それは俺たちの仕事じゃない! ―国際警察官は今日も大変―

饕餮

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公園にて

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 イタリアンレストランの件から数日。龍太郎りょうたろうは公休なことと約束をしていたこともあり、家族と一緒に公園にきていた。
 妻の由恵ゆえ、長男のあきら、長女の沙希さき、次男の克幸かつゆきの一家五人で公園に来ている。由恵は龍太郎と同い年、晧を筆頭に子どもたちは四歳、二歳の双子となっていて、三人ともフランスに来てからできた子だった。
 結婚直後にフランスに来たのだから、仕方がないのかもしれないが。
 ただし、いずれ日本に戻るだろうし日本国籍がほしいこともあり、どうしても日本で産みたいからと龍太郎だけをフランスに残したまま帰国。双子のときに至っては、晧を連れて帰国し産んだという、ある意味強者な女性である。
 そんな女性と知り合ったきっかけは、龍太郎がまだ制服組という、いわゆる交番にいるお巡りさんをしているときだった。それから三年交際し結婚、一度は国際警察官として働いてみたいと龍太郎の懇願により、由恵の許可を得て国際警察官になった。
 なんだかんだとフランスに来てそろそろ五年近くになるわけだが、そろそろ日本に帰りたいと龍太郎も由恵も考えていて、そのことを上司に相談及びお願いしているにも関わらず、一向にその許可が下りないのが現状だった。

 そんな彼らの事情はともかく、今は家族団欒かぞくだんらんが優先だ。

 レジャーシートと、家族みんなでなにかしらの手伝いをしてお昼用にお弁当を作ったのだが、それを持ってピクニックをしにきた若槻わかつき一家。お昼まではみんな一緒に遊び回り、木陰にレジャーシートを敷いていざご飯。

「手洗いうがいをしたあと、手を拭いたかー?」
「「「「はーい」」」」
「よし。では、いただきます」
「「「「「いただきます!」」」」

 由恵と二人でシートの真ん中にお弁当を広げると、おにぎりやサンドイッチとおかず、飲み物も一緒に並べられる。あれとって、それが食べたいと、子どもたちがはしゃぐ。それを受けて龍太郎と由恵は子どもたちの世話をしつつ、自分も食べたいものを取り分け、食べ始める。
 そこでふと、由恵が翔馬しょうまのことを思い出した。

「そういえば、犬養いぬかいさんを呼、……」
「……」

 呼ばなくていいのかといいかけ、途中で黙る。なにか、途轍もなく嫌な予感が過ったのだ。それは龍太郎も同じで、由恵と顔を見合わせたあと。

「「嫌な予感がするから、呼ぶのはやめよう」」

 そう結論づけた。
 つまり、トラブルメーカーは翔馬であり、なにかしらのトラブルを引き寄せるのも翔馬なのである。……困ったことに、本人は無自覚だが。
 それは龍太郎だけではなく、他にバディとして組んだ人間の誰しもが経験することだ。その中でもバディとして一番長続きしているのが、龍太郎だった。
 龍太郎としてはそろそろ翔馬から離れたいところなのだが、国際警察官でいる限り、ずっと翔馬と組まされそうな予感がひしひしとしている。

 そんな翔馬の裏事情はともかく、今は公園でのピクニックだ。

 ご飯を食べ、日本から取り寄せた緑茶を飲んでまったりしていると、鳩が寄って来る。サンドイッチから出たパンくずを撒く子どもたちを見てほっこりする龍太郎と由恵であるが、突然。そう、突然嫌な予感に襲われる。
 すると、そこにひょっこりと翔馬が顔を出した。

「あ、いた! こんにちは!」
「「……」」
「え、だんまり?」
「「こんにちは」」
「なんでそんな嫌そうな顔で挨拶?」

 不思議そうな顔をした翔馬だが、龍太郎と由恵にしてみれば、迷惑極まりない。大人たちだけならばまだいいが、今日は幼い子どもが三人もいるのだ。
 もしなにかあった場合、巻き込まれて怪我でもしたら大変なのだから、二人にしてみればは微妙な、そして諦めたような複雑な顔になるのも仕方がない。
 なので、そろそろ本人に自覚してもらおうと由恵が口火を切る。

「犬養さんが来ると、いつもトラブルに見舞われるからでしょう?」
「え? そうだっけ?」
「そうよ。よーく考えてみて? 私たちだけじゃなく、ご自分だけのときはどうなのかを」
「……? あ~、そういえば、僕だけのときでもトラブルに遭うね……」
「でしょう?」

 由恵に指摘されてよーーく思い出した翔馬は、トラブルに遭うときはいつも自分だなと思う。そして誰かがいるときは、いつも相手が迷惑を被っていることも。
 それが原因でバディを解消されたことは何度もあったことさえも思い出してしまい、「僕が原因だったのか……」と、ようやく自分がトラブルメーカーであることを自覚した。

「この体質って、お祓いでなんとかなったりする?」
「さあ? ただ、縁切りの神様を祀っているところなら、なんとかなるかも」
「縁切り! たとえば?」
「そうねぇ……三狐稲荷神社さんこいなりじんじゃや、豊川稲荷とよかわいなりかしら」
「お稲荷さん」
「そう」

 どこの地域に祀られているのか翔馬に教える由恵に、彼は「なるほど」と頷く。
 ただし、豊川稲荷は稲荷と名がついてはいるが、お祀りしている神様は豊川ダ枳尼眞天とよかわだきにしんてんというのだと由真は言う。なにが違うのかさっぱりわからない翔馬は、神社の名前だけ覚えておき、日本に帰ったらお祓いしてもうらおうと考え、スマホにメモを残す。
 その後、子どもたちに遊ぼうとせがまれた翔馬は、「はいはい」と返事をしつつも子どもたちと遊び、疲れた三人が眠気を訴えたことでお開きとなった。

「は~、子どもの体力ってどうなってんの」
「すごいわよね」
「無尽蔵だよね~」

 由恵に手渡された緑茶を一口啜り、懐かしいと言って目を細めた翔馬。飲み切ると立ち上がる。

「お茶、ありがとう。子どもたちがいるし、僕は帰るよ」
「なにか話があったんじゃないのか?」
「いや? 散歩に出たら偶然りょーちゃんたちを発見したから、寄っただけ」
「そうか」

 じゃあね、と手を挙げて去っていく翔馬を見送る、龍太郎と由恵。
 嫌な予感を覚えたものの、珍しくトラブルに巻き込まれることなく穏やかに過ごし、子どもたちが起きたので自宅へと帰宅した。

 その様子を見守っていた翔馬はといえば。

「自覚はしてるんだけど、こればっかりはしょうがないようねぇ……」

 自宅方向へと歩き始めるものの、途中で誰もいないヤブの前にしゃがみ込み、童顔とは思えないほど表情が抜け落ちた冷たい顔と目をヤブの中へと向ける。そこには縄でぐるぐる巻きにされ猿轡さるぐつわを嵌められた男が二人、横たわっている。
 どちらも手錠をかけられたうえで転がされているのだから、見た人は驚くだろう。まあ、ここには誰もいないが。
 こいつらをどうしようかと思案していると、すぐに勤務中の上司と同僚が二人、翔馬近づいてくることに気づいた翔馬は、うしろを見ずに片手を挙げる。

『お疲れさん。ドラゴンを狙っていたって?』
『正確には、りょーちゃんの子どもだね』
『……下種が!』

 全員が怒りを表し、同僚が手荒く二人の男を立たせる。

『あ、ボスー、こいつら殴っていい?』
『……俺はなにも見てない』
『俺も知らないなあ』
『僕もー』
『ありがとー♪』

 襲撃犯が逃げないようにしつつもそっぽを向く三人に、翔馬は童顔を表に出してにっこりと笑う。
 次の瞬間その表情が抜け落ち、男たちの鳩尾を殴る翔馬。その衝撃と痛みに、男たちは意識を刈り取られた。

「長期間の相棒は、りょーちゃんが初めてなんだ」

 彼を怒らせるようなことはしたくないんだよね、と呟いた翔馬は、三人にお礼を言ったあと、皆が知っている翔馬に戻るのだった。


 その後、襲撃犯は翔馬と龍太郎が初めてバディとして組んだときに関わった残党だとわかり、翔馬も、事情を聞いた龍太郎も、激怒することになる。



*****


豊川ダ枳尼眞天は仏法守護の善神。 豊川ダ枳尼眞天が稲穂を荷い、白い狐に跨っておられることからいつしか「豐川稲荷」が通称として広まり、現在に至っているそうです。
つまり、豊川稲荷はお寺さんです。

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