転移先は薬師が少ない世界でした

饕餮

文字の大きさ
上 下
4 / 178
書籍発売記念小話

仲間の反応(ヨシキ視点)

しおりを挟む
Webに載せていた時の再掲です。
書籍に合わせ、加筆修正しています。


*******


 温泉で再会したリンから銀髪の神に会う方法を聞かされて驚いたが、もうじき仲間たちのところに着くからと、返信だけしておく。どうせなら仲間と一緒に行ったほうがいいと考えたからだ。
 特にもうじき妻となるマドカはかなり怒り狂っていたから、確実に殴るだろう。
 俺はどうしようか……と悩む。銀髪の神の状態を見てから決めるか……と思い、ドラール国の拠点に帰った。
 ドラゴンの姿で帰ったから、かなり早く着いたのは言うまでもない。

「お帰り! リンはどんな様子だった? 容姿とか」
「容姿は前世のままだった。まあ、異世界転移したんだから、当然だな。それと従魔がたくさんいて、とても元気そうだったぞ?」
「従魔!? え、薬師なんだよな? なのに従魔がいるのか?」
「ああ。神酒ソーマが作れるそうでな……それで酷い怪我を治したら懐かれて、従魔になってくれたんだと」
神酒ソーマ!?』

 神酒ソーマが作れるということに驚く仲間たち。これは確かに驚くだろうなあ……とは思っていたが、予想以上の驚き方だった。
 当然ではあるか。昔はともかく、現在は神酒ソーマを作れる薬師がいないと言われているんだから。
 しかも、それを作れるのは、魔神族のハーフとなった、俺たちが知っているリンなのだから余計に。

「アイデクセの王都には、初級から上級まで満遍なくダンジョンがあるし、俺が見たのは西地区だけだが、とても活気があっていい雰囲気だった。蔑むような視線もまったくないし、他にも獣人族やエルフ、ドワーフもいたな。人族もドラゴン族もいたが、みんな仲良くやっていた」
「ほう……それは珍しいね。王族や貴族がしっかりと国や領地を治めているのだろう。で、拠点の場所は?」
「先に連絡機能で知らせた通り、西地区だ。その地区は西地区の中でもAランクやSランク冒険者が住む場所で、リンの店まで徒歩五分くらいの距離だ」
「それは近くていいな」

 リンを見守るならば近いほうがいいだろうとそこを買ったが、仲間の様子を見る限り好感触だった。そのことに胸を撫で下ろす。
 かなりぼろい建物だったから改装が必要で、ちょうど俺たちも他国から引っ越してくるから、冬をまたいで出来上がるころにアイデクセに着くからと、商人ギルドに話してある。もし間に合わなければ宿に泊まるか、ダンジョンに潜って攻略してもいいしな。
 そのあたりのことはアイデクセの拠点に行ってから決めようということになり、まずは教会へと赴く。もちろん、アマテラス様やツクヨミ様、銀髪の神に会いに行くためだ。
 仲間たちの殺る気に苦笑しつつ、教会で祈りを捧げる。ふわりと風が吹いたと思ったら、あたりの景色が一変した。
 その場所には池と花畑、テーブルと椅子が置かれていた。座っていたのは転生するときに会ったアマテラス様とツクヨミ様、そして銀髪の神――アントス神も座っていたのだが……その顔は見事に腫れ上がり、引っ掻き傷もあった。
 その悲惨というか壮絶な顔に、みんなで唖然とする。

「いらっしゃい、転生者たち。優衣――リンから聞いたのかしら?」
『は、はい』

 アマテラス様に声をかけられ、慌てて返事をする。どうぞと席をすすめられたので全員で恐縮しながらも座ると、緑茶を出された。その懐かしい味に、涙が出そうになる。
 茶葉も紅茶もあるんだからと散々緑茶を探したが、結局見つからなかったものだ。他の転生者仲間に製法を聞いてみたが、誰も知らなくて諦めたものだった。
 そしてお茶と、リンがくれたというパウンドケーキを頬張りつつ、リンにも話したという説明を聞いている仲間は、だんだんその表情が険しくなっていく。
 一応想定はしていたが、まさかの想定外の話に、最後はアントス様を睨みつけるような目つきになっていた。
 そしてアントス様を眺めるのだが……。

「あの……アマテラス様。アントス様のお顔は、あのときのままなんですか?」
「ええ、あのときのままよ。わたくしたち日本の神たち全員でフルボッコにしましたもの、わたくしたちよりも位の低いアントスにとって、すぐに治るということはありませんわね。それに、リンとその従魔たちがいろいろとして帰ったの。その傷も追加されているわ。それすらもまだ治っていないのよ」
「凄かったですね。リンを主と慕う従魔たち……特に、スライムラズ蜘蛛スミレロキが一番凄かったですね」
「うわ~……。やるわね、リンと従魔たちは」
「もちろん、オレらもやっていいんですよね?」
「ええ。ツクヨミと一緒に逃げられないようにサポートしますから、ご存分にね」

 にっこりと笑ったアマテラス様の言葉に、嬉々として順番を決めるジャンケンを始めたメンバーたち。俺はそれを苦笑して見ていただけだった。
 それを不思議そうに見ていたのは、ツクヨミ様だ。

「おや? 君はジャンケンに加わらないのかい?」
「当人とその従魔たちにお仕置きされたんだろ? 殴りたい気持ちがないわけじゃないが、状況を把握した当時ほどではないな。俺はリンが無事ならそれで充分だ」
「そうですか」

 にっこり笑う、アマテラス様とツクヨミ様。俺がそんな話をしているうちに順番が決まったのか、それぞれがストレッチを始めているのが、なんとも笑える。
 一番手はマドカのようだ。

「さあ、行くわよ、アントス様! 五百年優衣ちゃんを……いいえ、リンを探したあたしたちの恨みを思い知れ!」
「ちょっ、痛い! まっ、ぎゃーーー!!」
「じゃあ次はオレな! 五百年も探させやがって! ふざけんな!」
「ひぃぃーーー!!」
「次は私ですね。赤ちゃんのころから病気ひとつしない子でしたが、この世界ではどうかわかりません。心配させたんですから、これくらいは許されますな?」
「ちょっ、まっ、メスは駄目ですって! いたっ、痛い!!」
「わたしも少しくらいはいいわよね? 夫である先生と一緒に、前世から心配していましたもの」
「ぎゃーーーーー!!」

 マドカに始まって、リンを気に入っていた元自衛官で同僚のセイジ、施設の子どもたちを診ていた医師のタクミ、前世は看護師で今世は薬師であるタクミの妻のミユキ。他にも数人の元自衛官や鍛治師や大工が……俺たちのクラン『アーミーズ』のメンバーが、アントス様を殴っている。

「ほどほどにしとけよ? リンは報復を済ませているんだから」

 新たにほうじ茶を淹れてくれたアマテラス様にお礼を言い、一口啜る。ほうじ茶を飲みながら仲間たちを見れば、最後の一人が殴り終わり、みんなしてハイタッチをし、こちらに戻ってくるところだった。
 アントス様に至ってはぐったりとして地面に転がっているものの、見た目ほど酷いわけではなさそうだ。さすがは神といったところか。

「あ~、すっきりした! あとはリンに会うだけね」
「そうっすね」
「王都でもリンを診てやらねばな」
「わたしも手伝います。できればリンちゃんにポーションの作り方を教えてほしいわね。わたしもそこそこの魔力があるし」

 それぞれが自分のやりたいことや感想を言い、リンに会うのが楽しみだと告げる。俺自身も、もう一度会うのが楽しみだ。
 別のパーティーに入っているようだが、セイジとタクミに至っては、辛いようなら俺たちのクランに引き抜いてもいいとさえ言っている。
 そこはまだ様子見だが、もしとんでもないパーティーならそれも視野に入れておくべきだし、今度リンに会ったとき、『アーミーズおれたち』という逃げ場があることを教えておいたほうがいいと思う。
 それぞれにお礼と感謝を言い、教会に送ってもらう。時間がまったくたっていないと言っていたので、五分ほどその場にいると、拠点に戻った。
 春までに金を稼ぎ、今持っているものよりも大きな馬車を作らないとならない。それは鍛治師ライゾウ二人の大工ミナとカヨの仕事で、俺たちは資金と材料の調達だ。
 ここは木材が出るダンジョンがあるから、今のうちにたくさん確保しておきたい。そして、アイデクセに行くまでに、Sランクに上がりたい。
 今のところ評価は上々だし、レベルもあと少しでSランクとなる。そこでランクアップ試験を受けて合格すれば、俺たちのクランは晴れてSランクとなる。
 それまでに技量とレベルを上げ、雪解けがきたらこの拠点を売り払って、アイデクセに拠点を移し変える。

「楽しみだな」

 従魔たちは進化したそうだから、どんな種族になったのか、そしてリンのレベルがどこまで上がったのか、とても楽しみだった。

しおりを挟む
感想 2,058

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。 レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。 【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。 そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。