転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

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4巻

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   第一章 進化した従魔じゅうまたち


 リンこと私――鈴原すずはら優衣ゆいは、ハローワークからの帰り道、アントス様という神様のうっかりミスで、異世界――ゼーバルシュに落ちてしまった。
 どうやら日本には戻れないらしい……ということで、私はアントス様からお詫びに授かったチートな調薬スキルを活かし、薬師としてポーション屋を営むことになったのだ。
 異世界に来てから一年とちょっと。
 大変なこともあったけれど、楽しい思い出がたくさんある。
 まず、私を慕ってくれる従魔じゅうまたちとの出会い。
 ハウススライムのラズに、凶悪な蜘蛛くものスミレ。
 スミレの元仲魔なかまだという魔物たち、ロキとロック。そしてレンとシマ、ソラとユキ。
 すっごく賢くて優しくて、私が主人でいいのかと心配になるくらい、とても強い従魔じゅうまたちだ。
 つい最近は、私が所属する冒険者パーティー『フライハイト』のみんなで温泉旅行にも行った。温泉はとてもよかったんだけど、スリに狙われただけじゃなくて、スタンピードにまで巻き込まれてしまった。
 尋常じんじょうではない町の様子と、怪我をした人々。人目があるところでチートを発揮するのは嫌だったけど、私は薬師だ。見られてもいいやと全力で怪我を治したあと、メンバーや他の冒険者、騎士たちと一緒に魔物を殲滅せんめつし、スタンピードを終息させた。
 それに、旅行先や再び戻ってきた王都では懐かしい人々と再会することができたのだ。
 そう、以前から知り合いだった、ドラゴン族のヨシキさんと彼がリーダーを務めるパーティー『アーミーズ』のみなさんが転生者と判明!
 しかも彼らは、私の前世の知り合い……私がよく見学していた駐屯地ちゅうとんちの自衛官だったり、私がお世話になっていた孤児院によく来てくれていた医者と看護師、商店街の人たちばかりだったのだ!
 思い返すと恥ずかしいけど、まさか、懐かしい人たちに会えると思わなくて、嬉しくて泣いてしまった。
 そして、前世から私を養女にしたいと思っていたという、医師のタクミさんとその妻で薬師のミユキさんの願いを受け、彼らの養女になることを決めたのだ。
 そのときに、エアハルトさんに私がこの世界に落ちて来た渡り人だと伝えた。
 話したことで関係が変わったらと思うと恐ろしかったけど、エアハルトさんは態度を変えることなく、そのままでいてくれる。
 そして今日、養子縁組の書類を提出し、晴れて私は、二人の子どもになった。
 それを祝ってくれた『アーミーズ』のみなさんとエアハルトさん。とても嬉しくて……
 ご飯を食べているとあっという間に時間は過ぎていった。


 お昼ご飯をご馳走になったあと、母と二人で自分の家に帰ってきた。もちろん、一緒にポーションを作るのだ。

「もう一度万能薬からお願いしてもいいかしら」
「いいですよ」

 作業台の上に万能薬の材料を並べると、母も同じように並べる。
 まずは最初に習う方法で万能薬を作ろう。あれですよ、乳鉢を使ってすり潰したりする作業をやるわけです。
 これがかなり面倒なんだよね。なにせ、薬草の種類に応じてすり潰して液体を抽出したり、葉っぱを刻んだり。それらをひとつひとつ丁寧にやらないと、ちゃんとした万能薬にならないのだ。時間もかかるし。
 もちろんそれはどのポーション作りにも言えるわけで……。初級よりも中級、中級よりも上級とランクが上がるにつれて、難易度もそうだけど、使う薬草の種類と手間が増えていく。
 増えるからこそ、難易度が上がるともいうが。

「ポーションを作るときにいつも思うけれど、本当に面倒よね、この工程って。その分使う魔力は少なくてすむけれど」
「そうなんですよね。私は魔力が王族並みに高いそうです。だから私は魔力でやっているんですけど、アントス様から隠しなさいと言われています」
「そうね。魔力で作る方法は、習得するまでに十年以上かかるもの」

 習得に十年以上かかるのは、薬師のスキルがそこまで育つのに時間がかかるからだ。魔力だけで作るには、手作業で何度もポーションを完璧に作り、ポーション作りを理解する必要がある。
 そして理解したあとは、毎日魔力を使い切ることで自分の魔力の総量を底上げし、ポーションを作り続けることでスキルを上限に近づけていく必要がある。
 魔力だけでポーションを作るのは作業時間が短くて便利だけど、習得するまでにたくさん努力したからこその恩恵おんけいなのだ。
 私の場合はアントス様が体に知識や経験を染み込ませてくれたことと、レベルMAX状態でスキルを授けてくれたからこそ、できる芸当ともいえる。
 特に神酒ソーマと、作っちゃいけないアレとかソレとか。
 そこは本当にアントス様に感謝してるけど、結果的にチートになってしまったのはいただけないよね。
 時々話などをしながら、薬草を乳鉢でゴリゴリとすり潰す。室内に響くのはその音だけだ。
 そんな音に飽きたのか、従魔じゅうまたちは庭へ遊びに行った。
 いつもは魔力で一発だからねー。飽きるのもしょうがない。
 それから一時間かけて全部の薬草をすり潰した。

「これを集めて、魔力をそそぐと……」
「……ふう……。私もできたわ」

 できた万能薬を交換して、お互いの出来を確かめる。
 うん、きちんとできてるのはさすがです!

「これなら大丈夫ですね。次はなにを作りますか?」
「そうねぇ……ハイ系は大丈夫だから、やっぱりハイパー系かしら。材料が違っていたから、不安なの」
「材料が違うって……。そういうのって、師匠に教わるんですよね? アレンジしたものってことなんですか?」
「そうよ。場所によっては手に入らない薬草があるもの。だから、同じ成分の薬草かそれに近いものを使うの。まあ、この国の王都はダンジョンがたくさんあるから、正規の薬草で作れるのがいいわね」

 なるほど。ダンジョンのおかげで、材料がきちんと揃っているのか~。
 確かにどこのダンジョンに行っても薬草があるし、特別ダンジョンに至っては、ハイ系以上のものに使う薬草が生えているもんね。

「ドラール国はどうだったんですか?」
「ドラールは植物オンリーのダンジョンがあったから、正規のものが揃っていたわ。ただ、師匠は面倒臭がりというか頑固な人でね……。頑なに、自分が習った方法や薬草でしか教えなかったの」
「あ~、いますよね、そういう人って。そのせいで、商人ギルドや冒険者ギルドに持ち込んでも買ってもらえない人や、鑑定書や認定書を出してもらえない人がいるんですね」
「勿体ないわよね。せっかく正規の材料が揃うんだから、きちんと学びたいわ」

 ハイパーポーションの材料を揃え、ゴリゴリと薬草を潰しながらそんな話をする私たち。母と話しながらなにかをするってこういうことなんだなあ……って、ちょっと感動している。
 なんだかんだと一時間、潰し終えたので魔力を注入して、ポーションに仕上げる。

「まあ! まあまあまあ! 初めてだったのに、作れたわ!」
「よかったですね、ママ。この調子でハイパーMPポーションを作りましょうか」
「待って待って、私はもう魔力がないの! 今日は終わりにしない?」
「ふふふ……。ここに、ハイパーMPポーションがありまーす。これを飲んで、頑張りましょう~」
「えええ⁉ 優衣ったら意外と鬼だったわ……」

 いいじゃないか、魔力を使い切ったってことは、その分総量の底上げに繋がるんだから。
 そんな話をしたらガックリと項垂うなだれ、結局ポーションを飲んだ母。
 本人も総量の底上げの必要があることはわかっているようで、飲んだら復習と称してまたハイパーポーションを作ったあと、ハイパーMPポーションも作っていた。
 MPもきちんとできていたので、またハイパーMPポーションを飲んでもらい、今度は魔力だけで作る練習。これができるようになると、作業が本当に楽になるのだ。
 ちなみに、手作業でも魔力でも、一回に作れるポーションの数は三十本が限度だ。それ以上は作れないようになっているみたいで、何度試しても三十本から増えることはなかった。

「ふぅ……。どうかしら……。レベルが微妙だから、不安なんだけれど」
「大丈夫みたいですね」

 母が魔力だけで作ったものを、確認のために二人で一本一本見る。
 うん、きちんとできているのはさすがだ。こういうところは尊敬する。


「優衣に教わってよかったわ! 師匠だとハイパー系は微妙だったのよ」
「よかったです! ついでに神酒ソーマも作ってみますか?」
「そうね……レベルが微妙だけれど、挑戦してみようかしら」
「わかりました。じゃあ、材料からですね」

 ダンジョンに現れる魔物……イビルバイパーをはじめとした内臓系の素材や薬草をすべて並べると、母の顔が引きつっていた。
 まあ、しょうがないよね。ぶっちゃけた話、神酒ソーマの材料って、今までの薬草類を全種類使うんだから。
 それでいて出来上がるのは、どう頑張っても十本なんだから、あの値段になるのも納得する。
 で、三度みたびゴリゴリし始めたんだけど……

「イビルバイパーの処理が難しい……! あと、なに、この薬草! まったく抽出できないじゃないの……」
「うーん……。たぶん、レベルが足りないのかもしれませんね」
「そうよね……。ハイパーがギリギリで扱えるところだし、確実にレベルが足りないわね。優衣は今、薬師のスキルのレベルはいくつなの?」
「MAXですね」
「あ~! カンストしてるなら当たり前よね!」

 おお、MAXのことをカンストって言うのか~! って、そうじゃなくて。母ですらそこまでいってないって……ヤバイ……! アントス様ってば、本当にチート能力をつけたんかーい!
 アントス様のテヘペロ、って顔が思い浮かぶよ……

「ああ~、失敗しそうだから、これ以上手を出すのをやめておくわね」
「じゃあ、このまま作っちゃいますね」

 作業途中だったけど、魔力を注いでさっさと神酒ソーマに変える。それを見た母は、呆れたように溜息をついた。
 ハイパー系を作れることがわかっただけでも嬉しかったのか、終始ご機嫌だった母。
 その後も自分で持ってきた材料がなくなるまでハイパー系と万能薬を練習していた。できたポーションは『アーミーズ』に使ってもらうように、全部持って帰ってもらう。
 私が作ったものと母が作ったものでは、ポーションのランクが違うからだ。認定書に載っているレベルと同じものじゃないと店に出せないので、持って帰ってもらうしかない。
 もちろん、今回私自身が作ったものは店の在庫として並べるつもりだ。
 時間が少しだけ余ったのでミルクティーをれ、義弟のリョウくんの話を聞く。ぐずったりすることもあるけど、比較的穏やかでいい子だそうだ。
 好奇心旺盛こうきしんおうせいみたいで、メンバーたちの尻尾を追いかけたり、ぬいぐるみを抱いて寝たりもしているらしい。
 おお、それは一度見てみたいなあ。可愛いだろうね!

「今度、リョウくんと遊んでもいいですか?」
「優衣はお姉さんになったんだもの。いつでも遊びにきていいわよ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて、そのうち遊びに行きますね」

 スミレがデスタラテクト時代に織った布が余っているから、それでなにかプレゼントを作ってみよう。やっぱりぬいぐるみかな?
 ただ、私は不器用ってわけではないけど器用でもないから、うまく作れるかどうかわからないんだよね。そう考えると、なにを作るか迷う。それは追々おいおい考えるとして。
 そろそろおいとまするというので、通りまで母を見送る。
 姿が見えなくなってからは庭へと行き、従魔じゅうまたちやココッコたちと戯れた。
 そのあと薬草の世話をして、ココッコたちを小屋に入れ、ご飯の支度をした。そしてお風呂に入ったり従魔じゅうまたちと戯れたりしているうちに眠くなってきたので、ベッドに潜り込む。

「今日はいろいろあったなあ……」

 先生たちの子どもになって、母と一緒にポーションを作って。
 小さなころに一度は憧れた、「家族と一緒になにかをやる」ということが、この歳になってから実現するだなんて思わなかった。
 ただ、それが日本ではなく、異世界で……というのがなんだか寂しいけど、そういう運命というか星のもとに生まれたのだから仕方がないのかも。日本にいたら絶対にできなかったことだし、もしかしたら私の守護をしている背後の人の能力が高すぎるせいで、結婚すらできなかった可能性もあるのだ。
 結婚に対して夢は見ていないけど……そんな人が現れるといいなあと思ったとき、なぜかエアハルトさんの顔がチラついた。

「うーん……うーーーん…………」

 なぜエアハルトさんを思い浮かべたのか、考えたけどわからない。わからないことをそのままにしたらダメだと思うんだけど、どうしてもわからないことはわからないのだ。

「まあいっか。みんなー、寝るよー」
〈〈〈〈〈〈〈〈はーい!〉〉〉〉〉〉〉〉

 今日はベッドの上で、みんなで寝る。まだまだ夜は冷えるから助かるし、嬉しい。みんなの毛皮はとってもあったかくて、すぐ寝入ってしまった。


 先生たちの子どもになってから、早一ヶ月が過ぎた。
 その一ヶ月の間にヨシキさんたちは初級と中級ダンジョンを踏破とうはして、中級ダンジョンボスからかなりいい防具をもらったんだとか。
 おお。さすがSランク、ずいぶん早いね! 驚きました!
 そのときに薬草をたくさんいただいた。もちろん、買い取りもしたよ。


 そして別の日にはエアハルトさんたち『フライハイト』からも、たくさんの薬草やイビルバイパーの内臓とお肉、ブラックバイソンのお肉や魚介類をお土産にもらった。
 薬草とイビルバイパーの内臓は買い取ったけど、お肉と魚介類はもらってしまった。
 ヨシキさんのときもそうだけど、きちんと全部買い取るって言ったんだよ?
 だけど、依頼として受けている分はともかく、他は彼らからの善意や厚意だからと言われてしまうと、受け取らざるを得ないわけで……
 くぅ……っ! 自分のこの性格がうらめしい!
 まあ、それはともかく。
 かなりの量の薬草が集まったし、毎日それなりの量の薬草を買い取っているので、しばらく在庫は大丈夫そうだと安心する。

「ロキ、ちょっと私の前に来てくれる?」
〈どうした?〉

 ココッコたちと薬草の世話をしたあと、ロキを呼ぶ。
 一番体格というか、体高がいいからね、ロキは。私の身長がどれだけ伸びたのか、測るのに最適なのだ。
 成長痛がくる前は目の前にロキの口があって、目を合わせるために見上げていた。だけど。

〈リン、少し高くなったか?〉
「やっぱり? 身長が伸びてる~!」
〈それでも、まだまだ小さい部類ではあるがな〉
「……だよねー!」

 今はロキの目が目の前にある。伸びたのはだいたい十五センチから二十センチくらいかな?
 ロキにも突っ込まれたけど、この世界の基準からすると、私はまだまだ小さい部類なのだ。やっと身長が百八十センチくらいになったわけだけど、女性ですら小さくても百九十五センチくらい、高いと二メートルを軽く超える人ばかりだからね、この世界って。
 それを考えると、百六十五センチなんて子どもに見えて当たり前だ。
 お礼にロキをもふり倒していたら、他の従魔じゅうまたちが〈ロキだけずるい!〉と言ってわらわらと寄ってきた。
 しかも、ココッコたちも足元にわらわらと寄ってきたものだから、私は必然的に押し倒される形になるわけで。
 そのまま従魔じゅうまたちにもふりもふられてしばらく戯れたあと、汚れてしまった服を綺麗にしてから開店準備をする。
 そして開店して一番にやってきたのは、『あおやり』のリーダーであるスヴェンさんだった。

「おはようございます。珍しいですね、一番なんて」
「まあな。てか、しばらく見かけなかったが、少し背が伸びたか? だけどまだまだちっせえなあ、リンちゃんは」
「余計なお世話ですよ、スヴェンさん!」
「「「「「「「あははははっ!」」」」」」」
「みなさんも笑わないでくださいよ!」

 スヴェンさんが気づいてくれたのは嬉しかったんだけど、まだまだ小さいと言われてしまった挙げ句、他の冒険者にも笑われてしまった。悔しい……!
 父曰く、私の骨格的に、伸びてもあと五センチが限度だろうと言われているから、これが限界なんだときっぱり諦めた。
 まあ、どのみちこの世界の住人じゃないんだから、伸びないのは当たり前なんだけどね!

「確かに小さいですけど、少しでも伸びたんだからいいじゃないですか!」
「まあな。ただ、どのみち少し背が高いだけの子どもに見られることには変わらないからな?」
「うう……」

 からかわれるように言われてしまい、がっくりと項垂うなだれたのだった。
 その後、スヴェンさんは神酒ソーマを含めたポーションを限界まで買っていき、他の冒険者も神酒ソーマは買わないものの、他のポーションを限界まで買っていってくれた。
 毎回思うけど、自分の武器や防具のメンテナンスもしてるはずなのに、みんなどこにそんなお金を隠してるんだろうね⁉
 やっぱり上級ダンジョンって儲かるんだろうなあって思った。物にもよるけど、素材の値段がけたちがいだし。
 そんなこんなでお昼も過ぎ、午後も同じようにからかわれつつ営業した。
 そして売り上げを持って商人ギルドに預けたら……

「おめでとうございます。今回でお店がAランクに上がりました」
「ほんとですか⁉ やった!」

 個室に案内されて、私を担当してくれているキャメリーさんが入金額を確認してくれていたんだけど、とうとうAランクに上がると言われた。
 それにともなって税金額が少しだけ上がるとも言われたけど、なんの問題もない。
 税金を納めるにしても毎月、半年ごと、一年ごと、数年ごととあって、まとめて納めるとちょっとだけ安くなるというので、とりあえず一年分の税金を納めた。
 キャメリーさんには、「豪快ですね」と笑われちゃったよ……
 いいんだよ。家族や仲間ができたし、冒険者とも仲良くなったから、今のところこの国から出ていく予定もないからね。
 ランクが上がったので、お店を広くしたり大きくしたりできるそうなんだけど、売っている商品数が少ないこともあり、どっちも必要ないので断った。

「確かにポーション屋ですと、売るものが決まっていらっしゃいますしね」
「そうなんです。最近は医師のお薬も置いていますけど、それだって基本的なものばかりですし」
「あら? 医師の薬も置くようになったんですか?」
「はい。養父が医師なので、その関係で……」
「なるほど」

 そういえば言っていなかったとキャメリーさんに謝罪すると、手続きなどは必要ないので大丈夫と言われた。罰金があったらどうしようかと思ったよ。
 Sランクになるためには今以上の売り上げが必要となるそうで、いっそう頑張ろうと思う。
 まあ、Sランクに上がるには数年以上かかるらしいので、いつも通りのんびりと、自分のしたいようにします!


 先生たちと家族になって一ヶ月半。

〈リン、そろそろダンジョンに潜りたい〉
〈〈〈〈我らもにゃー〉〉〉〉
〈オレも!〉
〈ラズも!〉
〈スミレ、モ!〉
「わ~……」

 とうとう従魔じゅうまたちがダンジョンに潜りたいと言い出した。
 いつかは言うだろうと思ってたけど、こんなに早いとは思わなかったよ……

「潜るのは構わないけど、パパたちがダンジョンから帰ってきてからじゃないと、行けないよ?」
〈む……〉
「日帰りでいいなら明日の休みでもいいけど、何日もとなるとママがいないと無理だから。それでいいなら行くけど、どうする?」

 そう、母がいないと無理なのだ。店番だけならララさんとルルさんに任せられるけど、ポーション類が足りなくなったときの問題があるからだ。
 あと、ココッコたちの世話も。
『アーミーズ』は五日前から西の上級ダンジョンに全員で潜っている。
 なので、数日間留守にするには、彼らが帰ってこないと無理。
 神酒ソーマはそんなに出るものじゃないから、三十本から五十本くらい置いておけば一週間はつだろうけど、さすがにハイパー系とハイ系、万能薬はそうもいかない。一日に出る数からすると、二日か三日が限度だ。
 しかも、母がこの店の基準で作れるポーションとなると、ハイ系と万能薬のみ。
 なので、その他の分は私が作らないとダメなのだ。ストックしておくにしても、どのみち大量の薬草が必要となるしね。
 それをきちんと説明したら、また従魔じゅうまたちだけで話し合いを始めた。
 ココッコという言葉が聞こえたので、しっかりくぎを刺しておく。

「ココッコたちも連れて行きたいからって、従魔じゅうまにするというのはなしだから」
〈う……わかった〉
「で、どうするか決めたの?」
〈とりあえず、日帰りで一日だけ潜りたい。それ以外は、ミユキと話し合ってからでもいい〉
「それならいいよ」

 我儘わがままを言われなくてよかったよ。まあ、従魔じゅうまたちはあまり我儘わがままは言わないんだけどね。
 言ったとしてもご飯のおかずに関することだけなのだ。
 そこだけは本当に助かっている。
 で、どこのダンジョンがいいか聞いたら、潜ったことのない北の上級ダンジョンか、特別ダンジョンがいいという。
 イビルバイパーとビッグシープ、レインボーロック鳥のお肉をたくさん食べたいんだって。

「北の上級ダンジョンは、エアハルトさんたちに連れて行ってもらったほうがいいと思うんだけど、どうする?」
〈そのほうがいいだろうな。我らだけでも問題ないだろうが、行ったことのない階層だと、どのような敵が出るのかわからない以上、下手に手を出すべきではない〉
「だよね~。なら、イビルバイパーとビッグシープ、レインボーロック鳥狙いで特別ダンジョンに潜ろうか。ついでに薬草採取もしよう」
〈〈〈〈〈〈〈〈やった!〉〉〉〉〉〉〉〉

 よっぽどダンジョンに潜りたかったんだね。許可を出した途端、従魔じゅうまたちはすっごく喜んだよ。


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