上 下
176 / 177
本編 2

カルティス領へ行こう 5

しおりを挟む
 まずは紙芝居のやり方を覚えてもらい、大人でも子どもでもいいから練習がてら実践。慣れたら木枠の量産体制に入ってもらうつもり。
 それもあり、ライゾウさんがわざわざ木材をパーツごとにして渡してくれたの。しかも、木材のサイズと作り方を書いたものまで用意し、それを五組ぶん渡してくれたのだ。
 端材で作ったから料金はいいと言われたけど、作った手間暇などのことを考えるとさすがにそれはダメだからと、きっちり計算してもらいましたとも。だってレシピまでついてるんだよ? それをタダでなんて絶対にダメだ。
 エアハルトさんや両親、果てはヨシキさんからも言われたからか、「めんどくせぇ……」とぼやきながらも計算してくれたので、きちんと支払ってきた。
 それらのことは伏せ、カールさんとレイラさんに渡す。

「これが、その木枠の材料です。サイズなどのレシピはこちらになります」
「お義姉様……」
「はい、どうぞ。まずは慣れてもらって、他にも欲しいと言われたら、木材を扱う工房に頼んで作ってもらってくださいね」
「……はい。はいっ!」

 代表でレイラさんにすべて渡したあと、紙芝居の作り方を伝授。絵を描くことになるので厚めの紙がいいのと、裏に書く文字も読み手が読みやすい大きさにするといいなど、基本的なことを話した。
 あとは、今回作ってきたものはそのまま絵本にしてもいいことを伝え、うちの子たちを交えて読んでみた。すると、うちの一番下と同じくらいの子たちであるカールさんとレイラさんの子たちが、反応を示した。
 なんと、カブを引き抜くときの言葉を覚え、真似し始めたのだ!
 もちろんうちの子たちも一緒にうんとこしょーと言っていて、可愛らしい声が室内に響いている。

「まあ……。これは楽しいですわね!」
「そうだね。カブを一緒に引っ張っている気持ちになれるね」

 仲間同士の一体感が学べますわね、とレイラさんが微笑ましそうな表情で自分の子どもたちや甥や姪を見ている。そこに私も参入し、一緒にうんとこしょーとカブを引き抜く真似をしてみると、座ったままではあるけどカブを引き抜く真似をし始める。
 こ、これは可愛い!
 きゃあきゃあと楽しそうにはしゃぐ様子は、きっと孤児院などでも見られるようになるはず。それに、子ども同士で作ったりすれば読み書きの練習にもなる。

 他にも、絵に興味を持ってくれて、画家になるかもしれない。
 もしかしたら木枠に興味を持って、木工細工の職人になるかもしれない。
 カブの育て方や花に興味を持って、農家になるかもしれない。

 子どもたちがどんなものに興味を持つかなんて私たち大人にはわからないし、決めつけてもいけないと思う。だから、まずは絵本や紙芝居で文字を覚えてもらい、物語を通じていろんなことに興味を持ち、自分のやりたいことを見つけられたらいいな。
 特に弟となったリョウくんは、父と一緒に診療所にいることが多いからか、医師になりたいと言い始めている。その第一歩として私の店の裏にある庭で、薬草の勉強をし始めているのだ。
 それを例に出してレイラさんたちに伝えると、「確かに」と頷く。

「親が農家や職人、冒険者だからといって、同じような才能があるとは限りませんもの」
「そうだね。才能があったとしても、親とまったく同じとは限らない。もっと才能があるかもしれないし、ないかもしれないし」
「ええ。可能性は無限にあるのですもの」

 そう言って微笑みあう、レイラさんとカールさん。
 カールさんも、領主になってガウティーノ家をもっと豊かにしたいと思っていた。だけど、実際は自分にはその能力はなく、逆に自分の両親や兄たちに迷惑をかけてしまった。
 最初はなんで僕ばかりこんな目にあうんだとか、兄たちと比べられるのはどうしてなんだと考えていたけど、レイラさんと婚姻して、いざ領地経営を始めてみれば自分にはその才能がないことが露呈しててしまった。
 比べられていたのではなく、自分が勉強から逃げていただけだったのだと、この家に来て思い知ったんだとか。
 だからなんとか勉強をしたいけど、勉強してこなかったツケが回ってきてしまった。そんな八方ふさがりになっているときにガウティーノ家からバーベキューのお誘いがあり、気分転換に行ってみたら思いの外楽しかったし、まさかの私からの提案があったものだから、今度こそ自分にできることをやろうと決意したんだとか。
 エアハルトさん、小さな声で「大人になったんだな」だなんて言わないの!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。