上 下
160 / 177
番外編2

天界で節分

しおりを挟む
 薬師の神様としてヒィヒィ言いながらなんとか仕事をこなし始めて二年。日本で言うなら節分の時期が来た。
 天界にいるから特に何かをするでもなく、暇つぶしにダンジョンの宝箱に入れるポーションを作っていたら、アマテラス様とスサノオ様が、牛の頭と馬の頭をした、筋骨隆々な人たちを連れて来た。

「おお~、すっごい筋肉ですね! 触ってもいいですか?」
「やめなさい、優衣。この二人は地獄の獄卒だから。新人の神である優衣が触ったら、そっちに引っ張られるわよ?」
「うぅ……お素敵筋肉なのにぃ……」
「俺ので我慢しておけって。な?」
「わーい! スサノオ様、ありがとうございます!」

 さっそくスサノオ様に抱きついて、素敵な胸筋や背筋、上腕二頭筋をスリスリ……じゃなくて!
 地獄の獄卒がなんで天界に来ているんだろう?
 ちなみに、地獄にいる人たちもみんな神様なんだって。人間界では邪心系の扱いになっているし顔も怖いけど、みなさん優しい人たちだ。
 お仕事だから厳しくしているのであって、心の中では涙を流しながら仕事をしている、らしい。……ほんとかな。
 まあ、それは横に置いといて。

「この二人は牛頭と馬頭。ちょっと邪気が体に入っちゃって、困っているんですって」
「邪気、ですか? それと私になんの関係が?」
「お、おでたちに、神酒ソーマに浸した神豆をぶ、ぶつけて、ほ、ほしいんだな」
「お、おらたち、それで、年に四回、じ、邪気を、は、祓ってもらってるんだな」
「あ~、つまり、豆まきをしろってことですか?」
「そうなの」

 なるほど。というか、なんで豆を撒いてほしいんだろう? しかも、神豆という神が作る豆を使って。よっぽど不思議そうにしていたのか、アマテラス様が説明してくれた。
 地獄にいる獄卒たちも神様とはいえ、穢れた魂が地獄に来るから、どうしても影響されてしまうそうだ。それを祓うのが節分のとき。
 年に四回あるんだけど、いつもはオオナムチ様かスクナビコナ様が神酒ソーマを作って豆まきをするのに、今回はオオナムチ様は人間界に蔓延っているインフルエンザの対応に追われ、スクナビコナ様はぎっくり腰になったとかで、動けないらしい。
 おおう……スクナビコナ様……。
 だから今回は特例として、私に神酒ソーマを作ることと豆まきの依頼に来たんだとか。

「私でいいのであればやります。けど、手元には神豆はありませんよ?」
「そう思って持って来たわ。これを使ってくれるかしら」
「わかりました。じゃあ、さっそく神酒ソーマを作りますね」

 下界にいる薬師たちが奉納してくれた薬草やベアの内臓など神酒ソーマの材料を倉庫から出し、パパっと作る。豆を浸すと聞いたので大きな瓶にいっぺんに入れた。
 その中にアマテラス様から預かった神豆を浸し、しばらく待つ。すると、神豆が神酒ソーマを吸い上げ、淡く光った。

「そこまででいいわ、優衣。豆を取り出してちょうだい」
「はい」

 光りっぱなしの豆を取り出してみると、神酒ソーマは綺麗に吸い取られていた。瓶から笊にあけ、アマテラス様に渡す。

「じゃあ、優衣。オオナムチとスクナビコナの代わりに豆まきをしてちょうだい」
「えっ!? 私がやるんですか⁉」
「そうよ? 獄卒たちにとって、薬師の神がやることに意味があるんだもの」

 だから毎回、オオナムチとスクナビコナが豆まきをしていたんだし、と言うアマテラス様。
 日本の神様がやることに意味があって、本来ならば異世界の神である私だと意味がないんだって。穢れが祓えないから。
 だけど私は元日本人だし、ご先祖様は神職の家系でもあったことから日本の神様に爪先を突っ込んでいるからと、私に話を持ってきたらしい。

「ゆ、優衣ちゃん、おねげえしますだ」
「おらたちの穢れを、は、はらってほしいんだな」
「……わかりました。じゃあやりますね。鬼は~外~! 福は~うち~!」

 笊をしっかりと持ち、牛頭さんと馬頭さんに豆を撒く。
 ゼーバルシュの神域に広がる、豆まきの声。牛頭さんと馬頭さんに豆をぶつけるたびに、その体から黒い靄が飛び出してくる。
 靄が飛び出すとそのまま光になって消えていくのは、なんとも不思議な光景だ。
 豆がなくなるまで撒くと、役目を終えた神豆が消えていく。

「あ、ありがとうなんだな」
「た、助かったんだな」
「どういたしまして」

 スっと頭を下げる牛頭さんと馬頭さん。仕事が忙しいからと、アマテラス様と一緒に帰っていった。

 ゼーバルシュだと、鬼に近いのはオーガかな。さすがに豆まきをするわけにはいかないけど、久しぶりに豆まきをして、とても楽しかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!

酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」 年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。 確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。 だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。 当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。 結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。 当然呪いは本来の標的に向かいますからね? 日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。 恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈 
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。