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第4章 気のせいだったら良いんですが

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そして二日後、特にトラブルも無く出発。カティアさんを除いた四人で、先日とは反対側の街道を進んで行った。


冒険者学校に俺も同行するわけは、アイザックさんの助手の立場からというのもあるが、一番は自らが毒手のことで当事者だからだ。


ブラッドは何者なんだろう。先日の口ぶりを見るに、能力についてまだ何か知っている筈だ。

その割に、俺の新しいスキルを見て驚いていた。

驚きの理由について聞いたが、全然口を割らない。


教授に会って何か新しいことが分かれば、手がかりでも掴めるのだろうか。


俺の前三列目にいるカリンが他愛ない話をしてくる度に、その先にいるブラッドのようすをこっそり見ると、常に氷のような表情を貼りつけてアイザックさんの後ろを歩いていた。


ブラッドは自分の出自とかそういったものは聞かれても話さなかったので、いつしか二人の会話が止まっていたのである。


魔法都市エーテル・エペはランプリットよりも近いため、夜明け前の出発から一日後の午前中には着くことができた。


「ほほう、ここがエーテル・エペなのじゃな」


桟橋で繋がったそこは、懐かしい光景だった。


大洋の流れの影響を受けない、大陸の内側に食い込んだ穏やかな海の地形。


エーテル・エペはその海に面した街だ。


平らな海岸と全体的に細長い居住区から視線を移し、反対側の丘の上を見ると、そのてっぺんには病院のような外観の建物が建っている。


黄土色の外壁をしたそれが、エーテル・エペの冒険者学校である。

ここで訓練生が各々の好きなスキルを学んでいく。


厨二心からとんだスキルを手にしてしまったコーキとか言う奴のケースは当然例外的なものだ。


俺がここを出たのは二年前。


ちなみにカリンは冒険者学校は出ていない。

冒険者というよりは薬屋の跡継ぎ(だんだんと雲行きが怪しくなってきているようだが)な上に、アイザックさんという優秀な師がいるため、通う必要は無かったというわけだ。


「教授はいるかな」


そう呟くアイザックさんの後に続いて丘を登る。


途中、明らかに普通の家では無い建物――屋根が円形ドームだったり、不自然に増築したような部分から煙突が伸びていたり――がちらほらと見えた。


冒険者学校があるためかこの街は研究が盛んで、魔術やアルケミスト等のギルドの支部が点在する。


この街の場合、それらの支部は研究機関の意味合いも強いのだ。


やがて、丘の一番上にたどり着いた。


エーテル・エペ冒険者学校。


比較的新しめなのに、色のせいで本来より三十年ほど古びたように見える建物。


あの時から、何も変わっていないな。


……

――あれ?


なんだか、妙な既視感を感じた。


ここは懐かしい場所だから、当然と言えば当然なのだが……

いや、デジャブを感じたのは、あの時のままという感慨だ。


何も、変わっていない?


少し前に、どこかでそんなフレーズを聞いたような――


「せっかくだから、中を見ていこうなのじゃ!」


カリンの声ではっと我に返る。


さっきの嫌な感じ、気のせいだったら良いんだけど……


「良いのか? 勝手に入っても」


ブラッドが珍しくそんな心配をした。


「教室に入って生徒のフリでもしない限り、一般人でもつまみ出されないよ。


あ、その前に――。ちょっと待っててね」


アイザックさんはそう答えると、入り口の事務室まで歩き、受付の人に用件を伝えた。


遠くから観察していると、何やらやりとりを三四往復ほど交わして戻ってきた。


「教授は夕方になるまで授業のようだ」言いながら、右手を横に振った。「カリンのお望み通り、迷惑にならない程度に構内を見ていこう」


「ならば決まりーじゃな!」


「なんかやけに嬉しそうだな」


俺が聞くと、カリンは「冒険者学校は一度見てみたかったんじゃよ!」そう屈託なく答えた。
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