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子猫の雨月と男の子の雨月

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 十二時を過ぎたお昼休憩。
 
 美樹ちゃんのランチのお誘いを断って黙々と……違うか、鬼の形相で淡々と仕事をこなしていた。
 あと、一時間ぐらいしたら今日の書類は終了する。
 私の計算ではちょっと時間がかかりすぎちゃってる。詰めが甘かったみたい。

 とりあえず先にまだ席にいる上司にお伺いをしてみることにした。
 今はこの部署には夏川上司と私のみだもん。
 みんなに知られずにお願い出来る願ってもいないチャンスだもん!
 
 逃してなるものか!

 思わず思いっきり力こぶしをつくって気合いを入れちゃう!
 でも、態度はそんな風にはしないけどね。

 そわそわしながら上司の席の前に行く。これも作戦です。
 こんなお願い……聞いてもらえるものなのかな?
 それでも……絶対聞いてもらうんだからぁ!

「夏川上司、折り入ってご相談したいことがあるのですが……」

 私に目線を合わせて聞いてくれる。

「星野君、珍しいね。何かあった?」
「私情なのですが……今日、早退させてくれませんか?今日の仕事分はあと一時間で終わりますから」
「何かあったのかね?」
「すみません……。私情としか言えないんです」

 男の子がひとりで家にいるだなんて、絶対言えません!
 それも見ず知らずの男の子です。
 私が拾ったのは……男の子じゃなくって、子猫なんですって。
 どれひとつ、言えないんですもの!

「……」

 夏川上司は頬杖をついて机の卓上カレンダーを険しい顔で見ている。
 机をトントン右手の中指で弾きながら。
 なにか、あるのかな?

「急ぎか?」
「出来れば早く帰宅したいです」

 目をじっと見て正直に言う。

「これからちょっと営業の仕事のサポートで書類がこっちに回って来るんだ。明日、午前中でいいから休日出勤して呉れないか?その代わり、今日はもう帰っていいから」
「あ、ありがとうございます!明日、休日出勤します!」
「なら残りの仕事、俺がするから持ってこい」
「わ、わかりました!よろしくお願いします!」

 や、やったぁああ!

 私の上司、夏川さんは仕事は誰よりも早くこなせるし、面倒見がいいんだよね。ありがたい存在です。奥さんは美人だし子煩悩だし。
 夏川上司がいてこその総務部です。
 本当に。
 おかげさまで……助かっちゃいました。

 明日の午前中休日出勤になったけど、今日はもう帰れるんだ!

 待っててね!雨月!

 逸る気持ちを押さえつつ、私は自分の席に戻って残りの書類を束ねながら帰宅の準備を始めた。

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