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二人の出会い 前編
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人が死ぬシーンがあり、非常に重い内容となっています。
苦手な方はご注意ください。
*******
犬養翔馬、本名を翔馬・ミカエル・犬養・ラファティという。犬養は母親の性なので、両方を入れるとなるとどうしても長くなってしまうが、翔馬自身がアメリカにいるとき、翔馬・ミカエル・ラファティと名乗っていた。
その洗礼名から、友人たちからは翔馬よりもミカエルと呼ばれることが多かったが。
そも、二人が出会ったのは、フランスのリヨンにある国際警察機構本部でのことだった。翔馬が先に来ており、龍太郎が五ヶ月ほど遅れて本部に来たことから始まる。
龍太郎が来たとき、翔馬にはすでに相棒がいたが、すでに四人目だった。たったの五ヶ月で、三人も相棒が変わったのである。それは翔馬の上司となった者から見ても異例であり、異常だった。
そこに人手不足との理由で日本支部から派遣されてきたのが龍太郎だ。
龍太郎自身は国際警察官になりたいからと、英語だけではなくフランス語も習得してこっちに来たが、翔馬は生活していた国と住んでいた場所の影響かスペイン語の他に、日常会話であれば中国語とドイツ語、タガログ語が話せる。中国語は近くにチャイナタウンがあったことと、他の言語は父親の職業柄もあってか、周囲はそれらの言葉が飛び交っていた。
子どもは覚えるのが早いこともあり、日常会話ならあっという間に覚えたのだ。
そんな翔馬の生国は日本だが、父親の職業が特殊だった。父はアメリカ空軍に所属する軍人だったのだ。
母親はとある米軍基地に働きに来ていた日本人で、その基地で知り合い結婚。数年で移動する父親についていくこととなり、今に至る。その途中で翔馬と弟妹が生まれた。
しばらく日本を点々としたあとフィリピンへと渡り、そこから別の国へと移動したあと、一家揃ってアメリカに帰国。アメリカで成人を迎える直前に翔馬も軍人として入隊。
過酷な訓練をものにし、銃の扱いも覚えたが、父親譲りなのか銃の扱いがとても上手く、狙撃手としてその能力を見込まれ伸ばしていった。
そんな翔馬は狙撃手としての腕を買われ、とある紛争地帯に派遣される。そこでの任務は仲間を護るために狙撃と、人を殺すための狙撃の両方を担った。
その紛争地帯では命がとても軽く扱われ、日本にいたときに読んだファンタジー世界のような命の軽さだった。それがとても嫌だったが任務である以上、どうしようもない。
どうしようもないと諦め、カウンセリングを受けてなんとか心の平穏を保ちつつ数年が経ち、任務期間を終えてアメリカに帰国した翔馬は、軍を辞めてしばらく静養を選択する。自宅近くに越して来た、快活な女性と知り合ったのはそんなときだった。
近所付き合いから友人となったころ、翔馬は彼女に心の内をこぼした。元軍人で、人を殺したこともあると言っても動じることなく、<貴方は任務をこなしただけよ>と軽く話す女性に、翔馬は外聞もなく泣いた。それはもう、その女性がドン引きするほどに。
人によって、その軽さは不快な言葉に聞こえるかもしれないが、そのときの翔馬にとって、それは救いの言葉だった。
それからすぐ二人は友人から恋人となり、結婚の約束をして婚約者となったのは必然だったのかもしれない。
翔馬の心も癒え、パソコンを使った仕事はしていたものの、結婚をするのであれば日雇いのような仕事ではダメだと思い始める翔馬。できれば軍人以外で仕事がないか探し、彼女や両親にどんな仕事が向いているのかと相談していたある日、彼女とデートの約束をして待ち合わせのレストランに向かった。
だが、そこに到着する直前、銃の音が翔馬の耳を掠める。
――とても嫌な予感がした。
すぐにそのレストランに向かったが、そこは悲鳴と怒号が飛び交い、救急車と警察車両、警察官などがいて人がごったがえしていた。その様子に戸惑い、だが嫌な予感で心臓が忙しなく鳴る音が耳に響く中……翔馬は彼女を見つけた。
正確には、緊急搬送用の担架に載せられ、運ばれていく彼女を。
彼女は血まみれだった。
すぐに駆け寄ってどこの病院に運ばれるのか確認したあと、救急車のあとを追うように翔馬も病院に到着。そこでも人々がごったがえしていて婚約者を探すのに一苦労した。
それでもなんとか見つけだし、婚約者の無事を祈るが。
<ミカエル……、あたしのarchangel。あたしがいなくても、幸せに>
<そんなこと言わないで! お願いだ!>
<大丈夫よ。きっと、あなたにはその名の通り、ミカエルの加護があるもの>
<僕にあっても意味がないじゃないか! 僕は、君がいなければ……っ>
<大丈夫……大丈夫よ。愛しているわ>
―― ピーーーッ
<……っ!>
翔馬に愛していると伝えたあと、彼女は息を引き取る。怪我の状態から一日もたないだろうと言われていたのだが、彼女は数日生き延びて家族や翔馬と話したあと、眠るように息を引き取った。
彼女の家族も、もちろん翔馬も泣いたし、葬儀にも参加した。翔馬にとって、彼女は唯一無二の女性だったのだから。
しばらく腑抜けていた翔馬だが、新聞で犯人が複数いたこと、そのうちの一人は射殺されているが残りは逃げていること。その逃げている人物の背後には犯罪組織が関わっているのではないかとの憶測が書かれているのを読んで、翔馬は決意する。
憶測でも構わない。警察官となり、婚約者を殺した犯人と背後にいるであろう組織を潰すことを。
努力を重ねてすぐに警察官となった翔馬は、先輩たちや上司の力を借りて逃げていた残りの犯人を突き止め、逮捕に至る。だが、噂されている犯罪組織が見えてこない。
単なる憶測と噂なのかと諦めかけたころ、上司からフランスに行かないかと打診された。
<フランス、ですか?>
<ああ。フランスにはICPOの本部があるだろう? もしかした、そっちのほうが情報を得られるかもしれん>
<ICPO……>
通称、ICPO。正式名称は国際刑事警察機構。
世界中の犯罪や行方不明者などの情報が集まり、拡散される場所だ。
本来であれば、某アニメで〝とっつぁん〟と呼ばれる人物のような活動はしない。だが、常に情報が集まり、纏めたあとで各国に拡散することができる組織だ。もしかしたら、そこなら情報があるかもしれないと上司は言う。
<あるかもしれないし、ないかもしれない。組織自体がない可能性もある。それでも行ってみないか?>
<……行きます>
そうして翔馬は国際警察官となることを決意し、そうなった。空き人員があったことから彼はすぐにフランスへと渡り、通常業務をこなしつつ時間を作っては幻のような組織を探していた。
五ヶ月経ってもわからず、もしかしたら本当にない組織なのかもしれないと考え諦め始めたころ、龍太郎がフランスへとやってきた。
龍太郎との出会いが、幻ではないと決定づける情報を齎すこととなる。
*******
タガログ語:主にフィリピンで使われている言語
苦手な方はご注意ください。
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犬養翔馬、本名を翔馬・ミカエル・犬養・ラファティという。犬養は母親の性なので、両方を入れるとなるとどうしても長くなってしまうが、翔馬自身がアメリカにいるとき、翔馬・ミカエル・ラファティと名乗っていた。
その洗礼名から、友人たちからは翔馬よりもミカエルと呼ばれることが多かったが。
そも、二人が出会ったのは、フランスのリヨンにある国際警察機構本部でのことだった。翔馬が先に来ており、龍太郎が五ヶ月ほど遅れて本部に来たことから始まる。
龍太郎が来たとき、翔馬にはすでに相棒がいたが、すでに四人目だった。たったの五ヶ月で、三人も相棒が変わったのである。それは翔馬の上司となった者から見ても異例であり、異常だった。
そこに人手不足との理由で日本支部から派遣されてきたのが龍太郎だ。
龍太郎自身は国際警察官になりたいからと、英語だけではなくフランス語も習得してこっちに来たが、翔馬は生活していた国と住んでいた場所の影響かスペイン語の他に、日常会話であれば中国語とドイツ語、タガログ語が話せる。中国語は近くにチャイナタウンがあったことと、他の言語は父親の職業柄もあってか、周囲はそれらの言葉が飛び交っていた。
子どもは覚えるのが早いこともあり、日常会話ならあっという間に覚えたのだ。
そんな翔馬の生国は日本だが、父親の職業が特殊だった。父はアメリカ空軍に所属する軍人だったのだ。
母親はとある米軍基地に働きに来ていた日本人で、その基地で知り合い結婚。数年で移動する父親についていくこととなり、今に至る。その途中で翔馬と弟妹が生まれた。
しばらく日本を点々としたあとフィリピンへと渡り、そこから別の国へと移動したあと、一家揃ってアメリカに帰国。アメリカで成人を迎える直前に翔馬も軍人として入隊。
過酷な訓練をものにし、銃の扱いも覚えたが、父親譲りなのか銃の扱いがとても上手く、狙撃手としてその能力を見込まれ伸ばしていった。
そんな翔馬は狙撃手としての腕を買われ、とある紛争地帯に派遣される。そこでの任務は仲間を護るために狙撃と、人を殺すための狙撃の両方を担った。
その紛争地帯では命がとても軽く扱われ、日本にいたときに読んだファンタジー世界のような命の軽さだった。それがとても嫌だったが任務である以上、どうしようもない。
どうしようもないと諦め、カウンセリングを受けてなんとか心の平穏を保ちつつ数年が経ち、任務期間を終えてアメリカに帰国した翔馬は、軍を辞めてしばらく静養を選択する。自宅近くに越して来た、快活な女性と知り合ったのはそんなときだった。
近所付き合いから友人となったころ、翔馬は彼女に心の内をこぼした。元軍人で、人を殺したこともあると言っても動じることなく、<貴方は任務をこなしただけよ>と軽く話す女性に、翔馬は外聞もなく泣いた。それはもう、その女性がドン引きするほどに。
人によって、その軽さは不快な言葉に聞こえるかもしれないが、そのときの翔馬にとって、それは救いの言葉だった。
それからすぐ二人は友人から恋人となり、結婚の約束をして婚約者となったのは必然だったのかもしれない。
翔馬の心も癒え、パソコンを使った仕事はしていたものの、結婚をするのであれば日雇いのような仕事ではダメだと思い始める翔馬。できれば軍人以外で仕事がないか探し、彼女や両親にどんな仕事が向いているのかと相談していたある日、彼女とデートの約束をして待ち合わせのレストランに向かった。
だが、そこに到着する直前、銃の音が翔馬の耳を掠める。
――とても嫌な予感がした。
すぐにそのレストランに向かったが、そこは悲鳴と怒号が飛び交い、救急車と警察車両、警察官などがいて人がごったがえしていた。その様子に戸惑い、だが嫌な予感で心臓が忙しなく鳴る音が耳に響く中……翔馬は彼女を見つけた。
正確には、緊急搬送用の担架に載せられ、運ばれていく彼女を。
彼女は血まみれだった。
すぐに駆け寄ってどこの病院に運ばれるのか確認したあと、救急車のあとを追うように翔馬も病院に到着。そこでも人々がごったがえしていて婚約者を探すのに一苦労した。
それでもなんとか見つけだし、婚約者の無事を祈るが。
<ミカエル……、あたしのarchangel。あたしがいなくても、幸せに>
<そんなこと言わないで! お願いだ!>
<大丈夫よ。きっと、あなたにはその名の通り、ミカエルの加護があるもの>
<僕にあっても意味がないじゃないか! 僕は、君がいなければ……っ>
<大丈夫……大丈夫よ。愛しているわ>
―― ピーーーッ
<……っ!>
翔馬に愛していると伝えたあと、彼女は息を引き取る。怪我の状態から一日もたないだろうと言われていたのだが、彼女は数日生き延びて家族や翔馬と話したあと、眠るように息を引き取った。
彼女の家族も、もちろん翔馬も泣いたし、葬儀にも参加した。翔馬にとって、彼女は唯一無二の女性だったのだから。
しばらく腑抜けていた翔馬だが、新聞で犯人が複数いたこと、そのうちの一人は射殺されているが残りは逃げていること。その逃げている人物の背後には犯罪組織が関わっているのではないかとの憶測が書かれているのを読んで、翔馬は決意する。
憶測でも構わない。警察官となり、婚約者を殺した犯人と背後にいるであろう組織を潰すことを。
努力を重ねてすぐに警察官となった翔馬は、先輩たちや上司の力を借りて逃げていた残りの犯人を突き止め、逮捕に至る。だが、噂されている犯罪組織が見えてこない。
単なる憶測と噂なのかと諦めかけたころ、上司からフランスに行かないかと打診された。
<フランス、ですか?>
<ああ。フランスにはICPOの本部があるだろう? もしかした、そっちのほうが情報を得られるかもしれん>
<ICPO……>
通称、ICPO。正式名称は国際刑事警察機構。
世界中の犯罪や行方不明者などの情報が集まり、拡散される場所だ。
本来であれば、某アニメで〝とっつぁん〟と呼ばれる人物のような活動はしない。だが、常に情報が集まり、纏めたあとで各国に拡散することができる組織だ。もしかしたら、そこなら情報があるかもしれないと上司は言う。
<あるかもしれないし、ないかもしれない。組織自体がない可能性もある。それでも行ってみないか?>
<……行きます>
そうして翔馬は国際警察官となることを決意し、そうなった。空き人員があったことから彼はすぐにフランスへと渡り、通常業務をこなしつつ時間を作っては幻のような組織を探していた。
五ヶ月経ってもわからず、もしかしたら本当にない組織なのかもしれないと考え諦め始めたころ、龍太郎がフランスへとやってきた。
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タガログ語:主にフィリピンで使われている言語
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