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4巻
4-3
しおりを挟む「リン、エアハルト、いらっしゃい」
「「おじゃまします」」
ヨシキさんが私たちを迎えてくれた。
それにしても、どこで餅つきをやるのかと思っていたら庭に臼などが置いてある。蒸し器も既に準備されていて、湯気が上がっていた。用意周到だなあ……
「あ、そうだ。ヨシキさん、私の事情のことで、エアハルトさんを含めて『アーミーズ』のみなさんに相談があるんです」
「わかった。だが、先に餅つきをしよう。話は飯を食べながらでもできるからな」
「わかりました。あ。これがもち米です。小豆に似たアジュキと枝豆もあるんですけど、いりますか?」
「ありがとう! 助かる!」
庭に案内されてすぐ、アジュキをマドカさんに、枝豆を母に渡す。すると、二人はすぐに料理に取りかかった。もち米はヨシキさんに渡したよ。
私とエアハルトさんはもち米洗いを手伝い、ミナさんとカヨさんが洗ったもち米をざるにあけたりしていた。本当なら一晩つけておくんだけど、魔法で水をぐいぐい吸わせている。
なんて強引な方法なんだろう……。まあ、それだけ急いで食べたいってことなんだろうね。
セイジさんや他の人もそれぞれ動いて、餅つきの準備をしている。
もち米が蒸しあがるまでは簡単なつまみでお腹を誤魔化し、蒸しあがったら臼に入れてつき始める。コツコツと杵がぶつかる音がして、そこから徐々にペタペタという音に変わる。
おお、懐かしい音!
そこからはぺったんぺったんと交代でついていく。臼が二台と杵が四本あるから、それぞれ分かれて餅をついているのだ。
杵を持っているのはヨシキさんやセイジさんをはじめとした元自衛官たちで、合いの手だっけ? お餅をひっくり返しているのは、ライゾウさんやミナさんとカヨさんだ。
母とマドカさんは枝豆をずんだにしたり、アジュキを煮たり、お雑煮を作ったりしている。今回は醤油ベースのすまし汁のようだ。
もちろん私も餅つきをさせてもらったし、エアハルトさんもおっかなびっくりしながらも、楽しそうに餅つきをしていた。私も久しぶりで、とっても楽しかった!
従魔たちは応援の掛け声をしてくれたよ!
「おお、こうやってモチってやつを作るのか。面白いな、これ」
「でしょう?」
『アーミーズ』のみなさんと餅つきができて、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。
つき終えたお餅はそれぞれ小さく千切って丸め、餡子などを始めとした様々な味付けをしている。
味付けは、餡子とずんだ、大根おろし、納豆に胡麻、お雑煮。変り種としてチーズもあった。もちろん、定番の磯辺もある。
私一人だとここまで本格的に作れないから懐かしいし、ここ何年も餅つきをしてないから本当に嬉しい! 従魔たちも、本格的な餅つきにはしゃいでいるしね。
餅つきも終わり、それぞれがテーブルに座る。これから実食。楽しみ~!
自分が食べたいものを取って食べるスタイルにしたみたいで、テーブルのあちこちにいろんな種類のお餅が置いてあった。
私はチーズと磯辺、お雑煮を持ってくる。お雑煮には鶏肉や野菜がたっぷり入っていて、かなり豪華だ。足りなければおかわりをしよう。
そして従魔たちはずんだが気になるようで、まずはずんだを食べている。
小さくなった彼らを見た女性陣が抱き上げようとしたり触ろうとしたりするんだけど、ひょいっ! と避けて、絶対に触らせなかった。
〈何度言えばわかるのだ? 我らはリンにしか触らせないと言っておるだろう!〉
〈そうにゃ。我らを触っていいのはリンだけにゃ!〉
〈話は聞くにゃ、でもそれだけにゃ!〉
「「「「うう~、ずるい、優衣ちゃん!」」」」
「そんなこと言われても……。契約者の特権としか言いようがないですよ」
本当にブレないなあ、従魔たちは。
そんな従魔たちに女性陣はがっくりと項垂れ、男性陣が笑っている。
「で、相談ってなんだい?」
お餅を食べながらヨシキさんが話しかけてくれる。
「『フライハイト』のメンバーに、私のことを話したいと思っているんです。グレイさんとユーリアさんのことは信頼しているんですけど、二人は王族に近い立場なのである意味怖いんですよね……」
「そうだな。従魔たちのことは話したのか?」
「話しました。登録のし直しも終わっていますし。もちろん、口止めをしました。ただ、王族にだけは話すと言っていたので、どうなるのかが不安で……」
悪いようにはならないとは思うけど、種族が種族だけに、王族の誰かから話がもれて、従魔たちが狙われやしないかかなり不安なのだ。
それに、もしかしたら私自身も狙われるかもしれない。
従魔たちは、ダンジョンの中は別として、基本的に私の言うことしか聞かないから。
お馬鹿な貴族とか……ね。今はほとんどいないってグレイさんが言っていたけど、あくどいことを考えたり魔が差したりする人はどこにでもいるわけで……
「以前も言ったが、エアハルトはともかく、俺たちはエアハルト以外の『フライハイト』のメンバーを知らないからな。まだ話さないほうがいいとしか言いようがない」
「そうだな。俺もまだ話さないほうがいいと思う」
「ヨシキさん、エアハルトさん……」
「グレイとユーリアがどう考えるかはわからないが、王家に連なる者として、ユイが渡り人だと王族に知らせようとするかもしれない。ラズたちのことを話したばかりだろう? 王族はまだ混乱しているはずだ。それに加えてユイが渡り人だと知られてみろ、下手をすれば王宮に監禁されるかもしれない」
「ですよね……」
そうなのだ。
王様がそんなことをするとは思えないし、グレイさんたちが守ってくれると思うけど、なにかで読んだ話のように、渡り人がこの国に有用な知識を持っていると考えて監禁されたりするかもしれないじゃないか。
私が持っている知識なんて、たいしたことはない。みなさんに教えたものだけだよ? 主に料理。あとは簿記かなあ。
むしろ、転生者である『アーミーズ』のみなさんのほうがヤバイと思うんだよね。天寿を全うしてこの世界に転生した分、私よりも知識が豊富だと思うから。
だからこそ、『アーミーズ』のみなさんは自分から転生者だってことは言ったりしないんだとか。
それを聞いていたからこそ、私も躊躇ったというのもある。
うーん、難しい。
「話すにしても、タクミとミユキが一緒にいたほうがいいな」
「そうだな。俺のときもそうだったし」
「そうですね。わかりました。もう少し待ってみます。従魔たちに対して王様たちがどうするつもりかもわからないし、タイミングを計ります」
「ああ」
そのほうがいいと頷くエアハルトさんとヨシキさん。
「そういえば……今さらなんですけど、こんなところで話しちゃいましたけど、大丈夫ですか?」
「本当に今さらだな、優衣。まあ、大丈夫だよ。ここの庭だけじゃなくて、家全体にも防音の結界が張られているから」
「さすが。用意周到ですねぇ」
話したあとで気づくなんて、遅すぎるよね~、私。
これだとアントス様のことを言えなくなると若干凹みつつ、また雑談を始めた。
その後、堅苦しい話は終わり! とばかりに、再びお餅をつき始める『アーミーズ』のみなさん。今度は保存用に豆餅やよもぎ餅を作り、餡子があるから、草餅というか草まんじゅうも作るんだって。
おお、草まんじゅう! 私も食べたい!
薬草の中によもぎがあるからね。母と一緒に提供しましたとも。
「いいですね、これ。餡子はそんなに甘くないのに、草餅との相性は抜群です! 美味しい!」
「そうだな。いいな、このクサモチってやつも」
「硬くなるからお土産に持たせられないけれど、たくさん食べてね。その代わり、豆餅とよもぎ餅は持って帰って」
「ありがとう、ミユキ」
ん~~~! これは美味しい! もう一個食べようかな?
食べ過ぎたら明日の休みにダンジョンに潜って、運動しよう……
私は【無限収納】があるから、草まんじゅうをお土産にたくさんもらうことにした。従魔たちが気に入ったみたいで、すっごい勢いで食べている。
そんな勢いで食べるとお餅を喉に詰まらせるよ? なんて心配したんだけど、小さく切ってから食べさせているからなのか、そんな心配は杞憂に終わった。
その代わり、お餅に慣れているはずのセイジさんが喉に詰まらせて、ヨシキさんに叱られたりしていた。大事に至らなくてよかったよ。
その後もみんなでわいわいと騒ぎながらお餅を食べて、その他にもお惣菜やおかずも食べて。
みんなどれだけ食べるんだろう……。さすがに私はお腹いっぱいだ。
従魔たちもお腹がいっぱいになったのか、まったりしながら毛繕いをしている。
夜も更けてきたし、寝るにはまだ早いけど、そろそろお暇しないといけない時間だ。
「いい時間ですし、そろそろ帰りますね」
「じゃあ俺も一緒に帰ろう」
「お、そうか。もち米や豆を提供してくれてありがとう、優衣」
「助かったわ」
「いいえ。こちらこそ、ご馳走になってありがとうございました。美味しかったです!」
「ああ、とても美味かった。ありがとう」
お互いにありがとうと言い合って、『アーミーズ』の拠点をあとにする。
うう、お腹が苦しい……。食べすぎてしまった……
明日の休みにダンジョンに行こうと決め、エアハルトさんと一緒に歩く。
「楽しかったか? リン」
「はい! エアハルトさんはどうでしたか?」
「ああ、楽しかった。たまには冒険者仲間とわいわい騒ぐのもいいよな」
「ですよね」
外だから呼び方がリンに戻ってしまったのが、なんだか寂しいなあ。
まあ、バレても困るから仕方がないんだけどね。
他にもどのお餅が美味しかったとか、また食べたいとか……エアハルトさんや従魔たちと話しながら歩いていると、あっという間に『フライハイト』の拠点に着いてしまった。
「ありがとうございました、エアハルトさん」
「こっちもありがとう。おやすみ、リン」
「おやすみなさい」
挨拶をして、裏庭から自宅に戻る。途中でココッコたちの様子を見たけど、みんなすやすやと寝ていた。可愛いなあ。
ちゃっかりスマホで写真を撮ってから家の中に入り、扉にしっかり鍵をかける。
〈まだ腹がいっぱいだ……〉
〈ラズも〉
〈スミレモ〉
「私もだよ……。明日はなにをしたい? 私は運動がてらダンジョンに潜りたいんだけど、どうかな」
〈〈〈〈〈〈〈〈行く!〉〉〉〉〉〉〉〉
みんなも動きたかったようで、提案したら即答された。
その後、従魔たちだけの集合写真と私を含めたみんなの写真を撮り、お風呂に入る。小さいサイズになっているから、一緒に入って洗ってあげた。
あがったあとは簡単にダンジョンに潜る用意をして、さっさと眠りにつく。
今日も一緒に寝たいみたいで、小さいサイズのままベッドに上がってきた従魔たち。
うーん、もふもふツルスベ具合が堪りません!
「おやすみ、みんな」
〈〈〈〈〈〈〈〈おやすみ~〉〉〉〉〉〉〉〉
すぐにあちこちから寝息が聞こえてきて、それを聞いた私もいつの間にか寝ていた。
お休みの今日は夜明け前から起き出して、従魔たちと西にある上級ダンジョンに行く。
ここのところ買い取りが少ない薬草やキノコ、野草など食材の採取。そして、お餅を食べ過ぎてしまったので運動するのが目的だ。
もともと出回っていた魚はともかく、他の魚介類は市場や商会に並んでいる数がまだまだ少ない。なので、自分たちが食べる分を捕りに行くのだ。
西門を出るとすぐにロキに跨り、ダンジョンを目指す。神獣になったからなのか、走るスピードが前よりも速くなっていて驚く。
それにしても、ロキかラズが風除けのような魔法を使っているのか、まったく風の抵抗を受けないのには驚いた。
あっという間にダンジョンに着いたのでギルドの建物の中に入ってカードを提示し、ダンジョンの中に入る。その後、第五階層に転移して、そこで薬草採取を開始です。
第六階層を目指しながら薬草などを採取する。従魔たちは戦闘をしながら果物を採ってくれたし、スミレはわさびの実を採ってくれている。もちろん、ラズは薬草採取を手伝ってくれた。
第五階層で不足していた薬草などをたっぷりと採取したあと、第六階層に下りる。まずはセーフティーエリアを目指し、魔物と戦いながらドロップした魚介類を袋に入れて歩く。
従魔たちがはりきっちゃって、嬉々として戦闘していた。
魚介類が大好きだからね~、従魔たちは。今回も率先して戦闘しているし……
もちろん私も従魔たちと一緒に戦闘をした。
動かないとヤバイからね、私も。連携しつつ、しっかり運動しましたとも。
アズラエルのレベルとランクも上げないと。武器の性能が一段階上がったからなのか、戦闘は楽だけど、その分レベルとランクが上がりにくくなっている。
さすが、伝説の武器だよね。
途中で休憩を挟みつつ、奥のほうにある帰還の魔法陣の近くまで戦闘しながら移動する。
夕飯の時間までダンジョンに潜り、たくさんの魚介類をゲットして帰ってきた。
とってもいい運動になりました!
翌日、ココッコたちや薬草のお世話をしたあと、ポーションを作る。
薬草類をたくさんゲットしてきたから、私自身はほくほくした気分だ。ラズもすり潰すのを手伝ってくれるから、本当に助かる。
進化したからなのか、ラズは今まですり潰せなかった薬草も潰せるようになって、ご機嫌な様子で手伝ってくれているのがなんとも可愛い。
そのうち、簡単なポーションなら作れるようになるかもしれない。
そのあとで朝御飯を食べ、私は開店準備。今日の店番はロキとレンだ。
進化したことで普段のサイズだと店に入れなくなってしまったから、柴犬と猫サイズになっている。カウンターの上から店内を監視したり、歩いたり……
大きいのもよかったけど、小さいのもまたいい! 可愛い!
内心で悶えつつポーションを並べていると、ラズが近寄ってきて手伝ってくれた。
「よし、こんなもんかな? ありがとう、ラズ」
〈うん! じゃあ、庭で薬草の世話をしてくる〉
「ありがとう。採れそうなのがあったら、採っていいからね」
〈はーい〉
触手を出して返事をしたラズは、五色のスライムになって庭のほうへと行った。
おお、久しぶりに見たよ、五色に分かれたラズを。五色になると小さくなるから、あれはあれで可愛いんだよね~。
ほっこりしつつ鍵とカーテンを開けて、店を開ける。
今日も今日とて、冒険者が来てくれた。本当にありがたいなあ。
感謝しつつ、今日も頑張るぞ! と気合いを入れた。
第二章 再び王族と
休み明けの今日、明日から二週間ダンジョンに潜るからとグレイさんがポーションを買いにきた。話があると言うので、お昼休みの時間にもう一度来てもらったんだけど……
「リン、僕たちがダンジョンから戻ってきたら、休みの日に僕と一緒に城に来てほしいんだ」
「あ~、アレですか? 従魔たちのことで?」
「そう。父上と兄上が、本当に神獣なのか一度確認をしたいと言い出してね」
「なるほど。薬草の数がちょっと心配だったので泊まりでダンジョンに行こうと思ってたんですけど……。仕方ないですもんね。いいですよ」
「すまない。その分、僕たちがたくさん採取してくるから」
ミルクティーを飲みながら、本当に申し訳なさそうな顔をして謝るグレイさん。
まあ、本当に神獣かを疑うのは仕方ないよね。
私だって当事者じゃなかったら、彼らのことを直接【アナライズ】で見ない限り信じないと思うし。
その後、必要な薬草を教えてほしいというので紙に書いて渡した。
その数の多さにグレイさんは苦笑していたけど、種類が多いだけで数量自体は多くないからね。
いつものように店を開き、お休みのときは森に行ったり、日帰りでダンジョンに行ったりしながらすごした二週間後、エアハルトさんたちが帰ってきた。
買い取り分やお願いしたものとは別に、たくさんの薬草やキノコなどを採取してきてくれた。
「お疲れ様でした。わ~! こんなにたくさん! ありがとうございます!」
「構わない。僕たちは仲間でしょ?」
「それでも嬉しいです!」
いつもは麻袋がひとつなんだけど、相当頑張ったのか、麻袋が三つもあった。買い取ったのは一袋分だけど、それ以外はお土産ということでいただいてしまった……
ちょっと申し訳ないと思ったけど、ありがたくいただいておきますとも。
「で、例の件で話をしたいんだけど……」
「なら、夕方拠点に行きます。それでいいですか? グレイさんたちも帰ってきたばかりだし、休憩したいですよね」
「うん、ちょっとは休みたいかな。なら、夕方にご飯を食べながらね」
「はい」
今はお昼前だからね~。四人揃って顔を出してくれたんだけど、本当に疲れた顔をしていた。だから、夕方に行くと話したのだ。お客さんもいたしね。
なんだかんだとあっという間に夕方になったので、閉店作業とココッコたち、薬草の世話をしてから拠点に行く。ハンスさんのご飯を食べるのも久しぶりだなあ。
出されたご飯は野菜やお肉が入ったトルティーヤと、玉ねぎがたっぷり入った卵スープでした。
それはともかく。
グレイさんに、次の休みはいつか聞かれたので明日だと答えた。
「なら、さっそく明日なんだけど、僕と城に行ってほしいんだ」
「もちろん、従魔たちも一緒にですよね」
「ああ。確認したらすぐに帰れると思うけど、どうなるかわからないのが心配なんだよね……」
〈そうなった場合、我らが暴れるが、構わないな?〉
〈そうにゃ。神獣とわかっていてリンを呼びつけるにゃ。城を壊されても文句を言えないにゃ〉
〈殺シテイイ?〉
「「それはダメ」」
一番過激な発言をしたスミレにグレイさんと一緒になってギョッとしたものの、しっかり窘めておく。じゃないと本当に殺りかねないんだもん、スミレをはじめとした従魔たちは。
そういえばスミレは神獣になったからなのか、話し方が滑らかになった。本当に凄いなあ、従魔たちは。
「もちろん、お城を壊すのもダメだ」
〈それは王族次第だな。リンを蔑ろにしたり傷つけたり、命令したりするようであれば〉
〈我らは城を壊すにゃ〉
〈一部と半壊と全壊、どれでも好きなものを選んで〉
〈場合ニヨッテハ、殺ス〉
「……わかった。改めて手紙で父上と兄上に注意しておくよ……」
従魔たちの過激な発言は止まらず、グレイさんはがっくりと項垂れ、疲れたように手紙を書き始めた。従魔たちがすみません。
ちなみに他の三人は苦笑している。
でも、私は嬉しいかな。これなら余計なちょっかいをかけられないだろうし、もし従魔たちや私に対する態度がとんでもないものなら、神酒を一切納品しないことにすればいいしね。
「じゃあ、これを父上に頼む」
〈クエー〉
手紙を書き終えたグレイさんは、彼が大切にしている鷹に似た鳥型の魔物に手紙をくくりつけた。この魔物はグレイさんの従魔で、主に手紙を運ぶ役目をしてくれるんだとか。
いろんな従魔がいるんだなあ。
そのあとで明日の出発の時間と集合場所を決めて、解散した。
そして翌日。
「……馬車、ですか」
「ああ、みんなで乗っていこう」
「なら、ロキたちは小さくならないとダメですね」
「そのほうがいいだろう。そうすれば、王宮に入るまで誰にも見られることがないしね」
グレイさんの言葉に納得する。
途中で貴族に見つかって、ややこしいことになると困るってことなんだろう。私だって困るよ、従魔たちが暴れる可能性もあるから。
そんなこんなで馬車に乗り、王宮へと行く。写真を見ただけで名前は覚えていないんだけど、ドイツにあるようなお城に似ていた。その大きさに圧倒されて、言葉が出ない。
それに対して、従魔たちは落ち着いたものだった。うぅ……情けない。
だって、日本のお城ですら写真でしか見たことがないんだよ?
海外に行ったこともないんだから、そんなお城なんて見られないじゃん。
しかも、王都にいても間近で見る機会なんて滅多にないし。緊張しますとも!
「さあ、着いた。ここは王族しか入れない区画だから、ロキたちは元にもどっても大丈夫だよ」
馬車から降りると、目の前には大きな扉があった。
真っ白い壁と赤い屋根、扉の上にある壁には剣を咥えた獅子が飾られている。
この国の守護獣は獅子だってエアハルトさんが言っていたから、それでなんだろう。
グレイさんに言われたからなのか、馬車から飛び降りるとロキたちはすぐに本来の大きさになっていた。
グレイさんにエスコートされて扉に近づくと、騎士たちが扉を開けてくれた。
騎士たちは従魔たちの姿に驚いて、顔色を若干青ざめさせている。
扉を開けると広い廊下があった。ところどころに花が飾られていたり、人物画がかけられている。みんな王冠を被ってマントを羽織っているから、歴代の王様なのかもしれない。
案内してくれたのは執事服を着た人だ。私たちのうしろには扉を開けてくれた騎士がいる。
執事服を着た人に案内してもらいながらしばらく歩くと、重厚な雰囲気を醸し出した扉に辿り着いた。うう……緊張する~。
「陛下、ローレンス様がお見えになりました。お連れ様もご一緒です」
「そうか。通してくれ」
部屋に入ると以前会った王様と宰相様、王様を若くしたような男性が座っていた。
腰掛けるように言われたので恐縮しながら座ると、すぐに執事服を着た人から紅茶が配られる。
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