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7巻

7-2

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「でしたら、こちらの装飾をこのデザインのドレスにどうかしら」
「いいと思いますわ。デコルテのラインはこちらでどうでしょうか」
「そうですわね。表面にこちらのレースを使うのはどうかしら」
「素敵ですわね!」
「装飾品はどうなさるおつもりかしら」
真珠しんじゅが手に入りますので、それを使おうと考えておりますの」

 侯爵夫人と母が、ドレスのデザインや装飾品のことで盛り上がっている。く、口を挟みたいけど二人が言っていることがさっぱりわからない……
 それに、二人が候補にあげる装飾品などがどれも素敵で迷ってしまう。
 さすが、娘のドレスを選ぶ母親だ、二人とも。特に侯爵夫人は娘がいないからと、めちゃくちゃ張り切っていることに若干引く。
 こういうとき、服装関連の話がわからないと損するなあ……と思うけども、貴族じゃないんだから流行とかどうでもいい。
 とにかく、素敵なデザインであれば、私はどんな装いでも構わないのだ。
 ぶっちゃけた話、私は平民なんだからいつもの装いでも構わないと思っている。
 そして二人がいろいろと話し合い、がっちりと握手して決めたデザインはプリンセスライン。丈は足首までで、色はグリーン系のグラデーションにする、らしい。
 エアハルトさんも同じ色の布地を使って、モーニングを仕立てるそうだ。
 ほ、本格的だね!
 私はさっぱりわからないから、全部母に丸投げした。
 結局、あれこれ決まったはいいものの、二時間も侯爵家にいた。
 正直、疲れたよ……精神的に。
 晩ご飯をどうぞと言われたけどそれを丁重に辞退し、さっさと『アーミーズ』の拠点に帰ってくる。そこでも誘われたけど、従魔たちが心配するからと、家に帰ってきた。

「ただいまー! 疲れた~」
〈〈おかえり! お疲れ様〉〉

 ラズとロキが出迎えてくれて、そのまま戸締りをする。晩ご飯をぱぱっと作ってみんなで食べ、明日の開店準備をしてお風呂に入ると、さっさと布団に潜りこんで、眠った。


 そして翌日。
 今度はエアハルトさんと一緒に、『アーミーズ』の拠点に呼ばれた。なにかと思えば、私たちの採寸をするんだって。

「採寸か……」
「婚姻式の衣装は、私たちに任せてくれると嬉しいな!」
「マドカがそう言うなら任せる」
「ありがとう!」

 エアハルトさんが許可を出すと、満面の笑みを浮かべたマドカさん。
 そんなマドカさんの気合いの入りようは凄かった。
 採寸して、糸を取り寄せてから機織はたおりをし、そこからドレスとモーニングに仕立て上げるんだって。色については母が調合し染め上げるんだとか。
 ちなみに『アーミーズ』が着ている迷彩服も、そうやって仕立てたんだって。

「で、式はいつの予定?」
「まだ話し合っていない。まあ、半年から一年先にしようと思っているが、どうするかわからない」
「そう……。まあ、半年でも充分に間に合うから、とりあえず布を織ることと色染めだけはしておくわ。それでいい?」
「ああ。決まったらまた教える。ありがとう、マドカ」
「いえいえ。楽しみにしてて!」

 ご飯を一緒にどうぞと誘われ、今日は従魔たちや眷属たちを全員連れてきているから、お言葉に甘えることに。
 ご飯は牛丼ならぬ、生卵がのったブラックバイソン丼でした!
 すっごく美味しかったし、エアハルトさんや従魔たちも気に入ったみたいで、おかわりをしていた。うん、あとでマドカさんに作り方を教わろう。
 ご飯を食べたあと、拠点に戻りながらエアハルトさんと手を繋いで一緒にゆっくり歩く。

「優衣、明日の夕方、腕輪を見に行かないか?」
「お~、いいですね! 楽しみにしていますね!」
「ああ。あと、二週間の休みにどこに行くか、明後日にでもアレクたちも交えて話し合おう」
「はい!」

 どんなデザインの腕輪がいいか話し合う。だけど、実物を見ていないのでイメージが湧かないから、明日お店に行って決めることにした。
 行くのは中央地区にあるマルケス商会本店だから、例のメンバーズカードを持っていかないとね。
 拠点に着いたので裏から家に入らせてもらう。今は仕切りで柵があるけど、これも取っ払ったほうがいいのかなあ。
 それもそのうち話し合おう。


 そして翌日の夕方。
 エアハルトさんと一緒に辻馬車つじばしゃに乗り、中央地区にあるマルケス商会本店に来た。二人で入口にいた黒服のガードマンにカードを見せ、店内に入る。
 さすがに遅い時間だからか誰もいなくてホッとした。貴族に絡まれるのは面倒だしね。
 すぐに以前もお世話になった店長さんが来て、奥へと案内してくれる。
 そこでエアハルトさんが婚姻の腕輪を作ってほしいと頼むと、「おめでとうございます」と言ってくれた。それが嬉しい。
 そこから腕輪の土台になる金属やあしらう宝石を見せてもらい、エアハルトさんや店長さんと一緒にあれこれ話し合いながら決めていく。
 土台はミスリル、宝石は相手の目の色と、それに合わせた別の色を配色するのが一般的だというので、ブルーとブラック、またはこげ茶の宝石を並べてもらった。
 私の瞳が黒なんだけど、黒い色の宝石があまりないというので茶色の宝石も用意してもらったのだ。それから、できれば私の従魔たちや眷属たちの色も入れたいと言うと、エアハルトさんもそれに頷いてくれた。
 エアハルトさんは、私の意見をいつもしっかり聞いてくれるからうれしい。
 従魔たちの色が似通っていることから、レッドとイエロー、グリーン系の宝石も持ってきてもらう。散々悩んだけど、ブルー系はタンザナイトとサファイア、ラピスラズリ。グリーン系はエメラルド。レッド系はガーネット、ブラックはダイヤモンド。そこにイエローの琥珀こはくを配することになった。
 豪華だね!
 メインはブラックダイヤ。たまたま入荷したばかりの宝石で、粒自体はそれほど大きくないもののとても素敵な輝きを放っていて、私もエアハルトさんも一目で気に入ったのだ。
 本来ならば、ここまで宝石をあちこちにあしらうことはない。
 だけどそこは太さを調節してバングルにしたり、デザインを工夫してゴテゴテした感じをなくせるそうだ。
 そこでデザインの担当者が提案してくれたのは、つたモチーフのバングル。
 宝石を花やつたの模様に見立てるようにすれば、男性でも身に着けられるだろうとのことだった。

「それでいい。できれば、土台につたを掘ってもらい、リンのものには花をあしらってほしい」
「もちろんでございます。裏にお名前をお入れすることができますが、どうなさいますか?」
「あ……だったら、私とエアハルトさんの名前を一緒に彫ってほしいです」
「両人のお名前、でございますか?」
「はい。私の故郷にあったもので、渡り人の方が伝えてくれた方法なんです」

 エアハルト&リンと入れてほしいと、持っていた紙に書いて示す。
 あれですよ、指輪に名前を入れるやつ。

「おお、それはいいですな!」
「いつでもお互いのことを思い出せると思うんです。それぞれの腕輪には、身に着ける方の名前を先に入れて、どちらのものかも分かるようにしたらどうでしょう」
「なるほど……」
「できますか?」
「ええ、大丈夫でございますよ。ただ、その分お値段が上がってしまうのですが……」
「ああ、構わない。それでお願いする」
「かしこまりました」

 貴重なブラックダイヤが売れたからなのか、店長さんも担当者さんもほくほく顔だ。値段が上がると言いながらもたくさん宝石を買ってくれたからと、端数分を値引きしてくれた。
 お値段? それはご想像に任せる、と言っておく。



   第一章 シュピナート領へ行こう


 翌日は拠点で、二週間の連休にどこへ行くかの話し合いをした。

「わたくしはシュピナート領へ行きたいですわ」
「僕もです」
「どうしてだ?」
「久しぶりにホーレン草畑が見たいからですわ!」
「僕はダンジョンに潜りたいですね」

 それぞれが意見を出し合う中、ナディさんとアレクさんが唐突にそんな提案をした。
 シュピナート領ってどこですか~?

「リンは知らなかったな。シュピナートはガウティーノ家の領地でな、ホーレン草と白菜の産地なんだ。ホーレン草は一年中採れる品種なんだ。夏はレタスだな」
「シュピナートはホーレン草を意味する言葉ですの」
「そうなんですね! あ、だからホーレン草畑が見たいって」
「ええ。なかなか見られない景色ですわ」

 なるほど、シュピナート領はガウティーノ侯爵領ってことなのか。
 そしてまさかのホーレン草と白菜とレタスの産地でした! 夏にレタスというと、高原レタスみたいなやつなのかな。
 だから、ビニールハウスのようなものが必要だったんだろうか。
 三人にいろいろ話を聞いたところ、他にも、気温が低くても作ることができる野菜を中心に、他国に輸出したりしているんだって。
 ただ、ホーレン草も白菜も料理が限られてくるから、余ってしまって廃棄はいきされる分も多いらしい。もちろんレタスも、多少廃棄はいきが出るという。
 もしなにか新しいレシピを知っていたら教えてほしいと言われたので、あとで母やマドカさんに聞いたり、スマホで検索してみよう。
 私が知っているのとなると、限られてくるしね。

「たぶん、父上がそろそろ領地に戻ると言いそうなんだよな」

 エアハルトさんが顎に手を添えながらつぶやく。

「どうしてですか?」
「ロメオが当主代理として仕事を始めているんだが……来月婚姻するからな。それに合わせて当主の仕事を交代するだろう」
「領地に帰ったら伯父様もダンジョンに潜りたいというのではないかしら。ね、お兄様」
「そうだな」

 笑いながら話すナディさんとエアハルトさん。
 おおう、団長さんは来月結婚で、まさか侯爵様までダンジョンに潜りたいとか……。さすがは元団長さんだよね! って、そうじゃなくて。

「ということは、もしかして一緒に領地に行くことになるかもしれないんですか?」

 前回、グレイさんとユーリアさんが領地から戻ってきたときのことを思い出して聞いてみたんだけど……

「恐らくな。私兵の護衛がいるとはいえ、冒険者にも護衛依頼を出すことが多い。だから、俺たちに指名依頼が来るだろうと思っている」
「なるほど~」

 貴族の護衛ともなると、実入りはかなりオイシイというエアハルトさんたち。
 依頼が来なかったらそれはそれでいいと話し、シュピナート領にあるダンジョンの話に移った。
 シュピナート領にあるダンジョンは三つ。ひとつは領都に、あとのふたつは別々の少し大きな町にあるそうだ。
 山が近い関係で植物が豊富なダンジョンが多く、階層によっては海や川があったり、鉱石が採取できるという。もちろん、お肉もね!

「領都にあるダンジョンはどんな感じなんですか?」

 エアハルトさんに詳しいことを尋ねてみる。

「十五階層からなる中級ダンジョンだ。五階層ごとにボスがいる」
「そうなんですね」
「草原地帯、森、川、海の階層があって、ボス部屋だな。それが五階ごとに繰り返される、比較的簡単なダンジョンだ。罠などはないが、魔物がCランクとDランクで、中には状態異常を起こすものを吐き出す魔物もいる。だから中級ダンジョンに指定された」
「なるほど……薬草を採取したいから、せめて二階までは攻略してみたいです!」

 できれば海や川にも行ってみたいけど、さすがにそこまで潜れる時間はないと思ったからそう提案してみたら、五階まで行こうとアレクさんとナディさんが言ってきた。

「伯父様ならきっと、『五階まで潜る!』と言いそうですわ」
「言うだろうな、父上なら。俺たちを護衛に指名すると思う」
「左様でございますね」

 ナディさんにエアハルトさん、アレクさんまでもが訳知り顔で話している。

「どうしてですか?」
「父上もダンジョンに潜るのが大好きなんだよ。それに。SSランクに護衛してもらえる機会なんて、そうない。この機会を逃すとは思えないんだ」

 そういう理由なのかと驚く。
 まあ、未来の義父はどんな戦い方をするか興味があるし、それでもいいかと頷いた。
 宿はどうするかとかいろいろ話し合い、その日は拠点で晩ご飯をご馳走になって帰ってきた。
 ご飯は魚介たっぷりなドリアでした!


 その翌日の昼、休憩しているときにエアハルトさんが来た。苦笑していたからどうしたのかと思えば、案の定侯爵様から領地へ行くまでの護衛として、指名依頼が来たんだって。

「早いですね」
「まあな。これから父上のところに行って日程などを確認し、それから契約だな」
「わかりました。気をつけていってらっしゃい」
「おう」

 自分の父親とはいえ、指名依頼をもらった以上、客観的に話をしないといけない。でも、エアハルトさんはきちんとできる人だから心配はしていない。
 問題は私のほうで、未来の両親と一緒に行動するということに対してドキドキしている。
 気さくな方たちだとわかってはいるけど、どうしても緊張するのだ。
 なんというか……面接や偉い人に会ったときの感覚に似ているのかもしれない。
 どうしても緊張するし、本当に庶民の私がエアハルトさんと結婚していいのかとか……表立っては賛成してくれていても、心の中では反対しているんじゃないかという不安もあったりする。
 心配しすぎだとわかっていても、相手が侯爵家の方たちという部分が問題なのだ。この世界では身分の差がはっきりあるからね。
 こればかりはたくさん話をして、侯爵夫妻の為人ひととなりをきちんと確認しないとなあ……と溜息が出る。そうじゃないと、私の不安は残ったままになってしまうと思うから。
 せっかくなら、なんの不安や心配もなくエアハルトさんとの婚姻式を迎えたい。侯爵夫妻ともいい関係を築きたいしね。
 旅に出たら、たくさん話をしよう。……迷惑だと思われないといいな。
 そんな不安を抱えつつも母や従魔たちと店を切り盛りしたのだった。
 夜になってもう一度顔を出したエアハルトさん。きちんと依頼として請けてきたそうだ。
 もちろん、私の休みのことを話したうえで、出発日もお互いに納得済みだという。

「優衣は店があるだろう? だから、旅の準備は俺たちでやっておく」
「いいんですか?」
「ああ。その代わり、ポーションを頼むな。レベルの高いやつで頼む」
「わかりました」

 ハイ系以上は必要ないそうだ。なんでも【回復魔法】を使える私兵が数人いるから、ポーションだけで間に合ってしまうんだって。
 それに、回復なら私もラズも使えるし、神獣が多数いるから襲われる可能性も低い。そういう意味でも、よほどのことがない限りポーションがあれば大丈夫だろうとのこと。
 まあ、ダンジョンに潜ることになっているけど、中級ダンジョンならポーションとMPポーションで事足りる。
 ただ、なにかあったときのために神酒ソーマも持って行くことを決める。
 大丈夫だと思うし、エアハルトさんたちも必要ないと言っていたけど、そなえあればうれいなしっていうことわざもあるし、準備しておくことが大切だもの。

「俺たちだったら、下手すると【回復魔法】すら使わずに五階まで行けるだろうな」
「中級ダンジョンですしね」
「ああ。従魔たちの訓練にしてもいいし」

 なるほど。それはいいかも!
 なら、レベル五のポーションと、念のため万能薬を作っておけばいいかな。もしポーションが足りなくなりそうなら、ダンジョンにある薬草を使って作ればいいし。
 移動中なら、道端に生えている薬草で事足りてしまうから、足りなくなりそうなら採取して作ればいいよね。とはいえ、真冬だから薬草は生えていないかなあ……
 そういえば、単品での魔法解除系ポーションを作るのって久しぶりだなあ。
 練習しておいたほうがいいかな。
 念のためにと、庭にある薬草と持っている材料を使って一通り作ってみたけど、どれもきちんと作ることができた。もちろん、レベルの低いやつをね!

〈リンがそのポーションを作っているの、久しぶりに見た!〉
「そうだね。前はラズと一緒によく作ったね。久しぶりに作ってみる?」
〈うん!〉

 嬉しそうな顔をして、ぴょんぴょん跳ねるラズ。スミレと出会うまではラズと一緒に薬草を潰して、ポーションを作っていたんだよね。
 ラズが楽しそうに薬草を潰している姿を見て、なんだか懐かしくなった。
 あのときはここまで大人数になるとは思ってなかったなあ。
 従魔たちが増えて、みんながお手伝いしてくれるようになって。
 ちなみに、お手伝いの内容は口に咥えて薬草を持ってきてくれたりするのだ。可愛いよね。
 本当に賢い子たちばかりだし、とても強い。
 ありがたい半面、自分が情けなくなってくる。
 なんだか、自分だけ成長していないんじゃないかって思っちゃうんだよね。
 まあ、両親も従魔たちもエアハルトさんたちも、私はしっかり成長しているって言ってくれているから、自信をもたなきゃいけないんだけど。
 そんなことを考えつつ……初めて見る解除系のポーションを、興味津々な様子で眺めるラズ以外の従魔たちと眷属たち。
 彼らが来てからは一度も作っていないから、珍しいみたい。
 まあ、いつも作っているポーションと手間は変わらないから、すぐに作り終わっちゃったんだけどね!


 それから四日後。二週間の長期休みが来た。

「じゃあ、出発するぞ」

 エアハルトさんの合図に、アレクさんとナディさん、私とそれぞれの従魔たちが頷く。今回侯爵様が護衛依頼を出したのは、私たちだけだそうだ。
 本来ならば三組から四組の冒険者パーティーを雇って護衛にするそうなんだけど、従魔の数が多いからね~。侯爵様はそれを知っていたから、私たちだけに依頼したみたい。
 まだ早朝だけど、これから侯爵家にお迎えに行く。そこから北門に向かって移動し、北を目指すんだって。
 今回の旅に同行するのは、侯爵様ご夫妻と二人のお世話をする使用人が四人、私兵が二十人と若干少なめ、らしい。
 料理に関しては私たちに任せてほしいとエアハルトさんが提案したそうなので、料理人は一人だけだという。付いてくる料理人は、領地にいる人と交代する予定があったそうだ。
 そんな話をして待っていると馬車が二台、門に近づいてきた。
 護衛の私兵の中にはアキムさんもいる。
 そして護衛のみなさんはムキムキマッチョですよ~! 眼福がんぷくです!
 そんなことを考えていたら、エアハルトさんに睨まれてしまった。
 いいじゃないか、筋肉を見るくらい!

「領都まで頼む」
「かしこまりました」
「では、出立!」

 言葉を交わすエアハルトさんと侯爵様。侯爵様の掛け声で馬車が動き出す。
 先頭は馬に乗った私兵たちで、その次に使用人や料理人が乗っている馬車、私兵が乗っている馬車と続く。その次に侯爵ご夫妻がのっている馬車で、私たちの馬車が一番最後だ。
 ロキたちは街道に出てから馬車の外に出ることになっていて、スヴァルトルの頭の上にラズ、アレクさんの馬のところにはスミレがいる。いつも馬車で移動するときの護衛の仕方だ。
 十分も走ると、北門が見えてくる。出るときに少しやり取りをしただけで、すんなり通れた。
 まあ、入るときのほうが厳しいのは当たり前か。犯罪者を入れるわけにはいかないしね。
 北門が見えなくなるまでしばらくそのままの状態で走り、門が見えなくなったところでロキ一家とレン一家が外に出る。

〈エアハルト、先行したほうがいいか?〉

 ロキがエアハルトさんに指示を仰ぐ。

「できればそうしてくれるとありがたい」
〈承知〉
「みんな、気をつけてね!」
〈はーい!〉

 私の言葉を聞いたみんなは、元気に返事をして先行していく。
 冬場だから魔物が少ないとはいえ、まったくいないわけではない。
 フォレストウルフの集団やビッグホーンディア、そしてブラウンボアがたまーに襲ってくることがあるから、警戒は必要だ。
 ロキたちが先行して様子を見にいってくれるから、本当に助かる。
 そのおかげもあって、ゆっくり走っていた馬車が、徐々にそのスピードをあげていく。
 二時間も走ると、最初の休憩所に着いた。


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