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青天の霹靂
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「やっぱり、護衛とかつけてもよかったんじゃねえかな」
私がそう言うのも、いつも通り自分の機体のように操縦する努力をしていましたが、やはり機体が違うというのはかなり大変なことでした。
操作方法こそ一緒でしたが機体が重いのです。
操縦桿を動かしても思った通りに動いてくれないのは、かなりきつい。
こんな時に敵に襲われたらと思っていると、レーダーに反応が。
「ち、もう来たか」
戦闘機が正面から3機編隊を組んでやってくる。
敵の偵察機かと私は思いましたが、それを確認する前に機内にアラームが鳴り響きます。
「いきなりロックオン?!」
警報が鳴ってすぐに敵機がミサイルを発射してくる。
「なぁろぉ!」
私はすぐに機体を急降下させつつフレアを巻きミサイルをかく乱。速度が乗ったところで今度は急上昇。後ろをとるための行動だが、相手もそう簡単に後ろはとらしてくれはしない。機体を激しく上下左右に動かし私から逃れようとする。
だがこちらにはまだある。ミサイルが。
ロックオンサークルを合わせるだけでいいわけだが、先ほど私が使ったフレアを敵も当然装備している。だからこそ、先に相手にフレアを履かせなければいけないわけだが。
そんなこと考えている余裕などこの時にないわけだが。
体が覚えている操作方法で機体を動かそうとするが、
「くう! 重い!」
戦闘になるとよりわかる。
動きが鈍いのはもちろんの事、予想以上に落下速度がでた事もあり機首が全然上がらない。そして、動きが鈍いということはそれだけ被弾するということ。
「こなくそ!」
漸くロックオンさせてミサイル発射のスイッチを押す。
機体から外れたミサイルは速度を上げて敵機につっこんでいくが、当たる直前に敵機がフレアを放つ。結果、私が放ったミサイルはあらぬ方向に飛んでいく。
両者ともミサイルはすぐに使い切る。つまり、ドッグファイトに突入すると思った矢先。
「へ?」
出力が上がらない。
スロットルをいくら開けても加速しない。落ち着いて計器を確認する。
「え、エンジントラブル?」
まさかのエンジントラブル。
まだミサイルしか打ってないのに。
結論を言うと私たちの乗っていたBNは落ちた。見事に敵の領土に。まるで事前にそうなるように仕組まれていたかのように。
だがこの時。
当然私にそんなことを考えている余裕はない。
まずやったのは訓練通りに緊急脱出装置を作動させるために座席の横の取っ手を引く。が、作動しない。
テストくらいしておけと思ったが、今文句を言っても仕方がないのでどうにか別の方法を模索する。通常ならグライダーのように飛んでゆっくりと降りていくのだが、この時そんなことをすれば後ろからハチの巣にされる。
こうなればイチかバチか変形するためにレバーに手をかけた。
「動け! 動け!」
そう言って変形するためのレバーを引く。
運よく、機体は何の問題もなく戦闘機から人の形に変わる。
そして、機体の手足をバタバタと動かして何とか空中で推進機を使わずに落下方向を無理やり変えていく。そうすることで被弾を抑えながら空気抵抗を利用して落下速度を抑えながら降下する。
当然だが敵も私の後を追てくる。訓練でロイド形態での空中での機動戦闘、しかもエンジントラブルで落下中ということなど当然やったことがない。
が、やるしかないのだ。
機体を無理やり回して敵に両腕のガトリングを向ける。
「くらえ」
先制攻撃あるのみと引き金を引く。
ガトリングのような多銃身が高速で回転し、大量の弾丸が放たれる。が、当たらない。
それもそうだロイド形態は本来地上での戦闘用。だから、ロイド形態での戦闘システムに空中での戦闘は考えられていない。
いや、まったく考えられていないわけではなくこの時、私が乗っている機体には学習されていないだけだ。
BN、バードノイドは多くのパイロットが残していった記録によってあらゆる状況に対応できるようになっているが、私がこの時乗っていたのは軍が作った試作機。
データをその機体に合わせて調整もされずにインプットされていた。つまりシステムが、機体を動かすためのコンピューターが完全でないのだ。私が機体を重たいと言っていたのもそこに関係していたが、それならと私は後ろから追ってくるBNに空中で無理やり動かして飛びつく。
がぎん! という重厚な金属同士がぶつかる音と同時に相手のBNのバランスが崩れる。敵のコックピットでは安定性を失ったということでアラームが鳴っていることだろう。それに焦った敵パイロットが脱出装置の取っ手を引いて脱出する。
そうなればこっちのもので敵が乗り捨てたBNを使いゆっくりと地面に降下していく。
残りの敵2機は牽制でガトリングを撃っていたらいつの間にか撤退していた。
やっと落ち着いたと思ったときすでに機体は地面すれすれを飛んおり、急いで自分の機体を敵が乗り捨てた機体に固定する。
ガトリングの銃口を機体に向けると中心の空洞から鉄の杭が飛び出して機体を貫く。
簡単だが、これで固定されただろう。
燃料タンクとかには触ってないから爆発しないはずと、内心びくびくしながらその瞬間はやってきた。
地面と接触した敵機は大きく地面を滑っていきながら木々を倒していく。
振動と同時にどんどんソリが壊れていくことが分かる。考えなくても分かった。
あ、これやばいんじゃない、と。
すぐに機体をジャンプさせて横に退避させる。
まだ十分に減速していなかったこともありぐるぐる横回転し木々をなぎ倒しながら止まることができた。
ソリにしていたBNはそのまま直進していきいくつか木々を倒していくが最終的には大木にぶつかって止まる。
さて、無事着地できたがすぐにここを離れなければいけない。敵にはもう私たちがどこに落ちたのか報告が行き届いているだろう、一息ついていたら敵に後ろから撃たれたなんてことは嫌だからね。
そこで機体を立たせるために操作をするが、
「あれ?」
機体が動かない。
ごろごろ転がった時にどこか壊れたようだ。
「ちょ、勘弁してくれよ」
そういって、自己診断プログラムを走らせる。
「電源が生きてるってことは電気系じゃないわけだよな。操縦系統か」
そう思いながら結果が出るのを待っていると、後ろからうんうんと唸る声が聞こえてくる。
「ああ、もう。なんだよ!」
叫びながらコックピットを開けて外に出る。そして、後部座席を開けて中にいる人物の猿轡を外そうとするが。
「な、なんだよこれ・・・」
猿轡にはしっかり鍵が掛けられていた。
猿轡だけではない目隠しはもちろん、手足の拘束にも厳重にカギがかけられていた。それも南京錠ではなく電子ロックだ。
どうなってんだと、私が疑問に思っているとピーという電子音と共に拘束が解除されていく。
手足の拘束が解除され自分で猿轡と目隠しをとる。始めて私は彼女の目を見た。
まるで宝石のように透き通った水色の瞳に私の目は釘付けとなった。だが彼が立ち上がった瞬間、私の視界は別のものに釘付けとなる。
それは男なら誰しも自分の股についているもの。ぴっちりとした拘束服を着ているせいで、余計にそこが強調されている。つまり、彼女は彼女ではなく彼だったわけで。
と。少しパニックになっている私のことなど気にせず彼は後部座席から降りると、あたりを見渡す。そして、走り出した。
「え?」
彼の行動を疑問に思いながらそのあとを追いかける。
しばらく彼が走ると近くの茂みに飛び込む。その場にいてもどうしようもないため、私もその茂みに飛び込む。
「一体、何だってんだよ」
茂みに入ると彼は隙間から何かをじっと見つめていた。何を見ているのか気になり自分もその横の隙間から外の様子を覗くが、そこは一歩でも足を踏み出そうものなら死は免れない断崖絶壁であった。そこに、広がっていたのは雄大な自然が広がっているだけで特に不審な点は感じられなかった。
いや、よく見ることである一点に目が行く。
巧妙に隠され一目見ただけでは分からないが、目を凝らしてみると明らかに人口物だとわかる建物がそこに佇んでいた。
それは、巨大なミサイルサイロのようにも思えるが正確なことはこれだけ離れているとよくわからない。が、俺が施設を確認した時、崖の下から左腕にヘリコプターのプロペラを付けてそれによって飛行するBNが。
「ハチドリか」
ハチドリ。その場でホバリングする様子から私を含めた同じBNのパイロットたちからはハチドリとよばれていた。
色々と問題があるがこういったジャングルのような木々が生い茂るところでホバリングしながらの哨戒はかなり効果的で、実際この時の私が一番実感していた。
二人そろってそろりそろりとその場から離れ、BNの場所まで戻りコックピットに戻り再び計器を見る。
自己診断はすでに終わっており目の前の簡易ディスプレイにどこが壊れているかが表示されていた。それを確認すると、コックピットの座席の下にある緊急時用のバックパックを取り出す。
バックパックには様々なものが入れられているが私は、今必要なのは修理キット。それは修復材とナノマシンが入ったスプレー缶。壊れた場所に吹き付けることによって、修復材を使用しナノマシンが応急修理を行う。
その一方で未だ名前も分からない荷物と呼ばれていた彼の話もしておかねばならない。
私が機体の修理をしている間に彼は機体のボディー部分の装甲の一部を何と片手で引っぺがした。
「え!」
驚き私はすぐに彼に詰め寄って何をしているのかと問い詰めようとするが、はがされた装甲の下を見て絶句する。
そこにあったのは一見すると普通の引き出しが3っつあるカラーボックスに見える。大きさは凡そ高さが180cmぐらいだろうか。
「なんだよこれ」
私がそう言っている間に彼はカラーボックスの引き出しにある取っ手を掴み持ち上げどこかに歩いていこうとする。
「ちょ」
勝手な行動をされると困るため引き止める。彼は明らかに顔に苛立ちを浮かべて振り返った。
「勝手なことされると俺が困る。俺の仕事は君を目的地まで運ぶことなんだから」
私がそう言うと、彼は呆れた顔をしたあとここぞとばかりにため息を吐きだす。
「あんた、まだ気づいてないのかよ。自分が捨て駒にされたって」
「・・・は?」
一瞬、彼が言った言葉が理解でなかった。
「すまない、よく聞き取れなかった。もう一度言ってくれ」
私がそういうと、彼は軽く笑いながらそれに答える。
「ああ、わかんない? あんた、国に捨てられたのさ。使えないってね。で、さっきのあの空中戦で名誉の戦死をするはずだったって訳さ。これで納得した」
なんにも言えなかった。心臓の鼓動が増していくのがもろに感じられた。
頭と感情が混乱し視界が歪む。今、自分が立っているのが現実なのか、それとも幻なのかさえわからなくなっていく。
だって、国が自分を捨てたなんて、信じられるものか。実際に、今だって信じられやしない。
「乗りなれていない機体、護衛のいない輸送任務、示し合わせたように出てきた敵部隊、仕組まれたかのようなエンジントラブル・・・導き出される結論は・・・くそ!」
だが、悲しいかな。こんなときになっても訓練などて植え付けられた軍人としての冷静な判断力が、彼の言ったことが紛れもない真実であることを証明していた。
悔しさのあまり地面を殴り付ける。
拳から血液が流れ出て地面に小さな赤い水溜まりを作り出す。
彼は私に興味がなくなったのかカラーボックスを持って立ち去ろうとする。
「まて!」
叫ぶ。心の限り。そして、立ち止まった彼に駆け寄る。が、そこで足がもつれ彼を押し倒してしまう。
さきほどまでの激情が嘘のように消え去り、一気に体温が上がり鼻に血液が集中していくような感じがした。
「・・・いつまで乗っかってんだ?」
「あ、悪い」
そう言って、すぐに起き上がる。
何をやっているんだと思った。男相手にドキドキするなんて。
私はホモじゃないと。
知り合いにそういうやつが何人かいるが俺は違う。軍人という男ばかりの職場だが俺は違う。と、必死に否定する。
「俺はホモじゃない、俺はホモじゃない・・・」
「何ぐじぐじ言ってんだ。お前それでも軍人か」
彼の言うとおりだ。だが、この時の私は軍人云々よりも自分がホモかどうかの方が重要であった。
「わかってる。分かっているんだが・・・」
「だったらさっさと・・・」
その時、ばばばというヘリコプターのプロペラの音が響く。
私たちを捜索しているハチドリに見つかった。
『動くな。動けばこいつに装備されているバルカンがお前たちの体がずたずたになるぞ』
ハチドリの右腕がぐいっと俺たちの方を向く。その様はまるで巨人が腕を伸ばしてきたかのよう。その先についたバルカンから今にも弾丸が飛びだしてきそうだ。
機体までは距離があるため動けない。
しかし彼は、臆することなく、むしろ笑顔で敵の方を向くと、持っていたカラーボックスを引き出しを上にして肩に担ぐ。
すると、三つの引き出しがガコと音をたて扇状に開き、小型ミサイルが発車される。
いや、形状からしてグレネードか。
そして、ハチドリに奇麗に全弾ヒット。グレネードの爆発が装甲を破壊し内部の兵器の火薬やら燃料に引火し大爆発を起こす。
それとともに響き渡る警報。
それは状況はさらに悪い方向になることを私は実感するのだった。
私がそう言うのも、いつも通り自分の機体のように操縦する努力をしていましたが、やはり機体が違うというのはかなり大変なことでした。
操作方法こそ一緒でしたが機体が重いのです。
操縦桿を動かしても思った通りに動いてくれないのは、かなりきつい。
こんな時に敵に襲われたらと思っていると、レーダーに反応が。
「ち、もう来たか」
戦闘機が正面から3機編隊を組んでやってくる。
敵の偵察機かと私は思いましたが、それを確認する前に機内にアラームが鳴り響きます。
「いきなりロックオン?!」
警報が鳴ってすぐに敵機がミサイルを発射してくる。
「なぁろぉ!」
私はすぐに機体を急降下させつつフレアを巻きミサイルをかく乱。速度が乗ったところで今度は急上昇。後ろをとるための行動だが、相手もそう簡単に後ろはとらしてくれはしない。機体を激しく上下左右に動かし私から逃れようとする。
だがこちらにはまだある。ミサイルが。
ロックオンサークルを合わせるだけでいいわけだが、先ほど私が使ったフレアを敵も当然装備している。だからこそ、先に相手にフレアを履かせなければいけないわけだが。
そんなこと考えている余裕などこの時にないわけだが。
体が覚えている操作方法で機体を動かそうとするが、
「くう! 重い!」
戦闘になるとよりわかる。
動きが鈍いのはもちろんの事、予想以上に落下速度がでた事もあり機首が全然上がらない。そして、動きが鈍いということはそれだけ被弾するということ。
「こなくそ!」
漸くロックオンさせてミサイル発射のスイッチを押す。
機体から外れたミサイルは速度を上げて敵機につっこんでいくが、当たる直前に敵機がフレアを放つ。結果、私が放ったミサイルはあらぬ方向に飛んでいく。
両者ともミサイルはすぐに使い切る。つまり、ドッグファイトに突入すると思った矢先。
「へ?」
出力が上がらない。
スロットルをいくら開けても加速しない。落ち着いて計器を確認する。
「え、エンジントラブル?」
まさかのエンジントラブル。
まだミサイルしか打ってないのに。
結論を言うと私たちの乗っていたBNは落ちた。見事に敵の領土に。まるで事前にそうなるように仕組まれていたかのように。
だがこの時。
当然私にそんなことを考えている余裕はない。
まずやったのは訓練通りに緊急脱出装置を作動させるために座席の横の取っ手を引く。が、作動しない。
テストくらいしておけと思ったが、今文句を言っても仕方がないのでどうにか別の方法を模索する。通常ならグライダーのように飛んでゆっくりと降りていくのだが、この時そんなことをすれば後ろからハチの巣にされる。
こうなればイチかバチか変形するためにレバーに手をかけた。
「動け! 動け!」
そう言って変形するためのレバーを引く。
運よく、機体は何の問題もなく戦闘機から人の形に変わる。
そして、機体の手足をバタバタと動かして何とか空中で推進機を使わずに落下方向を無理やり変えていく。そうすることで被弾を抑えながら空気抵抗を利用して落下速度を抑えながら降下する。
当然だが敵も私の後を追てくる。訓練でロイド形態での空中での機動戦闘、しかもエンジントラブルで落下中ということなど当然やったことがない。
が、やるしかないのだ。
機体を無理やり回して敵に両腕のガトリングを向ける。
「くらえ」
先制攻撃あるのみと引き金を引く。
ガトリングのような多銃身が高速で回転し、大量の弾丸が放たれる。が、当たらない。
それもそうだロイド形態は本来地上での戦闘用。だから、ロイド形態での戦闘システムに空中での戦闘は考えられていない。
いや、まったく考えられていないわけではなくこの時、私が乗っている機体には学習されていないだけだ。
BN、バードノイドは多くのパイロットが残していった記録によってあらゆる状況に対応できるようになっているが、私がこの時乗っていたのは軍が作った試作機。
データをその機体に合わせて調整もされずにインプットされていた。つまりシステムが、機体を動かすためのコンピューターが完全でないのだ。私が機体を重たいと言っていたのもそこに関係していたが、それならと私は後ろから追ってくるBNに空中で無理やり動かして飛びつく。
がぎん! という重厚な金属同士がぶつかる音と同時に相手のBNのバランスが崩れる。敵のコックピットでは安定性を失ったということでアラームが鳴っていることだろう。それに焦った敵パイロットが脱出装置の取っ手を引いて脱出する。
そうなればこっちのもので敵が乗り捨てたBNを使いゆっくりと地面に降下していく。
残りの敵2機は牽制でガトリングを撃っていたらいつの間にか撤退していた。
やっと落ち着いたと思ったときすでに機体は地面すれすれを飛んおり、急いで自分の機体を敵が乗り捨てた機体に固定する。
ガトリングの銃口を機体に向けると中心の空洞から鉄の杭が飛び出して機体を貫く。
簡単だが、これで固定されただろう。
燃料タンクとかには触ってないから爆発しないはずと、内心びくびくしながらその瞬間はやってきた。
地面と接触した敵機は大きく地面を滑っていきながら木々を倒していく。
振動と同時にどんどんソリが壊れていくことが分かる。考えなくても分かった。
あ、これやばいんじゃない、と。
すぐに機体をジャンプさせて横に退避させる。
まだ十分に減速していなかったこともありぐるぐる横回転し木々をなぎ倒しながら止まることができた。
ソリにしていたBNはそのまま直進していきいくつか木々を倒していくが最終的には大木にぶつかって止まる。
さて、無事着地できたがすぐにここを離れなければいけない。敵にはもう私たちがどこに落ちたのか報告が行き届いているだろう、一息ついていたら敵に後ろから撃たれたなんてことは嫌だからね。
そこで機体を立たせるために操作をするが、
「あれ?」
機体が動かない。
ごろごろ転がった時にどこか壊れたようだ。
「ちょ、勘弁してくれよ」
そういって、自己診断プログラムを走らせる。
「電源が生きてるってことは電気系じゃないわけだよな。操縦系統か」
そう思いながら結果が出るのを待っていると、後ろからうんうんと唸る声が聞こえてくる。
「ああ、もう。なんだよ!」
叫びながらコックピットを開けて外に出る。そして、後部座席を開けて中にいる人物の猿轡を外そうとするが。
「な、なんだよこれ・・・」
猿轡にはしっかり鍵が掛けられていた。
猿轡だけではない目隠しはもちろん、手足の拘束にも厳重にカギがかけられていた。それも南京錠ではなく電子ロックだ。
どうなってんだと、私が疑問に思っているとピーという電子音と共に拘束が解除されていく。
手足の拘束が解除され自分で猿轡と目隠しをとる。始めて私は彼女の目を見た。
まるで宝石のように透き通った水色の瞳に私の目は釘付けとなった。だが彼が立ち上がった瞬間、私の視界は別のものに釘付けとなる。
それは男なら誰しも自分の股についているもの。ぴっちりとした拘束服を着ているせいで、余計にそこが強調されている。つまり、彼女は彼女ではなく彼だったわけで。
と。少しパニックになっている私のことなど気にせず彼は後部座席から降りると、あたりを見渡す。そして、走り出した。
「え?」
彼の行動を疑問に思いながらそのあとを追いかける。
しばらく彼が走ると近くの茂みに飛び込む。その場にいてもどうしようもないため、私もその茂みに飛び込む。
「一体、何だってんだよ」
茂みに入ると彼は隙間から何かをじっと見つめていた。何を見ているのか気になり自分もその横の隙間から外の様子を覗くが、そこは一歩でも足を踏み出そうものなら死は免れない断崖絶壁であった。そこに、広がっていたのは雄大な自然が広がっているだけで特に不審な点は感じられなかった。
いや、よく見ることである一点に目が行く。
巧妙に隠され一目見ただけでは分からないが、目を凝らしてみると明らかに人口物だとわかる建物がそこに佇んでいた。
それは、巨大なミサイルサイロのようにも思えるが正確なことはこれだけ離れているとよくわからない。が、俺が施設を確認した時、崖の下から左腕にヘリコプターのプロペラを付けてそれによって飛行するBNが。
「ハチドリか」
ハチドリ。その場でホバリングする様子から私を含めた同じBNのパイロットたちからはハチドリとよばれていた。
色々と問題があるがこういったジャングルのような木々が生い茂るところでホバリングしながらの哨戒はかなり効果的で、実際この時の私が一番実感していた。
二人そろってそろりそろりとその場から離れ、BNの場所まで戻りコックピットに戻り再び計器を見る。
自己診断はすでに終わっており目の前の簡易ディスプレイにどこが壊れているかが表示されていた。それを確認すると、コックピットの座席の下にある緊急時用のバックパックを取り出す。
バックパックには様々なものが入れられているが私は、今必要なのは修理キット。それは修復材とナノマシンが入ったスプレー缶。壊れた場所に吹き付けることによって、修復材を使用しナノマシンが応急修理を行う。
その一方で未だ名前も分からない荷物と呼ばれていた彼の話もしておかねばならない。
私が機体の修理をしている間に彼は機体のボディー部分の装甲の一部を何と片手で引っぺがした。
「え!」
驚き私はすぐに彼に詰め寄って何をしているのかと問い詰めようとするが、はがされた装甲の下を見て絶句する。
そこにあったのは一見すると普通の引き出しが3っつあるカラーボックスに見える。大きさは凡そ高さが180cmぐらいだろうか。
「なんだよこれ」
私がそう言っている間に彼はカラーボックスの引き出しにある取っ手を掴み持ち上げどこかに歩いていこうとする。
「ちょ」
勝手な行動をされると困るため引き止める。彼は明らかに顔に苛立ちを浮かべて振り返った。
「勝手なことされると俺が困る。俺の仕事は君を目的地まで運ぶことなんだから」
私がそう言うと、彼は呆れた顔をしたあとここぞとばかりにため息を吐きだす。
「あんた、まだ気づいてないのかよ。自分が捨て駒にされたって」
「・・・は?」
一瞬、彼が言った言葉が理解でなかった。
「すまない、よく聞き取れなかった。もう一度言ってくれ」
私がそういうと、彼は軽く笑いながらそれに答える。
「ああ、わかんない? あんた、国に捨てられたのさ。使えないってね。で、さっきのあの空中戦で名誉の戦死をするはずだったって訳さ。これで納得した」
なんにも言えなかった。心臓の鼓動が増していくのがもろに感じられた。
頭と感情が混乱し視界が歪む。今、自分が立っているのが現実なのか、それとも幻なのかさえわからなくなっていく。
だって、国が自分を捨てたなんて、信じられるものか。実際に、今だって信じられやしない。
「乗りなれていない機体、護衛のいない輸送任務、示し合わせたように出てきた敵部隊、仕組まれたかのようなエンジントラブル・・・導き出される結論は・・・くそ!」
だが、悲しいかな。こんなときになっても訓練などて植え付けられた軍人としての冷静な判断力が、彼の言ったことが紛れもない真実であることを証明していた。
悔しさのあまり地面を殴り付ける。
拳から血液が流れ出て地面に小さな赤い水溜まりを作り出す。
彼は私に興味がなくなったのかカラーボックスを持って立ち去ろうとする。
「まて!」
叫ぶ。心の限り。そして、立ち止まった彼に駆け寄る。が、そこで足がもつれ彼を押し倒してしまう。
さきほどまでの激情が嘘のように消え去り、一気に体温が上がり鼻に血液が集中していくような感じがした。
「・・・いつまで乗っかってんだ?」
「あ、悪い」
そう言って、すぐに起き上がる。
何をやっているんだと思った。男相手にドキドキするなんて。
私はホモじゃないと。
知り合いにそういうやつが何人かいるが俺は違う。軍人という男ばかりの職場だが俺は違う。と、必死に否定する。
「俺はホモじゃない、俺はホモじゃない・・・」
「何ぐじぐじ言ってんだ。お前それでも軍人か」
彼の言うとおりだ。だが、この時の私は軍人云々よりも自分がホモかどうかの方が重要であった。
「わかってる。分かっているんだが・・・」
「だったらさっさと・・・」
その時、ばばばというヘリコプターのプロペラの音が響く。
私たちを捜索しているハチドリに見つかった。
『動くな。動けばこいつに装備されているバルカンがお前たちの体がずたずたになるぞ』
ハチドリの右腕がぐいっと俺たちの方を向く。その様はまるで巨人が腕を伸ばしてきたかのよう。その先についたバルカンから今にも弾丸が飛びだしてきそうだ。
機体までは距離があるため動けない。
しかし彼は、臆することなく、むしろ笑顔で敵の方を向くと、持っていたカラーボックスを引き出しを上にして肩に担ぐ。
すると、三つの引き出しがガコと音をたて扇状に開き、小型ミサイルが発車される。
いや、形状からしてグレネードか。
そして、ハチドリに奇麗に全弾ヒット。グレネードの爆発が装甲を破壊し内部の兵器の火薬やら燃料に引火し大爆発を起こす。
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