私がいかにして彼を愛するようになったか

変狸

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四面楚歌

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 森の中に響き渡る警報の中を私と彼は修理したBNで銃弾飛び交う戦場を走り回っていた。

「何やってんだよ! 応戦しろ!」

 そういうのは私がここにいる理由(名前はまだ知らない)。
 拘束が解けて元気があふれ出しており、非常にうるさい。

「今、反撃してみろ。こっちが10発打つ間に向こうは100発打ってきておれたちはいっしゅんでハチの巣だ」

「いいんじゃないか、もとより死ぬはずだったんだからな。それならせめて俺の役に立って死ね」

 顔は女みたいだが優しさなどかけらもない。
 それでも彼と行動を共にするのが最も安全だとこの時は思っていた。
 生身でハチドリを落とした時に使用したあのカラーボックスのような形の兵器。
 からの話では群が開発した試作兵器であるそうだ。そのため、まだいろいろと問題があるらしい。つまりこの時私が動かしているBNと同じく信頼性が低いということ。
 それを聞いた瞬間、私はいつか爆発してしまうんじゃないかと心配になるが、すぐに戦闘が始まってそれどころではなくなった。

「ちぃ!」

 舌打ちしながら敵の攻撃を何とかよけていく。
 変形して空に逃げればいいと思われるかもしれないができたのは最低限の修理のみ。メインエンジンの出力はいまだに上がらないため空に逃げても万全状態の敵にすぐに撃ち落されるのが関の山なのだ。
 しかし、このままではいつかやられるのである作戦を考えていた。
 さっき崖から見えたところで使えそうな場所があった。あともう少しのはずと、祈るような気持ちで歩みを進める。
 銃弾やミサイルの雨をかいくぐり向かった先は大きな谷。はるか下には川が見えた。
 一瞬、あまりの高さにためらう。が、敵の追跡を振り切るためにはそうするしかない。
 なぜ谷底の川に飛び込めば逃げることができるのか、それは簡単この高さで落ちればBNと言えど水面にたたきつけらればらばらとなる。
 じゃあダメではと思われるかもしれないが、それはこれから。
 意を決して谷に飛び込む。落下速度が徐々に上がっていき水面がどんどん近づいてくる。

「いまだ!」

 私はコックピットを開けてバックパックを掴み飛び出す。私に続いて彼も後部座席から飛び出す。
 そして彼が片手でカラーボックスを持ちながらもう片手の襟を掴んで近くの川岸に着地する。

「イデッ!」

 物のように掴まれていたため私は地面にたたきつけられたが。

「もう少し丁寧におろせなかったのか?」

「命があるだけましだろ」

「そりゃそうだけど・・・隠れろ」

 私はそういってバックパックから布を取り出しながら彼と一緒に岩陰に隠れる。そして取り出した布を広げて被る。この布は緊急時のテントだが敵から発見されにくくするために周囲の環境に擬態するという特殊な処理が施されているが、技術が敵の手にもわたったため、ないよりましという気休めで装備されている。
 そのすぐ後にハチドリが3機ゆっくりと降りてきて周辺をホバリングしている。

「俺たちを探してる」

 川の周辺を周ると私たちがいる岸辺に降りてきた。
 もうだめかと思うが、そのまま何もせずに再び飛び上がりどこかへと飛んでいく。

「・・・行ったみたいだな」

 そのことを確認して布から這い出ると彼も続いてはい出てくる。

「早く移動しないと」

 いつまでもここにいたらどちらにせよ見つかる。それはそうと、

「悪いがたたむの手伝ってくれ」

「なんで」

「2人でやったほうが早く終わるだろ。これテントでもあるんだから」

「わかったよ」



 片づけを終わらせて谷沿いに歩く。
 しばらく歩くと岩肌から木々が生い茂る緩やかな傾斜へと変わっていく。それを確認して地図と方位磁石を出す。
 敵に場所がばれる危険があるため、GPSやその類の物は使えない。そのため、こういった原始的な手段に頼りざるを得ない。

「ここからは森を進むことになるな」

「大丈夫なんですか? 機体を捨てちゃったから行先、分かるんですかね」

「わからない。だからとりあえずさっき見えた敵の基地に向かおうと思う。お前の目的もそこにあるんだろ」

 私が彼にそう言うと彼は再び不機嫌なことを隠そうともせず一人で歩いていこうとする。

「なあ、そろそろ教えてくれないか。お前さんに指示された任務をさ」

「お前に言う必要はない」

「そりゃそうだけど、でも俺たちには今味方と呼べる人間はほかにいないんだから協力して」

 しかし、彼はそれを鼻で笑う。

「味方? 残念だけどな、あんたに味方なんて」

「だったら何でさっき助けてくれたんだ」

「助けたんじゃない。お前が生きていれば囮として利用できると思ったまでだ」

「だけど、結果的には助けてくれたってことだ。だったら俺はお前を信用する」

 私がそういうと彼は驚いた顔で私の方を向き直るが、一瞬でしかめっ面へと戻す。

「正気か? 俺は・・・」

「俺は? なんだっていうのさ、化け物か? だったら今更だな」

 この時、すでに私は彼を信用しきっていた。人の見る目があるのかと言われれば首を捻るが、彼は命の恩人だ。何か打算があって俺を助けたとしても。

「じゃあ、俺もお前のことを裏切ったらどうするんだ」

「簡単さ。その時は・・・」

 そこで一呼吸置きこう答える。

「君を殺してでも俺は生き残る」

「は! 見下げはてた生存欲求だな。だったら」

 言葉を急に切り彼は俺にどこから取り出したのかハンドガンを向けてくる。それも頭、眉間に向けて。

「さあ、どうする? 俺の銃口はお前の脳みそを一瞬で勝ち割れる」

「その口径じゃあ頭は割れない」

 私はそう言って自分の腰のホルスターからリボルバーを取り出す。

「これを使えよ。こいつなら俺の頭は吹っ飛ぶし確実に命を奪える」

「リボルバーか。古風だな。ジャムが怖いのか?」

「いや、俺はリボルバーが好きなの」

 そういって彼の方に差し出す。しかし、彼はリボルバーを受け取らず自身のハンドガンの撃鉄を起こした。

「何か言い残すことは?」

「ないよ」

 私には両親を含め家族はもういない。愛する女性も、親しい友人はみんな死んでいった。
 昔の映画か何かの主人公が言ってた「いい奴から先に死んでいく」というのが身にしみて感じられる。
 だが、こんな経験したくなかったと今は後悔している。

「そうか。じゃあ、死ね」

 そういって彼は引き金を引いた。
 死ぬ瞬間に人はそれまで経験したことを一気に振り返るそうだが、一向に何も思い出せない。目を閉じているはずなのに目蓋に映るのは今、目の前にいるはずの彼。
 なるほど、どうやら俺はは彼にめろめろのようだとこの時私は初めて彼への恋心を認めた。
 正確に言うと認めることができたが正解。
 私がそんな自問自答をしているが一向に銃は発射されない。
 恐る恐る目を開けると、すでにそこに彼の姿はなかった。
 どうやら俺は置いていかれたらしい。
 つれないな、置いていくなら置手紙の一つでも残していってくれたらいいのに。

「しかたない」

 文句を言っても始まらない。
 そう自分に言い聞かして私はリボルバーをホルスターに戻して地図を取り出す。

「基地は、あっちか」

 基地の位置を再確認して再び歩き出す。
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