雛人形ビデオ

夏野りら

文字の大きさ
上 下
2 / 2

しおりを挟む
***

 うーん、……ここは?

 あれ、私、たしか、ビデオを見ていて?

 目覚めたのは自分の部屋みたいだけど、何かが変だった。

「キャハハハ!」

「!?」

 地響きのような音と共に、

 突然、大きな手が私の体を掴み、持ち上げた。

「新しい人形さん、踊って踊って!!」

 そして、私の目の前いっぱいに写ったのは、自分の妹の顔だった。

――ねえ、あなた、どうしてそんなに大きいの?

 何か喋ろうとするが、声が出ない。

 からだが、うごかない。

 そして、目の前の巨大な妹は、無邪気にニタリと笑った。


 ああ――、

 妹が大きいんじゃない。

 私が小さくなったんだ。



 そして、力の入らない体が激しく振り回される。

 上下左右に、私の頭が揺れた。

――や、め、て、よ

 いや、ああっ!

 顎が胸にぶつかり、後頭部が背中に付いた。

――ごぼっ、がはっ!

 不思議と痛みは無いが、視界がぐわんぐわんと揺れ続ける。

 そしてついに、何かが抜ける感覚。

――ぎいやああああああ!

 衝撃とともに目に飛び込んできたのは、首の無い人形の胴体だった。

――そうか、ビデオを見て、人形に……

 ようやく気がつくも、意識が一瞬にして遠退いていく。

 そして最後の瞬間、私は見た。
  
 自分とそっくりの女の子が部屋に入ってきて、妹に言ったのを。

 女の子は、私と瓜二つで、だけど、瞳だけは違う、青い、青い瞳をしていた。


――「ダメじゃない、人形は大切にしないと」



***

「…………」

 再び目を覚ますと、

 ビデオテープなんて箱の中には入って無くて、

 代わりに、顔が割れて首が取れた、青い瞳をした人形が入っていた。

「……ごめんなさい」

 私は彼女の首を元通りに直して、嗚咽しながら躰を抱きしめた。


 それから私は妹に、きつく叱った。

 お人形さんを粗末にしたら、人形と魂を入れ替えられるよ、と。


 私はその後すぐに、人形供養に行った。


 そしてお焚き上げのようすを見ながら、思った。

 あのビデオが、夢じゃなくて、本当にあったんだとしたら。

 ほんとうに、現実離れした考えなのだけど。

 壊れた青い瞳の人形の魂が、雛人形のビデオに乗り移って、私にあの映像を見せたのかもしれない。

 人形の魂は、ヒトガタのものに宿ると言う話を聞いたことがある。

 でも、人形やマネキンみたいなヒトのカタチ以外でも、比較的、親和性が高いもの――、例えば、人形を映したビデオやDVDの映像の中に、人形の魂が入り込むことだって……。

――なぁんて、さすがに、飛躍してるし、馬鹿馬鹿しいか。

 そんなビデオは、結局、見つからなかったのだし。

 あれはやっぱり、夢だったのかもしれない。


***

 
 そして、何年かが経った。

 あの体験以来、私は人形を克服した――、なんて、上手い話はなくて。

 たしかに、年を重ねるうちに、自然と、昔より恐怖心は薄れていったけど、

 たまに、街中で人形で遊んでいる子供なんかを見ると、未だに少しギョッとしてしまう。


――――。

「要らないもの、こんなにあったんだね」
 

 今日は、我が家のイレギュラーな大掃除の日。

 成長した妹の一人部屋を作るために、物置と化していた小部屋を整理することになって、私も駆り出されているのだった。


 片付けの途中、妹が段ボールの山の間から話しかけてきた。

「ねぇ、お姉ちゃん――、」

「なぁに?」

「お姉ちゃんさ、昔、わたしに、人形を乱暴に扱うなって、教えてくれたよね」

 妹は懐かしむように続ける。

「なんか、お姉ちゃんって、昔は人形が嫌いだったじゃん。

 けど、なんでかな、急にわたしに、人形を大切にしないと、魂を乗っ取られるぞ、って、凄い剣幕で怒ってきたことがあったよね」

「……ああ、あの時のことね」

 私は、数年前に物置から人形を取り出した時のことを話そうとする。

「……幼稚園の時に壊した人形を処分しようと思って、物置を探したらね、人形があったはずの場所に、代わりにへんてこなビデオが入ってたの」

 信じて貰えないかもしれない。
 私は少し躊躇して、回りくどく言いかける。

「私、前にもこの話したこと、あったっけ――? 初めて、よね――?」

 言ったら笑われそうで、話したことなんて、一度も、無いのだけどね。

 そう言って黙り込んだ私に、妹は否定も肯定もしない。

 彼女は、代わりにこう呟いた。

「ちなみに、そのビデオに映ってたのって、立派な雛壇だったよね?」

「…………え?」

 心臓が、冷たいものが当たったように縮む。

 嫌な汗が、ばぁっと吹き出した。

 違う。私はまだ、一言も、一度たりとも、ビデオの中身のことを、妹に話してない。

 だけど、今、彼女が言ったのは――。


――違う、違う、チガう、違ウ、チガウ、チガウ――!

――こいつは、違う――!


「――あ、あ、あんた、カラコンなんて、いっ、いつの間に……」

 現実離れした考えを否定したい私と、辻褄を合わせたい私とが、ぐちゃぐちゃに混ざり合い、そんな言葉を漏らすので、精一杯だった。


 妹の体を借りたそれは、ぎこちなく立ち上がると、真っ赤な歯ぐきを見せて、狂ったように笑い出した。



――「ダメじゃない、人形は大切にしないと」
















(終)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

処理中です...