私の彼は、空飛ぶイルカに乗っている

饕餮

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本編

お泊りです

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 ぶすっとした顔で四番機から下りる。小島さんたちは「すまん」と言ってくれたんだけど、章吾さんは苦笑するだけ。一応「ごめんね」とは言ってくれたけど、さすがに許しがたい。

「ひばり、悪かったって」
「知りませーん」
「……あんま拗ねるとここでおっぱい揉むぞ」
「ば……っ、バカっ!」

 四番機のコックピットの下あたりで額と手をくっつけ、「顔も見たくありません!」アピールをしてたんだけど耳元でエッチなことを囁かれ、慌てて章吾さんに向き直ると睨む。
 お仕事中になんてことを言うんだ、章吾さんは!

「だから、じゃれあいは三番機だけでいいから……」
「一緒にしないでくれよ、小島さん」
「三番機のじゃれいあいって何のことかわかりませんけど、じゃれてませんから! 放置されてた私が悪いんですか?」
「うっ……」
「それを言われるとなあ……」

 よくわからないことを言われたけど、私の場合は完全に二人が悪いので、私の指摘に対して苦笑しながら指で頬を掻いてるし。章吾さんをまた睨んだんだけど、睨んだところで「上目遣い、可愛い!」って言われ、頭を撫でられて終わってしまった……。

(もう……)

 とはいえ、ずっと怒ってるわけじゃないんだけどね。
 一旦喧嘩(?)を終わらせ、仕事の邪魔にならないように端っこに行く。近寄ってきた隊長さんに「ありがとうございました! それと、申し訳ありませんでした」と頭を下げたんだけど、「あいつらが悪い。貴女は気にしなくていい」と溜息をついていた。
 なんというか、隊長さんもいい声をしてるんだよね。三番機さんは聞いたことがあるからわかるけど、他のライダーさんとは話したことはない。だけど、きっとみんなイケボなんだろうなあって勝手に想像してる。

「ありがとう。本当に娘にもらってもいいのかい?」

 隊長さんが立ち去ったあと、今度は新人さんらしき人が近寄って来たのでお互いに挨拶を交わす。お名前は牛木さんと仰って今はアナウンスのお仕事をしてるけど、いずれは四番機に乗ることになるんだって教えてくれた。低くて渋いお声の牛木さんです。

「はい。私の家で売ってるもので申し訳ないんですけど……」
「いやいや。どれも娘が好きそうなものばかりで助かる。特にブルーインパルスの四番機がお気に入りでね」
「そうなんですか? なら、今度は四番機の大きいのと、持って来たシリーズの残りを章吾さんに預けますね」
「これよりも大きいのがあるのか……。というか、そんなにたくさんいいのかい?」
「構いません。それにこのミニシリーズは小さい女の子にも人気なんです。だからきっと、喜ぶと思います」
「ああ、そうかも。ふふ、大きいのを抱いて眠る娘を想像しただけで笑顔になれるよ。大っぴらには言えないが、楽しみにしてる」

 そんな会話をしている間の牛木さんは、ご家族のことを思い出しているのか終始笑顔だった。本当に大事にしてるんだってことが伝わってくるし、とても穏やかな顔をしていた。キーパーさんたちが『モーさん』って言ってたのがわかる気がする。
 章吾さんとの馴れ初めを聞かれて話したり、公開プロポーズの場面を動画で見たとかでちょっとだけからかわれたけど、娘さんのことを話して満足したのか、私の側を離れていった。
 そして視線の先には、隊長さんたちに叱られている章吾さんと小島さんの姿がある。悪いことしちゃったかなあとは思うものの、自業自得だから仕方がない。

「みんな仲がいいんだなあ……」

 叱られていても、どこか楽しそうにしている章吾さんたちと他の人たち。私がここにいていいのか気になってくるんだけど、「終わるまでここにいていい」と言ってくれたのは隊長さんだった。
 申し訳ないと思うと同時に、また章吾さんに何か持っていってもらおうと思った。


 ***


「ひばり、バイソン――牛木と何を話してたんだ?」

 章吾さんのお仕事も終わり、寮に帰る途中のこと。そんなことを聞いてきた章吾さんに、牛木さんと話してたことを教える。

「牛木さんのご家族のこと。娘さんは四番機が好きなんだって。今回持って来たのはミニシリーズだけど大きいのもあるって言ったら、『大きいのを抱いて眠る娘を想像しただけで笑顔になれるよ』って言ってたよ」
「そっか。まあ、バイソンは家族を大事にしてるからな。四番機が好きだとは知らなかったが」
「そうなんだ? でね、今度章吾さんが帰って来たら、牛木さんの娘さん用にぬいぐるみを用意するから、渡してくれる?」
「いいよ」

 そんな会話をして寮があるという建物まで歩く。笑顔で歩く章吾さんが珍しいのか、すれ違う隊員さんたちが驚いた顔をしているのが見えた。中には睨んでくる女性隊員もいたけど、その人たちには章吾さんが冷ややかな視線を向け私には色気たっぷりな笑顔を向けるものだから、悔しそうな顔をしてどこかに行ってしまう。まあ、私もその人たちにドヤ顔をしたけどね!

 章吾さんはカッコいいから、モテると思うと胸が痛い。それは航空祭での人気でわかっていたことだけど、目の当たりにすると余計につらい。

 だけど、章吾さんはいつだって他の人には塩対応で、私にしか満面の笑みを見せない。それがとても嬉しかったしそれだけで気持ちが浮上する私は単純だなあって思う。

「ここだよ。あがって」
「お、おじゃまします……」

 基地内にある宿舎に案内され、ドキドキしながらあがる。なんというか、シチュエーションは違うけど、『彼の家におじゃました』って感じ。それに初めてだしね、そういうの。
 背負っていた荷物を部屋の側に置かせてもらうと、スマホと充電器、食材が入ってる保冷バッグを出す。簡易キッチンがあると聞いていたので、簡単にだけど料理をするつもりでいたのだ。

「パスタでいい?」
「お、楽しみ。寮の近くにコンビにがあるんだけど、野菜もあるよ。必要なものはある?」
「えっと、じゃあ、サラダを添えたいからお願いしてもいい?」
「わかった。鍵はかけていくけど、俺が帰ってくるまで、誰か来ても絶対に扉を開けるなよ?」
「うん」

 章吾さんに注意されて頷くと、鍋がある場所などを聞く。場所を説明したら章吾さんはお財布を持って出かけていった。

「さて、やりますか」

 今日はソーセージと三色のピーマンを使ったナポリタン。ミートソースとかもっと凝ったものを作りたかったんだけど、さすがに生ものを持ってくる勇気はなかった。食中毒とか怖いしね。ソーセージもわざわざ冷凍し、野菜ともども保冷剤を入れた保冷バッグに入れて持って来たくらいだし。
 保冷バッグから食材を出し、まずはパスタから始める。お湯が沸騰するまでの間に材料を切り、ゴミは別に持ってきたビニール袋に入れた。沸騰したところでお塩とパスタを投入し、茹でている間にソーセージとピーマンを炒める。
 途中でケチャップを入れ、炒めあがったころに章吾さんが帰って来たから座って待っててもらおうとしたんだけど、手伝うというのでお皿と食器を出すのをお願いしちゃった。
 茹で上がったパスタを野菜のほうに入れて、混ぜれば完成。

「お、旨そう!」
「手抜きでごめんなさい」
「そんなことはないさ」

 お皿に盛って、テーブルにセッティング。サラダと飲み物、プリンを買って来てくれた章吾さんにお礼を言い、二人でいただきますをして食べ始めた。

「うん、旨い!」
「よかった、お口にあって」

 ニコニコしながら食べてくれる章吾さんにそっと息をはく。実はこれ、味付けは我が家のだけど、章吾さんのお母さんに教わったアレンジレシピなんだよね。美味しそうに食べてくれてるから、ホントよかった!
 途中でサラダを食べたりしながらも綺麗に完食した章吾さん。デザートのプリンも食べきった。

 床に座った章吾さんの前に座り、一緒にテレビを見る。いつもならこんなにまったりしてる時間なんてないから、なんだか不思議。
 
「あ、そうだ。ひばり」
「なあに?」
「結婚式を含めた今後のことなんだけどさ……」

 章吾さん曰く、弟子が来たことでこっちにくる時間がなくなるかも知れないことと、結婚式をあげるにしてもその関係でブルーインパルスを卒業してからになりそうだと話してくれた。

「俺としては、籍だけ先に入れて一緒に住んでもいいと思ってるんだけど、ひばりの親父さんを見るに反対されそうなんだよな……」
「あー……それはあるかも。ただ、お父さんは頑固ってわけじゃなくて、『何をするにも筋を通せ』って言ってたから、話し合いをすればわかってくれるかも」
「そうだな……まずは相談するか。ひばり、来月行った時に会いたいからって伝えておいてくれるか?」
「うん」

 電話で話したほうが早いんだけど、章吾さんは必ず「相手の顔を見て話したい」って言う。いくら笑顔が少ない塩対応してても、章吾さんは必ず観客のほうを向いているし、手を上げたり振ってくれたりする人だ。笑顔じゃなくたってちゃんと答えてくれるし、時には笑いもする。
 確かに私を特別扱いしてくれるけどそれは二人っきりの場合がほとんどで、航空祭に行ったあの時が特別だったってわかる。

 実は四月にとある基地の航空祭に行ったんだよね。その時もちゃんと「行く」って連絡したし、目の前に座ることもできたし、目もあった時に笑ってくれたけど、それ以外はずっと塩対応だった。

 それが広報としての、ドルフィンライダーとしてのお仕事の姿なんだって理解できたし、特別なんだってやっとわかった瞬間でもあったから。だから、そんな章吾さんをもっと好きになった。

「ひばり……」
「ん……っ、あっ」

 急に低い声がしたと思ったらTシャツの裾から両手が入り込んできて、私の乳房をつかむと揉みしだいてくる。

「あっ、あっ、は……っ」

 どんどん激しくなってそのまま章吾さんに寄りかかると、Tシャツが捲り上げられ、ブラのホックも外されて、胸をあらわにされてしまった。

「んっ、あっ、章吾、さ、あんっ」
「……乳首が勃って来たよ、ひばり」
「ああんっ!」

 ほら、と指先で乳首を弾かれ、背中に疼きが走る。

「一回抱くよ。そのあとお風呂に入って、もう一回」

 いいだろう? と耳を舐められ、乳房を揉まれながら聞かれて頷いた。

 のはいいんだけど……なぜかいつも以上に激しく抱かれ、しかも滅多に朝に抱くことはない章吾さんに翌朝しっかり抱かれ、ヘロヘロになって自宅に帰って来たのは言うまでもない。


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