異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮

文字の大きさ
上 下
18 / 62
異世界転移編

初めて王城に行くらしい

しおりを挟む
 翌日、アレイさんとシェーデルさんの寸法を測り、アレイさんにどのようなな服が着たいか聞いたついでに、兄と父の採寸もする。そしてこの世界の騎士が着ても大丈夫な布地や糸などがほしいと言えば、父が懇意にしている商会(この世界ではデパート的な場所を商会というそうだ)に連れて行ってくれた。そこで必要な布や糸などを購入した。
 そしてまずはシェーデルさんにあげる騎士服を作ろうと型紙を起こして裁断し、手で縫っていく。ミシンを使いたかったのだけれど、布地に合う色のミシン糸がなかったので断念したのだ。購入した糸をミシン用の糸巻きに巻いてもよかったのだけれど、肝心の芯になるものがなかったので、今度兄に【無限増殖】で増やしてもうらうつもりだ。
 ちなみに、騎士服やアレイさんの服のデザインは、コスプレイヤーをしていた友人に押しつ……いえ、いただいた本を参考にしてほしいからと二人に見せたところ、これがいいと指差していた。どちらも「これ縫って!」と言った友人のために作ったことのあるデザインだったので、簡単に型紙に起こすことができたのはよかった。

 作法や常識、ダンスや魔法などの練習をしつつ、時間のある時に二人の服を縫っていた。手縫いだから結構時間がかかったけれど、【裁縫師】の職業補正なのか手縫いにしては早く、そして綺麗に縫うことができたのには驚いた。さすがにミシンほどの速さはなかったけれど、そのおかげで王城に行く日までには二人分の服が出来上がった。アレイさん用の服は糸があったので、ミシンで縫ったから早く出来上がったのも助かった。
 それに、考えていたこと――【白魔法】の【シールド】と【マジック・シールド】をかけたあと、兄から【状態維持】の魔法を教わっていたのでそれを出来上がった二人の服にかけたのだ。もちろん、失敗する可能性も考えて巾着を作り、それを実験と練習代わりにかけて成功したので、服にもかけたというわけだ。

 そんなことをしながら過ごしていた十日後。
 常識も魔法も作法も大丈夫だと、バルドさん、アイニさん、父と兄が太鼓判を押してくれたので、王城に行くことになった。そこで父と兄がどんな仕事をしているのか、私の手伝いは何をするのかを説明してもらうことになった。
 二人が私の手作りのお弁当が食べたいというので、護衛二人の分も含めた数人分で尚且つ多めのサンドイッチとおかずを用意した。シェーデルさんとアレイさんはヒト型になっているから、いつも以上に食べそうだったのもある。
 王城に着いて父と兄のあとをついて行く。ちらちらとこちらを窺ってくるメイド服の人や執事服の人、殿下のお付きの人と同じデザインの騎士服を着た人たちの視線や、あちらこちらから聞こえるひそひそ話が正直鬱陶しい。

「実花、ここだよ」

 しかめっ面で溜息をついたところで、父に苦笑されながら案内されたのは、一階にある日当たりのいい部屋だった。そしてその室内の惨状を見て、自分の仕事がなんなのか、何となくわかったような気がする。

「お父様、お兄様……。この惨状は一体なんでしょうか? 足の踏み場もないようですけれど」

 そう問い質すと二人は不自然に視線を逸らし、アレイさんとシェーデルさんは唖然としながら室内を見回していた。確かに室内は歩く場所もあるし、テーブルやソファーもある。けれど、綺麗になっているのはそれらの部分や執務机と思われるところの一部分だけで、他は全くといっていいほど汚いし、山積みの書類の山が幾つもあったのだ。

「「……」」
「はあ……。私の仕事ですが、まずはここの書類整理でよろしいですか?」
「……ああ」
「……お願い」
「畏まりました」

 わざとらしく溜息をついて書類整理をしていく。そして集中して片付けをしていたら、外から鐘の音色が三回聞こえて来た。その音に顔を上げると、父や兄も顔を上げていた。

「ああ……もうそんな時間か。実花、今、鐘が三回鳴っただろう?」
「はい」
「あれはお昼の合図なんだ。次に鐘が三回鳴るまでお昼休憩になる」
「だいたい二時間くらいだよ」

 父と兄の説明に、もうそんな時間なのかと驚く。そして休憩が二時間もあることも。

「でしたら、テーブルを拭いて、そこに料理を並べますね。お湯はこの部屋にありますか?」
「沸かさないといけないけど、あるよ。今から僕が沸かすから、実花は茶器の用意をしてくれる?」
「はい」

 父がテーブルを拭いてくれるというのでお願いし、兄がお湯を沸かしている間に茶器と料理の用意をする。次からは私が一人で使えるようにと兄に使い方も教わった。
 テーブルを拭き終わったあとでランチョンマットを敷き、サンドイッチやおかずが入っている籠やフォークを全員の前に置く。おかわり用は皆が取りやすいよう、二ヶ所に置いた。

「実花、お湯が沸いたよ」
「ありがとうございます、お兄様」

 熱いからというのでポットにお湯を入れてもらう。アイスにしようと思ったのだけれど、まだ安定して氷を出すことができないのでそのままだ。
 紅茶も配り終え、さあ食べようかというタイミングでノックの音がした。父が返事をして相手が返し、父が頷いたので私が扉を開ければ、そこには殿下がいた。今日は騎士服ではなくアスコットタイの貴族服で、腰に剣を着けていた。髪は結ばれていない。

「失礼する。アイゼン、午後はアルを……、……ミカ嬢、か?」
「はい。こんにちは、グラナート殿下。ご無沙汰しております」
「……ああ、久しぶりだな」

 半分近く片付いている室内と私のドレス姿、ヒト型になっている二人の姿を見て、目を丸くしていた。習った通りにスカートをつまみ、軽く膝を曲げてお辞儀をすると、殿下は感心したような顔をして頷いていた。謁見の間ではカーテシーが基本だけれど、普段はこの作法でいいそうだ。

「父か兄にご用でしたら中へどうぞ。お昼がまだでご予定がないのでしたら、ご一緒にいかがですか? 構いませんよね、お父様」
「……いいのか?」
「ええ。殿下、こちらにどうぞ」

 ちらちらとテーブルの上を見ていた殿下に昼食を勧めると、目を細めて頷く。相変わらず不機嫌そうな顔をしているけれど、先日とは違ってそこまで機嫌が悪いわけではないようだ。
 私のぶんを殿下に渡して全員に先に食べるように言い、私はお皿を持って来てそこに食べられる分だけサンドイッチやおかずを乗せる。
 サンドイッチの中身はハムとチーズ、卵、ツナマヨ、照り焼きチキン。おかずはポテトサラダ、ソーセージ、唐揚げ、エビのフリッター、ミニトマトとブロッコリー。
 便宜上そう言っているけれど、ツナと照り焼きのたれ以外はどれもこの世界にある食材で作ったもので、味や見た目が近いからそう言っているだけだ。マヨネーズも兄が広めたようでモーントシュタイン家だけではなく、王城や貴族、果ては庶民にまで広がっているというのだから驚いた。
 そして紅茶を淹れなおし、食事をしながら全員の紅茶やおかわりを聞いて、籠やお皿に入れていった。私がそんなことをしている間、殿下と兄と父は午後の仕事の話をしていた。どうやら一人、具合が悪くなって帰宅してしまったためか執務が滞りはじめたらしく、兄の手が必要だからとそのお願いに来たらしかった。

「ごめん、実花、僕は午後から殿下のところで仕事をすることになった。片付けは後回しでいいから、父上の仕事を手伝ってくれるかい?」
「わかりました。お父様、休憩が終わったら指示をくださいますか?」
「もちろんだよ」

 そんな話をしていると、殿下が不思議そうに私と父、兄を見る。

「ミカ嬢が、文官がやるような仕事をするのか? いや……できるのか?」
「できますよ。そのための教育もしましたし。元々、向こうの世界でも私たちを手伝ってくれていましたから、問題ありません」
「そうか……」

 そんな話をして席を立ち、ランチョンマットや空いた籠をインベントリにしまい、フォークや食器をワゴンに乗せて移動する。室内に食器を洗ったりお湯を沸かしたりできる簡易キッチンが備え付けられているので、非常に助かる。
 私の後ろでは男性三人が仕事の話や政治の話などをしていたけれど、私が聞いていい話ではないと思ったので、そのままにしている。
 一度食器の水滴を【生活魔法】で出せる風で吹き飛ばし、ワゴンにコーヒーを淹れて乗せ、お菓子も添えて三人の前にそれぞれ置く。ちょうど話が途切れたタイミングだったので、父に話しかけた。

「お父様、目の前の庭を見て来てもいいでしょうか?」
「ちゃんと二人の護衛を連れていくんだぞ? あと、ここからだと見えないが、窓の側に椅子とテーブルがあるんだ。疲れたらそこで休みなさい。鐘が鳴ったら戻って来てくれ」
「はい」

 父に許可を取るとテーブルの場所も教えてくれた。目の前の庭以外には行かないと約束し、どこにテーブルがあるかを確認する。ちょっとはしたないけれど、アレイさんかシェーデルさんに先に外に出てもらい、私たちのぶんの飲み物とお菓子を受け取ってもらうことにし、アレイさんがやってくれるというのでそれを実行した。そしてシェーデルさんと一緒に外へ行こうとしたら、殿下が声をかけて来た。

「外へいくのか? なら、私がエスコートと案内をしよう」
「え……」

 その言葉に驚いて殿下を見ると、また微妙に耳の先が赤かったので首を傾げる。そして兄と父を見れば、二人とも目を丸くして殿下を見ていた。……本当にいいのだろうか。

「よろしいのですか?」
「ああ」

 確認すれば、殿下は頷く。そして私に腕を差し出して来たのでおずおずとそこに自分の手を乗せると、殿下は私を伴って窓際近くにある大きな扉を開け、そこから外に出た。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

【完結】愛猫ともふもふ異世界で愛玩される

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
状況不明のまま、見知らぬ草原へ放り出された私。幸いにして可愛い三匹の愛猫は無事だった。動物病院へ向かったはずなのに? そんな疑問を抱えながら、見つけた人影は二本足の熊で……。 食われる?! 固まった私に、熊は流暢な日本語で話しかけてきた。 「あなた……毛皮をどうしたの?」 「そういうあなたこそ、熊なのに立ってるじゃない」 思わず切り返した私は、彼女に気に入られたらしい。熊に保護され、狼と知り合い、豹に惚れられる。異世界転生は理解したけど、私以外が全部動物の世界だなんて……!? もふもふしまくりの異世界で、非力な私は愛玩動物のように愛されて幸せになります。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/09/21……完結 2023/07/17……タイトル変更 2023/07/16……小説家になろう 転生/転移 ファンタジー日間 43位 2023/07/15……アルファポリス HOT女性向け 59位 2023/07/15……エブリスタ トレンド1位 2023/07/14……連載開始

美醜逆転異世界で、非モテなのに前向きな騎士様が素敵です

花野はる
恋愛
先祖返りで醜い容貌に生まれてしまったセドリック・ローランド、18歳は非モテの騎士副団長。 けれども曽祖父が同じ醜さでありながら、愛する人と幸せな一生を送ったと祖父から聞いて育ったセドリックは、顔を隠すことなく前向きに希望を持って生きている。けれどやはりこの世界の女性からは忌み嫌われ、中身を見ようとしてくれる人はいない。 そんな中、セドリックの元に異世界の稀人がやって来た!外見はこんなでも、中身で勝負し、専属護衛になりたいと頑張るセドリックだが……。 醜いイケメン騎士とぽっちゃり喪女のラブストーリーです。 多分短い話になると思われます。 サクサク読めるように、一話ずつを短めにしてみました。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

面倒くさがりやの異世界人〜微妙な美醜逆転世界で〜

波間柏
恋愛
 仕事帰り電車で寝ていた雅は、目が覚めたら満天の夜空が広がる場所にいた。目の前には、やたら美形な青年が騒いでいる。どうしたもんか。面倒くさいが口癖の主人公の異世界生活。 短編ではありませんが短めです。 別視点あり

処理中です...