30 / 177
2巻
2-2
しおりを挟む
それに、今後他の上級ダンジョンに潜るためにはレベル上げが必須だし、第十階層まで下りて中ボスを倒せば、行き来が自由にできる魔法陣が出現して、今後の採取が楽になると聞いて長く潜ることを決意した。
うう……店を空けることがとっても心苦しいんだけどね!
本当はエアハルトさんとアレクさんも「一緒に行きたい」って言ってたんだけど、エアハルトさんは同じ時期に騎士団のお仕事で特別ダンジョンの討伐隊に組み込まれ、二週間はいないそうだ。
そしてアレクさんも私の後ろ盾の件でガウティーノ家のお手伝いをすることになっているらしく、忙しいと言っていた。
「ラズ、いいか? く・れ・ぐ・れ・も! リンに無茶をさせるなよ?」
〈うん!〉
エアハルトさんは、ラズにそんな言葉を残して騎士団のお仕事へと向かった。
無茶をさせるなって……信用ないなあ。今まで無茶したことなんかないのに。
それはともかく、今は話し合いに集中しないと。
「リンは採取をするとして、攻撃手段は前と同じか?」
「はい」
私の攻撃手段は【風魔法】のウィンドカッター、そして中級ダンジョン初踏破の宝箱から出た大鎌だ。
その大鎌は、私の身長の倍近くの大きさで、鎌の部分も持ち手も真っ黒だ。
見た目はかなり不気味。死神が持っていてもおかしくないかも。
だけど見た目に反してとても軽いし、よく見ると持ち手の上下にはなにか文字のようなものが彫られていて、鎌の根元部分にも装飾があっておしゃれ。
そういえば、中級ダンジョンで初めて大鎌を【アナライズ】したとき、いろいろあったな……
大鎌を【アナライズ】で見た情報がこれなんだけど……
【ヴォーパル・サイズ】特殊
高名な薬師が草刈りに使っていたという大鎌
特殊ではあるが、成長すると言われている
成長すると伝説にまでなる少し変わった仕様
薬師が装備した場合に限り、ボーナスあり
薬師が装備した場合:攻撃力+200 防御力+200
「おおぅ……」
私の呟きに、一緒に潜った騎士たちが不思議そうな顔をしていたっけ。
「見せてくれ」と言われたから大鎌を見せると、その説明を見た騎士たちは肩や唇がぷるぷると震えていた。
「く、草刈り……」
「だから、大鎌は薬師専用って……ぶふっ」
「「「「「「「わははははっ!」」」」」」」
「気になるのはそこなんですか⁉」
突っ込むところはそこなの⁉ 攻撃も防御も異常な数値だと思うんだけど……
誰よ、大鎌で草刈りをした薬師は!
確かに間違っていないけど、そこは普通サイズの鎌で草刈りをすればいいだけの話じゃない!
……なんて内心でそんな突っ込みをしつつ、当時がっくりと肩を落としたことまでも思いだしてしまった。
とにかく、今は次の上級ダンジョンのことを考えないと。
「あ、そうだ。久しぶりなので、大鎌の動きを確認したいです」
普段使うことがないから、動きに自信がなかったりする。
「久しぶりなら確認したほうがいいだろう」
「そうでござるな。そのときにもう一度連携の確認をしたらどうでござる?」
ということで、ギルドの地下にある訓練場に行って、諸々を含めた戦闘訓練をすることに。
さっそく始めたんだけど……
【風魔法】を使った時点で、呆れたような溜息をつかれた。なんでさー?
「おい、リン……魔法の威力が上がっているじゃねえか。お前さんは冒険者としてもやっていけそうだな。普通、薬師でレベルや魔法の威力がそこまで高いやつはいないからな?」
ヘルマンさんに言われたけど、そんなの知らないもん。
レベルを上げろって言ったのはエアハルトさんとアレクさんだと伝えたら、呆れたような表情を浮かべていた。
【風魔法】は攻撃も回復も補助も含めて、ほぼ全部使えるからね、私。
まあ、私は薬師なので魔法ではなく、ポーションで怪我や状態異常を治しますよ~。
その後、大鎌の動きを練習していたら、いつの間にかスキル【大鎌】を習得していた。
こんなタイミングで習得なんて、普通はあり得ない! ってヘルマンさんたちが言っていたから、絶対にアントス様の仕業だろう。
私の大鎌の訓練が終わったあとは、私を交えた六人とラズの連携訓練をした。
カズマさんも私たちも『猛き狼』のパーティーに一時的に入れてもらう形になるから、連携訓練は大事。
初級や中級ダンジョンならともかく、上級ダンジョンは練習なしでいきなり連携ができるほど、甘い場所じゃないから。
それほどに強い魔物が出るのだ。
連携訓練をみっちりこなしたところで、明日凄腕の鍛冶職人ゴルドさんのお店で会おうと約束をし、解散した。
翌日のお昼に、ゴルドさんのところに行く。
「ゴルドさん、大鎌の剣帯の製作と、点検をお願いします。あと、手入れの仕方も教えてください」
「おう、いいぞ。貸してみろ」
ゴルドさんに渡すと大鎌を見て唖然としたあと、がははははっ! と笑った。
まあ、草刈りって書いてあるもんね、説明に。
ゴルドさんは草刈りのくだりでひとしきり笑ったあと、【鑑定】の結果を教えてくれた。
「しかし、すげぇ性能だなあ。手入れは必要ないようだ」
「へ?」
「普通の【アナライズ】じゃそういったのは出ないが、俺たち鍛冶屋が使う【鑑定】には、はっきりと出てる」
【付与】で自動修復がついているから、手入れは必要ないそうだ。
うん、それは助かる。そういうのは苦手だし。
それに、この大鎌には使えば使うほど強くなる、ヒヒイロカネという金属が使われているらしい。
だから、魔物を倒して武器自体のレベルを上げてやるといいと、ゴルドさんに言われた。
大鎌の説明にあった〝成長する〟って、そういうことか!
ちなみに上級冒険者にはヒヒイロカネを使った武器や防具を持っている人が多いんだって。
あとは以前買った二本の短剣とウィンドダガーの整備をお願いし、簡単な手入れの仕方を教わった。
私の剣帯は今日中にできるのだけど、ヘルマンさんたちの武器や防具の整備は一日かかるそうなので、今日は一旦解散。
明日は私の店が休みなので、みんなで必要なものを買いに朝市へ行くことに。
ゴルドさんのお店の前で待ち合わせしようと約束して、私は商人ギルドへと行く。
これからダンジョンに潜ることを伝えて、薬草や瓶の材料である砂の発注をするためだ。
担当者であるエルフの女性――キャメリーさんにかなりの量を発注し、二週間はダンジョンに潜っていることと、帰って来たら顔を出すのでそれまでに用意してほしいと伝えた。
量が量だけに、二週間の期間があることを聞いてキャメリーさんはホッとしていたっけ。
屋台で晩ご飯を食べ、家へと戻る。
手持ちの薬草でハイポーションとハイMPポーション、万能薬を作り、上級ダンジョンに備えた。
回復は私の役目だから、念のためハイパー系と神酒も持って行くつもりでいる。
いざとなったらダンジョンで作ればいいしと、私のチートな調薬スキルがバレないように、カモフラージュ用に普通の薬師が使う道具も用意し、さっさと眠りについた。
翌朝、ゴルドさんのお店へ行くと、すでにヘルマンさんたちがいて焦る。
遅れてしまったと謝ったら、「あたしたちが早く来すぎたからいいのよ」とローザさんにも他の人にも言われた。
うう……みなさん優しい人たちばかりだなあ。そういう人たちと知り合えて嬉しいな。
まずは、各々預けていた装備品を受け取って確認した。
特に問題なかったので、みんなで朝市へ向かいます!
乾燥野菜と乾燥キノコ、干し肉とパンを中心に、食材は手分けして持った。
といっても、生野菜とお肉や調味料などは私が持っていくんだけどね。
料理を担当する代わりに、野営は免除してもらうので頑張らないと。
二週間分の食材だから腐ったり、足りなくなったりしないか心配だけど、そこは特別なリュックなので安心してる。
それに上級ダンジョンではオークとロック鳥の上位種が出るから、食材が足りなくなったとしても狩ることができるしね。
野菜も採れるし場合によっては現地調達もできそう。
そんなこんなで買い物を終え、お昼近くになったのでみんなでご飯。
その後、準備がすべて終わったので、ダンジョンに潜るのは三日後にすることに。出発時間や待ち合わせ場所を決め、解散した。
とっても楽しみ!
店の営業をしつつ日々過ごしていると、あっという間にダンジョン出発の朝になった。
今日から上級ダンジョンに潜るよ~。
今回行く西の上級ダンジョンは、個人ランクBやパーティーランクAとなった冒険者が最初に行くダンジョンだ。
私も一回連れていってもらっているけど、深い階層には行ったことがないので、とても楽しみだったりする。
移動は『猛き狼』が所有している馬車で行うことに。
馬車といっても馬は魔物で、ブラックホースっていう種族なんだって。とても穏やかで、人に慣れているんだとか。
ただし、穏やかだといっても魔物なので危険なことには変わりがないから、むやみやたらに背後から近づかないようにと言われた。
いきなり背後から近づくと敵とみなされ、蹴飛ばされるらしい。おおぅ……怖い。
御者は『猛き狼』のサブリーダー、フレッドさん。
気遣いのできるとても優しい人で、寡黙。すっごく大きな盾を持っている。
タンクという、魔物を引きつけたりする役目を担当していると、以前言葉少なに教えてくれた。
上級ダンジョンまでは、ブラックホースの脚力で一時間。
フレッドさんが馬車の中で見せてくれたギルドからの依頼票には、魔物の討伐と薬草、キノコの採取があった。
採取を手伝ってほしいと言われたので、頷いたよ。
お世話になるんだし、それくらい、おやすい御用です。
そんな話をしているうちに、西の上級ダンジョンの入口に着く。
馬車やブラックホースは休憩所に預けて、ダンジョンの入口近くにある建物の中へと入る。
ここで潜る予定日数と人数を申請しないと、ダンジョンの中には入れない。
それはどこのダンジョンでも同じで、規定レベル以下の冒険者が勝手に入らないよう、監視の意味合いもあるんだって。
ギルドカードを出し、レベルの確認をしてもらう。
この手続きなしでダンジョン内に入ると、ペナルティーを課せられるそうだ。
ヘルマンさんたちと一時的なパーティー登録をすませ、いよいよダンジョンの中へ。
「わあ……前もそうでしたけど、やっぱり森林なんですね」
「ここは五階までは代わり映えしないんだ。それ以降の階層は川だったり海だったり山だったりと、いろいろある。階層は五十まであるらしいが、過去に二度ほど踏破の記録があるだけで、本当に攻略してるのか疑わしいらしい」
「川に海……前回は素通りしてしまったから、今回はお魚が食べたいです!」
「はははっ! 魚が食べたいとなると、最低でも六階までは行かないとな。討伐対象も六階にいるから、ちょうどいい」
「なるほど~、楽しみです!」
ヘルマンさんと話しながら、ダンジョンの奥へと進んでいった。
歩き始めることしばらく。デボラさんが私に尋ねてきた。
「そろそろ、薬草とキノコの採取をしたいんやけど、どうや?」
「ちょっと待ってくださいね」
デボラさんに聞かれて、【薬草探索】のスキルを発動する。
その状態でもう一度採取依頼票を見せてもらい、ひとつひとつ採取対象のものを教えていく。
採取するときにはナイフや短剣で切ったほうが状態がよくなるということも教えた。
依頼の薬草とキノコを採りながら、私も自分が必要とする薬草やキノコを採取していく。
ヘルマンさんやカズマさんによると、採取依頼の薬草やキノコはそのほとんどが第一階層で採れるそうなので、根こそぎとまではいかないけど、たくさん採取するのは第二階層以降にしようと思う。
他に採取依頼を受けた人たちの分がなくなっちゃうからね。
そして他にも食べられる野草や果物があったので、それも採取する。
今回あった果物は、巨峰に似たブドウとアボカド。
ダンジョン内とは思えない食材が集まってきそうで嬉しい。
場合によっては、ダンジョンで採れたもので料理をしよう。
ご飯や休憩をしながら一日かけて第一階層を歩き回り、必要な薬草やキノコを採取したり、戦闘したりした。
第二階層へと下りる階段近くにセーフティーエリアがあるので、今日はそこで一泊です。
セーフティーエリアに向かう途中、ヘルマンさんたちが立ち止まった。
あとちょっとなのに、どうしたのかと思ったら蜘蛛の魔物がいた。
「ん? なんだ、あれは?」
「フォレストタラテクト同士が戦っているようでござるな……」
ヘルマンさんの言葉に、カズマさんも首を傾げている。
あの大きい蜘蛛は、フォレストタラテクトっていうらしい。
仲間同士で戦うなんてことがあるの? そう質問しようとしたら、いきなりみんなが身構えた。
ラズも臨戦態勢になっている。
「みんな、デスタラテクトだ! 警戒しろ! 全員下がれ! リンは一番うしろにいろよ!」
「はっ、はいっ!」
ヘルマンさんが指示を出し、私を一番うしろに下がらせた。
そして魔法を使うデボラさんと遊撃にあたるローザリンデさんが、私の左右に陣取った。
フレッドさんが盾を持って一番前に行き、そのうしろにヘルマンさんとカズマさんが並ぶという陣形だ。
「あの、デスタラテクトってなんですか?」
状況が掴めていない私の質問に対して、デボラさんとローザリンデさんが答えてくれる。
「このダンジョンの中層に出る、黒くて小さい凶悪な蜘蛛なんや」
「どうしてこの階層にいるのかしら」
「え……」
中層に出るはずの蜘蛛が第一階層にいるって……大問題なんじゃないのーー⁉
私たちの視線の先では、茶色と黄色の五十センチはある蜘蛛――フォレストタラテクトがたくさんと、真っ黒で十センチしかない小さな蜘蛛――デスタラテクトが一匹、対峙していた。
外の森なら縄張り争いとかなんだろうなってわかるんだけど、種族も違うし、ダンジョン内だから縄張り争いじゃないと思う。
デスタラテクトはどうしてここにいるんだろう?
それに、脚が一本ない。他にもお腹のあたりを怪我しているし、取れかかっている脚もあった。
多勢に無勢なはずなのに、どんどんフォレストタラテクトを倒していくデスタラテクト。
その周辺には、ドロップアイテムの蜘蛛糸と魔石、毒腺がたくさん転がっていた。
デスタラテクトはこのダンジョンの中層にいる凶悪な蜘蛛だというのに、私には怖いとは思えない。
日本にいたときに見た蜘蛛に似ているからかもしれない。
ハエトリグモというたくさんある目の中でも大きなふたつの目が特徴的な、とても小さな緑色の蜘蛛。あと、脚が長いアシダカグモ。
それらの蜘蛛は、私が施設にいたとき、栽培していた野菜や花についた害虫を取ってくれていた。
だから怖くないのかも。
むしろ、私にとっては大きな蜘蛛のほうが怖いし、鳥肌が立つほど気持ち悪い。
怪我を負いながらも戦い、とうとう敵を全滅させたデスタラテクトは、ホッとしたのかその場に蹲るように座る。
だけど、ヘルマンさんとカズマさんが剣を構えたことに気づいたようで、ふらふらしながらもその小さな体を起こした。
なんだか可哀想になってしまって、二人を制止する。
「ヘルマンさん、カズマさん、待ってください。怪我してますよ、あの蜘蛛」
「だからこそ、この場で倒さなければならない。それほど危険な魔物なのだ。それに、中層にいるはずのデスタラテクトが出たとなると、どこから来たのか調査もしなければならない」
「だけど、可哀想です。それに、凶悪な魔物という割に襲ってきませんし……なんか様子がおかしい気がします。もしかしたら迷い込んだだけかもしれないし。確かテイムできましたよね、デスタラテクトって」
「それはできるが……」
ヘルマンさんが言いよどむので、スマホでアントス様情報を見た。
やっぱりデスタラテクトはテイムできるそうだ。もしかしたら……
「最初から後ろ脚がありませんでしたよね。だからそれを理由に捨てられたのかもしれないじゃないですか」
「リン……」
「手当てします」
ヘルマンさんとカズマさんに止められる前に、ハイポーションを出してから、デスタラテクトに近づく。
「なにもしないわ。手当てさせて?」
〈シューッ!〉
威嚇してくるけど、飛びかかる元気もないようで、その場から動かない。
それをいいことにラズに護られながら近づき、持っていたハイポーションの蓋を開けてデスタラテクトの全身にかけた。
すると、みるみるうちに傷口が塞がり、血が止まる。取れかかっていた脚も、なんとか繋がってホッとした。薬師として見過ごせない怪我だったからね。
後ろ脚は元に戻らなかった。
それでも傷だらけだった体がすぐに治ったからなのか、デスタラテクトは驚いたように私を見上げてきた。とても大きな目が真ん中にふたつと、その左右に小さな目がふたつずつ一直線に並んでいる。
その中の大きなふたつの目から、困惑した感情が伝わってくる。
「後ろ脚は別の特別なポーションじゃないと治せないみたい。ごめんね」
〈……〉
「君はどうしてここにいるの? 誰かに連れてこられたの? それとも、迷い込んじゃった? って言っても、わからないかあ……。ラズみたいに話せるといいのにな」
そんなことをぼやいていると、ラズが蜘蛛の言葉を伝えてきた。
ラズは魔物と話す能力があるようで、たまにエアハルトさんの家にいるハウススライムや、穏やかな馬の魔物と話をしている。
会話の内容をいつも楽しそうに教えてくれるのだ。
そんなラズ曰く、このデスタラテクトは、以前は森にいたフォレストタラテクトだったけど、テイマーに無理矢理テイムされたそうだ。
仕方なくたくさん戦って進化したけど、体が小さくなったし怪我をして戦えなくなったからと契約を解除され、この階層に捨てられたらしい。そのテイマーは罰が当たったのか、二日ほど前に一緒にいた冒険者にこの階層で殺され、死んでしまったという。
デスタラテクトの話を聞いたヘルマンさんたちは、一瞬額に青筋を立てたものの痛ましそうな顔をし、黙り込んでしまった。
そのテイマーのことは可哀想だと思うけれど、魔物にも心あるものがいるのだ、ラズのように。
人間の都合で利用するのはダメだと思う。
「そっか。ねえ、君はどうしたい? ここにいると、また同じ目に遭うかもしれないよ?」
〈シュー。シュシュ〉
〈リンと一緒に行きたいって言ってる。怪我を治してくれたから、戦ってそのお礼がしたいって〉
「戦ってって……。大丈夫なの? 無理しなくてもいいんだよ?」
〈シューッ!〉
〈大丈夫だって〉
ラズが通訳してくれたけど、本当にいいのかな。
蜘蛛を見ると期待するような、拒絶されるのが怖いような、そんな目をしている。
……くそう、可愛いじゃないか。
そっと手を出せば、嬉しいとばかりにぴょん! と飛びのってきた。
おお、思ったよりも軽いし、近くで見ると本当に可愛い顔をしていて、なんだか愛着が湧いてくる。
「うん、いいよ。私は薬師だけど、いいのかな」
〈シュシュッ♪〉
〈薬師なら、護りがいがあるって〉
「ふふ。そう、ありがとう。私はリンって言うの。これからよろしくね」
〈シュー♪ シュシュシュ!〉
〈こちらこそ。名前が欲しいって〉
おおう、名前って……
まさか、前の人は名前をつけなかったのだろうか。
うう……店を空けることがとっても心苦しいんだけどね!
本当はエアハルトさんとアレクさんも「一緒に行きたい」って言ってたんだけど、エアハルトさんは同じ時期に騎士団のお仕事で特別ダンジョンの討伐隊に組み込まれ、二週間はいないそうだ。
そしてアレクさんも私の後ろ盾の件でガウティーノ家のお手伝いをすることになっているらしく、忙しいと言っていた。
「ラズ、いいか? く・れ・ぐ・れ・も! リンに無茶をさせるなよ?」
〈うん!〉
エアハルトさんは、ラズにそんな言葉を残して騎士団のお仕事へと向かった。
無茶をさせるなって……信用ないなあ。今まで無茶したことなんかないのに。
それはともかく、今は話し合いに集中しないと。
「リンは採取をするとして、攻撃手段は前と同じか?」
「はい」
私の攻撃手段は【風魔法】のウィンドカッター、そして中級ダンジョン初踏破の宝箱から出た大鎌だ。
その大鎌は、私の身長の倍近くの大きさで、鎌の部分も持ち手も真っ黒だ。
見た目はかなり不気味。死神が持っていてもおかしくないかも。
だけど見た目に反してとても軽いし、よく見ると持ち手の上下にはなにか文字のようなものが彫られていて、鎌の根元部分にも装飾があっておしゃれ。
そういえば、中級ダンジョンで初めて大鎌を【アナライズ】したとき、いろいろあったな……
大鎌を【アナライズ】で見た情報がこれなんだけど……
【ヴォーパル・サイズ】特殊
高名な薬師が草刈りに使っていたという大鎌
特殊ではあるが、成長すると言われている
成長すると伝説にまでなる少し変わった仕様
薬師が装備した場合に限り、ボーナスあり
薬師が装備した場合:攻撃力+200 防御力+200
「おおぅ……」
私の呟きに、一緒に潜った騎士たちが不思議そうな顔をしていたっけ。
「見せてくれ」と言われたから大鎌を見せると、その説明を見た騎士たちは肩や唇がぷるぷると震えていた。
「く、草刈り……」
「だから、大鎌は薬師専用って……ぶふっ」
「「「「「「「わははははっ!」」」」」」」
「気になるのはそこなんですか⁉」
突っ込むところはそこなの⁉ 攻撃も防御も異常な数値だと思うんだけど……
誰よ、大鎌で草刈りをした薬師は!
確かに間違っていないけど、そこは普通サイズの鎌で草刈りをすればいいだけの話じゃない!
……なんて内心でそんな突っ込みをしつつ、当時がっくりと肩を落としたことまでも思いだしてしまった。
とにかく、今は次の上級ダンジョンのことを考えないと。
「あ、そうだ。久しぶりなので、大鎌の動きを確認したいです」
普段使うことがないから、動きに自信がなかったりする。
「久しぶりなら確認したほうがいいだろう」
「そうでござるな。そのときにもう一度連携の確認をしたらどうでござる?」
ということで、ギルドの地下にある訓練場に行って、諸々を含めた戦闘訓練をすることに。
さっそく始めたんだけど……
【風魔法】を使った時点で、呆れたような溜息をつかれた。なんでさー?
「おい、リン……魔法の威力が上がっているじゃねえか。お前さんは冒険者としてもやっていけそうだな。普通、薬師でレベルや魔法の威力がそこまで高いやつはいないからな?」
ヘルマンさんに言われたけど、そんなの知らないもん。
レベルを上げろって言ったのはエアハルトさんとアレクさんだと伝えたら、呆れたような表情を浮かべていた。
【風魔法】は攻撃も回復も補助も含めて、ほぼ全部使えるからね、私。
まあ、私は薬師なので魔法ではなく、ポーションで怪我や状態異常を治しますよ~。
その後、大鎌の動きを練習していたら、いつの間にかスキル【大鎌】を習得していた。
こんなタイミングで習得なんて、普通はあり得ない! ってヘルマンさんたちが言っていたから、絶対にアントス様の仕業だろう。
私の大鎌の訓練が終わったあとは、私を交えた六人とラズの連携訓練をした。
カズマさんも私たちも『猛き狼』のパーティーに一時的に入れてもらう形になるから、連携訓練は大事。
初級や中級ダンジョンならともかく、上級ダンジョンは練習なしでいきなり連携ができるほど、甘い場所じゃないから。
それほどに強い魔物が出るのだ。
連携訓練をみっちりこなしたところで、明日凄腕の鍛冶職人ゴルドさんのお店で会おうと約束をし、解散した。
翌日のお昼に、ゴルドさんのところに行く。
「ゴルドさん、大鎌の剣帯の製作と、点検をお願いします。あと、手入れの仕方も教えてください」
「おう、いいぞ。貸してみろ」
ゴルドさんに渡すと大鎌を見て唖然としたあと、がははははっ! と笑った。
まあ、草刈りって書いてあるもんね、説明に。
ゴルドさんは草刈りのくだりでひとしきり笑ったあと、【鑑定】の結果を教えてくれた。
「しかし、すげぇ性能だなあ。手入れは必要ないようだ」
「へ?」
「普通の【アナライズ】じゃそういったのは出ないが、俺たち鍛冶屋が使う【鑑定】には、はっきりと出てる」
【付与】で自動修復がついているから、手入れは必要ないそうだ。
うん、それは助かる。そういうのは苦手だし。
それに、この大鎌には使えば使うほど強くなる、ヒヒイロカネという金属が使われているらしい。
だから、魔物を倒して武器自体のレベルを上げてやるといいと、ゴルドさんに言われた。
大鎌の説明にあった〝成長する〟って、そういうことか!
ちなみに上級冒険者にはヒヒイロカネを使った武器や防具を持っている人が多いんだって。
あとは以前買った二本の短剣とウィンドダガーの整備をお願いし、簡単な手入れの仕方を教わった。
私の剣帯は今日中にできるのだけど、ヘルマンさんたちの武器や防具の整備は一日かかるそうなので、今日は一旦解散。
明日は私の店が休みなので、みんなで必要なものを買いに朝市へ行くことに。
ゴルドさんのお店の前で待ち合わせしようと約束して、私は商人ギルドへと行く。
これからダンジョンに潜ることを伝えて、薬草や瓶の材料である砂の発注をするためだ。
担当者であるエルフの女性――キャメリーさんにかなりの量を発注し、二週間はダンジョンに潜っていることと、帰って来たら顔を出すのでそれまでに用意してほしいと伝えた。
量が量だけに、二週間の期間があることを聞いてキャメリーさんはホッとしていたっけ。
屋台で晩ご飯を食べ、家へと戻る。
手持ちの薬草でハイポーションとハイMPポーション、万能薬を作り、上級ダンジョンに備えた。
回復は私の役目だから、念のためハイパー系と神酒も持って行くつもりでいる。
いざとなったらダンジョンで作ればいいしと、私のチートな調薬スキルがバレないように、カモフラージュ用に普通の薬師が使う道具も用意し、さっさと眠りについた。
翌朝、ゴルドさんのお店へ行くと、すでにヘルマンさんたちがいて焦る。
遅れてしまったと謝ったら、「あたしたちが早く来すぎたからいいのよ」とローザさんにも他の人にも言われた。
うう……みなさん優しい人たちばかりだなあ。そういう人たちと知り合えて嬉しいな。
まずは、各々預けていた装備品を受け取って確認した。
特に問題なかったので、みんなで朝市へ向かいます!
乾燥野菜と乾燥キノコ、干し肉とパンを中心に、食材は手分けして持った。
といっても、生野菜とお肉や調味料などは私が持っていくんだけどね。
料理を担当する代わりに、野営は免除してもらうので頑張らないと。
二週間分の食材だから腐ったり、足りなくなったりしないか心配だけど、そこは特別なリュックなので安心してる。
それに上級ダンジョンではオークとロック鳥の上位種が出るから、食材が足りなくなったとしても狩ることができるしね。
野菜も採れるし場合によっては現地調達もできそう。
そんなこんなで買い物を終え、お昼近くになったのでみんなでご飯。
その後、準備がすべて終わったので、ダンジョンに潜るのは三日後にすることに。出発時間や待ち合わせ場所を決め、解散した。
とっても楽しみ!
店の営業をしつつ日々過ごしていると、あっという間にダンジョン出発の朝になった。
今日から上級ダンジョンに潜るよ~。
今回行く西の上級ダンジョンは、個人ランクBやパーティーランクAとなった冒険者が最初に行くダンジョンだ。
私も一回連れていってもらっているけど、深い階層には行ったことがないので、とても楽しみだったりする。
移動は『猛き狼』が所有している馬車で行うことに。
馬車といっても馬は魔物で、ブラックホースっていう種族なんだって。とても穏やかで、人に慣れているんだとか。
ただし、穏やかだといっても魔物なので危険なことには変わりがないから、むやみやたらに背後から近づかないようにと言われた。
いきなり背後から近づくと敵とみなされ、蹴飛ばされるらしい。おおぅ……怖い。
御者は『猛き狼』のサブリーダー、フレッドさん。
気遣いのできるとても優しい人で、寡黙。すっごく大きな盾を持っている。
タンクという、魔物を引きつけたりする役目を担当していると、以前言葉少なに教えてくれた。
上級ダンジョンまでは、ブラックホースの脚力で一時間。
フレッドさんが馬車の中で見せてくれたギルドからの依頼票には、魔物の討伐と薬草、キノコの採取があった。
採取を手伝ってほしいと言われたので、頷いたよ。
お世話になるんだし、それくらい、おやすい御用です。
そんな話をしているうちに、西の上級ダンジョンの入口に着く。
馬車やブラックホースは休憩所に預けて、ダンジョンの入口近くにある建物の中へと入る。
ここで潜る予定日数と人数を申請しないと、ダンジョンの中には入れない。
それはどこのダンジョンでも同じで、規定レベル以下の冒険者が勝手に入らないよう、監視の意味合いもあるんだって。
ギルドカードを出し、レベルの確認をしてもらう。
この手続きなしでダンジョン内に入ると、ペナルティーを課せられるそうだ。
ヘルマンさんたちと一時的なパーティー登録をすませ、いよいよダンジョンの中へ。
「わあ……前もそうでしたけど、やっぱり森林なんですね」
「ここは五階までは代わり映えしないんだ。それ以降の階層は川だったり海だったり山だったりと、いろいろある。階層は五十まであるらしいが、過去に二度ほど踏破の記録があるだけで、本当に攻略してるのか疑わしいらしい」
「川に海……前回は素通りしてしまったから、今回はお魚が食べたいです!」
「はははっ! 魚が食べたいとなると、最低でも六階までは行かないとな。討伐対象も六階にいるから、ちょうどいい」
「なるほど~、楽しみです!」
ヘルマンさんと話しながら、ダンジョンの奥へと進んでいった。
歩き始めることしばらく。デボラさんが私に尋ねてきた。
「そろそろ、薬草とキノコの採取をしたいんやけど、どうや?」
「ちょっと待ってくださいね」
デボラさんに聞かれて、【薬草探索】のスキルを発動する。
その状態でもう一度採取依頼票を見せてもらい、ひとつひとつ採取対象のものを教えていく。
採取するときにはナイフや短剣で切ったほうが状態がよくなるということも教えた。
依頼の薬草とキノコを採りながら、私も自分が必要とする薬草やキノコを採取していく。
ヘルマンさんやカズマさんによると、採取依頼の薬草やキノコはそのほとんどが第一階層で採れるそうなので、根こそぎとまではいかないけど、たくさん採取するのは第二階層以降にしようと思う。
他に採取依頼を受けた人たちの分がなくなっちゃうからね。
そして他にも食べられる野草や果物があったので、それも採取する。
今回あった果物は、巨峰に似たブドウとアボカド。
ダンジョン内とは思えない食材が集まってきそうで嬉しい。
場合によっては、ダンジョンで採れたもので料理をしよう。
ご飯や休憩をしながら一日かけて第一階層を歩き回り、必要な薬草やキノコを採取したり、戦闘したりした。
第二階層へと下りる階段近くにセーフティーエリアがあるので、今日はそこで一泊です。
セーフティーエリアに向かう途中、ヘルマンさんたちが立ち止まった。
あとちょっとなのに、どうしたのかと思ったら蜘蛛の魔物がいた。
「ん? なんだ、あれは?」
「フォレストタラテクト同士が戦っているようでござるな……」
ヘルマンさんの言葉に、カズマさんも首を傾げている。
あの大きい蜘蛛は、フォレストタラテクトっていうらしい。
仲間同士で戦うなんてことがあるの? そう質問しようとしたら、いきなりみんなが身構えた。
ラズも臨戦態勢になっている。
「みんな、デスタラテクトだ! 警戒しろ! 全員下がれ! リンは一番うしろにいろよ!」
「はっ、はいっ!」
ヘルマンさんが指示を出し、私を一番うしろに下がらせた。
そして魔法を使うデボラさんと遊撃にあたるローザリンデさんが、私の左右に陣取った。
フレッドさんが盾を持って一番前に行き、そのうしろにヘルマンさんとカズマさんが並ぶという陣形だ。
「あの、デスタラテクトってなんですか?」
状況が掴めていない私の質問に対して、デボラさんとローザリンデさんが答えてくれる。
「このダンジョンの中層に出る、黒くて小さい凶悪な蜘蛛なんや」
「どうしてこの階層にいるのかしら」
「え……」
中層に出るはずの蜘蛛が第一階層にいるって……大問題なんじゃないのーー⁉
私たちの視線の先では、茶色と黄色の五十センチはある蜘蛛――フォレストタラテクトがたくさんと、真っ黒で十センチしかない小さな蜘蛛――デスタラテクトが一匹、対峙していた。
外の森なら縄張り争いとかなんだろうなってわかるんだけど、種族も違うし、ダンジョン内だから縄張り争いじゃないと思う。
デスタラテクトはどうしてここにいるんだろう?
それに、脚が一本ない。他にもお腹のあたりを怪我しているし、取れかかっている脚もあった。
多勢に無勢なはずなのに、どんどんフォレストタラテクトを倒していくデスタラテクト。
その周辺には、ドロップアイテムの蜘蛛糸と魔石、毒腺がたくさん転がっていた。
デスタラテクトはこのダンジョンの中層にいる凶悪な蜘蛛だというのに、私には怖いとは思えない。
日本にいたときに見た蜘蛛に似ているからかもしれない。
ハエトリグモというたくさんある目の中でも大きなふたつの目が特徴的な、とても小さな緑色の蜘蛛。あと、脚が長いアシダカグモ。
それらの蜘蛛は、私が施設にいたとき、栽培していた野菜や花についた害虫を取ってくれていた。
だから怖くないのかも。
むしろ、私にとっては大きな蜘蛛のほうが怖いし、鳥肌が立つほど気持ち悪い。
怪我を負いながらも戦い、とうとう敵を全滅させたデスタラテクトは、ホッとしたのかその場に蹲るように座る。
だけど、ヘルマンさんとカズマさんが剣を構えたことに気づいたようで、ふらふらしながらもその小さな体を起こした。
なんだか可哀想になってしまって、二人を制止する。
「ヘルマンさん、カズマさん、待ってください。怪我してますよ、あの蜘蛛」
「だからこそ、この場で倒さなければならない。それほど危険な魔物なのだ。それに、中層にいるはずのデスタラテクトが出たとなると、どこから来たのか調査もしなければならない」
「だけど、可哀想です。それに、凶悪な魔物という割に襲ってきませんし……なんか様子がおかしい気がします。もしかしたら迷い込んだだけかもしれないし。確かテイムできましたよね、デスタラテクトって」
「それはできるが……」
ヘルマンさんが言いよどむので、スマホでアントス様情報を見た。
やっぱりデスタラテクトはテイムできるそうだ。もしかしたら……
「最初から後ろ脚がありませんでしたよね。だからそれを理由に捨てられたのかもしれないじゃないですか」
「リン……」
「手当てします」
ヘルマンさんとカズマさんに止められる前に、ハイポーションを出してから、デスタラテクトに近づく。
「なにもしないわ。手当てさせて?」
〈シューッ!〉
威嚇してくるけど、飛びかかる元気もないようで、その場から動かない。
それをいいことにラズに護られながら近づき、持っていたハイポーションの蓋を開けてデスタラテクトの全身にかけた。
すると、みるみるうちに傷口が塞がり、血が止まる。取れかかっていた脚も、なんとか繋がってホッとした。薬師として見過ごせない怪我だったからね。
後ろ脚は元に戻らなかった。
それでも傷だらけだった体がすぐに治ったからなのか、デスタラテクトは驚いたように私を見上げてきた。とても大きな目が真ん中にふたつと、その左右に小さな目がふたつずつ一直線に並んでいる。
その中の大きなふたつの目から、困惑した感情が伝わってくる。
「後ろ脚は別の特別なポーションじゃないと治せないみたい。ごめんね」
〈……〉
「君はどうしてここにいるの? 誰かに連れてこられたの? それとも、迷い込んじゃった? って言っても、わからないかあ……。ラズみたいに話せるといいのにな」
そんなことをぼやいていると、ラズが蜘蛛の言葉を伝えてきた。
ラズは魔物と話す能力があるようで、たまにエアハルトさんの家にいるハウススライムや、穏やかな馬の魔物と話をしている。
会話の内容をいつも楽しそうに教えてくれるのだ。
そんなラズ曰く、このデスタラテクトは、以前は森にいたフォレストタラテクトだったけど、テイマーに無理矢理テイムされたそうだ。
仕方なくたくさん戦って進化したけど、体が小さくなったし怪我をして戦えなくなったからと契約を解除され、この階層に捨てられたらしい。そのテイマーは罰が当たったのか、二日ほど前に一緒にいた冒険者にこの階層で殺され、死んでしまったという。
デスタラテクトの話を聞いたヘルマンさんたちは、一瞬額に青筋を立てたものの痛ましそうな顔をし、黙り込んでしまった。
そのテイマーのことは可哀想だと思うけれど、魔物にも心あるものがいるのだ、ラズのように。
人間の都合で利用するのはダメだと思う。
「そっか。ねえ、君はどうしたい? ここにいると、また同じ目に遭うかもしれないよ?」
〈シュー。シュシュ〉
〈リンと一緒に行きたいって言ってる。怪我を治してくれたから、戦ってそのお礼がしたいって〉
「戦ってって……。大丈夫なの? 無理しなくてもいいんだよ?」
〈シューッ!〉
〈大丈夫だって〉
ラズが通訳してくれたけど、本当にいいのかな。
蜘蛛を見ると期待するような、拒絶されるのが怖いような、そんな目をしている。
……くそう、可愛いじゃないか。
そっと手を出せば、嬉しいとばかりにぴょん! と飛びのってきた。
おお、思ったよりも軽いし、近くで見ると本当に可愛い顔をしていて、なんだか愛着が湧いてくる。
「うん、いいよ。私は薬師だけど、いいのかな」
〈シュシュッ♪〉
〈薬師なら、護りがいがあるって〉
「ふふ。そう、ありがとう。私はリンって言うの。これからよろしくね」
〈シュー♪ シュシュシュ!〉
〈こちらこそ。名前が欲しいって〉
おおう、名前って……
まさか、前の人は名前をつけなかったのだろうか。
204
お気に入りに追加
23,626
あなたにおすすめの小説
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結・全3話】不細工だと捨てられましたが、貴方の代わりに呪いを受けていました。もう代わりは辞めます。呪いの処理はご自身で!
酒本 アズサ
恋愛
「お前のような不細工な婚約者がいるなんて恥ずかしいんだよ。今頃婚約破棄の書状がお前の家に届いているだろうさ」
年頃の男女が集められた王家主催のお茶会でそう言ったのは、幼い頃からの婚約者セザール様。
確かに私は見た目がよくない、血色は悪く、肌も髪もかさついている上、目も落ちくぼんでみっともない。
だけどこれはあの日呪われたセザール様を助けたい一心で、身代わりになる魔導具を使った結果なのに。
当時は私に申し訳なさそうにしながらも感謝していたのに、時と共に忘れてしまわれたのですね。
結局婚約破棄されてしまった私は、抱き続けていた恋心と共に身代わりの魔導具も捨てます。
当然呪いは本来の標的に向かいますからね?
日に日に本来の美しさを取り戻す私とは対照的に、セザール様は……。
恩を忘れた愚かな婚約者には同情しません!
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。