3 / 3
異世界では毒手を使います。戦闘よりかは総合的につよい。
3
しおりを挟む
草原を覆い尽くす、青とか緑とかのブヨブヨの群れ。
ゲームとかでよく見る定番の魔物。
ス、スライムだ!
俺はとっさに身構える。
めっちゃいるけど大丈夫なのか? えーと、そもそも、こいつらは敵なのか?
この世界に来たばかりで何も知らない新米冒険者かつ丸腰の俺に、襲いかかってくるというのか!?
考えている間もない。
スライム達が俺に気づいたようだ。
スライム達は俺の姿を捉えると、
ゾロゾロゾロゾロ。
ゾロゾロゾロゾロ。
三十体くらいが、俺を目掛けてポヨンポヨンと転がってきた。
ギャー!
めっちゃ来たーーーー!
なんだ、この出来の悪いシンボルエンカウント制のRPGで、敵を避けようとしたら全員ついてきたみたいな光景は!?
ちなみにこいつらスライムには目とかがなくて、そこがまたちょっと逆に愛嬌があって可愛いと思うけど、これじゃ多すぎてめっちゃ怖ェーーーー!
こんなに群れで襲って来たんじゃ、絶対にひとたまりもない。数の暴力だ--!
俺は……。
さっきのカリンの言葉と、握手した時に見えたステータス的なものとを思い出す。
--『な、なんなのじゃ、今の【毒手】とかいうスキルは!?』 『そんなスキルのことはどこにも載っていなかったぞ!』
『◎の数』
--【毒手 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎……◎】
◎がいっぱい。
も、もしかして、俺がもってるこの毒手とかいうやつ、めちゃくちゃ強いのか?
コイツがどんな能力か、まだ完全には分からないけど、さっき小屋の中であったことがとっさに脳裏に浮かんできた。
俺はあの時、知らないはずの薬草というか、アイテム?の名前が手にとるように分かった。
これも毒手のおかげだろうか。
問題はその後だ。
俺は火傷をして、とっさにアイテムの【水】を引っ付かんで、頭からかぶった。
そしたら、火傷が治るばかりか、俺は腹痛--毒状態になった。
俺が触れるまでは、水だったにも関わらず、だ。
同じように、俺と握手をしたカリンは、腹が痛んだみたいだった。
あの頭に浮かんでくる不思議な文字と数字では、【状態異常: 毒】となっていた。
……と、そんな思考が数秒で頭をかけめぐって、俺は毒手というものを直感的に理解した--ような気がする。
さて、どうする。
俺の目の前には、既にスライムが数匹立ちふさがっている。
戦ってみるか?
俺は武器を構える。
武器は……、っと。
・装備品
【右手 】
【左手 】
【鎧 布の服】
【装飾品 】
武器を持ってない。
素手じゃん。
構えはすれど何もしてこない俺にしびれを切らしたかのように、スライムの一匹が俺目掛けて飛びかかってきた。
ポンヨヨーン!
「うおっ! 痛テェ」
スライムの体当たりが左腕に当たった。
接触した腕がヒリヒリと痛み、思わずあとずさる。
そこで俺は気づく。そうだ。さっきのカリンを頼れば、なんとかしてくれるかも。
「小屋に戻って助けを求め……アレ?」
振り向くが、俺が出てきたはずの小屋がない。
どうやら、さっきのエルとかいうヤベェ金髪から逃げる時に、勢い余って逃げすぎたらしい。
ヤベェ金髪と言えば、アイツ、俺のことをホムンクルスとか言ってたが、なにかの誤解のようだ。
逃げる時、カリンがこんなことを言ってエルをなだめてたからだ。
『あやつはホムンクルスなどではなかったぞ! 単なる通りすがりの冒険者じゃ! たまたま小屋の前を通りがかったせいで爆発に巻き込まれた不幸な青年じゃ!』
そう言って、俺に飛び付こうとするエルを落ち着かせてる声が背中ごしに聞こえたっけ。
ていうか、釜から出てた変な湯気に惑わされてたせいとは言え、あの小屋爆発させちゃったの、俺なんだよな……。
気まずいし、戻りにくい。
何より、いま戻ったらさっきのヤベェ金髪に何かされそうで怖いぞ。
なんてことを数秒で考えて、俺はとりあえず一度スライムと戦ってみることにした。
飛びかかってきたヤツ相手に、拳を構える。
「うおおおおお!」
べちん!
「あれ……? 倒した」
格闘技未経験のへなちょこパンチ一発でも、スライムは吹っ飛んでいったのだ。
倒したスライムは、そのまま空中で黒い煙になって蒸発する。
「お? 弱い! 超弱いぞこいつら」
ドガッ! ドガッ!
俺は続いてスライム二体を拳二発で殴って倒した。
だが、次は三匹が同時に来た。だから俺は拳三発で倒した。
四匹、五匹、六匹と……。
スライム達が近づいてくる限り、なんとか撃退した。
毒手について、半ば作業のような戦闘しながら俺はひとつ気づいたことがある。
パンチをした瞬間、スライムが紫色に染まる。どうやら、殴ったターゲットを毒状態にしているみたいだ。
相手を毒状態にする拳。名前そのまんまだ。
毒手はけっこう強い。
うん、決して弱くはないんだけど。
--このスキル、めっちゃ地味だーーーー!
スライム一体一体に拳を打ち込まないとダメじゃん。
俺を目掛けて集まってくるやつらを倒しきるには、超時間がかかる。
範囲攻撃的なものも無さそう。
数の暴力にはかなわん。
わらわらと迫ってくるスライムの群れ。
かくなる上は最後の手段--!
--背中を向けて、全力ダッシュ。
こんな時こそいのちが大事、ヒャッハー!
俺は後先考えず、再び猛ダッシュで逃げた。
「--って、へえぇ!?」
一分後、目の前に広がっていた光景に、俺は驚く。
生い茂った樹木。
さっきの、街道の続く穏やかな草原はどこへ行ったと言わんばかりに鬱蒼《うっそう》としている。
俺はスライムから逃げている間、いつの間にか近くの森の中に入り込んでいたのだ。
「また逃げすぎたー!」
まぁ、そんなことはどうでも良い。
今はこのスライム軍団をなんとかしなければ……。
ちなみにスライム達はまだ追ってきていた。
草原から森にマップ切り替えしてまで追ってくるとか、ゲームなら苦情の嵐な気がする。
だが、この世界はゲームのようでゲームじゃない。
向こうが折れない限り、どこまでも追ってくる。
もしかしたら、この世界のスライムというのは、こうやって群れを作って狩りをする生物なのかもしれない。
狩られる側の俺は、どうやら逃げるだけじゃダメみたいだ。
さっきのカリン達がいる小屋のほうに逃げ戻って助けを求める、という方法もある。だが、俺はここにさっき来たばかりの人間。
どっちがか小屋だったかなんてまるで覚えてない。
周りに人の気配もないし、いよいよ俺ひとりでなんとかするしかないだろう。
ポヨンポヨンと背後から何重にも重なって聞こえてくるスライム達の足音。
迷いこんだ森の中、スライム軍団に追われ走りながら俺は考える。
くそぅ、何か方法はないのか、スライム達を一網打尽にする方法--。
その時、視界の横にキラリと反射するものが見えた。
「川? いや……沼か」
鼻孔をつく、ヌメヌメとした生臭い匂い。
いま視界を横切ったのは、濁った小さな沼みたいだ。
沼に至るまでの地形は、軽い坂になっている。
坂のてっぺんは高さ三メートルくらいで、その先は沼に向かってストンと落ちていた。
……これだ!
気がつくと、俺は沼に向かって落ちる坂をかけ上がっていた。
「こっちだ、ゼリーども!」
しつこく追いかけてくるスライム達のようすを振り返りながら、坂の途中であえて走る速度を落とした。
スライムを十分に引き付けるためだ。
俺はギリギリのところで立ち止まる。
真下を見下ろすと、沼は良い感じにドロドロに濁っていた。
水は緑色をしていて、魚とかは住んでそうにない。若干ヘドロの嫌な匂いもする。
おっし。
タイミングを見計らい、俺は坂から飛び降りた。
沼には落ちずに、地面から二メートルくらいに伸びていた、手近な植物のツタに両手で掴まった。
その瞬間--、
ドサドサドサ、と、空から餅でも降ってきたみたいに、スライム達が頭上を斜めに掠《かす》めていく。
案の定、その魔物は急に立ち止まることができなかったようだ。
スライム達は沼にダイブして落ち、すべて水の中に吸い込まれていった。だが、すぐに何匹かがうごめいて、プカプカと浮かび上がってくる。
--俺の考えが正しければ、これで一網打尽に……!
俺は群れの一匹が陸に上がる前に、右手で思い切り、水面をぶん殴った。
「食らえっ! 毒手っっっ!」
水を殴った瞬間、緑色に濁っていた沼が紫色に染まった。
スライム達の体もみるみる間に紫に染まり、動きが止まる。
そのままこのゼリー状の魔物は、黒い煙を吐き出して消滅した。
耳を澄ましても、もうポヨンポヨンという音は聞こえてこない。
「はぁ……助かった」
なんとか倒せたみたいだ。
「これが、毒手か……」
ひとりつぶやく。
今のスライム退治で、このチカラの特性が分かった気がする。
さっき、小屋の中であったこと。
俺は普通の水をかぶったはずなのに、腹痛--【状態異常: 毒】になった。
俺の手は、触れた液体に毒を加えられるらしい。
そして、試験管やガラスビン程度ならば毒は容器を貫通するらしい。
だから、スライム達を沼に落としたのち、俺は毒手を使った。
思った通り、小さな沼は毒で染まり、落ちたスライムを殲滅《せんめつ》できた。
別に水源なら濁った沼でなくても問題なかったんだが、もし住人がいて生活用水にしてるんだったら、なんかヤバそうだったし。あれくらい濁った沼なら、大丈夫だろう。
「お?」
【コーキ レベル13】
レベルが上がったおかげか、あるいは体が慣れてきたためか、俺はいつの間にか毒の使用の有無を自在にコントロールできるようになっていた。
近くにあった他の濁った沼で実験してみて分かった。
これで、飲み水を飲もうとして水源を死の沼に変える心配もなくなった。もちろん、握手した相手を腹痛にすることも……。
「……カリンのいる小屋、どこにあるんだろ」
困った。俺は完全に迷ってしまったみたいだ。
小屋はおろか、森から抜け出すことができない。
スライムをいくら倒したところで、腹が膨れるわけでもないし。
戦いに勝ったが、腹の虫には勝てん。
「きゅうぅぅ……あー……腹、減ったな……ガクッ」
俺はそのまま空腹で行き倒れたのだった。
それから何時間が経っただろう。
「じゃ!……ぬし……お主、大丈夫か!?」
――、ん、なんだか、聞き覚えのある声が聞こえるぞ。
ゲームとかでよく見る定番の魔物。
ス、スライムだ!
俺はとっさに身構える。
めっちゃいるけど大丈夫なのか? えーと、そもそも、こいつらは敵なのか?
この世界に来たばかりで何も知らない新米冒険者かつ丸腰の俺に、襲いかかってくるというのか!?
考えている間もない。
スライム達が俺に気づいたようだ。
スライム達は俺の姿を捉えると、
ゾロゾロゾロゾロ。
ゾロゾロゾロゾロ。
三十体くらいが、俺を目掛けてポヨンポヨンと転がってきた。
ギャー!
めっちゃ来たーーーー!
なんだ、この出来の悪いシンボルエンカウント制のRPGで、敵を避けようとしたら全員ついてきたみたいな光景は!?
ちなみにこいつらスライムには目とかがなくて、そこがまたちょっと逆に愛嬌があって可愛いと思うけど、これじゃ多すぎてめっちゃ怖ェーーーー!
こんなに群れで襲って来たんじゃ、絶対にひとたまりもない。数の暴力だ--!
俺は……。
さっきのカリンの言葉と、握手した時に見えたステータス的なものとを思い出す。
--『な、なんなのじゃ、今の【毒手】とかいうスキルは!?』 『そんなスキルのことはどこにも載っていなかったぞ!』
『◎の数』
--【毒手 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎◎……◎】
◎がいっぱい。
も、もしかして、俺がもってるこの毒手とかいうやつ、めちゃくちゃ強いのか?
コイツがどんな能力か、まだ完全には分からないけど、さっき小屋の中であったことがとっさに脳裏に浮かんできた。
俺はあの時、知らないはずの薬草というか、アイテム?の名前が手にとるように分かった。
これも毒手のおかげだろうか。
問題はその後だ。
俺は火傷をして、とっさにアイテムの【水】を引っ付かんで、頭からかぶった。
そしたら、火傷が治るばかりか、俺は腹痛--毒状態になった。
俺が触れるまでは、水だったにも関わらず、だ。
同じように、俺と握手をしたカリンは、腹が痛んだみたいだった。
あの頭に浮かんでくる不思議な文字と数字では、【状態異常: 毒】となっていた。
……と、そんな思考が数秒で頭をかけめぐって、俺は毒手というものを直感的に理解した--ような気がする。
さて、どうする。
俺の目の前には、既にスライムが数匹立ちふさがっている。
戦ってみるか?
俺は武器を構える。
武器は……、っと。
・装備品
【右手 】
【左手 】
【鎧 布の服】
【装飾品 】
武器を持ってない。
素手じゃん。
構えはすれど何もしてこない俺にしびれを切らしたかのように、スライムの一匹が俺目掛けて飛びかかってきた。
ポンヨヨーン!
「うおっ! 痛テェ」
スライムの体当たりが左腕に当たった。
接触した腕がヒリヒリと痛み、思わずあとずさる。
そこで俺は気づく。そうだ。さっきのカリンを頼れば、なんとかしてくれるかも。
「小屋に戻って助けを求め……アレ?」
振り向くが、俺が出てきたはずの小屋がない。
どうやら、さっきのエルとかいうヤベェ金髪から逃げる時に、勢い余って逃げすぎたらしい。
ヤベェ金髪と言えば、アイツ、俺のことをホムンクルスとか言ってたが、なにかの誤解のようだ。
逃げる時、カリンがこんなことを言ってエルをなだめてたからだ。
『あやつはホムンクルスなどではなかったぞ! 単なる通りすがりの冒険者じゃ! たまたま小屋の前を通りがかったせいで爆発に巻き込まれた不幸な青年じゃ!』
そう言って、俺に飛び付こうとするエルを落ち着かせてる声が背中ごしに聞こえたっけ。
ていうか、釜から出てた変な湯気に惑わされてたせいとは言え、あの小屋爆発させちゃったの、俺なんだよな……。
気まずいし、戻りにくい。
何より、いま戻ったらさっきのヤベェ金髪に何かされそうで怖いぞ。
なんてことを数秒で考えて、俺はとりあえず一度スライムと戦ってみることにした。
飛びかかってきたヤツ相手に、拳を構える。
「うおおおおお!」
べちん!
「あれ……? 倒した」
格闘技未経験のへなちょこパンチ一発でも、スライムは吹っ飛んでいったのだ。
倒したスライムは、そのまま空中で黒い煙になって蒸発する。
「お? 弱い! 超弱いぞこいつら」
ドガッ! ドガッ!
俺は続いてスライム二体を拳二発で殴って倒した。
だが、次は三匹が同時に来た。だから俺は拳三発で倒した。
四匹、五匹、六匹と……。
スライム達が近づいてくる限り、なんとか撃退した。
毒手について、半ば作業のような戦闘しながら俺はひとつ気づいたことがある。
パンチをした瞬間、スライムが紫色に染まる。どうやら、殴ったターゲットを毒状態にしているみたいだ。
相手を毒状態にする拳。名前そのまんまだ。
毒手はけっこう強い。
うん、決して弱くはないんだけど。
--このスキル、めっちゃ地味だーーーー!
スライム一体一体に拳を打ち込まないとダメじゃん。
俺を目掛けて集まってくるやつらを倒しきるには、超時間がかかる。
範囲攻撃的なものも無さそう。
数の暴力にはかなわん。
わらわらと迫ってくるスライムの群れ。
かくなる上は最後の手段--!
--背中を向けて、全力ダッシュ。
こんな時こそいのちが大事、ヒャッハー!
俺は後先考えず、再び猛ダッシュで逃げた。
「--って、へえぇ!?」
一分後、目の前に広がっていた光景に、俺は驚く。
生い茂った樹木。
さっきの、街道の続く穏やかな草原はどこへ行ったと言わんばかりに鬱蒼《うっそう》としている。
俺はスライムから逃げている間、いつの間にか近くの森の中に入り込んでいたのだ。
「また逃げすぎたー!」
まぁ、そんなことはどうでも良い。
今はこのスライム軍団をなんとかしなければ……。
ちなみにスライム達はまだ追ってきていた。
草原から森にマップ切り替えしてまで追ってくるとか、ゲームなら苦情の嵐な気がする。
だが、この世界はゲームのようでゲームじゃない。
向こうが折れない限り、どこまでも追ってくる。
もしかしたら、この世界のスライムというのは、こうやって群れを作って狩りをする生物なのかもしれない。
狩られる側の俺は、どうやら逃げるだけじゃダメみたいだ。
さっきのカリン達がいる小屋のほうに逃げ戻って助けを求める、という方法もある。だが、俺はここにさっき来たばかりの人間。
どっちがか小屋だったかなんてまるで覚えてない。
周りに人の気配もないし、いよいよ俺ひとりでなんとかするしかないだろう。
ポヨンポヨンと背後から何重にも重なって聞こえてくるスライム達の足音。
迷いこんだ森の中、スライム軍団に追われ走りながら俺は考える。
くそぅ、何か方法はないのか、スライム達を一網打尽にする方法--。
その時、視界の横にキラリと反射するものが見えた。
「川? いや……沼か」
鼻孔をつく、ヌメヌメとした生臭い匂い。
いま視界を横切ったのは、濁った小さな沼みたいだ。
沼に至るまでの地形は、軽い坂になっている。
坂のてっぺんは高さ三メートルくらいで、その先は沼に向かってストンと落ちていた。
……これだ!
気がつくと、俺は沼に向かって落ちる坂をかけ上がっていた。
「こっちだ、ゼリーども!」
しつこく追いかけてくるスライム達のようすを振り返りながら、坂の途中であえて走る速度を落とした。
スライムを十分に引き付けるためだ。
俺はギリギリのところで立ち止まる。
真下を見下ろすと、沼は良い感じにドロドロに濁っていた。
水は緑色をしていて、魚とかは住んでそうにない。若干ヘドロの嫌な匂いもする。
おっし。
タイミングを見計らい、俺は坂から飛び降りた。
沼には落ちずに、地面から二メートルくらいに伸びていた、手近な植物のツタに両手で掴まった。
その瞬間--、
ドサドサドサ、と、空から餅でも降ってきたみたいに、スライム達が頭上を斜めに掠《かす》めていく。
案の定、その魔物は急に立ち止まることができなかったようだ。
スライム達は沼にダイブして落ち、すべて水の中に吸い込まれていった。だが、すぐに何匹かがうごめいて、プカプカと浮かび上がってくる。
--俺の考えが正しければ、これで一網打尽に……!
俺は群れの一匹が陸に上がる前に、右手で思い切り、水面をぶん殴った。
「食らえっ! 毒手っっっ!」
水を殴った瞬間、緑色に濁っていた沼が紫色に染まった。
スライム達の体もみるみる間に紫に染まり、動きが止まる。
そのままこのゼリー状の魔物は、黒い煙を吐き出して消滅した。
耳を澄ましても、もうポヨンポヨンという音は聞こえてこない。
「はぁ……助かった」
なんとか倒せたみたいだ。
「これが、毒手か……」
ひとりつぶやく。
今のスライム退治で、このチカラの特性が分かった気がする。
さっき、小屋の中であったこと。
俺は普通の水をかぶったはずなのに、腹痛--【状態異常: 毒】になった。
俺の手は、触れた液体に毒を加えられるらしい。
そして、試験管やガラスビン程度ならば毒は容器を貫通するらしい。
だから、スライム達を沼に落としたのち、俺は毒手を使った。
思った通り、小さな沼は毒で染まり、落ちたスライムを殲滅《せんめつ》できた。
別に水源なら濁った沼でなくても問題なかったんだが、もし住人がいて生活用水にしてるんだったら、なんかヤバそうだったし。あれくらい濁った沼なら、大丈夫だろう。
「お?」
【コーキ レベル13】
レベルが上がったおかげか、あるいは体が慣れてきたためか、俺はいつの間にか毒の使用の有無を自在にコントロールできるようになっていた。
近くにあった他の濁った沼で実験してみて分かった。
これで、飲み水を飲もうとして水源を死の沼に変える心配もなくなった。もちろん、握手した相手を腹痛にすることも……。
「……カリンのいる小屋、どこにあるんだろ」
困った。俺は完全に迷ってしまったみたいだ。
小屋はおろか、森から抜け出すことができない。
スライムをいくら倒したところで、腹が膨れるわけでもないし。
戦いに勝ったが、腹の虫には勝てん。
「きゅうぅぅ……あー……腹、減ったな……ガクッ」
俺はそのまま空腹で行き倒れたのだった。
それから何時間が経っただろう。
「じゃ!……ぬし……お主、大丈夫か!?」
――、ん、なんだか、聞き覚えのある声が聞こえるぞ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
13
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる