私の彼は、空飛ぶイルカに乗っている

饕餮

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本編

朝と嫉妬とプレゼント

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 ふと目が覚めて室内を見回すと、仄かな灯りがついていた。窓にあった障子は薄く開けられていて、そこからスカイツリーの夜景が見える。外は薄暗いから、まだ夜は明けていなんだろう。そして隣に寝ていた人を……章吾さんを見て一瞬固まった。

「……っ!」

 そう言えば昨日、章吾さんに抱かれたんだっけと今更ながら思い出して、顔が熱くなってくる。

 なんというか……素敵な夜だったと思う。鍛え上げられた肉体が汗をかいて光り、切れ長の目が怪しく光って私を見つめてた。その色気のある目と雰囲気が、私の心と身体を捕えて溶かした。
 章吾さんの手が、唇が私に触れるたび、身体が熱くなった。

 好きな人に抱かれるって、こんなに素敵で気持ちいいことなんだって思った。

 それに、大事に大事に抱いてくれた。章吾さんのアレが入って来た時は痛かったけど話に聞くような『相当痛い』とかじゃなかったし、それ以上に気持ちよさが勝った。抜き差しされるたびに背中と子宮の辺りから絶えず疼くような感覚が這い上がって来て、章吾さんにしがみついて声をあげることしかできなかった。
 中だしされたことに最初は驚いたけど、じわじわと嬉しさが勝った。初めてを、スキンなしで抱いてくれたから……。

 本当はこんなこと思ったらいけないのかも知れない。だけど私はとても嬉しかったんだから、妊娠してもいいと思ってる。
 そしてお風呂でまた胸とアソコを愛撫されて、ベッドに戻って来たらまた抱かれて……。そんなことを思ったてらアソコが痺れた感じになって、乳首も硬くなってじんじんして来て、これじゃヤバイと慌ててまた章吾さんの寝顔を見る。

(寝ててもイケメンとか……ずるい……)

 内心溜息をつくと、目を瞑る。「腕枕して寝てあげる」って言ってた通りにしてくれたけど、腕が痺れないかとか、怪我しないかと心配になってしまう。
 そう思ったけど、寒いしまた眠くなって来て、章吾さんの胸に顔を埋めるようにしてまた眠りについた。

 そしてしばらく寝ていたんだろう……唇に何か触ったと思って目を開けたら、章吾さんのドアップがあった。

「……っ! びっ、びっくりした……!」
「おはよう、ひばり」

 くすくす笑いながら挨拶をしてくれた章吾さんに、私も「おはようございます」と返す。

「今何時ですか?」
「もうじき七時。そろそろ朝食開始の時間だから、起きようか」
「はい」
「あと、ひばり。言葉は気にしなくていいからな?」
「え?」
「恋人同士なんだから、友達と喋ってるみたいな話し方をしてくれると嬉しい」
「……うん!」

 まさか章吾さんにそんなことを言われるとは思ってなくて、嬉しくなる。年上の人に対して敬語を使ったり丁寧に話すのは社会人として当たり前だと思ってたから。
 「朝の挨拶な」と言って触れるだけのキスをして来た章吾さんに恥ずかしいと思いつつ、一度シャワーを浴びて着替えた。一緒に入ろうとしてたんだけどそれを拒否すると「覚えてろよ」と言われ、何をされるんだろうとちょっとだけ恐怖したのは内緒。

 着替えてから夕食を食べたレストランへと行くと、夜とは違ってバイキング式の朝食になっていた。和食と洋食になっていて、あれこれ選べるようだった。どっちにしようか散々迷って、結局洋食にした。
 パンはロールパンと食パンがあって、側にある機械で温められるようになっていた。ゆっくり動いている網にロールパンを二個と食パンを一枚乗せると、それが中に入っていく。どんなふうになって出てくるんだろうってわくわくしながら見ていたら、「サラマンダーって機械だ」って章吾さんが教えてくれた。
 焼きたてパンの香りとこんがり狐色になって出てきたパンをバターと一緒にお皿に乗せるとそのままトレーに乗せ、おかずを取りに移動する。ソーセージ、ベーコン、スクランブルエッグを別のお皿に乗せ、サラダとコーンスープとコーヒーをカップに注ぎ、それらの全てとフォークとスプーンをトレーに乗せて席に戻った。先に戻って来てた章吾さんに「お待たせ」と言うと、二人でいただきますをして食べ始める。
 章吾さんは私と同じおかずにお惣菜、パンではなくご飯とお味噌汁のチョイスだ。但し、量は私の倍以上あって驚いた。

「美味しい!」
「ああ、これはいいね。基地の飯も旨いけど、たまには外で食べるのもいいかも」
「へ~。いつも基地で食べるの?」
「ああ」

 そっか、なんて返事をして、他愛もない話をする。

「あ。そういえば、持って来ていないんだけど、章吾さんにクリスマスプレゼントを用意してるの。もらってくれますか?」
「お? 用意してくれたんだ! 嬉しいなあ……見るのが楽しみだ」

 嬉しそうに微笑んでくれた章吾さんに、ドキドキしてくる。近くにいた年上の女性客たちが「カッコいい」「声かける?」って言ってたけど、隣にいて話をしてた私を見てがっかりしてた。

(私の彼氏だもん!)

 カッコいいのは認める、でも私の彼氏! と思いながらパンを食べたら、どうやらムッとした顔をしてたんだろう。「嫉妬してくれてありがとな」って章吾さんに囁かれて、頭を撫でられた。

(くそう……バレてるし)

 絶対に女慣れしてるよね、と内心溜息をつきつつ、章吾さんとお喋りをしながら朝食を終えた。
 部屋に戻って荷物を纏め、チェックアウトまで時間があるからと夜とは違う雰囲気のスカイツリーの写真を撮る。

「ちょっと早いけど、お土産も買いたいしそろそろ出ようか」
「うん」

 お腹が落ち着くまで待って、そろそろいいかとあちこち確認していた章吾さんが声をかけてくれたので、荷物を持って部屋を出る。フロントに行き、チェックアウト。そのあとホテル内でお土産を買った。
 そういえば支払いとか章吾さんに任せっぱなしだけど、渡したほうがいいのか聞くと、「そんなこと気にしなくていいの!」と言われてしまった。

「え、でも……」
「今回は特別。そうだな……クリスマスプレゼントだと思ってよ」
「そんな高いプレゼントは」
「ストップ。これからこんな機会は何回かあると思う。だけど、俺の後ろに乗せてやれないし、ヘリに乗る機会もそうそうないだろ?」
「うん」
「だから、今回は特別。次回から徴収するし、出かける時間もないから貯金ばっか増えるんだよ。今回は少し減らす協力をしてよ」

 茶目っ気たっぷりに、しかもウインク付きでそんなことを言われたら頷くしかない。渋々頷いて、ホテルから最寄駅までタクシーで向かった。そして電車を乗り継ぎ、地元にはお昼前に着くことができた。お互いに荷物があるからと一旦荷物を置きに戻り、一時に駅で待ち合わせすることにして一旦別れた。
 家族にお土産を渡し、洗濯物などを洗濯機に入れると、また出かける準備をする。鞄にお財布とスマホ、ハンカチなどの必要なものと章吾さんに渡すプレゼントを紙袋に詰めて用意をすると、時間までパソコンを見ることにした。メールを確認すると取引店舗とサイトから注文が入っていた。

「そろそろサイトのほうをお正月休みの期間のアナウンスしとかないと……」

 年末年始は宅急便が遅れることもあるから、注文は受け付けてもその期間の発送はお断りしている。忘れないうちにとサイトの目立つところに注文は受け付けるけどお正月休みとして、十二月二十八日から一月五日まで発送はしないことを書き、更新した。
 そして店舗発注の締切はかなり先の日付だったけど、冬物と春物のオーダーだったので、デザインをどうしようと悩みつつも了承した。一応どんなデザインや色を使ったらいいかお伺いをたてておき、しばらくやりとりをした。
 そしてデザインや色も決まったし、時間となったのでパソコンの電源を落としてから鞄とプレゼントを持つと、「出かけてくる」と家族に声をかけて駅に向かった。そして駅に着くと章吾さんが待っていた。周囲には女性が何人か章吾さんに声をかけていて嫉妬したけど、すっごい不機嫌な顔をしてる章吾さんを見たら安心したし、こっそり笑ってしまった。
 そして女性たちの後ろから「お待たせ」と声をかけて手をふると、「彼女を待ってるって言っただろうが。どいてくれ」と不機嫌な顔と声で女性たちをどかせ、私の側に寄って来た。

「待ってないよ。行こうか」
「うん」

 差し出された手を握り返して章吾さんを見上げると、満面の笑顔を浮かべている。その対応の差を見たらしい女性たちが悔しそうな顔をしていてちょっとだけ優越感に浸ったし、「特別だ」と言ってくれた章吾さんの言葉を思い出して嬉しかった。
 手を繋いだまま歩き、地元を散策する。基地の近くや隣にある公園を散歩がてらあちこち歩き、喫茶店を見つけた章吾さんが「休憩しよう」と言ってくれたので、そこでお茶をすることにした。甘いものが食べたかったので、私は紅茶のケーキセット、章吾さんはコーヒーだけを頼んでいた。

「久しぶりに歩いたけど、変わってるところも変わってないところもあって驚いたよ」
「章吾さんはここが地元なの?」
「ああ。ガック……藤堂とは腐れ縁でさ、幼馴染なんだ。俺が航学、藤堂が防大に行くまでここから出たことはなかったな」
「へえ……」

 どこが変わったとかそこの前は何があったとか教えてくれた。知らないのもあったけど、知ってるのもあって盛り上がった。章吾さん自身が帰省する時は実家に帰って来ていて、ゆっくりしながら帰ってくるのも二、三年ぶりくらいだと言っていた。
 話がひと段落したところで、章吾さんにプレゼントを渡す。

「え、えと……メリークリスマス」
「ありがとう。開けていいか?」
「うん」

 気に入ってくれるかなあ……と不安になりながら、章吾さんが包装を開けるのを見守る。最初に出したのはクッキーで、「家に帰ったら食べるな」と頬を緩ませる章吾さん。次に出したのはネックウォーマー。

「用意してからお仕事で使えるかどうかわかんないことに気づいて。だから、使えないなら返してくれてもいいよ?」
「返さないよ。確かに仕事では使えないけどプライベートでは使うし、ちょうど買おうと思ってたから助かる」
「ホントに?」
「ああ。松島はこっちより寒いんだぞ? こういったものは必須だよ」
「そっか……よかった!」

 やっぱりお仕事では使えないかと思ってがっかりしたけど、買おうと思ってたと言われて嬉しかった。そして最後に章吾さんが取り出したのは、ビーズで作ったブルーインパルス。しかも、尾翼には『4』と入ってる。

「ひばり……これ……!」
「上手じゃないんだけど、四番機のブルーインパルス。私も同じのをつけてるの」

 スマホを出して章吾さんに見せると、目を瞠った。しかも私のも同じ『4』と入ってるブルーインパルスだったりする。

「『4』って忌み嫌われたりする数字だけど、私は好きだよ? それに同じものを持ってて数字を足したら、『8』になるでしょ? 8は末広がりとか言われているし、横にしたら無限大にも見えるし。だから、その……こじつけかも知れないけど、お仕事頑張ってとか御守りとか、そんなふうに思ってくれたらなあって……」
「……そんなこと考えてたのか、ひばりは。すっごく嬉しいよ!」

 破顔した章吾さんの背後は、漫画だったらハートとか花が飛んでいる雰囲気だ。嬉しそうに一通りブルーインパルスを眺めた章吾さんは、早速それをスマホにつけてくれた。それが嬉しい。

 他愛もない話をして、そのまままた散歩して。

「ひばりの明日の予定は? 会える?」
「明日と明後日は二時までバイトが入ってるから、それ以降なら会えるよ」
「OK。じゃあ、明日は夕飯を食べに行こうか」
「うん!」

 待ち合わせの場所や時間はまた改めて連絡をくれると言うのでそれに頷き、喋っていた公園で別れたんだけど。


 こっそり濃厚なキスをして帰った章吾さんに固まって、しばらくそこから動けなかった。



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