転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

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本編 2

突撃!ハインツさんちのご飯 2

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 餃子は一人が担当して焼いているので任せ、料理長さんにはアレンジとして水餃子と揚げ餃子の話をした。興味津々な様子だったので、厨房にいる人数分だけ味見と称して作った結果、気に入ったもよう。

「水餃子は野菜たっぷりのスープに入れてもいいと思います」
「確かに。そうすれば野菜も一緒に摂れるし」

 料理人さんたちがなるほど! 頷いたあと、どんな野菜を入れたらいいかと話している。もしかしたらお昼か夜に出すのかも。
 ワンタンというのもあるけど、さすがに皮と種の作り方を知らないので、それは黙っておいた。ポロっとこぼそうものなら、絶対にレシピって言われると思うし。
 スマホで検索すればもしかしたら……って思うけど、そこまでの情熱はないし水餃子で充分だと思う。
 それはともかく、餃子の目処がついたので、いよいよ味噌を使った料理の開始。
 まずは簡単な山賊焼き。生姜焼きは作っているそうで、その味噌バージョンだというとさっそく作り始める。その間に出汁が取れたそうなので、豚汁ならぬオーク汁に使う材料を用意していもらい、切っていく。切れたら出汁の中に入れ、野菜とお肉が煮えたら味噌を投入。もちろん灰汁はとってもらう。
 あとはナスとピーマンを細長く切ったあと、ボウルに味噌と酒、砂糖を入れて溶かしたもので炒めた味噌炒めと、材料を変えた野菜炒め。

「ナスとピーマンのほうは、挽肉を入れても美味しいと思います」
「挽肉か。さっきのやつだよな?」
「はい。今回は味噌を使いましたけど、醤油でもできます」
「なるほどなあ」

 醤油の場合は挽肉がぽろぽろとこぼれる可能性があるから、水溶き片栗粉を入れてとろみをつけるとこぼれないかもしれないと話すと、なにやら思案顔。

「……水餃子を入れたスープに入れても問題ないか?」
「問題ないですけど、その場合はゆるくとろみをつけるのと、具材をシンプルにしたほうがいいかもしれません。玉ねぎとモロコンと溶き卵とか」
「ふむ……」
「スープに入れると確かにとろみはつきますけど、その分冷めにくくなるので、食べるときに火傷する可能性があるんです」
「あ~、なるほどな」

 寒い時期ならよさそうだなと言った料理人さんに頷く。冷めにくいんだから温かいまま飲めるし。
 まあ、夏の一歩手前の季節とはいえこの国の夜や雨季は肌寒いから、ちょうどいいと思う。
 そんな話をしたあと、今度は味噌漬けを教えた。味噌に砂糖かハチミツ、酒を入れてゆるしたあと、お肉や魚の切り身を漬け込むだけだ。

「漬け込む時間は好みがあるので、そこは試行錯誤していただけたらと」
「そうだな。理想はどれくらいだ?」
「うーん……。しょっぱいのがいいのであれば一晩漬けるのもいいですけど、今度は塩分の摂りすぎになりますしね。だいたい一、二時間くらいがいいと思います」
「なるほど。あとは本当に好みになるわけだ」
「はい」

 塩分の摂りすぎは高血圧の発症に繋がると、医師である父が言っていたと話すと、真剣な顔をした料理人さんたち。高血圧を発症すると、心臓だけではなく脳の病気にも繋がるから、本当に恐ろしいのだ。
 もちろんこの世界にもそういった病気に対する薬はあるけど、それでも日本にいたときに聞いたように、ずっと飲み続けなければならないという。
 もしかしたら神酒《ソーマ》で治る可能性もあるが試したことはないと言っていたし、高額な神酒《ソーマ》を治療に使うなど現実的じゃない、とも父は言っていた。だってねぇ……父の算出によると、一口だけといえど一万エン超える薬なんて、庶民には絶対に買えないじゃない。
 そういう意味でも現実的じゃないと判断しているんだって。
 そういった話も交え、野菜と肉のバランスは大切だと話すと、料理人さんたちもそこはわかっているようで、真剣な顔をして頷いた。

 おっと、脱線した。

 とりあえず味噌漬けの説明を終わらせたあと、実際にやってもらう。今回はボアと白身の魚で漬け込んでみた。
 他にもサバに似た青い魚を味噌煮にしたり、鮭と野菜でちゃんちゃん焼きにしたり。茹でたこんにゃくや野菜を焼いたものには田楽味噌のように甘いソースを作って垂らしてみたりと、あれこれ作った。
 味噌の見た目を誤魔化すためにゴマやネギを散らしたりもしたよ。
 最後に鮭を多めの魚介たっぷりな石狩鍋と、貝類の土手鍋を作って終了。貝類にしたのは、牡蠣が手に入らなかったからです。
 他にも料理はあるんだろうけど、私が知っているのはこれくらい。あとは試行錯誤していろいろ作ってほしいなあと思うし、母かマドカさんに聞いてもいいかも。
 そのときはハインツさんを通じてレシピを教えると約束した。そろそろお暇《いとま》しないとね。

「リンちゃん、ありがとな」
「食わず嫌いはよくないってよくわかったよ」
「料理人失格になるとこだったよ」
「これを基本にして、野菜や肉、魚を変えたりいろいろ試しに作ってみるな」

 そんなことを話す料理人さんたちに、笑顔で頷く。誰か連絡してくれたのか、ハインツさんが迎えにきて、そのまま馬車に乗り込み、ハインツさんちをあとにする。

「リン、今日はありがとう。とても助かった」
「いえ、こちらこそ。楽しかったです」

 自宅まで送ってもらい、そこで挨拶。
 今日はハインツさんのご家族と一緒に食事を摂ることはなかったけど、いつか食べに来てくれと料理人さんたちにも言われたし、馬車の中でも食事に来てほしいと、ハインツさんにも誘われている。そのときはお土産にお菓子を持っていこうと思う。
 帰る馬車を見送って、拠点にもなっている家に入る。

 とっても楽しい一日でした!

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