた。
それを少し眺めてスプーンでケチャップを満遍なく塗りたくる。
「帰ってきたら一緒に食べようね!」
目を瞑ると雨月の笑顔がよみがえる。
私はそっと目を開けてオムライスを見つめた。
いない雨月を思い出しながらオムライスをスプーンに掬って一口食べる。
嬉しい……
ちゃんと味がする……
涙に濡れていない、ちゃんとした普通のオムライス。
その状態でいられる私は強い筈なの。
だから……私はまだまだ頑張れる!
もしかしたら味がしないほど動揺してるかと一瞬でもそう思ったりしたの。
でも私は……やっぱり強い、そう思える出来事。それがこのオムライスだったのではないのかしら?
馬鹿になっていない舌で味わえることを実感しながらゆっくりゆっくり雨月を思い出しながらきれいに平らげることが出来たのでした。
着替えないままだったのでスーツも皺くちゃになってしまった。
ひとりで生きていくと決めてこの地にやって来たのだから、くよくよしてられない。
雨月が自分の意思で私から去った訳ではないと信じたい。
私と雨月との日々は短いけど濃密で素敵な日々だったもん。
絶対に、私のところへ帰ってくると信じるしかない。
どうにもならなかったら……探し出して迎えにいけばいいだけの事だもんね!
そうと決めたら、腹拵えだね。
明日も仕事が待っている。
陽愛さんが夏川上司のピンチヒッターで職場に登場するんだもん!
夏川上司の居所をもしかしたら知っているのかもしれないし、知らなくても手がかりを掴めるかもしれない。
元気にならなきゃ、決戦は出来ない。
雨月を連れ去った夏川上司と対峙しなきゃ……いけなくなるかもしれないんだもの。
心も体も力を蓄えなきゃ……泣いてばかりはいられないよね?
頑張れ、私!負けるな私!
自分に叱咤激励して顔を両手でパンッと思いっきり叩く。
ヒリヒリして痛い。でもこれは単なる表面的の痛み。
私は浴室に入って湯沸かしボタンを押した。
「お風呂を沸かします」
機械的な音が聞こえ、私はスーツを脱いでブラウス、スカートと脱いでいく。下着のまま台所へ行き、冷蔵庫の中に入っている麦茶ポットを手にとって棚からグラスを取り出して注いだ。
ゴクッゴクッゴクッ
涙の水分だけ喉が乾いていたみたい。
五臓六腑に染み渡るように水分が駆け巡っていくようだ。
グラスを机の上に置いてから玄関先まで歩いて鞄を見た。
鞄の横に置いてあるトートバックの中には空のお弁当箱とタッパーが二つとスプーンたち。
それらを眺めながら流しへ持っていく。
渡辺さんと美樹ちゃんが美味しそうに食べてくれて本当によかった。前日の飲み会のお礼だからって言ったんだけど、おにぎりも貰ったからって渡辺さんから野口英世を一枚、突っ返そうとしても拒否られてしまった。
飲み代は全部渡辺さん持ちだった上、おにぎりとオムライスのお弁当分まで払ってもらっちゃうなんて申し訳なく思ってしまう。
今度なにかお返ししなきゃ……
そんなことを思いながら空になったお弁当箱とタッパーの蓋を開けて水に浸けた。
寝室のクローゼットから羽織るものを見つけて下着の上から羽織る。淡い黄緑色のロングな部屋着で直径五センチほどの大きなボタンが三つ縦についてある。
ボタンを留めることなく羽織った状態で部屋をうろつけるのは独り暮らしならではの楽さだったりする。
だから……見た目はブラとショーツが見えた状態。
ははは……。
それでも下着姿のままでずっと部屋をウロウロするのはちょっと……って思うところは乙女心なのかしら?……なんちゃってね!
トートバックの所へ戻って最後のタッパーを取り出した。それはお昼休憩私が半分以上残してしまったオムライス弁当。
雨月と一緒に食べる筈だったそのタッパーを持って台所へ行き、残したオムライスをお皿に移してラップ代用のプラスチックの蓋をのせてレンジでチン!
スプーンともう一度麦茶を入れたグラスを置いてローテーブルに温めたオムライスを置いて蓋を取った。
うっすら湯気が昇っていく。
気をよくした私はケチャップを持ってキャップを外し、薄焼き玉子の上に平仮名で「うげつ」と書いてみた。
それを少し眺めてスプーンでケチャップを満遍なく塗りたくる。
「帰ってきたら一緒に食べようね!」
目を瞑ると雨月の笑顔がよみがえる。
私はそっと目を開けてオムライスを見つめた。
いない雨月を思い出しながらオムライスをスプーンに掬って一口食べる。
嬉しい……
ちゃんと味がする……
涙に濡れていない、ちゃんとした普通のオムライス。
その状態でいられる私は強い筈なの。
だから……私はまだまだ頑張れる!
もしかしたら味がしないほど動揺してるかと一瞬でもそう思ったりしたの。
でも私は……やっぱり強い、そう思える出来事。それがこのオムライスだったのではないのかしら?
馬鹿になっていない舌で味わえることを実感しながらゆっくりゆっくり雨月を思い出しながらきれいに平らげることが出来たのでした。
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