異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮

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結婚編

ドラゴンになったようです

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 目を開けると、ジークハルト様だけではなく、父や兄、魔物たち。それに、バルドさんやアイニさんたちがいて驚く。
 天井を見ると、そこは見慣れた私の部屋で、どうして寝ているのだろうとしばらく考える。

「ミカ! 目覚めたのか!」
「「実花!」」
「ジークハルト、様……? それに、皆さんまで……」

 心配そうな顔をしていた皆さんが、私が言葉を発したことで安堵した顔をした。

「あの……どうしてここに? ここは領地の部屋ですよね?」
「ああ。そのことについて話をしなければならないな」
「その前に食事をしませんかな?」
「実花はまる一日寝てたから、おかゆだよ」

 父の言葉に皆が頷き、兄の言葉に驚いた。まさか、まる一日寝ているとは思っていなかったのだ。どおりでお腹が空いたと思うわけだ。
 そして、食事の用意ができるまでの間に、事情を聞いた。

 どうやら私は思いっきり魔力を乗せすぎたらしく、そのせいでちょっとだけ浄化をするはずが、聖女が使うような、大規模な浄化魔法になってしまったそうだ。しかも魔力枯渇を起こし、そのせいで倒れたという。
 もっと驚いたのは、髪が父や兄と同じ黒髪に戻っていたことと、兄に持たされた鏡を見たら瞳孔が縦になっていたこと、左足がきちんと生えて・・・いたことだ。

「いきなり歩くことは難しいかも知れないが、そこはリハビリ次第だと思うんだ」
「頑張れるかい?」
「はい。頑張ります、お父様、お兄様」

 ご飯の支度ができたというので一旦放しを中断し、ご飯を食べる。私のは以前食べた、パパ粥だった。これも父が作ったらしい。
 ご飯を食べながら話をし、食べたあともお茶を飲みながら話をしていた。私が飲んでいるのは、経口保水液。所謂スポーツドリンクで、自宅で簡単に作れるものだ。
 作ったのは兄だそうだけれど、よくそのレシピを知っていたなあ、と思う。
 それにこの国の夏は日本のように湿気はないけれど、とても暑いそうだ。なので、自家製スポーツドリンクは必須なのだとか。もちろん領地にも広めているけれど、砂糖だと領民たちには手が出せないほど高いので、普段は蜂蜜で作るように言っているという。

「そんなに暑いのですか?」
「ああ。平気で35度を超えるくらいには、ね」
「そんなにですか……。夜は眠れるのでしょうか?」
「眠れるよ。不思議なんだけど、夜になると涼しいくらいなんだよ、この国はね。窓を開けると風が入ってくるし、湿気もないから、窓を閉めて寝ても眠れるんだ。あとはドラゴンになったせいかも知れないね。ドラゴンは体温調節ができるらしいから」
「そうなんですね」

 実花もドラゴンになったから、大丈夫かも、と兄に言われた。
 ドラゴンになる方法などは、後日、私の体調が戻ってからということになった。今は体調を戻し、歩けるようにとリハビリを優先させるそうだ。
 教会の視察については、後日ジークハルト様と父が行くことにしたそうだ。教皇自身が不正を働いて内部が腐っていたし、その改革や新たに教皇の選出など、ジークハルト様をはじめとした王族たちが教会と話し合い、それらが決まってからなら、私も行っていいと言われた。
 多少はいいけれど、大幅に結婚式自体を延期することはできないそうなので、できるだけ早く進めるらしい。
 その間に、私はリハビリとドラゴンになる練習をしなさいと、父に言われた。

「はい、わかりました」
「無理はするなよ?」

 ジークハルト様だけではなく、父や兄、使用人たちや魔物たちにまで「無理だけはするな」と釘を刺されたので、無理をしない程度に頑張ろうと思った。


 ***


 あれから二週間がたった。
 人型になったアレイさんやシェーデルさん、兄と一緒に庭を歩く。義足をしていた時と同じような速度ではあるけれど、それでも自分の足で立って歩けることが嬉しい。
 そして私の竜体だけれど、やはり親子というべきか、細長くて白い体躯である東洋の龍と同じで、この世界だと陽光竜ライト・ドラゴンというドラゴンになったのだ。
 最初は竜体になるのに苦労したけれど、今はすんなりと竜体になることができるようになっている。それもあって、明日、ジークハルト様と空中散歩に出かけることになっているのだ。
 もちろん魔物たちや父、兄も一緒だ。魔物たちは私の護衛だからわかるけれど、父や兄も付いて来るなんて……。いくらドラゴンになったばかりとはいえ、過保護すぎやしませんか?

 そんなことを考えつつも、皆と話しながら王都にある庭の散策をしている。ここは領地と違う花や、領地にもある果物の樹木が植えられていて、今はさくらんぼがたわわに実っているのだ、我が家の庭は。しかも日本のとは違い、黄色いさくらんぼ。
 先日そのまま冷えたものを出されて食べたのだけれど、とても甘いさくらんぼだった。そのせいなのか、チェリータルトが食べたいという兄の言葉に従い、今は庭をゆっくりと歩きながら、さくらんぼを収穫している。

「お嬢様、これくらいで大丈夫ですか?」
「大丈夫です。いつもありがとうございます、スヴェンさん」
「いえいえ。お安い御用ですよ」

 にこにこと笑いながら収穫してくれたのは、領地でも庭の手入れをしてくれている、庭師のスヴェンさん。見た目は三十代後半くらいの方で、この方も大暴走スタンピードで父親を亡くし、母親や弟妹と一緒にモーントシュタイン領へと来た人の一人。
 とても腕のいい方で、父も兄も、バルドさんも褒めていた。

 さくらんぼが入った籠を渡されたのでそれを持とうとしたら、言いだしっぺの兄が持ってくれた。そのまま屋敷のほうへと向かい、厨房に顔を出す。
 種取りやパイ生地作りをミゲルさんたち料理人にお願いし、傷のあるものや熟れすぎたものはジャムにしてもらうことにした。その間に私はカスタードクリームと、さくらんぼの上にかけるナパージュ作り。
 もちろん、ナパージュのゼラチンはスライムゼリーで作った。タルト生地が余ってしまったそうなので、エプレンジュのジャムを使ったパイと、ミートパイも作った。
 明日のために、一部はジークハルト様に食べてもらえるように分けておき、残りは我が家の使用人や魔物たちに食べてもらう。お昼には間に合わないので三時のおやつにしてもらい、その間に冷やしておいてもらった。

「今日のお昼はなんですか?」
「食欲がない人が続出してたので、お嬢様が教えてくださった冷製パスタにしました」
「ありがとう。ところてんの出来はどうですか?」
「とてもいいですよ。この道具も素晴らしいですね。包丁で切るよりも楽です」
「そうですか……よかった」

 スライムゼリーで寒天やゼリーを作ったのだから、ところてんも作れるだろう! との父の言葉に、領地の職人さんに四角い型を作ってもらったのでそれで固めたのはいいのだけれど、細く麺状にする道具がない。
 包丁だと一定の太さにならないので、記憶を頼りに寒天を押し出して麺状にする道具まで作ってしまった。なので、今ではその道具を使ってところてんにし、味ははちみつか、魚醤と酢、からしの変わりにマスタードっぽいものを使った、二種類のたれを作り、好みの味で食べてもらっている状態なのだ。

 うう……本当に、どこかに醤油や味噌などの、日本にあった調味料はないのだろうか……。

 王太后様に教わったとはいえ、まだまだ国内のことを勉強中の身としては、他国の調味料や食材の勉強をしている暇はないし、領地でジャポニカ米に近い味のお米を作っていることから、そのうち日本酒やみりんも作られるのではないかと期待しているし、父や兄も試行錯誤しながら、日本酒と米味噌を作り始めた。
 味噌や醤油は日本独特のこうじが使われているそうだけれど、この世界にも麹はあるのだろうか?

 そんなことを考えつつ、トマトとモッツァレラチーズを使った冷静パスタを食べるのだった。

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