私が拾ったのは子猫なんですけど！そして私は男じゃない！

運命？

3

　仕事をしててもちょっと上の空になってしまうのは、窓から見える雲行きが怪しいから。
　早く貰われてくれてたら濡れることはないだろうと、新しい未知の飼い主に祈るしかなかった。

　それって、かなりの他力本願だけど。
　濡れないことだけを心配したら、そうなっても仕方がないよね？
　言い訳かな？

　はぁああ。

　そう思いつつ、やっぱりあの子猫が気になる。

「おい！手が動いてないよ……」

　そう言って私の頭を資料を丸めたものでポンと軽く叩く。
　見上げるとちょっぴり好みの営業課の今川稔が居た。私より二年先輩にあたる。

「すみません……。雨が降るのか気になってしまって」

　仕事をサボっていた言い訳をしてしまった。
　いつもならそんなことしないんだけど、本当に天気が気になるのだ。
　それもこれもあの愛くるしい目をした黒い子猫のせいなんだもん。
　
　今川さんも窓を見て

「ああ、今日は夕方から雨が降るって天気予報で言ってたよな。星野はバッチリ傘持ってきてるんだろ？」

　ははは。わかります？

「はい、折り畳み傘ですが」
「なら心配ないだろ？この伝票と資料……頼めるか？」

そう言って私を叩いてた資料の用紙と別に持っていた伝票を私に渡す。

「あ、はい。時間は急ぎですか？」

　仕事モード再開！

「余裕は二時間しかないんだ。出来上がったら取引先にすぐ持っていきたい」
「了解しました。優先順位を変更したら……一時間半くらいで済ませます」

　渡された資料をパラパラめくって時間配分を頭に入れる。
　これなら、一時間で出来そうだ。でも、トラブル計算に三十分は余裕を取る。

「いつも悪いな。助かるよ」

　軽く笑みを浮かべて今川さんは立ち去った。

　そう、私の好みなんだ。彼、今川稔さん。
　男らしくって優しくって。
　一番いいところは……身長！
　百八十センチある身長がいい！

　実は……私の身長は百七十二センチなのだ。
　身長が高いのがコンプレックスだったりする。
　三センチのヒールを履いても違和感ないでしょ？その身長差なら！

　本当は……五センチのヒールを履きたいんだけどね。

　あ、ダメダメダメ！

　仕事しなきゃ！

　仕事に打ち込んでいる間に窓にうっすら雨が打ち付け始めた。
　それに気づくことなく私は必死になって今川さんの資料を見ながら書類をせっせと作っていった。

　仕事に夢中で取り組んだせい？
　子猫のことなんか……とっくに忘れてしまっていた。



　もうすぐ書類作成が終了する頃に重大な事を発見してしまった。
　どうも今川さんが資料の一部を添付せずに渡したみたい。肝心な場所の数値を計算し直して新たに作り直さなければいけない箇所が……多すぎじゃない！
　今川さんの資料添付ミスを発見してしまってから新たに資料を貰って別個で書類作成。辻褄もちゃんと合わせて作業し直す。
　二時間で仕上げて欲しいと言われていた書類は完成まで三十分過ぎてしまった……。

「助かったよ！本当に申し訳なかった。今度奢るからな！時間調整して開けといてくれ」

　低姿勢で謝罪した今川さんは出来立てホヤホヤの資料と伝票を鞄に入れ、慌てて取引先へと出向した。

　はぁああ。
　流石に疲れた。

　後回しにした資料の山を見て、今日は残業の覚悟を決めた……。