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結婚編
執務室は今日も大変でした
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その日の夜、ジークハルト様からお借りしたコートに袖を通す。特にきついところなどもなく、一緒に確認してくれていたアイニさんたち侍女たちも「これならば」と太鼓判を押してくれた。なので、明日登城した時、ジークハルト様に大丈夫だと伝えることにした。
翌日、父と一緒に登城する。兄は休日らしく、家で領地の仕事をするというので、挨拶と朝食だけ一緒に食べ、屋敷から出て来たのだ。
城に着くと、すでにジークハルト様とギルさんがいた。
「おはよう」
「おはようございます」
「あと少しだから。今日も頼む、ミカ」
「畏まりました」
いつもの通りに一通り挨拶をすると、ジークハルト様にエスコートされながら執務室へと向かう。
「ジークハルト様、昨日のコートのことなのですけれど」
「ああ、どうだった?」
「はい、大丈夫でした。ですのでお渡ししたいのですが……」
「だったら執務室に行ってから俺にくれるだろうか」
「わかりました」
コートの話をしたあとで今日の仕事内容を確認している間に執務室に着く。月末が近いこともあってか、扉を開けた先の机には大量の書類の山があった。
「陛下や宰相である兄上たちの仕事量を考えるとそれほどではないとはいえ、さすがに多いぞ……」
「そうですね。まあ、南の森の魔物が増えて来ている影響もあるのでしょう」
ジークハルト様のうんざりしたような言葉に、ギルさんも若干うんざりしたような顔で話をしている。
ジークハルト様やギルさんによると、西の森で小規模の魔獣大暴走があった影響か、またはもともとそういった状況にあるのか、南にある森の魔獣が増えてきているのだという。
この世界には、騎士や兵士だけではなくて、冒険者とよばれる人たちがいる。私も向こうの世界でそういった人たちが出てくる小説をたくさん読んだし、どんな役割があるのか興味があったから聞いてみた。
曰く、騎士や兵士も冒険者も、主に魔獣を間引きする役目があるそうだ。騎士たちはそれだけだけれど、冒険者たちはその他にも薬草やスパイダーシルクなど、自分で採りにいけない人の依頼を受けてそれを採ってくるのだという。
それを仲介しているのが、冒険者ギルドだと教えてくれた。
「騎士もそうですが、危険なことはないのですか?」
「危険なことには変わらないが、間引きをしないと魔獣大暴走を招きかねないし、薬師は薬草を一人で採りに行けないからな。自分で採りに行く場合は、冒険者を護衛にしていくのだ」
「なるほど。商人などはどうしているのですか?」
「商人も冒険者を雇ったりして護衛に付かせ、あちこち回っているんだ」
騎士たちが村や町、街を護る代わりに、冒険者たちは騎士にできないことを担っているのだろう。住み分けというか、仕事を明確に分けている感じだろうか。
そんな話をしながら私は書類を振り分け、ある程度纏めると背表紙を作ったり表紙を作ったりしてから、革紐で綴っていく。もちろん、ジークハルト様や一緒に仕事をしている方に聞きながら、だけれど。
そんなことをしているとあっという間にお昼となり、みんなでご飯を食べる。それが終わってからコートをジークハルト様に渡した。
ジークハルト様たちが政治の話をし始めたので護衛である魔物たちのところに行き、縫い物を始める。今作っているのは、ジークハルト様に渡す枕カバーだ。それをパッチワークにしている。
《ミカ、今度は儂らにも何か作ってくれんか?》
「構いませんけれど、何がほしいのですか?」
『アタシは鞄がほしいわね。リュックとかいうやつよ』
<あ、いいなあ。ボクもリュックがほしい!>
《儂もリュックがほしいのう……》
三人してリュックがほしいというので了承し、どの色で作るかなどを話し合った。
お昼の休憩も終わり、書類整理の続きをする。確認しながらとはいえ、書類がどんどん増えていくのと同時に、確認作業も増えていく。
しまいには私にも計算を確かめることを手伝ってくれとジークハルト様に言われてしまい、それを手伝うことになってしまった。
結局それらが終わったのは、鐘が鳴る三十分前だった。
「……今日はいつも以上に書類が多かったな。ミカ、助かった」
「ええ、助かりましたよ、ミカ嬢」
「いえ。お役に立てたのならよかったです」
げっそりとやつれたような顔をしたジークハルト様や文官たちに、お茶とお菓子を提供する。忙しかったから、ろくに休憩もできなかったのだ。
「今日を乗り越えてしまえば、あとは二日ほどでなんとかなるだろう。明日も手伝ってくれるか? ミカ」
「いいですよ」
休憩もそこそこにまた作業を開始する。もくもくとやっているうちに終業の鐘が鳴り、ジークハルト様が父の執務室まで送ってくれた。――父や父の部下がいるというのに、唇にキスを残して離れるジークハルト様。
私は恥ずかしいというのに、ジークハルト様は見せ付けるように帰すをするし、父も部下も生温~い視線で見てるし……。
内心溜息をつきながらジークハルトさまとはそこで別れ、父や魔物たち三人と一緒に自宅まで帰った。
翌日は兄も含めた三人で登城し、兄は父の手伝い、私はジークハルト様や文官の人たちと一緒に昨日の続きをした。月末とあってか、昨日よりも書類が増えて大変だったけれど、それでもなんとか作業は終わりに近づいてきていた。
「この分ならば、来月中には書類整理も終わりそうだ。ミカのおかげだ……ありがとう」
「私にできることをしただけですから」
「そう言うが、誰にでもできることではないぞ?」
「そうですよ、ミカ嬢。おかげで僕たちも書類が探しやすくなって、とてもたすかります」
「あとはこちらが維持をするだけですから、本当に助かりました」
口々にお礼を言われて、困ってしまう。私は自分のできることをしただけで、日本にいた時と同じようなことをしただけなのだから。
「まだ完全に終わりではないが、先が見えてきた。この調子で頑張ろうか」
ジークハルト様の言葉に、全員が返事を返す。途中で休憩を挟み、昼食まで頑張ったあと、午後も同じように仕事をこなした、その五日後。
ようやく月初になってひと段落つくと、全員で安堵の溜息をついた。
翌日、父と一緒に登城する。兄は休日らしく、家で領地の仕事をするというので、挨拶と朝食だけ一緒に食べ、屋敷から出て来たのだ。
城に着くと、すでにジークハルト様とギルさんがいた。
「おはよう」
「おはようございます」
「あと少しだから。今日も頼む、ミカ」
「畏まりました」
いつもの通りに一通り挨拶をすると、ジークハルト様にエスコートされながら執務室へと向かう。
「ジークハルト様、昨日のコートのことなのですけれど」
「ああ、どうだった?」
「はい、大丈夫でした。ですのでお渡ししたいのですが……」
「だったら執務室に行ってから俺にくれるだろうか」
「わかりました」
コートの話をしたあとで今日の仕事内容を確認している間に執務室に着く。月末が近いこともあってか、扉を開けた先の机には大量の書類の山があった。
「陛下や宰相である兄上たちの仕事量を考えるとそれほどではないとはいえ、さすがに多いぞ……」
「そうですね。まあ、南の森の魔物が増えて来ている影響もあるのでしょう」
ジークハルト様のうんざりしたような言葉に、ギルさんも若干うんざりしたような顔で話をしている。
ジークハルト様やギルさんによると、西の森で小規模の魔獣大暴走があった影響か、またはもともとそういった状況にあるのか、南にある森の魔獣が増えてきているのだという。
この世界には、騎士や兵士だけではなくて、冒険者とよばれる人たちがいる。私も向こうの世界でそういった人たちが出てくる小説をたくさん読んだし、どんな役割があるのか興味があったから聞いてみた。
曰く、騎士や兵士も冒険者も、主に魔獣を間引きする役目があるそうだ。騎士たちはそれだけだけれど、冒険者たちはその他にも薬草やスパイダーシルクなど、自分で採りにいけない人の依頼を受けてそれを採ってくるのだという。
それを仲介しているのが、冒険者ギルドだと教えてくれた。
「騎士もそうですが、危険なことはないのですか?」
「危険なことには変わらないが、間引きをしないと魔獣大暴走を招きかねないし、薬師は薬草を一人で採りに行けないからな。自分で採りに行く場合は、冒険者を護衛にしていくのだ」
「なるほど。商人などはどうしているのですか?」
「商人も冒険者を雇ったりして護衛に付かせ、あちこち回っているんだ」
騎士たちが村や町、街を護る代わりに、冒険者たちは騎士にできないことを担っているのだろう。住み分けというか、仕事を明確に分けている感じだろうか。
そんな話をしながら私は書類を振り分け、ある程度纏めると背表紙を作ったり表紙を作ったりしてから、革紐で綴っていく。もちろん、ジークハルト様や一緒に仕事をしている方に聞きながら、だけれど。
そんなことをしているとあっという間にお昼となり、みんなでご飯を食べる。それが終わってからコートをジークハルト様に渡した。
ジークハルト様たちが政治の話をし始めたので護衛である魔物たちのところに行き、縫い物を始める。今作っているのは、ジークハルト様に渡す枕カバーだ。それをパッチワークにしている。
《ミカ、今度は儂らにも何か作ってくれんか?》
「構いませんけれど、何がほしいのですか?」
『アタシは鞄がほしいわね。リュックとかいうやつよ』
<あ、いいなあ。ボクもリュックがほしい!>
《儂もリュックがほしいのう……》
三人してリュックがほしいというので了承し、どの色で作るかなどを話し合った。
お昼の休憩も終わり、書類整理の続きをする。確認しながらとはいえ、書類がどんどん増えていくのと同時に、確認作業も増えていく。
しまいには私にも計算を確かめることを手伝ってくれとジークハルト様に言われてしまい、それを手伝うことになってしまった。
結局それらが終わったのは、鐘が鳴る三十分前だった。
「……今日はいつも以上に書類が多かったな。ミカ、助かった」
「ええ、助かりましたよ、ミカ嬢」
「いえ。お役に立てたのならよかったです」
げっそりとやつれたような顔をしたジークハルト様や文官たちに、お茶とお菓子を提供する。忙しかったから、ろくに休憩もできなかったのだ。
「今日を乗り越えてしまえば、あとは二日ほどでなんとかなるだろう。明日も手伝ってくれるか? ミカ」
「いいですよ」
休憩もそこそこにまた作業を開始する。もくもくとやっているうちに終業の鐘が鳴り、ジークハルト様が父の執務室まで送ってくれた。――父や父の部下がいるというのに、唇にキスを残して離れるジークハルト様。
私は恥ずかしいというのに、ジークハルト様は見せ付けるように帰すをするし、父も部下も生温~い視線で見てるし……。
内心溜息をつきながらジークハルトさまとはそこで別れ、父や魔物たち三人と一緒に自宅まで帰った。
翌日は兄も含めた三人で登城し、兄は父の手伝い、私はジークハルト様や文官の人たちと一緒に昨日の続きをした。月末とあってか、昨日よりも書類が増えて大変だったけれど、それでもなんとか作業は終わりに近づいてきていた。
「この分ならば、来月中には書類整理も終わりそうだ。ミカのおかげだ……ありがとう」
「私にできることをしただけですから」
「そう言うが、誰にでもできることではないぞ?」
「そうですよ、ミカ嬢。おかげで僕たちも書類が探しやすくなって、とてもたすかります」
「あとはこちらが維持をするだけですから、本当に助かりました」
口々にお礼を言われて、困ってしまう。私は自分のできることをしただけで、日本にいた時と同じようなことをしただけなのだから。
「まだ完全に終わりではないが、先が見えてきた。この調子で頑張ろうか」
ジークハルト様の言葉に、全員が返事を返す。途中で休憩を挟み、昼食まで頑張ったあと、午後も同じように仕事をこなした、その五日後。
ようやく月初になってひと段落つくと、全員で安堵の溜息をついた。
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