私が拾ったのは子猫なんですけど！そして私は男じゃない！

記憶の中へ……

191 火炙り……

　少年の歩く姿に人々から喚声が沸く。
　観衆はみたことがないのだ。

　銀色に煌めき靡く髪を持つ少年を……
　畏怖の感情が渦巻くのはしかたのないことかもしれない
　
　大勢の人々が火炙りの処刑を未だか未だかと待ちわびているような人だかり。
　野次や罵声が波になって火炙りの処刑場ではりつけにされている少年に波のように押し寄せる。次から次へと止めどなく。

　執行人から火が放たれ……一気に燃え広がる。
　
　炎を操る魔法師が炎を操作している。
　揺らめき・色・大きさによって炎の魔法師のランクが違う。
　この炎の扱いは……上級魔法師だと思われた。

　その彼の顔から動揺の色が見え始めた。


　この場にいない声が脳内に流れ込む……

「火炙りの刑にしてもヤツは燃えていません！こんなこと……はじめてた。いったいどうしたら……。指示を仰ぎたいのですが……」

「…………。○○、燃えて黒焦げの物体を魔法で作れ。○○、転移魔法でその物体をヤツの身代わりにしろ。ヤツの身体は此処に転移させろ。○○、物体が粉々になるまで炎は絶やすな」

　即座に命令し、次の対策に思考を巡らす。

「はっ！」
「畏まりました」

　魔法師の名前だけは聞こえない？
　どういうことだ？　

　指示を聞いて二人の男が転移魔法で姿を消したようだ。


　見覚えのある場所に意識が飛ばされる……

「人民には死んだように見せねばならぬ……ヤツは何故炎で死なん？」

「私たちにわかる筈が……」

「まぁ……そうだな……」


　聞こえるヤツラの顔や背格好は朧気だが、ライトが当てられたように少年だけがくっきり見える。


　転移魔法で飛ばされた少年は奴等の目の前。

　炎で焼けた服はなく、全裸で石の床にうつ伏せの状態だ。


　それは紛れもなく『銀髪魔法師の少年』であった。


　彼が……そうなのか？　『雨月君』……なのか？


　肌が焼け爛れてはいないが、身体のあちらこちらが炎で煤けていた。
　それでも肌の焼けた痛覚は脳内まで辿り着きそこから全身まで駆け巡ることを本人と銀髪魔法師以外誰も知らない。

「うっ……ぐはっ……」

「死なないくせに何を痛がってる振りをしているんだ？悪運の強い銀髪魔法師め！」

　忌々しそうな声が冷たい一室に響き渡る。その声は苛立ちがみえるかのようだ。

　痛みに悶える彼を石ころを蹴るかのようにアイツが彼の身体を蹴り上げる。


　あまりにも酷い仕打ちに記憶の彼に手を伸ばすが届く筈はなかった……。