8 / 36
本編
初デート
しおりを挟む
なんだかんだと十二月も終わりに近づいた。その期間は自宅でもある実家でたまーに売り子の手伝いをしたり、スーパーのバイトに行ったりしていた。まあそのうちのほとんどがアクセサリーや店の商品、運営サイトや取引をしている店舗の商品作りをしていた。
嫌になるほど作ったよ……特に自宅の店に出すレジンのバッグチャーム。チヌークだけじゃなくブルーインパルスとT-4、新しくF-2という青い戦闘機も試しに出したらとんでもないことになってしまって、さすがに一人で全部作るのは無理になって来たから、中身は私が作ってレジンだけは両親や他の兄弟にも手伝わせた。中身は弟が手伝ってくれて助かったけどね。
店に出すアクセは姉や兄も作っているので、私が出さなくても問題はない。そのおかげもあってバッグチャームにかかりきりになってしまったんだけどね。
ちなみにスーパーのバイトは週に四日、九時から十四時までか十二時から十七時まで、休憩なしの五時間労働。たまに朝一(七時出勤でお惣菜作成のお手伝い。この時は休憩ありの六時間労働)からシフトに入ってることもあるけど、それは月に二回しかない。夜のシフトと土日祝日は頼まれればやるけど、基本的にバイトは無し。土日祝日やこの時間帯は高校生など、学生のバイトが多いからだったりする。
そんな日々と、毎日藤田さんとメールのやり取りや電話をしながら、なんとかビーズでブルーインパルスの立体化に成功した。それをふたつ作ってひとつは自分のスマホにぶら提げ、上手にできたもうひとつは藤田さんにあげるつもりだ。
(喜んでくれるといいなあ……)
一応クリスマスプレゼントとしてフリースのネックウォーマーと手作りのクッキーを用意したけど……パイロットってネックウォーマーを使うんだろうか。それが心配だったけど、使わないようなら私が使えばいいかと思って用意した。それとも、藤田さんがほしがる物を用意したほうがよかったんじゃないかってあとから思ったけど、後の祭り。仕方ないかと諦めてネックウォーマーやクッキー、ブルーインパルスのビーズストラップをプレゼント用に包装した。
のはいいんだけど、やっぱり立体化したブルーインパルスを家族に見られた。お店で売りたいから作ってほしいって言われたけど、「サイトの運営やバイトを辞めてそのぶんのお金をくれたり、店に出してるアクセやチャームを作らなくていいなら」と言ったら諦めてくれた。プレゼント用に個人で作るならともかく、店売り用のまで作ってる時間なんかないし、材料だってタダじゃない。
親子といえど材料費などは発生するし、そこは親がしっかり売上の二割を材料費や技術料として渡してくれているから、成り立っているのだ。外注したらもっと渡さなければならないことを考えると、親子だからこそ、この値段で作っているとも言える。
そんな生活をしたりしているとあっという間に十二月も終わりに近づいてしまった。今日明日は藤田さんとデートなので、朝から支度していたら弟に「どこにいくの?」と聞かれてしまった。
「これから泊まりでデートに行くんだけど……」
「えっ?! ひばりねーちゃんがデート?! 相手はみさねーちゃん?」
「違うよ、彼氏と」
「彼氏?! 事件だ!」
「どうして事件なのよ! 私にだって彼氏くらいいるんだからね?!」
朝からそんな会話をしてたら弟の声が聞こえてしまったんだろう……両親や双子の兄と姉にまで伝わってしまった。
ちなみに我が家は六人家族で、両親と双子の兄と姉(兄が上)、私、弟の四人兄弟。双子とは五つ離れている。
「相手はだれ?! 知ってる人?!」
「え、えっと……」
「それとも全く知らない人?!」
「だから……」
「誰か教えなさいよ!」
「お姉ちゃん煩い! 説明できないでしょ?!」
矢継ぎ早に質問してくる姉を黙らせ、藤田さんのことを説明した。ドルフィンライダーであることは伏せておこうと思ってたんだけど、結局話してしまった。
「塩対応で有名な四番機の藤田さん……だと?! あの?!」
「皆して塩対応って言うけど、私にはそんな態度を取ったことなんてないからね? 優しいし、素敵な笑顔を浮かべる人だから!」
「そんなわけないでしょ?! 証拠は!」
しつこく食い下がる姉に辟易しつつ、入間基地で一緒に撮った満面の笑顔の写真を見せると、姉は呆然としながらその写真をガン見していた。
「……嘘」
「ほんと」
「……」
「先に言っとくけど、藤田さんにちょっかいかけたら、お姉ちゃんの婚約者に言うからね?」
「うっ……、わ、わかったわよ……」
伝家の宝刀、「婚約者に言うからね」を抜くと姉は黙った。結婚間近である姉の婚約者はとても嫉妬深い人なのだ。婚約者がいるくせに姉がいつまでもふらふらしてるのがいけないんだけど、なんだかんだ言っても姉も婚約者が好きなんだから、ある意味お似合いなんだろう。つか、よくこんな姉と結婚しようと思ったよね、姉の婚約者さん。
それはともかく、待ち合わせ時間が迫って来たので家族との会話を打ち切り、荷物を持って家を出る。待ち合わせは最寄り駅なので、近かったりするんだけどね。
そして荷物を持って駅へ向かう。待ち合わせ時間まであと十分というところで駅に着いた。スマホをいじって待っていようと思っていたら、すぐに藤田さんが来たのでスマホをしまう。
「ごめん、待った?」
「今来たところです。あ、そうだ。お帰りなさい」
「……っ! うん、ただいま」
まだ言ってなかった「お帰りなさい」を言うと、藤田さんが嬉しそうに笑顔を浮かべた。その笑顔を見て、ドキドキしてくる。いろんなことをたくさん話したからなのか、この時にはもう藤田さんを好きになっていたし、久しぶりに会えたからとても嬉しい。それに初デートっていうのもあって、実は緊張してたりする。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
ICカードで駅の構内に入ると、藤田さんが手を差し出して来た。その手に自分の手を重ねると、ギュッと握ってくれた。その状態のまま電車に乗り込んで、そこでもいろいろ話をして目的地まで向かった。
***
目的地である新木場に着くと、プランの一つである送迎タクシーが待っていた。それに乗り込んでヘリポートへと向かう。ヘリポートに着くとタクシーを降り、係の人にヘリコプターがあるところまで案内された。
ヘリコプターは青くて細長い機体で、基地で見たのとは違う形だった。そしてこの機体は私たち二人の貸切だそうだ。注意事項などを聞いて乗り込むと、エンジンとプロペラの音が大きくなる。すこし揺れたけど何事もなくヘリポートを飛び立った。
地元ほどではないけれど上空は一面星空で月が出ていて、眼下にレインボーブリッジが見え、橋がライトアップされている。その視線の先には赤と白でライトアップされた東京タワーも見えた。別の場所には橋と同じようにライトアップされた自由の女神象も見える。
遠くに見えていた東京タワーにだんだん近づき、その側を通り過ぎ赤坂へ、そして新宿へと飛んで行く。ネットの写真でしか見たことのない夜景がとても綺麗で、思わず感動の吐息が漏れる。
新宿では都庁の特徴的な二本のタワーと三つ並んだ段差のあるビル、ビルの灯りやクリスマスのイルミネーションらしき灯りも見えた。そこを通り過ぎたら東京ドームで、白くて大きな屋根と近くにはホテルらしい高層ビル、遊園地の観覧車の青い灯りがあった。
秋葉原を抜け、浅草へ。ライトアップされた浅草寺の近くには花やしきとスカイツリー、川の近くにはビールの泡をイメージしたというビールメーカーのビルも見えた。そして銀座を通り過ぎ、ヘリポートへと戻って来た。どの夜景も素敵で、どれがいいというのは決められなかった。
撮った写真やフライト映像など、後日DVDなどにして送ってくれるというので、藤田さんは私の家に届けるようお願いをしていたの。そしてヘリコプターのパイロットにお礼を言い、スタッフに渡された紙に送り先の住所を書くとヘリポートをあとにする。
待っていたタクシーで予約してあるというホテルへと向かい、チェックインを済ませると藤田さんが部屋の鍵を受け取っていた。荷物を持って彼と一緒に歩いていく。エレベーターで部屋がある階に着くと、部屋番号を探して歩く彼のあとを着いていく。そして鍵をあけ、玄関になっている室内を見て思わず声を上げてしまう。
「わー! 素敵です!」
「和モダンテイストの部屋で、この一部屋しかないんだって」
「へぇ……!」
そんな話をしながら小上がりで靴を脱ぎ、スリッパを履く。目の前にあった障子戸を開けて入るとベッドルームで、その部屋を見て固まった。床はフローリングになっていて、ベッドの高さは低いながらも横幅はキングサイズくらいはあったのだから!
「一緒に寝ようね。セックスのあと、腕枕してあげるよ」
「……っ!」
そんな私に気づいたのか、藤田さんは耳元でそんなことを言ってから耳朶にキスをした。
「ほら、荷物を置いて」
「うー……」
声にならない呻き声をあげ、なんとか身体を動かして荷物を置く。ベッドを見ないように室内を見渡せば、机と椅子、長椅子みたいなソファーとクッション、障子戸が目に入った。藤田さんは別の扉のほうへ行ったのでその障子戸を開けると、目の前には青と白に彩られたスカイツリーと都内の夜景が。
「うわー、綺麗!」
ソファーに膝をついてかじりつくように窓の外を見る。地元から出ることがないから、夜景がとても新鮮に見えた。そこに藤田さんが戻って来て、声をかけて来た。
「お、すごいな」
「はい!」
「先にご飯を食べに行こう。そのあとでもゆっくり見れるから」
「う……はい」
クスクス笑われながらソファーから下りる。貴重品は持って行ったほうがいいと言ってくれた藤田さんの言葉に従って、小さな鞄にスマホと財布、ハンカチやティッシュを入れると一緒にベッドルームから出て廊下に行く。
鍵をかけた彼に手を差し出されたので自分の手を乗せると、またキュッと握ってくれた。それがとても嬉しい。
最上階にあるレストランホールに着くと藤田さんが名前を告げ、従業員の人が席に案内してくれた。窓際の席で、そこから夜景が見えた。料理は会席料理らしく、最初に食前酒らしいグラスシャンパンが運ばれて来た。
「ひばりちゃんの初フライトと今日の初デート記念に乾杯」
「乾杯」
グラスを持ち上げてそう言った藤田さんに習って私もグラスを持ち上げる。軽くグラスを合わせるとチンッと小さなガラスの音が響いた。それを一口飲むと料理が運ばれて来て、目の前に並べられていく。
前菜に汁物の御椀、お造りに煮物。そして焼物や酢の物、鍋にご飯。そのどれもが美味しそうでどれから食べていいのか迷う。けど、写真を撮ってから、まずは前菜からとそれを一口食べた。
「美味しいー!」
「うん、これはいいかも。明日の朝食も期待できそうだ」
「はい!」
お互いに料理の感想を言いながら食べて、その間にまた料理の感想や初めて空を飛んだ感想を聞かれてそれを伝える。
「言葉にはならないんですけど、とてもすごかったです。戦闘機ってもっと速いんですよね?」
「そうだな」
「だから、ブルーインパルスのお仕事は大変だろうけど、空にいるわくわく感というか浮遊感というか……ヘリコプターとは比べ物にならないかも知れないけど、藤田さんが感じていることを少しでも感じられて嬉しかったです」
「そっか」
私の言葉に、嬉しそうに微笑む藤田さんに鼓動が跳ねる。目尻にできた笑い皺もとても素敵で、とても私より一回りも年齢が違うようには見えないほど若く見えた。
これで三十五とか……詐欺だよね! これだからイケメンは!
それに、私と一緒にいる時は百里基地で見た塩対応なんかじゃなくて、常にニコニコしている藤田さんだ。
(特別だと思ってもいいのかな……)
私は藤田さんを好きになったしまだそれを伝えてはいないけど、笑顔を浮かべて私を見る藤田さんに特別扱いされているようで……心がふわふわしてくる。
(玉砕してもいいから、今の気持ちをちゃんと伝えてみようかな……)
一緒にヘリコプターに乗って、ご飯を食べて。このあと、その……覚悟を決めたイベント? が待っている。
藤田さんがどんな反応をするのかわからないのが怖いけど、その時に私の気持ちを伝えてみようと、ご飯を食べながらそんなことを考えていた。
嫌になるほど作ったよ……特に自宅の店に出すレジンのバッグチャーム。チヌークだけじゃなくブルーインパルスとT-4、新しくF-2という青い戦闘機も試しに出したらとんでもないことになってしまって、さすがに一人で全部作るのは無理になって来たから、中身は私が作ってレジンだけは両親や他の兄弟にも手伝わせた。中身は弟が手伝ってくれて助かったけどね。
店に出すアクセは姉や兄も作っているので、私が出さなくても問題はない。そのおかげもあってバッグチャームにかかりきりになってしまったんだけどね。
ちなみにスーパーのバイトは週に四日、九時から十四時までか十二時から十七時まで、休憩なしの五時間労働。たまに朝一(七時出勤でお惣菜作成のお手伝い。この時は休憩ありの六時間労働)からシフトに入ってることもあるけど、それは月に二回しかない。夜のシフトと土日祝日は頼まれればやるけど、基本的にバイトは無し。土日祝日やこの時間帯は高校生など、学生のバイトが多いからだったりする。
そんな日々と、毎日藤田さんとメールのやり取りや電話をしながら、なんとかビーズでブルーインパルスの立体化に成功した。それをふたつ作ってひとつは自分のスマホにぶら提げ、上手にできたもうひとつは藤田さんにあげるつもりだ。
(喜んでくれるといいなあ……)
一応クリスマスプレゼントとしてフリースのネックウォーマーと手作りのクッキーを用意したけど……パイロットってネックウォーマーを使うんだろうか。それが心配だったけど、使わないようなら私が使えばいいかと思って用意した。それとも、藤田さんがほしがる物を用意したほうがよかったんじゃないかってあとから思ったけど、後の祭り。仕方ないかと諦めてネックウォーマーやクッキー、ブルーインパルスのビーズストラップをプレゼント用に包装した。
のはいいんだけど、やっぱり立体化したブルーインパルスを家族に見られた。お店で売りたいから作ってほしいって言われたけど、「サイトの運営やバイトを辞めてそのぶんのお金をくれたり、店に出してるアクセやチャームを作らなくていいなら」と言ったら諦めてくれた。プレゼント用に個人で作るならともかく、店売り用のまで作ってる時間なんかないし、材料だってタダじゃない。
親子といえど材料費などは発生するし、そこは親がしっかり売上の二割を材料費や技術料として渡してくれているから、成り立っているのだ。外注したらもっと渡さなければならないことを考えると、親子だからこそ、この値段で作っているとも言える。
そんな生活をしたりしているとあっという間に十二月も終わりに近づいてしまった。今日明日は藤田さんとデートなので、朝から支度していたら弟に「どこにいくの?」と聞かれてしまった。
「これから泊まりでデートに行くんだけど……」
「えっ?! ひばりねーちゃんがデート?! 相手はみさねーちゃん?」
「違うよ、彼氏と」
「彼氏?! 事件だ!」
「どうして事件なのよ! 私にだって彼氏くらいいるんだからね?!」
朝からそんな会話をしてたら弟の声が聞こえてしまったんだろう……両親や双子の兄と姉にまで伝わってしまった。
ちなみに我が家は六人家族で、両親と双子の兄と姉(兄が上)、私、弟の四人兄弟。双子とは五つ離れている。
「相手はだれ?! 知ってる人?!」
「え、えっと……」
「それとも全く知らない人?!」
「だから……」
「誰か教えなさいよ!」
「お姉ちゃん煩い! 説明できないでしょ?!」
矢継ぎ早に質問してくる姉を黙らせ、藤田さんのことを説明した。ドルフィンライダーであることは伏せておこうと思ってたんだけど、結局話してしまった。
「塩対応で有名な四番機の藤田さん……だと?! あの?!」
「皆して塩対応って言うけど、私にはそんな態度を取ったことなんてないからね? 優しいし、素敵な笑顔を浮かべる人だから!」
「そんなわけないでしょ?! 証拠は!」
しつこく食い下がる姉に辟易しつつ、入間基地で一緒に撮った満面の笑顔の写真を見せると、姉は呆然としながらその写真をガン見していた。
「……嘘」
「ほんと」
「……」
「先に言っとくけど、藤田さんにちょっかいかけたら、お姉ちゃんの婚約者に言うからね?」
「うっ……、わ、わかったわよ……」
伝家の宝刀、「婚約者に言うからね」を抜くと姉は黙った。結婚間近である姉の婚約者はとても嫉妬深い人なのだ。婚約者がいるくせに姉がいつまでもふらふらしてるのがいけないんだけど、なんだかんだ言っても姉も婚約者が好きなんだから、ある意味お似合いなんだろう。つか、よくこんな姉と結婚しようと思ったよね、姉の婚約者さん。
それはともかく、待ち合わせ時間が迫って来たので家族との会話を打ち切り、荷物を持って家を出る。待ち合わせは最寄り駅なので、近かったりするんだけどね。
そして荷物を持って駅へ向かう。待ち合わせ時間まであと十分というところで駅に着いた。スマホをいじって待っていようと思っていたら、すぐに藤田さんが来たのでスマホをしまう。
「ごめん、待った?」
「今来たところです。あ、そうだ。お帰りなさい」
「……っ! うん、ただいま」
まだ言ってなかった「お帰りなさい」を言うと、藤田さんが嬉しそうに笑顔を浮かべた。その笑顔を見て、ドキドキしてくる。いろんなことをたくさん話したからなのか、この時にはもう藤田さんを好きになっていたし、久しぶりに会えたからとても嬉しい。それに初デートっていうのもあって、実は緊張してたりする。
「じゃあ、行こうか」
「はい」
ICカードで駅の構内に入ると、藤田さんが手を差し出して来た。その手に自分の手を重ねると、ギュッと握ってくれた。その状態のまま電車に乗り込んで、そこでもいろいろ話をして目的地まで向かった。
***
目的地である新木場に着くと、プランの一つである送迎タクシーが待っていた。それに乗り込んでヘリポートへと向かう。ヘリポートに着くとタクシーを降り、係の人にヘリコプターがあるところまで案内された。
ヘリコプターは青くて細長い機体で、基地で見たのとは違う形だった。そしてこの機体は私たち二人の貸切だそうだ。注意事項などを聞いて乗り込むと、エンジンとプロペラの音が大きくなる。すこし揺れたけど何事もなくヘリポートを飛び立った。
地元ほどではないけれど上空は一面星空で月が出ていて、眼下にレインボーブリッジが見え、橋がライトアップされている。その視線の先には赤と白でライトアップされた東京タワーも見えた。別の場所には橋と同じようにライトアップされた自由の女神象も見える。
遠くに見えていた東京タワーにだんだん近づき、その側を通り過ぎ赤坂へ、そして新宿へと飛んで行く。ネットの写真でしか見たことのない夜景がとても綺麗で、思わず感動の吐息が漏れる。
新宿では都庁の特徴的な二本のタワーと三つ並んだ段差のあるビル、ビルの灯りやクリスマスのイルミネーションらしき灯りも見えた。そこを通り過ぎたら東京ドームで、白くて大きな屋根と近くにはホテルらしい高層ビル、遊園地の観覧車の青い灯りがあった。
秋葉原を抜け、浅草へ。ライトアップされた浅草寺の近くには花やしきとスカイツリー、川の近くにはビールの泡をイメージしたというビールメーカーのビルも見えた。そして銀座を通り過ぎ、ヘリポートへと戻って来た。どの夜景も素敵で、どれがいいというのは決められなかった。
撮った写真やフライト映像など、後日DVDなどにして送ってくれるというので、藤田さんは私の家に届けるようお願いをしていたの。そしてヘリコプターのパイロットにお礼を言い、スタッフに渡された紙に送り先の住所を書くとヘリポートをあとにする。
待っていたタクシーで予約してあるというホテルへと向かい、チェックインを済ませると藤田さんが部屋の鍵を受け取っていた。荷物を持って彼と一緒に歩いていく。エレベーターで部屋がある階に着くと、部屋番号を探して歩く彼のあとを着いていく。そして鍵をあけ、玄関になっている室内を見て思わず声を上げてしまう。
「わー! 素敵です!」
「和モダンテイストの部屋で、この一部屋しかないんだって」
「へぇ……!」
そんな話をしながら小上がりで靴を脱ぎ、スリッパを履く。目の前にあった障子戸を開けて入るとベッドルームで、その部屋を見て固まった。床はフローリングになっていて、ベッドの高さは低いながらも横幅はキングサイズくらいはあったのだから!
「一緒に寝ようね。セックスのあと、腕枕してあげるよ」
「……っ!」
そんな私に気づいたのか、藤田さんは耳元でそんなことを言ってから耳朶にキスをした。
「ほら、荷物を置いて」
「うー……」
声にならない呻き声をあげ、なんとか身体を動かして荷物を置く。ベッドを見ないように室内を見渡せば、机と椅子、長椅子みたいなソファーとクッション、障子戸が目に入った。藤田さんは別の扉のほうへ行ったのでその障子戸を開けると、目の前には青と白に彩られたスカイツリーと都内の夜景が。
「うわー、綺麗!」
ソファーに膝をついてかじりつくように窓の外を見る。地元から出ることがないから、夜景がとても新鮮に見えた。そこに藤田さんが戻って来て、声をかけて来た。
「お、すごいな」
「はい!」
「先にご飯を食べに行こう。そのあとでもゆっくり見れるから」
「う……はい」
クスクス笑われながらソファーから下りる。貴重品は持って行ったほうがいいと言ってくれた藤田さんの言葉に従って、小さな鞄にスマホと財布、ハンカチやティッシュを入れると一緒にベッドルームから出て廊下に行く。
鍵をかけた彼に手を差し出されたので自分の手を乗せると、またキュッと握ってくれた。それがとても嬉しい。
最上階にあるレストランホールに着くと藤田さんが名前を告げ、従業員の人が席に案内してくれた。窓際の席で、そこから夜景が見えた。料理は会席料理らしく、最初に食前酒らしいグラスシャンパンが運ばれて来た。
「ひばりちゃんの初フライトと今日の初デート記念に乾杯」
「乾杯」
グラスを持ち上げてそう言った藤田さんに習って私もグラスを持ち上げる。軽くグラスを合わせるとチンッと小さなガラスの音が響いた。それを一口飲むと料理が運ばれて来て、目の前に並べられていく。
前菜に汁物の御椀、お造りに煮物。そして焼物や酢の物、鍋にご飯。そのどれもが美味しそうでどれから食べていいのか迷う。けど、写真を撮ってから、まずは前菜からとそれを一口食べた。
「美味しいー!」
「うん、これはいいかも。明日の朝食も期待できそうだ」
「はい!」
お互いに料理の感想を言いながら食べて、その間にまた料理の感想や初めて空を飛んだ感想を聞かれてそれを伝える。
「言葉にはならないんですけど、とてもすごかったです。戦闘機ってもっと速いんですよね?」
「そうだな」
「だから、ブルーインパルスのお仕事は大変だろうけど、空にいるわくわく感というか浮遊感というか……ヘリコプターとは比べ物にならないかも知れないけど、藤田さんが感じていることを少しでも感じられて嬉しかったです」
「そっか」
私の言葉に、嬉しそうに微笑む藤田さんに鼓動が跳ねる。目尻にできた笑い皺もとても素敵で、とても私より一回りも年齢が違うようには見えないほど若く見えた。
これで三十五とか……詐欺だよね! これだからイケメンは!
それに、私と一緒にいる時は百里基地で見た塩対応なんかじゃなくて、常にニコニコしている藤田さんだ。
(特別だと思ってもいいのかな……)
私は藤田さんを好きになったしまだそれを伝えてはいないけど、笑顔を浮かべて私を見る藤田さんに特別扱いされているようで……心がふわふわしてくる。
(玉砕してもいいから、今の気持ちをちゃんと伝えてみようかな……)
一緒にヘリコプターに乗って、ご飯を食べて。このあと、その……覚悟を決めたイベント? が待っている。
藤田さんがどんな反応をするのかわからないのが怖いけど、その時に私の気持ちを伝えてみようと、ご飯を食べながらそんなことを考えていた。
9
お気に入りに追加
728
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。
恩田璃星
恋愛
清永凛(きよなが りん)は平日はごく普通のOL、土日のいずれかは交通整理の副業に励む働き者。
副業先の上司である夏目仁希(なつめ にき)から、会う度に嫌味を言われたって気にしたことなどなかった。
なぜなら、凛には付き合って三年になる恋人がいるからだ。
しかし、そろそろプロポーズされるかも?と期待していたある日、彼から一方的に別れを告げられてしまいー!?
それを機に、凛の運命は思いも寄らない方向に引っ張られていく。
果たして凛は、両親のように、愛の溢れる家庭を築けるのか!?
*この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
*不定期更新になることがあります。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる