それは俺たちの仕事じゃない! ―国際警察官は今日も大変―

饕餮

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イタリアンレストラン 前編

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 件のイタリアンレストランに行くのに徒歩では時間がかなりかかるため、車で移動をする龍太郎りょうたろう翔馬しょうま。運転は翔馬がしている。
 何度も行っている店なのですぐに店の近くに着き、駐車場に車を停めて店まで歩く。が、店に近づくにつれ、嫌な予感が膨れ上がる龍太郎に、それを察しているらしい翔馬は「大丈夫だから」と声をかけ、龍太郎を安心させる。

「ほら」
「あ……なるほど」

 翔馬が指差した先には、制服を着た警察官。上司から連絡を受け、待機しているようだ。
 彼らも龍太郎と翔馬の存在に気づいたのだろう。真面目な顔をしながらも、しっかりとサムズアップしている。つまり、「任せておけ」、だ。

「これなら安心できるでしょ?」
「ああ……、まあ。だが、まだ嫌な予感が消えない」
「あ~、まあ、しょうがないよ。彼らのためにも、さっさとご飯を食べてしまおうよ」
「そうだな」

 ふぅ……と深呼吸をして気分を落ち着かせる龍太郎。とはいえ、そこまでの緊張はない。〝嫌な予感〟という自分の能力が、百%の確立で当たるのが嫌なのだ。
 それでもこの第六感ともいえる勘の良さで難局や死を免れたことは数知れず、時には美術品強盗や爆弾テロを未然に防いだこともある。その実績がある故に、相棒バディの翔馬も二人の上司も、龍太郎の〝嫌な予感〟をバカにすることはない。
 そもそもの話、もともと龍太郎は今の状態のような強い〝嫌な予感〟というものを感じなかった。感じるようになったのは、妻となった女性と出会ってからだ。
 彼女を大切に思うあまり能力が上がったのか、あるいは彼女が彼の能力を引き上げたのかはわからないが、彼女と出会ってから開花したのは間違いない事実。そしてそれがあったからこそ、龍太郎は死線を潜り抜けたという自覚もあるため、嫌な予感を無碍にしたりしないのだ。

 話が逸れたが、つまりそれだけ龍太郎の〝嫌な予感〟というのは当たるのである。
 そこに上司なり翔馬なりが手配や根回しをするうちに、予感が消えるというか軽くなることもあるため、翔馬や上司、龍太郎の能力を知っている人には感じたものを伝えるようにしている。
 そんな背景があっての龍太郎と翔馬であるが、警察官を見ても一気に軽くなった、ということもなく。どうしてだろうと龍太郎が周囲を見回すと、少しくたびれたように歩く、どちらかといえば体格のいい部類に入る男が目に入る。
 仕事で疲れているのか、あるいはなにかあるのか。そのやや体格のいい男は背中を丸め、まるでなにかから逃げているように周囲を見回したあと、二人が食事をする予定の店に入っていった。

「「あ~……」」

 それを見た龍太郎と翔馬は顔を見合わせる。

「……原因、あいつじゃない?」
「……そうかもしれない。奴を見たら嫌な予感が膨れ上がった」
「あちゃー」

 確定かー……とぼやく翔馬に、龍太郎も項垂れる。
 今回はどんな厄介事に巻き込まれるんだろうと思うも、件の人物の身形みなりを考えるに大怪我を負うような感じも気配はない。負ったとしても、せいぜいかすり傷程度だろうと二人は判断した。
 なにせ、衣服がくたびれているというか裾が汚れているし、どこか緊張をしているように見えたのだ。今まで培ってきた経験を踏まえてそれらを鑑みるに、悪くて麻薬取引の現場、よくて無銭飲食だろうと予想する。
 今、この時代に無銭飲食が成立するかといえば大半は否、といえる。だが、事情があってホームレスになったりすると、ゴミをあさることもあれば盗みをすることもあるし、その延長線で無銭飲食をしようと考える者もいる。
 なので、一概に否とはいえないのだ。なんとも世知辛い。
 とはいえ、それは犯罪だ。わざと犯罪を犯して刑務所に入ろうとする輩もいるくらいだし……と、そこまでの考えに及んだ二人は、同時に盛大な溜息をついた。

「……ボケっとしてても始まらない。行こうか、りょーちゃん」
「ああ」

 なんとなく足取りも重く、だが警察官二人に合図を忘れない。頷いたのを確認すると、レストランのドアを開けた。素早く店内を見れば、先ほどの人物はこちらに顔を向けるようドアにほど近い場所に座っており、目は忙しなく動いている。
 それを確認すると同時に『いらっしゃいませ!』と声をかけられる。

『あ、ショーちゃんとリョーちゃんじゃない。久しぶりね』
『久しぶり』
『空いてる席にどうぞー』
『ありがとう』

 女性店員に久しぶりと声を掛けられ、翔馬が答える。空いている席と言われ、件の人物がいる隣のテーブルが空いていたので、そこに座る。ランチの時間なのでディナーよりも種類は少ないがそこそこあるし、サイドメニューやドリンクも充実している。
 とはいえ、ここは相変わらず人手不足で料理提供が遅く、観光客なのか怒って店を出る人もいる。そこは慣れが必要だが、一部の料理は美味しいので、それを頼めばいいだけだ。
 口コミの評価は……両極端なので、評価しづらいことも事実。とりあえず今日はお腹が満たされればいいので、メニューの中から選ぶことにする。

『この中なら、今日はミートソースかなあ』
『じゃあ、俺もそうする。……食べられるかわからんが』
『あ~……』

 龍太郎の言葉に、隣の男を見る翔馬。隣もミートソースを頼んだらしく、ちょうど運ばれてくるのが見えた。ちょうどいいからとミートソースをふたつ注文する。
 ウェイトレスを見送りながら、隣の男を見やる。

 いつ行動を起こすのかわからないし、彼ではないかもしれない。なにがあってもいいようさり気なく周囲を見回し、警戒を強めた。

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