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番外編2

天界でクリスマス

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コミカライズスタート小話です。
そして今さらながら、4巻も発売中。コミカライズともども、よろしくお願いしまーす!


*******


 天界に来て最初のクリスマスの時期がやってきた。とはいえ、ゼーバルシュにはクリスマスなんてものはなく、やっているのはごく一部の人たちだけだ。
 貴族たちが食いつきそうなネタではあるんだけど、この時期は社交シーズンらしく、連日どこかの家で夜会やパーティーが開かれているんだからやりようがないともいう。
 まあ、どのみち異世界の神様だから、ゼーバルシュには関係ないんだけどね。
 天界限定で言えば、ご本人がいらっしゃるのでお祝いをするのは確実。地球の神様たちだけでやるんだろう、なんて思っていた時期がありました!

「リン~~~、助けて~~~!」
「うわっ! アントス様、どうしたんですか?」
「実はね……」

 主神会議なるものに出席していたアントス様が、泣きながら戻ってきた。何事かと思って理由を聞くと。
 なんと、クリスマスをやろうという話が出たという。しかも、十二月二十五日生まれの神様は他にもたくさんいらっしゃるし、三が日のうちに生まれた神様もいらっしゃる。
 日にちがわからない神様も多くいるし、年末年始はどこの世界の神様たちも忙しいことから、今年から十二月二十五日に全員祝おうという話になったらしい。
 特に地球担当の神様たちは、他の世界の神様たち以上に忙しいのと、担当地域ごとに神様がいる関係で一番数が多いらしく、誕生日のお祝いなんてやってらんねえ! ってことで決まったんだって。
 特に日本担当の神様なんて、八百万やおよろずもいらっしゃるもんねぇ……。他の世界の神様たち全部合わせても、日本担当の神様の数の足元にも及ばないんだとか。
 もちろんそれは地球の他の神様にも言えるわけで。
 しかも、地球を作ったのは日本担当の神様で、力があるはずのギリシャ神話やケルト神話の神様たちですら、アマテラス様たち三貴人の親ともいえるイザナギ様やイザナミ様、それ以前からいらっしゃった神様たちの足元にも及ばないなんて聞いた日には、乾いた笑いしか出なかった。
 ……そんな神様の裏事情なんて、知りたくなかったよ……。
 まあ、そんなわけで、日本担当の神様から忙しくなる前になんとかしてくれとブーイングが起きた。それだったら十二月二十五日ならどこの世界もまだ忙しくなる前だからと、この日に全員祝うことになったらしい。
 そこまではまあ、いい。問題は、料理や飲み物だ。
 一応全宇宙の神様たちで分担し、料理を持ち込むことになったのはいいんだけど、ゼーバルシュ担当はなんとお肉。もちろんうちが全部を担当するんじゃなくて、他にもいくつかの世界で分担したはいいものの、日本担当の神様全員から、ゼーバルシュ世界の肉を使った肉料理が食べたいとリクエストされたらしい。

「そんなわけでね……。リン、助けておくれよ~~~」
「まあ、それくらいはいいですよ。なったばかりとはいえ、私も神様の端くれですし」
「ありがとーーー!」

 ガバっと私に抱きついておいおい泣くアントス様。
 それを呆れたような目で見ている私の従魔たちと眷属たち、そして新たに私の護衛となった背後の人であるおじいちゃん。
 おじいちゃんは私のご先祖様の一人で、何度生まれ変わっても私を担当してくれていたんだって。今は私の子孫に空きはないし、暇だしでそのまま私の護衛をしてくれている。
 普段から侍が身に着けるような鎧と兜、刀を腰に佩いたうえに槍も持っていることから、アントス様やエアハルトさん、時空神であるティエン様から「老騎士」と呼ばれている。
 もちろん私の神獣や眷属たちだけでなく、ゼーバルシュにいる他の神獣や幻獣たちからもね。
 なんだかおじいちゃんが認められたみたいで、ちょっと嬉しい。
 ちなみに、ティエン様は女性である。

 おっと、話が逸れた。

 とにかく、日本の神様たちからリクエストされた以上、何か作らないといけない。何がいいかなあ。
 それよりも先にお肉を調達しないとだね。

「エアハルトさん、美味しいお肉ってなんですか?」
「そこは僕に聞くべきじゃないの!?」
「だって、アントス様に聞いても、明確な答えをもらったことって一度もないですし」
「ガーン……」
「エアハルトさんは冒険者の神だから、その手のことに詳しいですし」
「ガガーン…………」

 周囲にどんよりとしたものを発生させ、体育座りで落ち込むアントス様。
 あ、キノコが生えてきた。食べられるかな? ラズもそう思ったようで、アントス様から生えてきたキノコを採取している。

「ラズまで……」
<だって、美味しそうな匂いなんだもん。ラズには毒が効かないから、食べてみるね>

 私が止める前に、アントス様から採取したキノコを食べるラズ。体内に入れた途端プルプルと震え、珍しく頬を染めてにっこり微笑んだ。

<美味しいーー!>
「じゃあ、それも料理に使おうか」
<うん!>
「優衣……」

 エアハルトさんから呆れたように名前を呼ばれたけど、にっこり笑ってスルーする。

「で、エアハルトさん。お肉は……」
「はあ……。まあ、いい。肉、肉なあ……。南大陸に棲息している、キングブラックホーンバイソンはどうだ?」
「えっと……牛の魔物ですよね」
「ああ。以前、優衣が黒毛ナントカに味が似てるって言ってたやつだ」
「黒毛和牛! 絶対に美味しいやつ! それにしましょう! 他にはいないですか?」
「あとは――」

 中央大陸の鳥系統、西大陸の豚というかボア系統、北大陸のヘビ系統、東大陸の羊と馬のお肉のことも教えてもらった。その後、エアハルトさんと一緒に人に紛れてあちこちの大陸にあるダンジョンに潜り、美味しいと教えてもらったお肉の魔物を集めまくった。
 従魔と眷属だけじゃなく、神獣たちも手伝ってくれたから助かったよ~。お礼は料理をお裾分けすることで合意しているので、たくさん作らないとね!
 パーティーの前日までに肉料理をあれこれ作り、神獣たちに配ったあと、パーティー会場に向かう。
 といっても、会場は天界の中心地なんだけどね。
 あちこちに並べられているテーブルに、それぞれが持ち寄った料理を並べていく。たくさんの種類のパンにご飯、サラダやスープ、野菜を使ったものや果物、飲み物などなど、その世界にある料理や果物が並べられている。
 もちろんデザートもたくさんあって、見ていて楽しいし、どの料理や果物も美味しそう!
 デザートは一番豊富な種類がある地球の神様が担当したんだって。だからケーキや焼き菓子だけじゃなく、和菓子もあるのかと納得した。
 準備も終わり、それぞれ飲みたいものを手に持って合図を待っている。合図をするのは、大神と呼ばれる、神様を束ねている存在だ。

「それぞれがパーティーに向けて準備し、尽力してくれたことに感謝する。そして本日誕生日を迎えた者、これから迎える者、過ぎ去った者も含め、それぞれの誕生を祝おう。さあ、杯を掲げよ! 乾杯! おめでとう!」
『かんぱーい! おめでとう!』

 杯――聖杯を掲げ、乾杯と祝いの言葉を捧げる。ここからは無礼講と聞いているので、あとは知り合い同士で話したり料理を食べたりして楽しむ。
 まずは従魔たちと眷属たち、おじいちゃんとエアハルトさんに料理を分け、アントス様とティエン様にも分ける。ティエン様はずっと表に出てこれなかったから、本当にパーティーを楽しみにしていたみたい。
 しばらくはアントス様たちとおしゃべりをしていたけど、その後はアマテラス様に呼ばれて日本の神様たち全員に挨拶したり、人間だった時のお礼を伝えたり。
 他にもギリシャ神話の神々をはじめとした地球の神様たちとはじめましてのご挨拶をしたり、ゼウス様に口説かれてしまった時、ヘラ様がゼウス様にハリセンを喰らわせたのを見て唖然としたりと、楽しく過ごさせてもらった。
 まさか、ヘラ様もハリセンを持っているなんて思わなかったよ……。
 アントス様もティエン様も、まだまだ若い神様で下級神だというし、私とエアハルトさんに至っては、神様になったばかりで赤子同然だ。下級の下級ってところの位置にいる、まさに最底辺の神だ。
 パーティーの終わりになってサンタクロースとトナカイが仲間に加わり、あちこちにプレゼントを配ったあとは、「ここで終わりだから」と言って最後までいてパーティー料理を楽しんでいた。
 なんと、サンタさんも神様の一人で、トナカイは神獣なんだって。これにはびっくりだよ!

 なんだかんだと、日付が変わるまで楽しんだあと、片付けをして解散。最後に孫やひ孫、玄孫の様子をこっそりのぞいたあと、ゼーバルシュの天界に帰ってきた。
 サンタさんからのプレゼントは内緒。とても心温まるものだったと言っておこう。

 地球ほどではないけど、ゼーバルシュの年末は忙しい。それまでの間に掃除をしつつ、神様の修業に励もうと思う。

 みんなが幸せてありますようにと、祈りを捧げた。
 メリークリスマス!

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