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本編
★愛しい人と、卒業と新人
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電車の中で息を吐く。忙しい日々ではあったがひばりに会ってから楽しいこと、嬉しいことばかりだ。あっという間の一年だったし、こんなにも愛おしいと思う存在ができるとは思っていなかった。
唯一無二の存在……それが婚約者となったひばりだ。
くるくると変わるその表情はいつも楽しそうだし、ほんわかしている雰囲気があるせいか、一緒にいるとリラックスできる。まあ、可愛すぎて会えば食べちゃうというか、がっつりと抱くんだがな。
実はフライトスーツの胸ポケットの中に、スマホから現像したひばりの写真を入れて飛んでいるのは内緒だ。
一緒に飛べないんだから、せめて写真くらいはって思った。だからこそ、訓練だろうと本番だろうと、胸ポケットにはいつもひばりが笑っている写真が入っている。飛ぶ直前にそのポケットに触ってから飛ぶんだが……まあ、今のところ誰にも言ってないしバレてもいない。
電車などを乗り継いで基地に着くと、早速ライダーたちやキーパーたちに帰省土産を配る。といっても今回は遠出したわけじゃないから、十万石まんじゅうと草加せんべい、ひばりの実家で買ったぬいぐるみくらいか。
ちなみに、夏と今回買ってきたぬいぐるみのうち、ドルフィンの四番機以外は可愛いものが好きな浜路三曹にあげていた。が、今回俺が帰っている間に何かあったのか、タックと浜路さんが前以上にいい雰囲気になっていた。
唯一の女性だからと気を使った結果だが、そろそろそういった個人的な土産は控えたほうがいいかも知れん。
そんなタックも十月ごろから三番機のラパンこと因幡一尉の後ろに乗って訓練を始めている。それを考えると、俺も四月くらいに弟子が来ることが予想された。
飛行初めも無事に終わり、訓練でタックが前に乗ることも出始めた。ラパンもそろそろ卒業かと思うと寂しいものはあるが、俺もそろそろ卒業の時期だ。そしてあっという間に二月となり、ラパンは卒業して那覇基地へと帰って行った。
そんなタックではあるが、奴は三番機のキーパーである浜路さんにご執心だ。だが、浜路さんはそれに気づいているのかいないのか、華麗にスルーしまくってタックを凹ませていたはずなのだが、いつの間にかくっついていた。
ただでさえ基地の男たちが二人を見てあちこちで砂山を作っているというのに、本人たちは無自覚にイチャイチャしてるんだから困ったもんだ。俺もひばりに会いたくなって困るし。
それはともかく、その間、俺は去年と同じように月一でひばりに会いに行っていた。
「今度は私が行こうか?」
そう言ってくれたのは嬉しいんだが、来たら帰したくなくなってしまうからそこは丁重にお断りした。その代わり、会いにくれば中を見学させてやる約束はした。まあ、来るとしても春になってからだと思っているが。
ラパンが卒業してからはタックが三番機のドルフィンライダーとなり、一緒に訓練に明け暮れ、タックも浜路さんも無事にデビューしたあと。
四月になり、俺に弟子が来た。まあ、いまのところ候補でではあるが。
「彼は小松から来た牛木 龍平一等空尉、タックネームは『バイソン』だ」
「牛木です。よろしくお願いします。ちなみにタックネームは自分の苗字から来てます」
玉置隊長が紹介してくれたあとで自己紹介をしてくれたのだが、強面で低くて渋い声がそんなことを告げる。牛木の身長は180を超えているというのに笑うとえくぼができて可愛く見えるから、そのギャップで人気が出るかも知れないし、ドルフィンライダーの中でも破格の若さでブルーインパルスに来たタックとはまた違った渋い声のイケボである。
「しばらくはアナウンス業務となる。頼むぞ、バイソン」
「はい」
「では解散」
玉置隊長の言葉で締めくくったミーティングは終わりを告げた。
そしてなんだかんだと新人たちが来て一ヶ月以上たったが、タック同様にアナウンスでも牛木ことバイソンの声もまた「渋くて素敵!」と、ご婦人方に人気がある。そんなバイソンだが、キーパーたちからはなぜか『モーさん』と呼ばれている。というか、いつの間にかそんなあだ名がついていた。
「で、なんでバイソンが『モーさん』なんだ?」
「ああ、それか。顔は確かに強面でガッチリした体格だからいかにも『バイソン』って感じだが、奴は普段と笑顔とのギャップが激しいだろ? で、笑顔だけなら穏やかそうに見えるし誰が言い出したかわからんが、キーパーの間ではいつの間にかバイソンじゃなく『モーさん』になってたんだよ」
「あー……」
なぜバイソンが『モーさん』と呼ばれるに至ったのか小島に聞いてみたんだが、そんな答えが返って来た。
まあ、確かにバイソンの仕事中の姿はその声や体格から見るとそのタックネームはぴったりなんだが、仕事を離れたバイソンは日本の牧場で見る牛のように穏やかだ。家族のことを語っている時のバイソンは特に。
「……子供は一人だけってのを気にしてたんだよな、モーさんは。おそらくジッタの後継なのは間違いないとは思うが、お前のように『エロ属性がついた』なんてことになったら……」
「やめてくれよ、小島さん。洒落にならないから……」
「いやいや、そんなことはない! ジッタの後ろに乗るようになってから『二人目ができました』なんて言われたら、それこそ『四番機に乗るとイイことがある』って証明になるじゃないか」
「は?!」
「実際、婚約者に出会ってからのジッタは、ここに来た時以上に色気が駄々漏れしてんだぞ? しかも、『エロ属性が着いた』って噂になった時以上にな。そんなお前はこの基地でも人気上昇中なの、わかってっか?」
「……」
小島にそう言われて視線を逸らし、黙り込む。確かにひばりと出会ってから告白されることが増えた。入間基地で『公開プロポーズ』をしてから噂が広がったのかそういうのはなくなったが、何を勘違いしているのか「私のほうが貴方に相応しいと思うの」とかふざけたことを言ってくるやつもいる。
まあ、そこはキーパーを含めたブルーインパルスの仲間たちとひばり以外には、観客だろうが同じ基地の隊員だろうが『塩対応』と評判の俺だ。鼻で笑ってひばりの年齢とその素晴らしさを教えてやると、すごすごと引き下がるのがなんとも笑える。
俺にとってはどうでもいいんだよ、もうじき居なくなる基地の女のことなんか。
第11飛行隊ブルーインパルスのドルフィンライダーとして来たのではなく、ごく普通に第21飛行隊のF-2かT-4のパイロットとして来たならば、昔と同じことをして今でも女をとっかえひっかえしてフラれていたかも知れない。
だが実際はブルーインパルスのドルフィンライダーとしてここに来たし、今までそれに誇りを持って訓練を積み重ねて来た。そのご褒美がひばりと出会ったことだと考えると、神様の粋な計らいかも知れないって思うじゃないか。
碌な男じゃないのは理解しているが、それはそれ、これはこれ。
ひばりと出会って、本気で惚れたのがひばりだって言える。それほどに大事だし、愛してもいる。年齢差を気にしてはいたが家族も気に入ってくれたし、母からのメールでひばりが母に料理を教わっているとこっそり教えてくれたこともあり、あとは結婚するだけなんだが……。
俺に全く時間がないんだよな、これが。
先に籍だけ入れて一緒に住もうとも思うが、それは古巣である百里基地に帰ってからか、或いはこっちにいる間にするかは今度ひばりが来た時か、俺が向こうに行った時に話し合おうと考えている。
「なるようにしかならんからなあ……」
そんなことを呟き、四番機を撫でる。小島たち四番機のドルフィンキーパーたちが毎日磨いてくれているから、汚れひとつない。
そんな松島基地の空は、浜路さんが言うところの「イルカ日和」な青空が広がっている。
「そういや、今日は婚約者が来る日だったか?」
小島に話しかけられて、そちらに意識を向ける。
「ああ。また見せてもいいか?」
「いいぞ。走らせるのはご法度だが、四番機の後ろに乗せてみるか?」
「え……いいのか?」
「ああ、隊長たちには俺が許可を取っといてやるから。但し、乗せるだけだ」
「小島さん、ありがとう! 喜ぶだろうなあ……ひばり」
小島の言葉に、ひばりが喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
六月の声が聞こえ始めた五月の終わり。今回は寮に泊まる許可ももらっているから、今からひばりが来るのが楽しみだった。
唯一無二の存在……それが婚約者となったひばりだ。
くるくると変わるその表情はいつも楽しそうだし、ほんわかしている雰囲気があるせいか、一緒にいるとリラックスできる。まあ、可愛すぎて会えば食べちゃうというか、がっつりと抱くんだがな。
実はフライトスーツの胸ポケットの中に、スマホから現像したひばりの写真を入れて飛んでいるのは内緒だ。
一緒に飛べないんだから、せめて写真くらいはって思った。だからこそ、訓練だろうと本番だろうと、胸ポケットにはいつもひばりが笑っている写真が入っている。飛ぶ直前にそのポケットに触ってから飛ぶんだが……まあ、今のところ誰にも言ってないしバレてもいない。
電車などを乗り継いで基地に着くと、早速ライダーたちやキーパーたちに帰省土産を配る。といっても今回は遠出したわけじゃないから、十万石まんじゅうと草加せんべい、ひばりの実家で買ったぬいぐるみくらいか。
ちなみに、夏と今回買ってきたぬいぐるみのうち、ドルフィンの四番機以外は可愛いものが好きな浜路三曹にあげていた。が、今回俺が帰っている間に何かあったのか、タックと浜路さんが前以上にいい雰囲気になっていた。
唯一の女性だからと気を使った結果だが、そろそろそういった個人的な土産は控えたほうがいいかも知れん。
そんなタックも十月ごろから三番機のラパンこと因幡一尉の後ろに乗って訓練を始めている。それを考えると、俺も四月くらいに弟子が来ることが予想された。
飛行初めも無事に終わり、訓練でタックが前に乗ることも出始めた。ラパンもそろそろ卒業かと思うと寂しいものはあるが、俺もそろそろ卒業の時期だ。そしてあっという間に二月となり、ラパンは卒業して那覇基地へと帰って行った。
そんなタックではあるが、奴は三番機のキーパーである浜路さんにご執心だ。だが、浜路さんはそれに気づいているのかいないのか、華麗にスルーしまくってタックを凹ませていたはずなのだが、いつの間にかくっついていた。
ただでさえ基地の男たちが二人を見てあちこちで砂山を作っているというのに、本人たちは無自覚にイチャイチャしてるんだから困ったもんだ。俺もひばりに会いたくなって困るし。
それはともかく、その間、俺は去年と同じように月一でひばりに会いに行っていた。
「今度は私が行こうか?」
そう言ってくれたのは嬉しいんだが、来たら帰したくなくなってしまうからそこは丁重にお断りした。その代わり、会いにくれば中を見学させてやる約束はした。まあ、来るとしても春になってからだと思っているが。
ラパンが卒業してからはタックが三番機のドルフィンライダーとなり、一緒に訓練に明け暮れ、タックも浜路さんも無事にデビューしたあと。
四月になり、俺に弟子が来た。まあ、いまのところ候補でではあるが。
「彼は小松から来た牛木 龍平一等空尉、タックネームは『バイソン』だ」
「牛木です。よろしくお願いします。ちなみにタックネームは自分の苗字から来てます」
玉置隊長が紹介してくれたあとで自己紹介をしてくれたのだが、強面で低くて渋い声がそんなことを告げる。牛木の身長は180を超えているというのに笑うとえくぼができて可愛く見えるから、そのギャップで人気が出るかも知れないし、ドルフィンライダーの中でも破格の若さでブルーインパルスに来たタックとはまた違った渋い声のイケボである。
「しばらくはアナウンス業務となる。頼むぞ、バイソン」
「はい」
「では解散」
玉置隊長の言葉で締めくくったミーティングは終わりを告げた。
そしてなんだかんだと新人たちが来て一ヶ月以上たったが、タック同様にアナウンスでも牛木ことバイソンの声もまた「渋くて素敵!」と、ご婦人方に人気がある。そんなバイソンだが、キーパーたちからはなぜか『モーさん』と呼ばれている。というか、いつの間にかそんなあだ名がついていた。
「で、なんでバイソンが『モーさん』なんだ?」
「ああ、それか。顔は確かに強面でガッチリした体格だからいかにも『バイソン』って感じだが、奴は普段と笑顔とのギャップが激しいだろ? で、笑顔だけなら穏やかそうに見えるし誰が言い出したかわからんが、キーパーの間ではいつの間にかバイソンじゃなく『モーさん』になってたんだよ」
「あー……」
なぜバイソンが『モーさん』と呼ばれるに至ったのか小島に聞いてみたんだが、そんな答えが返って来た。
まあ、確かにバイソンの仕事中の姿はその声や体格から見るとそのタックネームはぴったりなんだが、仕事を離れたバイソンは日本の牧場で見る牛のように穏やかだ。家族のことを語っている時のバイソンは特に。
「……子供は一人だけってのを気にしてたんだよな、モーさんは。おそらくジッタの後継なのは間違いないとは思うが、お前のように『エロ属性がついた』なんてことになったら……」
「やめてくれよ、小島さん。洒落にならないから……」
「いやいや、そんなことはない! ジッタの後ろに乗るようになってから『二人目ができました』なんて言われたら、それこそ『四番機に乗るとイイことがある』って証明になるじゃないか」
「は?!」
「実際、婚約者に出会ってからのジッタは、ここに来た時以上に色気が駄々漏れしてんだぞ? しかも、『エロ属性が着いた』って噂になった時以上にな。そんなお前はこの基地でも人気上昇中なの、わかってっか?」
「……」
小島にそう言われて視線を逸らし、黙り込む。確かにひばりと出会ってから告白されることが増えた。入間基地で『公開プロポーズ』をしてから噂が広がったのかそういうのはなくなったが、何を勘違いしているのか「私のほうが貴方に相応しいと思うの」とかふざけたことを言ってくるやつもいる。
まあ、そこはキーパーを含めたブルーインパルスの仲間たちとひばり以外には、観客だろうが同じ基地の隊員だろうが『塩対応』と評判の俺だ。鼻で笑ってひばりの年齢とその素晴らしさを教えてやると、すごすごと引き下がるのがなんとも笑える。
俺にとってはどうでもいいんだよ、もうじき居なくなる基地の女のことなんか。
第11飛行隊ブルーインパルスのドルフィンライダーとして来たのではなく、ごく普通に第21飛行隊のF-2かT-4のパイロットとして来たならば、昔と同じことをして今でも女をとっかえひっかえしてフラれていたかも知れない。
だが実際はブルーインパルスのドルフィンライダーとしてここに来たし、今までそれに誇りを持って訓練を積み重ねて来た。そのご褒美がひばりと出会ったことだと考えると、神様の粋な計らいかも知れないって思うじゃないか。
碌な男じゃないのは理解しているが、それはそれ、これはこれ。
ひばりと出会って、本気で惚れたのがひばりだって言える。それほどに大事だし、愛してもいる。年齢差を気にしてはいたが家族も気に入ってくれたし、母からのメールでひばりが母に料理を教わっているとこっそり教えてくれたこともあり、あとは結婚するだけなんだが……。
俺に全く時間がないんだよな、これが。
先に籍だけ入れて一緒に住もうとも思うが、それは古巣である百里基地に帰ってからか、或いはこっちにいる間にするかは今度ひばりが来た時か、俺が向こうに行った時に話し合おうと考えている。
「なるようにしかならんからなあ……」
そんなことを呟き、四番機を撫でる。小島たち四番機のドルフィンキーパーたちが毎日磨いてくれているから、汚れひとつない。
そんな松島基地の空は、浜路さんが言うところの「イルカ日和」な青空が広がっている。
「そういや、今日は婚約者が来る日だったか?」
小島に話しかけられて、そちらに意識を向ける。
「ああ。また見せてもいいか?」
「いいぞ。走らせるのはご法度だが、四番機の後ろに乗せてみるか?」
「え……いいのか?」
「ああ、隊長たちには俺が許可を取っといてやるから。但し、乗せるだけだ」
「小島さん、ありがとう! 喜ぶだろうなあ……ひばり」
小島の言葉に、ひばりが喜ぶ顔が目に浮かぶようだ。
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