転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

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本編 2

家族でバーベキュー 2

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 わいわいがやがやと楽しく、そして和気藹々わきあいあいとバーベキューをする私たち。ある程度食べたのか、義両親であるオイゲンさんとエレーナさんがバーベキューコンロの側に寄ってくる。

「リン、儂らにも教えておくれ」
「わたくしもお願いしますわね」
「わかりました! じゃあ、まずはこっちのほうを――」

 ウッキウキな義両親に内心で苦笑しつつ、おひげも顔も体格もワイルドな義父のオイゲンさんと、四人の子持ちとは思えないほどスタイル抜群で美しい、美魔女なエレーナさんはとてもお似合いなご夫婦だと思う。……戦闘スイッチが入ると脳筋になるという意味でもね。
 結婚前と、子どもできてからも何度か一緒にダンジョンに潜ったんだけど、見た目五十代なのに体力が凄いんだよね、二人とも。しかも、自分たちのストレス発散をしつつ楽しみ、得たドロップ品は換金したりそのままの状態で孤児院に寄付するという、趣味と実益を兼ねているもんだから手に負えない。
 いくら侯爵家の当主を団長さん、じゃなくて義弟のロメオさんに譲ったとはいえ、元気ありすぎだよ~!
 だからロメオさんとマックスさんに「両親を止めてください、義姉上あねうえ!」って言われても、私には無~理~!
 ま、まあ、やりすぎると私とエアハルトさんの神獣たちがオ・ハ・ナ・シ・! してくれるので、他人様に迷惑はかかっていない。……ガウティーノ家の家族や使用人さんたちに迷惑がかかるだけで。
 そんな過去のことを思い出しつつ、二人に串に刺したものを渡し、網に載せてもらう。そのときに注意点などを説明しておくと、野営での料理をしたことがある二人はすぐにコツをつかみ、夫婦揃って楽しそうに談笑しながら手を動かすのはさすがだ。
 二人が代わってくれている間に、子どもたちにも野菜を始めとした食材を小さく切って食べさせていく。これは使用人さんたちも手伝ってくれたので助かった。
 もちろん、従魔たちと眷属たちにも食べさせているよ!
 ある程度食べると子どもたちは寝てしまったので、様子を見ながら焼いたり食べたりを繰り返す。その中で、微妙に使用人さんたちに敬遠されているご夫婦が一組いたり。
 それはカールさんたちご夫婦なんだけど……しょうがないよね。カールさんは魅了魔法を使って親と使用人さんたちを操って当主になろうとしていたし、奥さんも婚約者だったエアハルトさんを裏切ってカールさんと、その、結婚前にベッドインしちゃったし。
 この世界の貴族女性は貞淑さを求められているから、結婚前のベッドインはご法度というか、褒められたことじゃない。それが自分の婚約者だったならばお叱りくらいはされるだろうけど、それだけだ。だって、結婚が決まっているんだから。
 女性のほうが厳しく貞淑さを求められるけど、それは他家の子を産まれでもしたら困るわけだし、貞淑さという意味では男性も一緒なわけで……
 血を残さなければならない貴族からすれば、爵位の高低を問わず、結婚前の不貞――特にベッドインは忌避されるのが実情だと、あとからエアハルトさんとアレクさんにも言われたのだ。
 そういった意味もあるし、結婚することが確実な婚約者同士ならば、お叱りを受けたあとは結婚が早まるくらいじゃないかな? まあ、一度でもヤってしまったら、その相手と結婚するしかないだろうし。
 だけど、それが婚約者ではなく不貞というか浮気相手だったら、そりゃあお叱りどころの騒ぎじゃない。もし政略結婚だった場合は、家に不利益をもたらすことになってしまうから。

 エアハルトさんとカールさんの奥さん――レイラさんも、事業提携のための政略結婚だったと聞いている。あと、レイラさんは一人娘でもあったから、二人の間にできた子のうちで次男以降をレイラさんの実家の跡取りにすると、決められていたことも聞いた。
 だけど、それはカールさんのせいでぜーんぶダメになってしまい、レイラさんの実家は降爵し、カールさんは死ぬまで魅了魔法を封じられたうえにレイラさんの家へと婿養子になったのだから、レイラさんの実家としては、目も当てられなかっただろうね。
 そんな事情があるんだから、親であるオイゲンさんとエレーナさんはともかく、三人の兄と使用人さんたちからすれば、距離を置きたいと思うのはしょうがないわけで……

 とはいえ、エアハルトさんはそこまで気にしてないみたいなんだよね。もちろん私も気にしてない。
 というか、あの時はこの世界に来たばかりだったし、まだまだ混乱している中でガウティーノ家の醜聞に巻き込まれた形なので、魅了が解けてよかったね! くらいにしか思っていないのだ。
 ま、まあ、襲われかけたときは怖かったけど。
 それでも、もう十年以上経っているのだ。そろそろ歩み寄ってもいいんじゃないかなあ。なんて思っていたら、意を決したような顔をして、レイラさんが私に近づいてきた。しかも、カールさんの腕を引っ張ってるし!
 レイラさんの見た目は、ちょっとぽっちゃりしていて穏やかそうな人だ。だけど、貴族令嬢なだけあり、それなりに気が強いと聞いている。

「あの……、ごきげんよう、リンお義姉ねえ様。ご招待、ありがとうございます」
「……こ、こんにちは」
「こんにちは、レイラさん、カールさん。招待を決めたのはお義父とうさんたちなので、そちらにお礼を言ってくださいね」
「「はい」」

 そんな会話から始まった交流だけど、カールさんはまだ蟠りわだかまがあるのか、微妙に顔がこわばっている。だけど、そこは奥さんになったレイラさん。しっかりとカールさんを促している。

「あの、さ……。以前は、その……」
「ふふ。私は怒ってないので、大丈夫ですよ? あのときはまあ……エアハルトさんに頼まれた、というのもありましたし」
「……」

 笑顔で怒っていないと告げたけど、内容が内容なだけに、カールさんもレイラさんも微妙な顔をしている。エアハルトさんも怒っていないと告げると、あからさまにホッとした顔をした。
 やっぱり気にはしていたんだね。
 さすがに過去の話題は気まずいのとしんどいだろうと、話題を変えることにする。

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