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3巻
3-2
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私がネームドってなんだっけ? と思い出している間に、ブラックベアが雄たけびを上げて立ち上がった。立ち上がった姿は、三メートル近い高さがある。これはデカい!
「グルアァァアッ!」
〈〈ガオーーーン!〉〉
ブラックベアと、ロキとロックの【咆哮】がぶつかり合う。勝ったのはロキたちだった。
ブラックベアの動きが止まったその隙を見逃さず、すかさずラズとスミレが拘束。【咆哮】の硬直から逃れたブラックベアはもがいて逃げだそうとするが、もちろん、私たちが取り逃がすはずもなく……
ロックが放った【土魔法】で穴を掘り、そこに落として再びブラックベアの動きを封じた。
すぐにレンとシマ、ソラとユキ、そして私たちの魔法がそこに着弾する。
ドーーーン‼
爆発と共に炎上したので、【風魔法】を使って煙を掃う。
すると、ブラックベアの片腕が取れているのが見えた。
それ以上の手負いになる前にと大鎌を振るうと、首が綺麗に落ちた。
「……ふう。従魔たちがいたおかげで、なんとかなったな」
「そうだね」
「ですが、どうしてネームドが……」
無事に倒すことができてやっと話す余裕が出てきたんだけど……
「あの、ネームドってなんでしたっけ?」
「個々の名前が与えられるほど強い魔物の総称だ。このブラックベアの場合は、オルソという名前だな」
私がずっと抱いていた疑問にエアハルトさんが答えてくれる。
そういえば、外にいる魔物で名前がついているものがいるって聞いたことがある気がする。
そのことなんだとやっと理解できた。
ただ、森の深い場所とはいえ、どうしてこんなところにネームドがいたのかわからない。
なにかあったのかもしれないからと解体せず、念のために冒険者ギルドに持って行くことになった。
「せっかくの肝臓と心臓が……」
「ははっ! リンはぶれないね。解体しても問題ないってわかったら、ちゃんと交渉して、もらってくるから」
せっかくのブラックベアなのにと悲しんでいると、グレイさんが声をかけてくれた。
「わ~! ありがとうございます、グレイさん!」
できればお肉も食べてみたいと言うユーリアさんに全員で頷き、冒険者ギルドへ向かう。
その日の夜。お目当ての肝臓と心臓をもらい、みんなで熊肉のステーキとスープを食べているときに聞いたんだけど、どうやらあのブラックベアは隣国から来たらしく、冒険者ギルドが注意喚起の通達を出すところだったそうだ。
その前に私たちが遭遇して倒してしまったから、ギルマスに「よくやった!」と褒められ、討伐の報奨金をたくさんもらった。
解体した中でいらない素材を売ったお金に加えて、それも山分けしてくれたので、お財布がパンパンになった、とだけ言っておく。
そんなトラブルがあった数日後。
今日から五日間、特別ダンジョンに潜る予定だ。
特別ダンジョンは広さとしては初級ダンジョンと中級ダンジョンの間くらいだけど、出てくる魔物が上級の上層か中層に出るようなものばかりなので、ゆっくりめのペースで移動するんだそうだ。
セーフティーエリアは各階層にふたつずつあって、第二階層に限り、行きは下りる階段に近いほう、帰りは上る階段に近いほうに泊まるんだって。
特別ダンジョンまでは、スレイプニルを使った馬車で一時間くらいらしい。
結構遠いんだなあ。今までで一番遠いかもしれない。
御者はアレクさん。エアハルトさんの馬であるスヴァルトルの頭の上にスミレが、グレイさんの馬であるセランデルの頭の上にはラズがのって警戒している。
レンたち一家とロキたち一家は、並走したり馬車のうしろを走ったりしていた。
とても強い従魔たちがいるおかげか、森や草原に生息している魔物は私たちの馬車に一切寄って来ない。
スライムやホーンラビットに至っては、馬車を見ただけで、逃げ出していた。
時間があるので、エアハルトさんにもう一度、特別ダンジョンではどんな魔物が出るのか教えてもらい、しっかり頭に叩き込む。
常に戦っている人のほうが経験が豊富だし、より良い戦い方や弱点を知っているからだ。確認の意味でも、しっかり聞いておく。
そんなことをしている間にダンジョンに着いた。
預かり所でスレイプニルたちと馬車を預かってもらい、ダンジョン手前にある建物でレベルなどのチェックを済ます。
そして肝心の特別ダンジョンだけど、入口はどこも一緒なのかな?
この特別ダンジョンの入口も、石でできたアーチ型だった。
まずは第一階層。
ここは草原がほとんどを占めていて、一部に岩山がある。ビーンという絹さやのような形をしている手足がついた植物の魔物とレインボーロック鳥、ビッグシープとビッグスライムが出るんだそうだ。スライムって本当にどこにでもいるんだね。スライムゼリーが安いのも納得だ。
そしてビーンは、ユーリアさんが欲しいと言っていた豆腐をドロップするらしい。
「あれ? ビーンっていう魔物は、醤油や味噌を落とすんじゃないんですか?」
前にそんなことを聞いた気がする。
不思議に思ったのでエアハルトさんに尋ねてみる。
「ショーユやミソも落とすが、どうも体色によって落とす物が違うらしくてな。未だにはっきりとわかっていないらしい」
「なるほど。ちなみに、醤油と味噌は何色ですか?」
「ショーユが赤、ミソが茶色だよ。あと、未確定だがトーフは白、アブラアゲが黄色、アツアゲが黄色と白のまだらだという情報がある」
「そうなんですね!」
「あとはレアなものとして緑がいるんだが……逃げ足が速くてまだ誰も討伐に成功していないから、なにを落とすのかわかっていない」
ほ~、緑もいるのか。緑って、まさか枝豆かグリーンピースじゃないよね?
どっちでもいいから、出会えないかな。なんか、豆ご飯が食べたくなってきた!
「じゃあ、採取するか。リン、頼む」
「はい。みんなもお手伝いをお願いね」
〈〈〈〈〈〈〈〈わかった!〉〉〉〉〉〉〉〉
今のところ周囲には敵がいないので、まずは採取。スキルを発動させて、周囲を見渡す。
「おお? なんか、いろいろな薬草がありますね」
「本当か⁉」
中級ダンジョンにもあった薬草が見つかったので、それをメンバーのみんなに教える。
「ラズ、一緒にお願い。ロキたちもお手伝いしてほしいけど、警戒もしてね」
〈うん〉
〈〈〈〈〈〈〈わかった〉〉〉〉〉〉〉
私も一緒に採取しながら、特別ダンジョンにしかない薬草やキノコを探したんだけど、こんなところで松茸っぽいキノコを発見したよ!
名前はマッツタケ。そんなにたくさんは生えてなかったんだけど、移動しながら探したからなのか、最終的に結構な数が採れた。
みんなに食い気味にお願いされたので、晩ご飯にはマッツタケを使ったものを作ることに。
マッツタケを採取していると、突然ロキが声をあげた。
〈リン、ビーンがいる。緑だ〉
「え、ほんと⁉ 倒せる?」
〈やる〉
〈マカ、セテ〉
ロキの警告を聞いてラズとスミレがささっと動き、触手と糸で緑ビーンを捕まえる。
捕まったことに気づいた緑ビーンだけど、ラズの触手とスミレの蜘蛛糸からは逃げられない。
その状態でエアハルトさんが剣で斬ると、アイテムをドロップして姿を消した。
落ちたのは魔石と、緑色のさやがたくさんついた植物。
「なんだ、これは? 初めて見るが……」
エアハルトさんは不思議そうな顔をしているけど……
「もしかして……枝豆⁉」
見たことがあるその姿に、慌てて【アナライズ】を発動する。
【枝豆】
さやに入っている、食用の豆
塩茹ですることで食べられるようになる
エールやワイン、ビールのお供に相応しい一品
おおう、まんま枝豆でした! そしてさらっと書かれているけれどビールがあることに驚いた!
「エダマメってなんだ? それにビール? どんなものだ?」
エアハルトさんが興味津々な様子で質問してくる。
「枝豆は説明の通り、食材です。塩茹でしてそのまま食べてもいいし、豆ご飯にしてもいいし、スープに入れてもいいし。ビールは発泡したお酒ですね」
「ビールってやつは酒なのか……」
「この場にあったとしても、ダンジョンでは飲めないね」
「残念でございますね」
「本当に……」
私以外のみんなが残念がっている。
「ビールか……。たしか、ドラール国で造っていると聞いたような……」
グレイさんがなにか思い出したのか、口を開いた。
「ほんとか⁉ グレイ!」
お酒好きなエアハルトさんが嬉しそうな声をあげた。
「ああ。違っていると困るから、帰ったら父上か宰相に聞いて確認してみるよ」
グレイさんいわく、ビールはここ百年くらいの間にできた新しいお酒らしい。
ここ百年ってことは……まさかと思うんだけど、転生者がレシピを伝えたりしてないよね?
……まさか、ね。
もしかしたら渡り人の可能性もあるけど、ここ百年なら転生者のほうが可能性が高い気がする。
最後に召喚があったのが二千年前だから、レシピを伝えたのが渡り人だとするともっと前から広まっていてもおかしくないもんね。
もし本当に転生者がいるのなら、その人に会って話してみたいなあ。
〈リン?〉
「あ、ごめんね。大丈夫だよ」
ラズから心配そうに声をかけられて、意識を戻す。
今はダンジョンだから、きちんと集中しないと。
考えるのは家に帰ってからでもできることだから。
なにより、メンバーや従魔たちに心配をかけたくないし、もし私がぼんやりしていたせいでみんなが怪我してしまったら、薬師として自分のことが許せない。
一旦それは置いといて。
緑ビーン一体につき五株もの枝豆を落としたので、しっかりパーティー用の麻袋に入れる。
「よし。次に見かけたら、すぐに倒していいからな」
〈うん!〉
〈ヤル〉
〈〈〈〈〈〈〈〈任せろ!〉〉〉〉〉〉〉〉
エアハルトさんの指示を受けて従魔たちは殺る気いっぱいだ。
今度は赤と茶色のビーンが三体ずつ出てきたので、みんなで戦闘する。
落としたのは事前情報通り、醤油と味噌、そして魔石だ。
「ミソとショーユの依頼数はあといくつだ?」
「二十ずつですわ」
「先が思いやられますが、ここは結構赤と茶が出ますから、すぐに依頼達成となるのではないでしょうか」
「そうだね」
ドロップ品を拾いながら、そんな話をするみんな。
この戦闘を皮切りに赤と茶、それに混じって白と黄色、まだらのビーンが出る。次々に倒してはドロップと魔石を拾う。そして何回か戦闘するうちに、白は豆腐、黄色は油揚げ、まだらは厚揚げをドロップすることが確定した。
こういう情報を持ち帰ることも、冒険者の仕事のひとつなんだって。
そして、薬草やキノコに交じって、さつまいもと山芋が見つかった。見つけたのはソラとユキだ。
「お~、さつまいもは焼き芋にしよう。山芋はお好み焼きかな」
〈焼き芋ってにゃんだにゃ?〉
ソラが目をキラキラ輝かせて聞いてくる。
「そのままだよ。この赤い芋を焼いて食べるの」
〈美味しいにゃ?〉
「甘くて美味しいよ! あとで作ってあげるね」
〈〈やったにゃー!〉〉
甘い物が好きな二匹はとても喜んでいる。
山芋に関してはダンジョン内で作るつもりはないけど、お好み焼きやスープに入れてもいいし、短冊切りにして揚げても美味しいと思う。
うーん……海苔があればなあ。そうすれば、磯辺揚げができるのに……残念。
採れるだけ採って、リュックに入れる。
そんなこんなで採取したり戦闘をしたりしてセーフティーエリアを目指して歩いていると、体高二メートルもある大きな羊の魔物、ビッグシープと戦闘をしている冒険者がいた。
戦闘が終わり、ドロップを拾う五人の冒険者。
顔を上げたうちの二人は、私もよく見知った顔だった。
「あれは……フォレクマーさんとミケランダさん?」
「「あ」」
私の呟きが聞こえたのだろう……顔をこちらに向けて驚いた顔をしたのは、本当に冒険者ギルドのマスターのフォレクマーさんと、サブマスターのミケランダさんだった。
さすが、獣人族、耳がいいね!
「お久しぶりです。どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「簡単に言うと、ギルマスとサブマスをクビになって、冒険者に戻ったんだ」
苦笑いをしながら言うフォレクマーさん。
「はい?」
エアハルトさんたちメンバーは知っていたみたいだけど、私は初耳だったので驚く。
まあ、私は基本的に冒険者ギルドに行かないんだから、知らないのは当然か。
フォレクマーさん曰く、二人していろいろとミスした結果、私の店の件が決定打になってギルドを統括している国からお叱りを受けたそうだ。
そのときに冒険者に戻るか、ギルドマスターを辞めて他の仕事をするか選択を迫られたという。
なので冒険者に戻ることを選択し、以前仲間だったメンバーとパーティーを再結成して、ダンジョンの攻略をしているらしい。
「そうなんですね」
「ずいぶんあっさりしているが、それだけなのか?」
「たしかに当時は怒っていましたけど、それはやらかした冒険者に対し、きちんと対処しなかった冒険者ギルドにであって、フォレクマーさんやミケランダさん個人にではないです」
「「え……」」
「え、って……。まさか、お二人に対して怒っていると思ってたんですか?」
そう聞くと、気まずそうな顔をしながらも二人は頷いた。
だから、店にもポーションを買いに行けなかったらしい。
「まあ、まったく怒っていないというのは嘘になりますけど、今さら怒るようなことはしませんよ。それでも気にするなら、今度、お店にポーションを買いに来てください。あと、ビッグシープの狩り方を教えてください。それで相殺にしますから」
「そんなことでいいのか?」
「いいですよ~。別に、安く売るわけじゃありませんし」
「そうか……。すまなかった、リン」
「すみません、リン」
フォレクマーさんとミケランダさんが改めて謝罪してくれたのでそれを受け入れ、ビッグシープの攻略方法を教わった。
なんというか、フォレクマーさんたちは根っからの冒険者なんだと感じたよ。
だから冒険者としての腕や個人での指導はとても優れているけど、全体を纏める指導力というのかな……それが足りなかったんじゃないかって思う。
だって、戦闘をしているときの二人はとても生き生きしていたし、攻略方法もとても丁寧にわかりやすく教えてくれたもの。
蟠りがまったくないわけじゃないけど、もう終わったこと。謝罪を受けたのにいつまでも引き摺っているのは違うと思うし、私の性分じゃない。
「じゃあ、戻ったら買いに行かせてもらうよ」
「それまでに稼ぐわね」
「はい! 楽しみに待っていますね」
フォレクマーさんたちと握手を交わし、別れた。
そして、待っていてくれたみんなのところに戻る。
なんか、呆れているような……。なんで?
「リン、もっと怒ってもよかったんだぞ? それだけのことをされたんだから」
腕を組みながら言うエアハルトさん。
「もう終わったことじゃないですか。いつまでも引き摺っているのは違いますよ」
「リンはいい子ですわね」
ユーリアさんは私を見て微笑んでいる。
「お店に来てほしいという打算も欲望もあります。なので、全然いい子じゃないです」
そんな話をしてから採取と討伐に戻る。
この階層でまだ狩っていないのが、ビッグシープとビッグスライムだけだ。
早く出会わないかな……なんて考えていたら、ビッグスライム、レインボーロック鳥、いろんな色のビーンが出てきた。
それらの魔物を難なく倒し、再びセーフティーエリアを目指していると、ビッグシープに出くわした。その数、三体。
「ビッグシープだな。みんな、頼むぞ」
「「「「了解」」」」
〈〈〈〈〈〈〈〈任せて!〉〉〉〉〉〉〉〉
ビッグシープは体高があるから倒すのは容易ではないけど、攻略法がきちんとある。
脚を攻撃し、頭が下がったところで首を攻撃するか、【土魔法】で穴を掘って落とし、目や首を攻撃するのだ。
ビッグシープの体は分厚い体毛に覆われていて剣や槍が弾かれてしまうので、目や首など弱い部分を重点的に攻撃するとフォレクマーさんたちが教えてくれた。
なので、私たちも同じ方法で戦闘開始。
ロキが【咆哮】で足止めし、ロックが【土魔法】で足元に穴を掘り、穴に落ちたところを見計って首を攻撃する。それでも動くようなら、ラズとスミレが拘束。
私は一番左のビッグシープを大鎌で斬りつけた。
一回では首を斬り落とせなかったので、私のあとに続いてレンとシマが攻撃。
それでも倒れないので今度はソラとユキが攻撃し、そこで光の粒子となった。
みんなのほうを見ると、穴に落ちたビッグシープの首を攻撃し、戦闘が終了していた。
今回のドロップはみんな同じで、魔石と、大量の羊毛と毛糸だ。
お~、毛糸もあるのか、この世界は。絨毯があるんだから、毛糸があるのも納得だけどね。
「……よし。もうじきセーフティーエリアだ。ドロップを拾ったら移動する。気を引き締めろ」
エアハルトさんの言葉に、みんなで頷く。
羊毛は商人と冒険者両方のギルドから依頼が出ているので、別々の麻袋に入れる。
そして、再びビッグシープが現れ、それを難なく倒したその直後……
ちょうど経験値が溜まったようで、ラズ以外の従魔たちがその場で次々に進化した。
私は素直に嬉しくて、「これなら間違って従魔たちを攻撃されなくてすむ」と、胸を撫で下ろしたのだけど……ロキの進化先には私を含めたみんなが驚いた。
まず、スミレはデスタイラントに進化して、体が一回り小さくなった。体色は変わらないけど、目が赤くなった。
ロックはヘルハウンドという種族になり、体色や体格はそのままだけど、幼さが消えて精悍な顔つきになった。
レンとシマ、ソラとユキは、サーバルキャットになった。体色は全員そのままで、体格はより細くしなやかに、一回り大きくなった。
そしてロキは天狼という、珍しい種族になった。体色はチャコールグレーから明るめのグレーになり、一回り大きくなり脚も太く大きくなった。
天狼は魔物図鑑にのっていない種族。
過去に目撃されたのは十万年前で、昔の文献に記載されているだけだそうだ。
それほどに珍しい種族らしい。
それぞれがSランクの魔物なんだけど……
立派になったねぇ、みんな! 主人として誇らしいし、とても嬉しい!
ラズはみんなを見て羨ましそうにしながら、〈エンペラーだから、これ以上は進化しないよ〉と言っていた。
「今のままでいいんだよ」という気持ちをこめてラズを撫で、セーフティーエリアに入る。
さて、今日のお昼の担当はアレクさん。なにが出るのかな?
「リン、コメの炊き方をもう一度教えてくださいますか? どうにも焦げてしまって、うまくいかないのです」
申し訳なさげな表情をして言うアレクさん。
「いいですよ。焦げるってことは、火加減が強すぎるんだと思うんです」
今までもアレクさんを含めたみんなにご飯の炊き方を教えているんだけど、やっぱり火加減で引っかかるみたい。アレクさんの言葉を聞いた全員が集まってきて、私の話を聞いている。
もう一度つきっきりで火加減を教えると、今度は焦がさずにご飯が炊けたと喜んでいた。
スープはダンジョンで採れたホーレン草と持ってきた卵で、あっさり塩味。
おかずはさっきドロップした、レインボーロック鳥の串焼き。
「グルアァァアッ!」
〈〈ガオーーーン!〉〉
ブラックベアと、ロキとロックの【咆哮】がぶつかり合う。勝ったのはロキたちだった。
ブラックベアの動きが止まったその隙を見逃さず、すかさずラズとスミレが拘束。【咆哮】の硬直から逃れたブラックベアはもがいて逃げだそうとするが、もちろん、私たちが取り逃がすはずもなく……
ロックが放った【土魔法】で穴を掘り、そこに落として再びブラックベアの動きを封じた。
すぐにレンとシマ、ソラとユキ、そして私たちの魔法がそこに着弾する。
ドーーーン‼
爆発と共に炎上したので、【風魔法】を使って煙を掃う。
すると、ブラックベアの片腕が取れているのが見えた。
それ以上の手負いになる前にと大鎌を振るうと、首が綺麗に落ちた。
「……ふう。従魔たちがいたおかげで、なんとかなったな」
「そうだね」
「ですが、どうしてネームドが……」
無事に倒すことができてやっと話す余裕が出てきたんだけど……
「あの、ネームドってなんでしたっけ?」
「個々の名前が与えられるほど強い魔物の総称だ。このブラックベアの場合は、オルソという名前だな」
私がずっと抱いていた疑問にエアハルトさんが答えてくれる。
そういえば、外にいる魔物で名前がついているものがいるって聞いたことがある気がする。
そのことなんだとやっと理解できた。
ただ、森の深い場所とはいえ、どうしてこんなところにネームドがいたのかわからない。
なにかあったのかもしれないからと解体せず、念のために冒険者ギルドに持って行くことになった。
「せっかくの肝臓と心臓が……」
「ははっ! リンはぶれないね。解体しても問題ないってわかったら、ちゃんと交渉して、もらってくるから」
せっかくのブラックベアなのにと悲しんでいると、グレイさんが声をかけてくれた。
「わ~! ありがとうございます、グレイさん!」
できればお肉も食べてみたいと言うユーリアさんに全員で頷き、冒険者ギルドへ向かう。
その日の夜。お目当ての肝臓と心臓をもらい、みんなで熊肉のステーキとスープを食べているときに聞いたんだけど、どうやらあのブラックベアは隣国から来たらしく、冒険者ギルドが注意喚起の通達を出すところだったそうだ。
その前に私たちが遭遇して倒してしまったから、ギルマスに「よくやった!」と褒められ、討伐の報奨金をたくさんもらった。
解体した中でいらない素材を売ったお金に加えて、それも山分けしてくれたので、お財布がパンパンになった、とだけ言っておく。
そんなトラブルがあった数日後。
今日から五日間、特別ダンジョンに潜る予定だ。
特別ダンジョンは広さとしては初級ダンジョンと中級ダンジョンの間くらいだけど、出てくる魔物が上級の上層か中層に出るようなものばかりなので、ゆっくりめのペースで移動するんだそうだ。
セーフティーエリアは各階層にふたつずつあって、第二階層に限り、行きは下りる階段に近いほう、帰りは上る階段に近いほうに泊まるんだって。
特別ダンジョンまでは、スレイプニルを使った馬車で一時間くらいらしい。
結構遠いんだなあ。今までで一番遠いかもしれない。
御者はアレクさん。エアハルトさんの馬であるスヴァルトルの頭の上にスミレが、グレイさんの馬であるセランデルの頭の上にはラズがのって警戒している。
レンたち一家とロキたち一家は、並走したり馬車のうしろを走ったりしていた。
とても強い従魔たちがいるおかげか、森や草原に生息している魔物は私たちの馬車に一切寄って来ない。
スライムやホーンラビットに至っては、馬車を見ただけで、逃げ出していた。
時間があるので、エアハルトさんにもう一度、特別ダンジョンではどんな魔物が出るのか教えてもらい、しっかり頭に叩き込む。
常に戦っている人のほうが経験が豊富だし、より良い戦い方や弱点を知っているからだ。確認の意味でも、しっかり聞いておく。
そんなことをしている間にダンジョンに着いた。
預かり所でスレイプニルたちと馬車を預かってもらい、ダンジョン手前にある建物でレベルなどのチェックを済ます。
そして肝心の特別ダンジョンだけど、入口はどこも一緒なのかな?
この特別ダンジョンの入口も、石でできたアーチ型だった。
まずは第一階層。
ここは草原がほとんどを占めていて、一部に岩山がある。ビーンという絹さやのような形をしている手足がついた植物の魔物とレインボーロック鳥、ビッグシープとビッグスライムが出るんだそうだ。スライムって本当にどこにでもいるんだね。スライムゼリーが安いのも納得だ。
そしてビーンは、ユーリアさんが欲しいと言っていた豆腐をドロップするらしい。
「あれ? ビーンっていう魔物は、醤油や味噌を落とすんじゃないんですか?」
前にそんなことを聞いた気がする。
不思議に思ったのでエアハルトさんに尋ねてみる。
「ショーユやミソも落とすが、どうも体色によって落とす物が違うらしくてな。未だにはっきりとわかっていないらしい」
「なるほど。ちなみに、醤油と味噌は何色ですか?」
「ショーユが赤、ミソが茶色だよ。あと、未確定だがトーフは白、アブラアゲが黄色、アツアゲが黄色と白のまだらだという情報がある」
「そうなんですね!」
「あとはレアなものとして緑がいるんだが……逃げ足が速くてまだ誰も討伐に成功していないから、なにを落とすのかわかっていない」
ほ~、緑もいるのか。緑って、まさか枝豆かグリーンピースじゃないよね?
どっちでもいいから、出会えないかな。なんか、豆ご飯が食べたくなってきた!
「じゃあ、採取するか。リン、頼む」
「はい。みんなもお手伝いをお願いね」
〈〈〈〈〈〈〈〈わかった!〉〉〉〉〉〉〉〉
今のところ周囲には敵がいないので、まずは採取。スキルを発動させて、周囲を見渡す。
「おお? なんか、いろいろな薬草がありますね」
「本当か⁉」
中級ダンジョンにもあった薬草が見つかったので、それをメンバーのみんなに教える。
「ラズ、一緒にお願い。ロキたちもお手伝いしてほしいけど、警戒もしてね」
〈うん〉
〈〈〈〈〈〈〈わかった〉〉〉〉〉〉〉
私も一緒に採取しながら、特別ダンジョンにしかない薬草やキノコを探したんだけど、こんなところで松茸っぽいキノコを発見したよ!
名前はマッツタケ。そんなにたくさんは生えてなかったんだけど、移動しながら探したからなのか、最終的に結構な数が採れた。
みんなに食い気味にお願いされたので、晩ご飯にはマッツタケを使ったものを作ることに。
マッツタケを採取していると、突然ロキが声をあげた。
〈リン、ビーンがいる。緑だ〉
「え、ほんと⁉ 倒せる?」
〈やる〉
〈マカ、セテ〉
ロキの警告を聞いてラズとスミレがささっと動き、触手と糸で緑ビーンを捕まえる。
捕まったことに気づいた緑ビーンだけど、ラズの触手とスミレの蜘蛛糸からは逃げられない。
その状態でエアハルトさんが剣で斬ると、アイテムをドロップして姿を消した。
落ちたのは魔石と、緑色のさやがたくさんついた植物。
「なんだ、これは? 初めて見るが……」
エアハルトさんは不思議そうな顔をしているけど……
「もしかして……枝豆⁉」
見たことがあるその姿に、慌てて【アナライズ】を発動する。
【枝豆】
さやに入っている、食用の豆
塩茹ですることで食べられるようになる
エールやワイン、ビールのお供に相応しい一品
おおう、まんま枝豆でした! そしてさらっと書かれているけれどビールがあることに驚いた!
「エダマメってなんだ? それにビール? どんなものだ?」
エアハルトさんが興味津々な様子で質問してくる。
「枝豆は説明の通り、食材です。塩茹でしてそのまま食べてもいいし、豆ご飯にしてもいいし、スープに入れてもいいし。ビールは発泡したお酒ですね」
「ビールってやつは酒なのか……」
「この場にあったとしても、ダンジョンでは飲めないね」
「残念でございますね」
「本当に……」
私以外のみんなが残念がっている。
「ビールか……。たしか、ドラール国で造っていると聞いたような……」
グレイさんがなにか思い出したのか、口を開いた。
「ほんとか⁉ グレイ!」
お酒好きなエアハルトさんが嬉しそうな声をあげた。
「ああ。違っていると困るから、帰ったら父上か宰相に聞いて確認してみるよ」
グレイさんいわく、ビールはここ百年くらいの間にできた新しいお酒らしい。
ここ百年ってことは……まさかと思うんだけど、転生者がレシピを伝えたりしてないよね?
……まさか、ね。
もしかしたら渡り人の可能性もあるけど、ここ百年なら転生者のほうが可能性が高い気がする。
最後に召喚があったのが二千年前だから、レシピを伝えたのが渡り人だとするともっと前から広まっていてもおかしくないもんね。
もし本当に転生者がいるのなら、その人に会って話してみたいなあ。
〈リン?〉
「あ、ごめんね。大丈夫だよ」
ラズから心配そうに声をかけられて、意識を戻す。
今はダンジョンだから、きちんと集中しないと。
考えるのは家に帰ってからでもできることだから。
なにより、メンバーや従魔たちに心配をかけたくないし、もし私がぼんやりしていたせいでみんなが怪我してしまったら、薬師として自分のことが許せない。
一旦それは置いといて。
緑ビーン一体につき五株もの枝豆を落としたので、しっかりパーティー用の麻袋に入れる。
「よし。次に見かけたら、すぐに倒していいからな」
〈うん!〉
〈ヤル〉
〈〈〈〈〈〈〈〈任せろ!〉〉〉〉〉〉〉〉
エアハルトさんの指示を受けて従魔たちは殺る気いっぱいだ。
今度は赤と茶色のビーンが三体ずつ出てきたので、みんなで戦闘する。
落としたのは事前情報通り、醤油と味噌、そして魔石だ。
「ミソとショーユの依頼数はあといくつだ?」
「二十ずつですわ」
「先が思いやられますが、ここは結構赤と茶が出ますから、すぐに依頼達成となるのではないでしょうか」
「そうだね」
ドロップ品を拾いながら、そんな話をするみんな。
この戦闘を皮切りに赤と茶、それに混じって白と黄色、まだらのビーンが出る。次々に倒してはドロップと魔石を拾う。そして何回か戦闘するうちに、白は豆腐、黄色は油揚げ、まだらは厚揚げをドロップすることが確定した。
こういう情報を持ち帰ることも、冒険者の仕事のひとつなんだって。
そして、薬草やキノコに交じって、さつまいもと山芋が見つかった。見つけたのはソラとユキだ。
「お~、さつまいもは焼き芋にしよう。山芋はお好み焼きかな」
〈焼き芋ってにゃんだにゃ?〉
ソラが目をキラキラ輝かせて聞いてくる。
「そのままだよ。この赤い芋を焼いて食べるの」
〈美味しいにゃ?〉
「甘くて美味しいよ! あとで作ってあげるね」
〈〈やったにゃー!〉〉
甘い物が好きな二匹はとても喜んでいる。
山芋に関してはダンジョン内で作るつもりはないけど、お好み焼きやスープに入れてもいいし、短冊切りにして揚げても美味しいと思う。
うーん……海苔があればなあ。そうすれば、磯辺揚げができるのに……残念。
採れるだけ採って、リュックに入れる。
そんなこんなで採取したり戦闘をしたりしてセーフティーエリアを目指して歩いていると、体高二メートルもある大きな羊の魔物、ビッグシープと戦闘をしている冒険者がいた。
戦闘が終わり、ドロップを拾う五人の冒険者。
顔を上げたうちの二人は、私もよく見知った顔だった。
「あれは……フォレクマーさんとミケランダさん?」
「「あ」」
私の呟きが聞こえたのだろう……顔をこちらに向けて驚いた顔をしたのは、本当に冒険者ギルドのマスターのフォレクマーさんと、サブマスターのミケランダさんだった。
さすが、獣人族、耳がいいね!
「お久しぶりです。どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「簡単に言うと、ギルマスとサブマスをクビになって、冒険者に戻ったんだ」
苦笑いをしながら言うフォレクマーさん。
「はい?」
エアハルトさんたちメンバーは知っていたみたいだけど、私は初耳だったので驚く。
まあ、私は基本的に冒険者ギルドに行かないんだから、知らないのは当然か。
フォレクマーさん曰く、二人していろいろとミスした結果、私の店の件が決定打になってギルドを統括している国からお叱りを受けたそうだ。
そのときに冒険者に戻るか、ギルドマスターを辞めて他の仕事をするか選択を迫られたという。
なので冒険者に戻ることを選択し、以前仲間だったメンバーとパーティーを再結成して、ダンジョンの攻略をしているらしい。
「そうなんですね」
「ずいぶんあっさりしているが、それだけなのか?」
「たしかに当時は怒っていましたけど、それはやらかした冒険者に対し、きちんと対処しなかった冒険者ギルドにであって、フォレクマーさんやミケランダさん個人にではないです」
「「え……」」
「え、って……。まさか、お二人に対して怒っていると思ってたんですか?」
そう聞くと、気まずそうな顔をしながらも二人は頷いた。
だから、店にもポーションを買いに行けなかったらしい。
「まあ、まったく怒っていないというのは嘘になりますけど、今さら怒るようなことはしませんよ。それでも気にするなら、今度、お店にポーションを買いに来てください。あと、ビッグシープの狩り方を教えてください。それで相殺にしますから」
「そんなことでいいのか?」
「いいですよ~。別に、安く売るわけじゃありませんし」
「そうか……。すまなかった、リン」
「すみません、リン」
フォレクマーさんとミケランダさんが改めて謝罪してくれたのでそれを受け入れ、ビッグシープの攻略方法を教わった。
なんというか、フォレクマーさんたちは根っからの冒険者なんだと感じたよ。
だから冒険者としての腕や個人での指導はとても優れているけど、全体を纏める指導力というのかな……それが足りなかったんじゃないかって思う。
だって、戦闘をしているときの二人はとても生き生きしていたし、攻略方法もとても丁寧にわかりやすく教えてくれたもの。
蟠りがまったくないわけじゃないけど、もう終わったこと。謝罪を受けたのにいつまでも引き摺っているのは違うと思うし、私の性分じゃない。
「じゃあ、戻ったら買いに行かせてもらうよ」
「それまでに稼ぐわね」
「はい! 楽しみに待っていますね」
フォレクマーさんたちと握手を交わし、別れた。
そして、待っていてくれたみんなのところに戻る。
なんか、呆れているような……。なんで?
「リン、もっと怒ってもよかったんだぞ? それだけのことをされたんだから」
腕を組みながら言うエアハルトさん。
「もう終わったことじゃないですか。いつまでも引き摺っているのは違いますよ」
「リンはいい子ですわね」
ユーリアさんは私を見て微笑んでいる。
「お店に来てほしいという打算も欲望もあります。なので、全然いい子じゃないです」
そんな話をしてから採取と討伐に戻る。
この階層でまだ狩っていないのが、ビッグシープとビッグスライムだけだ。
早く出会わないかな……なんて考えていたら、ビッグスライム、レインボーロック鳥、いろんな色のビーンが出てきた。
それらの魔物を難なく倒し、再びセーフティーエリアを目指していると、ビッグシープに出くわした。その数、三体。
「ビッグシープだな。みんな、頼むぞ」
「「「「了解」」」」
〈〈〈〈〈〈〈〈任せて!〉〉〉〉〉〉〉〉
ビッグシープは体高があるから倒すのは容易ではないけど、攻略法がきちんとある。
脚を攻撃し、頭が下がったところで首を攻撃するか、【土魔法】で穴を掘って落とし、目や首を攻撃するのだ。
ビッグシープの体は分厚い体毛に覆われていて剣や槍が弾かれてしまうので、目や首など弱い部分を重点的に攻撃するとフォレクマーさんたちが教えてくれた。
なので、私たちも同じ方法で戦闘開始。
ロキが【咆哮】で足止めし、ロックが【土魔法】で足元に穴を掘り、穴に落ちたところを見計って首を攻撃する。それでも動くようなら、ラズとスミレが拘束。
私は一番左のビッグシープを大鎌で斬りつけた。
一回では首を斬り落とせなかったので、私のあとに続いてレンとシマが攻撃。
それでも倒れないので今度はソラとユキが攻撃し、そこで光の粒子となった。
みんなのほうを見ると、穴に落ちたビッグシープの首を攻撃し、戦闘が終了していた。
今回のドロップはみんな同じで、魔石と、大量の羊毛と毛糸だ。
お~、毛糸もあるのか、この世界は。絨毯があるんだから、毛糸があるのも納得だけどね。
「……よし。もうじきセーフティーエリアだ。ドロップを拾ったら移動する。気を引き締めろ」
エアハルトさんの言葉に、みんなで頷く。
羊毛は商人と冒険者両方のギルドから依頼が出ているので、別々の麻袋に入れる。
そして、再びビッグシープが現れ、それを難なく倒したその直後……
ちょうど経験値が溜まったようで、ラズ以外の従魔たちがその場で次々に進化した。
私は素直に嬉しくて、「これなら間違って従魔たちを攻撃されなくてすむ」と、胸を撫で下ろしたのだけど……ロキの進化先には私を含めたみんなが驚いた。
まず、スミレはデスタイラントに進化して、体が一回り小さくなった。体色は変わらないけど、目が赤くなった。
ロックはヘルハウンドという種族になり、体色や体格はそのままだけど、幼さが消えて精悍な顔つきになった。
レンとシマ、ソラとユキは、サーバルキャットになった。体色は全員そのままで、体格はより細くしなやかに、一回り大きくなった。
そしてロキは天狼という、珍しい種族になった。体色はチャコールグレーから明るめのグレーになり、一回り大きくなり脚も太く大きくなった。
天狼は魔物図鑑にのっていない種族。
過去に目撃されたのは十万年前で、昔の文献に記載されているだけだそうだ。
それほどに珍しい種族らしい。
それぞれがSランクの魔物なんだけど……
立派になったねぇ、みんな! 主人として誇らしいし、とても嬉しい!
ラズはみんなを見て羨ましそうにしながら、〈エンペラーだから、これ以上は進化しないよ〉と言っていた。
「今のままでいいんだよ」という気持ちをこめてラズを撫で、セーフティーエリアに入る。
さて、今日のお昼の担当はアレクさん。なにが出るのかな?
「リン、コメの炊き方をもう一度教えてくださいますか? どうにも焦げてしまって、うまくいかないのです」
申し訳なさげな表情をして言うアレクさん。
「いいですよ。焦げるってことは、火加減が強すぎるんだと思うんです」
今までもアレクさんを含めたみんなにご飯の炊き方を教えているんだけど、やっぱり火加減で引っかかるみたい。アレクさんの言葉を聞いた全員が集まってきて、私の話を聞いている。
もう一度つきっきりで火加減を教えると、今度は焦がさずにご飯が炊けたと喜んでいた。
スープはダンジョンで採れたホーレン草と持ってきた卵で、あっさり塩味。
おかずはさっきドロップした、レインボーロック鳥の串焼き。
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