睡蓮

誠影

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睡蓮

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 僕が大学生の時に働いていたアルバイト先で、初めて出会った時から僕はあなたに惹かれ、想いを寄せていた。
 そして、抱いたこの想いが今度こそ、形になってほしいと願っていた。
 しかしながら、もう既に僕があなたにとっても特別な存在であろうと、近づく余地なんてなかった。
 当然だろう。
 その透き通るような美しさと汚れを感じることのない性格に、僕と同じように価値を感じる男がいるのは理解できた。
 その日、僕は失恋したんだ。
 叶わない想いを引きずりながら手の届かないあなたに心の内を隠し、あたかも「あなたに対して下心なんてありません」と嘯くような、不格好な醜い笑顔で話しかけるのは人としてあまりにもみっともない。
 とにかく、忘れなければ。
 僕はあなたを、そして、僕とあなたの2人で描く未来を望むこともやめた。
 それでも、決して長くない時間を共に過ごす中で、またあなたに特別な何かを抱いていたんだ。
 それが何かはわからなかった。
 とにかく、今はあなたと少しでも一緒にいられる。
 これまで生きてきて出会った何人もの女性に想いを抱いたが、どれも結局叶わなかった。
 これが現実だ。
 だから、
「彼女の側にいられるだけでもう充分じゃないか、よくやったじゃないか」
 と、自分に言い聞かせていた。

 ある日のアルバイトの昼休み。
 じりじりと僕らの体力を無情にも奪っていく真夏の日差しを遮り、せめてものの涼しさを作ってくれるテントの下。
 そこで午後の労働に備えるべく、僕らは各々食事を取っていた。
 その合間に、偶然僕の隣に座ったあなたとの世間話が始まる。
 傍から見れば他愛もない、けれど、僕にとっては貴重な時間。
 そんな終着点のない会話の流れで、彼女が持つ想いに触れた。
 以前は趣味で絵を描いていたこと、通っていた大学を経済的な理由でやめ、ここで働き出したこと。
 そして今、目指している夢があること。
 そうだ、僕にも夢がある。
 それを叶えるには当然ながら、自分が今在る場所に別れを告げて歩みを進めなくてはならない。
 その先に自分の望む景色が広がっていると信じて。
 しかし、そこにあなたはいない。
 そんなことはもうわかっている。
 ただ、だからこそ。
 せめてあと少し此処に、あなたのいるこの場所にいたいと思った。

 美しい景色を目指し、人生という長い道のりを進む僕の隣に、どうかあなたがいてほしい。
 くだらない、馬鹿馬鹿しい夢。
 そんなものはどうせ叶わない。
 もう充分思い知った。
 だからこそ、「未来」という踏み台にされたいくつもの別れが積み重なってできた、誰も予測できない形も不完全なゴール。
 それに向かって歩み進めるこの時間。
 その限られた時間の中でせめて、徐々に迫りくる終わりを見据えながらも、できるだけあなたの側にいたい。

 そう思っていたのに。
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