転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

文字の大きさ
上 下
177 / 178
本編 2

カルティス領へ行こう 6

しおりを挟む
 紙芝居のやり方を教えたあとは実践。この実践がとても上手だったのが、意外なことにレイラさんのお母さんであるイヴェットさんだった。
 今までは娘であり領主であるレイラさんを支えていたけど、いつまでもそんなことばかりしていられないし、できれば孤児院関係でなにかできないかを探っていたんだって。そんな手探りの中、子ども向けの本――絵本の作成をすると知って、読み聞かせをしようと考えた。
 だけど、いざレイラさんが私から借りた絵本を持って読み聞かせをしてみたけど、なかなか難しいことが判明。どうしようかと悩んでいたところに私たちが持ち込んだ紙芝居を見て、これならばできそうと普段と同じようにやってみたのがよかったみたい。

「素敵でした!」
「ええ、本当に!」

 私とナディさんで拍手をしつつ感想を言うと、イヴェットさんは照れつつも嬉しそうにはにかんだ。その顔はレイラさんそっくり!
 そこからは私たちが驚くほど行動が早かった!
 まず、紙芝居用の木枠をレイラさんのお父さんであるパウルさんが、木枠のレシピというかサイズなどが書かれているものを工房に持っていくために離席。次に今回紙芝居用に持ってきた話をレイラさんとイヴェットさんに渡し、絵本にしてあるものを参考に、あれこれと議論が始まる。
 それを聞きながらカールさんが紙芝居用と絵本用に、文章を一ページ分の長さにそれぞれ調節。見本という形で一冊分を作り上げた。もちろんこれは見本なので、糸で閉じただけの、簡素な本の状態だ。
 本の綴り方に関しては、まずは縦と横を揃えたあと、背表紙になる部分に糊を塗り、洗濯ばさみなど挟めるもので固定。ある程度乾いたら糸か細くて丈夫な革紐で綴る。
 その上に背表紙側のところに細く切った紙か極薄の革を貼ったあと、表紙となる装丁をを被せてはどうかと話す。
 装丁の仕方はわからないので、そこはイヴェットさんたちに丸投げだ。

「なるほど……背の部分をある程度丈夫にすればいいんですのね」
「綴るのも糸ではなく、捨てるような革紐でいいんじゃないかしら」

 レイラさんとイヴェットさんがそんな話をし、追加でどこそこの工房で捨てる革紐の利用方法を打診しましょう、なんて言っている。こうなってくると私たちの出番はないので、彼女たちの意見が出尽くすまで放置した私たちは悪くないと思う!

 そうして滞在できる期限ギリギリまで絵本と紙芝居の製作の手伝いをし、貴族向けと庶民向け二種類の装丁を作った絵本は、発売前に両方とも王家へと献上することに。まあ、こういうのを発売しますよという宣伝と、よかったら貴族に紹介してね、という思惑もあるみたい。
 とはいえ、まずは自分の領地内から始めて評判や様子をみつつ、絵本の内容や評判がよければ、商人さんたちが買ってくれるはず。なので、まずは領内の普及から始めるんだって。
 うまくいくといいなあ。
 あと、領内限定の魔物図鑑や植物図鑑に関しては、冒険者ギルドにお願いして情報を集めてもらっているそうだ。特にダンジョン自体の攻略が終わっておらず、踏破している階層の魔物やそのドロップ品、植生などしかわからないからだ。
 そうはいっても現在までわかっていることは、第一階層と第二階層は有用なものが多く、魔物はスライムしかいないとのこと。しかも、生えているのは領内では作れない果物や野菜、薬師ではポーション系とハイポーション系、医師は特殊な病気以外の薬がほぼ作れてしまう薬草が多く、隣の領地から購入していたものも生えているので、人材育成に役立ちそうなんだとか。

 そんなこんなで、帰る日の朝。領都の門前でご挨拶。

「よかったですね!」
「ええ! お義兄様、お義姉様。いろいろとありがとうございました」
「また来てください、兄上、義姉上。そしてアレクとナディも」
「ああ」
「はい」
「また来ますわ」

 忙しいだろうに、レイラさんとカールさんが見送りにきてくれた。しかも、お土産にできたばかりの絵本と領内の野菜やダンジョンで採れた野菜と果物、薬草を手渡されたのだ。
 みんなで食べようと思います!

「それじゃあ」

 門をくぐり抜けてからもう一度振り返り、レイラさんとカールさんに手を振る私たちに、二人も振り返してくれる。それを見たあと、そのまま街道を少し歩き、人気ひとけのない場所までくると飛び立つ準備をする。

「準備は終わったな? じゃあ、帰るぞー」

 エアハルトさんの号令で一斉に飛び立つ従魔や眷属たち。
 かなり長い期間いたけど、たまにはいいよねー、と思ったり。

 数時間後、無事に帰宅。お土産を渡すために店に行ったんだけど……

「お帰りなさい」
「た、ただいま、ママ」

 長く開け過ぎたらしく、笑顔なのに目が笑ってない母がいた。
 その後、あれが足りない、これが足りないと言う母の指示に従い、許してくれるまでポーションを作りまくったのだった。 

    
しおりを挟む
感想 2,058

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。