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記憶の中へ……

193 命をかけて……

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 呆然としていると

『僕は……彼とお友だちになりたかったんだ……。はじめて見た銀髪の彼と……』

 それはもう声でもなく、彼の思いが自分の意識に流れこんでいる……脳内に響いてくる……辛そうなそれでいて悲しみが交じったような。

『叶わなかったけど……もう……会えない……けど……救え……た……』

 流れ込んでいた彼の意思さえも……完全に途絶えた。



 誰かわからない……でも、きっと上級魔法師の一人だったのだろう。
 感覚でそれだけは察知した。


 静まり返った彼の意識の中……

 
 突然、黒いちっちゃな子猫が出現した。

 一声、にゃぁあ!と鳴いてからちっちゃな黒い子猫はつぶらな瞳を私に向けて人の言葉を話し始めた。

「『なーちゃ』……ですよね?はじめまして。ボクが最初の『雨月』です」

 本当はケージの中にいる彼に会っているので初めてではないのだが、彼にとってはそうなのだろう。親しみを持って笑顔を私に向けてくれた。

 ちいさなからだ、それでも目には力が籠っていて覚悟を決めた意思を感じた。

(ああ、私は夏川だ。君を守ると誓ったものだよ……)

 優しそうに声を乗せ私は目線を近くにするためにしゃがみこんだ。
 子猫の雨月と近い視線になる。

「ボクはどうしてこの姿なのかはわかりません。最初からこの姿だと思いたいのですが……違うのですよね?」

 ちょっと心配そうに、でも確信を持ちながら子猫は話し続ける。

「『ボク』の中にもう一人の『ぼく』がいるようです。でも『ボク』であって違う存在……人格が分かれたのではなく新しく生まれた……それがたぶん『ボク』かもしれません……」

 その言葉を聞いて私は彼の意思で見て聞いたモノたちを思い浮かべた。

 ああ……君を元に戻すためにかけられた魔法の弊害……見知らぬ彼が謝罪したのはそのことだったのだろうか?
 見知らぬ彼が命を懸けて行った魔法……それは禁忌魔法の重複に他ならないと……

 漸く私は認知した。
 禁忌魔法……それはいわば命の時間との引き換え。






 彼は……この世に存在しないと……







 それほどまでに……君は……!

 彼の想いを無駄にしない為にも
 私は雨月君を生かさなければ……!

 見えない空を見上げるかのように彼の意識の中の天を仰いだ。

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