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本編

寂しい

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 散々抱かれ、一日も朝から抱かれた。どんだけ性欲が強いんですか、章吾さん。まあ、お昼過ぎには地元に帰ってこれて、ランチだけしてお別れした。
 そして次の日、章吾さんは松島基地に帰ってしまった。五日に飛行初めがあるというんだから仕方ない。それが章吾さんのお仕事だからね。
 バイトがなかったから駅まで見送りに行ったんだけど、考えないようにしていた「寂しい」という気持ちが溢れて来てしまって、危うく泣いてしまうとこだった。
 それをぐっと我慢して笑顔で見送るつもりだったし、ちゃんと笑顔だったはずなんだけど章吾さんにはしっかりバレてたみたいで、私を抱きしめてくれたあと「月に一回は帰ってくるから」って言ってくれた。しかも「愛し合おう」とも。
 それは嬉しかったんだけど、言葉があまりにもストレートすぎて照れてしまった。

 くそう……。

 そんな章吾さんを見送って自宅へ帰ると、ぽっかり穴が空いたみたいに寂しくなってしまった。特に章吾さんが帰って来ていた期間はほとんど会っていたし話もたくさんしたから前以上に好きになったし、お喋りも一緒に出かけたのもいい思い出になった。
 遊園地に行った時、所沢にある某球団のマスコットのぬいぐるみが売っていて、「オスが俺でメスがひばりな♪」なんて言いながら白ライオンを模したぬいぐるみをペアで買ってくれた。そのぬいぐるみは作業机の上に鎮座している。

「……寂しいなあ……」

 そのぬいぐるみを見てポツリと零れた言葉は、私が思っていた以上に寂しく聞こえて溜息をついたし、わかっているつもりでわかっていなかったことに呆然とした。章吾さんがどう思ってくれているのかわかんないけど、それでも月に一度は帰って来てくれると言ってくれたことが嬉しくて、全く会えないよりはマシだと自分を納得させた。

「向こうは雪が降るって言ってたし、春になったらこっそり会いにいってみようかな」

 寂しくたって全く会えないわけじゃないし、スマホだってある。声が聞きたかったらメールじゃなくて電話すればいい。そう決めて、バッグチャームやアクセを作り始めた。

 バイトは明日からなのでそれまで注文分やサイトの分、店の分も作り溜めて行く。バイトがある日は以前と変わらない生活をしていた。
 そしてサイトでアナウンスしていた発送休業期間も終わりを告げ、注文分を発送する。ちなみに送料を含めたアクセの代金は銀行振り込みか現金書留にしてもらっていたし、送料は五千円以上買うと送料無料にしている。

 そんな生活をしているとあっという間に時間が過ぎて行く。
 月一で帰って来るからという言葉通り章吾さんは月一で帰って来たし、その時は「ひばりが足りない」と言って私を執拗に、激しく抱いた。
 それはもう、ヤってる時間のほうが長いんじゃないかってくらい、章吾さんは私を離してくれない。疲れきって寝ちゃうことのほうが多かったけど、それでも一緒にいられることが嬉しかった。

 加減してほしいと思うことばかりだったけどね!

 そして四月になり、新人パイロットさんと新人キーパーさんが来たってメールが章吾さんから来た。

【どんな人たちなのかは見てのお楽しみ!】

 としか書かれていなかったけど、どこかの基地でブルーインパルスの飛行展示を見るか、ホームページを見ればわかることだからと、しつこく聞くことはしなかった。
 で、航空自衛隊のホームページを見たんだけどまだ正式にどの機体に乗るのか決まっていないらしく、顔写真が載っていなくてガッカリした。おすまし顔じゃない爽やかな笑顔を浮かべた章吾さんの写真を見ながら、「営業用の笑顔だ」と呟いたのは内緒。満面の笑顔を知ってる身としては、そうとしか思えなかったから。

 何気にひどい? うん、知ってる。

 そんな独りノリ突っ込みをしてサイトを閉じると、スマホでやり取りしていた章吾さんに【おやすみなさい】とメールを送り、眠りに付いた。


 ***


 五月の大型連休のある日。

(おお、いた!)

 カメラを構えたおじさんやお兄さんに紛れて、フェンスの外から訓練風景を眺めてる。中には女性もいたから紛れていられたんだけどね。
 そんな私は今、松島基地にいる。といっても私一人じゃなくて美沙枝と一緒に東北に旅行に来たついでに、「せっかくだから松島基地に寄ってみようよ!」と言った美沙枝に促されて基地に来た。

「おー、藤田さんってばやっぱり塩対応……。ひばりと一緒にいる時と全然違うじゃん」
「やっぱり? 私もそう思うよ」

 遠目に見える章吾さんの対応は百里基地で見たのと同じだった。それに苦笑しつつ、一頻り写真を撮ったので松島基地をあとにした。帰りの電車の中で美沙枝と旅行のことや基地で見たブルーインパルスの話をしていた。
 章吾さんには旅行に行くことは伝えていたけど、基地に寄れるかどうかわからなかったこともあって、今回こっそり会いに行ったのは内緒だった。
 だけど、私ばっか会いに行ってたらずるいよね、と考えたらなんだか申し訳なくなってしまって、今度行く時は章吾さんにも伝えようと思った。

 そんな章吾さんは、五月は何気に忙しいから、会いに行けないと連絡が来た。

 私のほうはと言えば暇というわけではないけど、勤務時間が七時から十二時に固定された。一時間早くなったのはお惣菜を作る人が旦那さんの転勤とかで、一人辞めてしまったのだ。そのせいでたまに手伝っていたのもあり、私に白羽の矢が立ったのだ。
 店長曰く「誰か来るまででいいから」と言っていたけど募集してもなかなか来なくて、店長も惣菜担当の主任も頭を抱えていた。まあ、そのぶん時給が上がったし、お惣菜作りで働いている人たちはいい人ばかりだから助かってる。
 ただ、レジのほうにばかり募集が行ってしまってるので、もしかしたら惣菜部に移動になるかも知れない。まあ、惣菜の専属になってもいいんだけど、なるならそのぶん時給を上げてくれって店長には言ってる。……店長はすっごい悩んでたけど。
 まあ、七時から九時までは一応時間外手当てが付くことなってるから、元々時給は高いんだよね。それも踏まえて「時給を上げて」って言ってるから、店長は頭を悩ませてるんだけど、そもそも何年も時給を上げてないし最低賃金より低いんだから、「上げてくれ」って言うのは当然の権利だと思うんだけどな。

 それもあり、次の日が休みなら昼過ぎからこっちを出て松島に行こうと思えば行けるようになったんだ。

 だから章吾さんのお休みを聞いてその日に会いに行くってメールしたら、嬉々としたメールが返って来た。

【ゲートにひばりの名前と俺に会いにくるって伝えておくよ。楽しみにしてる】

 こんな文章にハートがやクラッカーの絵文字が書かれたメールが来て、「章吾さん……」と呆れたような声で呟いてしまった。

 そして当日。念のために休みを取り、朝から移動してこっちに来た。松島基地の最寄り駅に着くと、章吾さんに着いたことをメールする。ちょうどお昼の時間だし、大丈夫だといいなあと思っていたらすぐに【お疲れ。ゲートで待ってる】って返事が返って来て、内心頭を抱えていた。


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