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書籍発売記念小話

 閑話 我らのご主人様(スミレ視点)

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 ワタシたちのご主人様は、とても優しいです。前のご主人様とは大違いだと、以前一緒に戦ったことがあるレンとシマ、ロキと話していました。

 前のご主人様はとても酷い人でした。
 ご飯はそこらにあるものを適当に食べろと、なにも出さないのです。
 怪我をすれば、軽いものなら自分が使える魔法で治してくれましたが、酷い怪我だと魔法どころかぽーしょんも使わず、契約を解除してそのまま放置されました。
 ロキのつがいも同じで、怪我をしながらもロックを産み、弱っているところをたくさんの魔物に襲われて死んだそうです。とても強かったのに、残念です。

 ロキたちとレンたちがご主人様のところに来たのは、だんじょんから帰るところや、森でも楽しそうにしていたワタシたちを見たからだそうです。ワタシの脚が綺麗に治っていたことに驚いたと言っていました。
 ラズは彼らの視線に気づいて、ご主人様のところにくればいいと誘ってくれたそうです。ご主人様の家は門から近いこともあり、ワタシの子どもとラズの分身の案内で、闇夜に紛れて王都の中に入り、あの庭に来たのだそうです。

 一応子どもは褒めましたけど……リンに知られたら、怒られるよ? ラズ。

 そーまはとても貴重なぽーしょんだと、前のご主人様が言っていました。上級だんじょんか特別だんじょんからしか出ないから、早くランクを上げて潜りたいと話していました。
 だけど、結局は自分勝手にワタシたちを【ていむ】して、自分勝手に解除した罰が下ったのでしょう。一緒に行動していたニンゲンに殺されてしまったのです。
 ワタシは進化したばかりのころに集中して狙われ、怪我に次ぐ怪我で脚が取れてしまって、【ていむ】を解除されたばかりだったから、殺されるところを見てしまったのです。相手もワタシがいないことを狙って、殺したのかもしれません。
 だって、【ていむ】されている間は、どんなに大嫌いなご主人様でも、助けないといけない契約なのですから。

 そんなときに、今のご主人様とラズに出会いました。薬師であるご主人様はとても優しくて、自分の従魔じゃないのに、効果の高いぽーしょんやそーまを使って治してくれたのです!
 まさか、そんなことをしてくれるなんて思いませんでした。とても嬉しかった。
 だから、ご主人様の――リンの力になりたかったのです。
 名前もくれました。スミレという名前をとても気に入っています。
 それは、他のみんなも同じだと言っていました。前のご主人様は、名前なんてくれなかったのですから。

 名前はワタシたち従魔にとって、とても大事で大切で、ご主人様との絆を深めてくれます。危険や気配を察知する能力が鋭くなるのです。
 そして、使うすきるも増えます。そのひとつが、【まじっくぼっくす】です。
 前のご主人様のときはなかったけど、リンがご主人様になったら、【まじっくぼっくす】が使えるようになりました。それはラズを含めた、他のみんなも一緒です。
 以前はそうでもなかったけど、リンの従魔になってからは、戦闘がとても楽になりました。感覚が鋭くなりました。リンを護れることがとても嬉しいと、みんなで話しています。

 取れた脚が元に戻るとは思っていませんでした。だからだんじょんの中ではラズにお願いして頭に乗せてもらい、一緒に戦いました。ラズはとても強かったです。
 怪我が治るまではとても痛かったし、移動も大変だったけど、ラズがワタシの脚になってくれたおかげで、前と同じように戦うことができました。
 ワタシが糸でぐるぐる巻きにして、ラズが溶かす。またはラズが触手を出して捕まえ、ワタシが猛毒を出す牙で噛み付く。たまにリンが攻撃すると、役に立っていると感じて嬉しくなりました。
 リンと出会った場所の敵は弱いから、ラズと一緒に戦うのはとても楽で、リンを守れることが嬉しかったです。
 リンに薬草と採取の仕方も教わりました。リンやラズと一緒に採取するのは、とても楽しいです。

 そして、リンと出会ったその日の夜。

「スミレ、お待たせ。これからスミレの脚を治すからね」
<本当にいいのかな>
「気にしなくていいんだよ~。上級ダンジョンは危険でしょう? スミレを危険な目に遭わせたくないし、万全な体調でいてほしいんだ。ラズもスミレも、私の家族になったんだから」

 何を言っているのかわからない言葉もありましたが、リンは躊躇いなくそーまというぽーしょんを使って、ワタシの脚を治してくれたのです。
 とても温かい、リンと同じ魔力が込められたぽーしょん。その魔力がなくなった脚に集まって、少し熱いです。
 我慢できるかな、って思っていたらいつの間にかその熱さがなくなっていて……。

「スミレ、どう? 痛いとか、なんか変な感じとかする?」
<んー……? ううん、大丈夫! ありがとう!>
「そっか。よかったぁ! どういたしまして」

 心配そうにワタシを見るリンに、恐る恐る歩いてみました。
 今までは歩きづらくてあまり歩けなかったのに、前みたいに歩けます。それに、リンとラズには話さなかった、お腹の中の痛みも、綺麗になくなっていたのです。
 いろんな場所を動かしてみたけど、まったく痛くないのです!

<スミレ、やったね! よかったね。だからリンは優しいって言ったでしょ?>
<うん。凄く高いぽーしょんなんだよね? ワタシに使ってくれて、いいのかなあ>
<気にしない。リンはラズたちを大事にしてくれる。家族だって言ってたでしょ?>
<家族! うん! そう言ってもらえると嬉しいよね!>
<うん! だから、ラズたちでリンを護ろうね。どこか危なっかしいから、リンは>
<そうだね。護ろうね>

 リンがぽーしょんを作っている間に、ラズとリンを護ろうと話しました。そのためには、子どもたちを産んで育てないと。
 お腹の中にあった痛みがなくなって、生き残った子たちが今にも出てきそうです。だけど、内緒にしておきたいから、夜になったら卵を産もうと思います。
 きっとリンがお世話している庭の害虫を食べてくれるし、リンに害をなそうとするニンゲンを見極めることにも役立ってくれるだろうから。

 そして、しばらくしたらレンとシマ、ソラとユキ、ロキとロックがリンの庭に来ました……ワタシの子どもやラズの分身と一緒に。以前よりも酷い怪我をしていて、ロキは命が危なかったのです。
 それをラズと一緒に伝えたら、リンはすぐにワタシにも使ったそーまというぽーしょんを出して、みんなの怪我を治してくれたのです!
 彼らは本当に強いのよ? ロキは、リンを背中に乗せることができるくらい、体が大きいのです。
 強い彼らと一緒に行動をしたいと思っていたら、彼らもリンを護りたいと思ったみたいで、従魔になりたいとラズを通してリンに伝えていました。

「もう怪我してる子たちはいない? みんなうちの子になる?」

 優しい声で、みんなに話しかけるリン。他の元仲魔は全員死んでしまったと、レンとシマ、ロキが言っていました。
 ワタシたちは運がよかっただけ。
 リンという、とても素敵で優しくて、素晴らしいご主人様に出会えたから。

<リンのご飯、美味しいにゃ~>
<ほんとだにゃ~>
<前のご主人様は、ワタシたちにご飯なんてくれなかった>
<確かに。我らを怖がるでもなく、優しい笑顔で話しかけてくれる>
<我らより弱い薬師にゃ、ちゃんと護るにゃ>

 口々にリンの話をして、リンを護ろうと決めるワタシたち。
 お手伝いもしたいと話しました。

 リンがくっしょんというのが欲しいと言えば、ワタシが布を織ると伝えたし、森に行けばみんなで狩りをして、リンを外敵から守りました。
 中には真っ黒い格好やきらきらした格好、キシの格好をしたニンゲンもいて、リンに悪意を向けていたから、忍び寄ってガブッとひと噛みで倒しました。もちろん、みんなも。
 だけど、それらのことを、リンに伝えることはしません。伝えたら心配させて、怯えさせてしまうから。
 だから、なにも伝えないようにしようと、みんなで決めました。

 ニンゲンはそのままにしておくとあんでっどの魔物になると、一番長生きしているロキが教えてくれたので、ロキが持っている【土魔法】で穴を掘ってその中に転がし、シマが持っている【火炎魔法】で、灰になるまで焼きました。ここまでやれば、あんでっどにならないんだそうです。

<アンデッドは厄介だからな。きちんと処理するに限る>
<我らがいてよかったにゃ。まあ、不思議なことに、我らの姿は見れても、リンの姿は見えないみたいだったにゃ>
<多分、着ているものに関係があるのだろう。もしかしたら、隠蔽の魔法が込められているのかもしれん>
<どっちにしろまた悪さをしようとするニンゲンが出てくるんじゃない? スミレ、キシたちは何か言ってた?>
<悪意を持ったキゾクとキシが動いてるって、ワタシの子どもたちが言ってた。このニンゲンはそいつらじゃない?>
<そうかもな>

 リンが心配する前に帰ろうと、リンがいるところまで戻ります。護衛はロックとレン、ソラとユキがしているので、安心です。

「おかえり。なにかいたの? 怪我はしてない?」
『してない! あと、ブラウンボアを狩ったよ!』

 そ知らぬふりでリンと話し、ニンゲンを殺したあとに狩ったブラウンボアを三体見せます。解体はラズがしてくれました。
 ご飯を食べさせてくれて、みんなで遊んで、また狩りをしたり採取したりしました。そして真っ黒い格好やきらきらした格好やキシの格好で悪意を撒くニンゲンから、リンを護るのです。

 リンにはいつも笑っていてほしい。ずっと一緒にいたい――。

 それは、リンの従魔となったワタシたちの願いなのですから。

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