私の彼は、空飛ぶイルカに乗っている

饕餮

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本編

本当にメールが来た

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 朝起きてスマホを確認すると、メールが来ていた。登録サイトの案内メールかと思って開いたら藤田さんからで、時間を見ると私が寝たあとの時間だった。

「悪いことしちゃった……」

 そう呟いてから藤田さんに【おはようございます。疲れていたのですぐに寝てしまいました、すみません。帰る時は気をつけて】と返事を返した。帰る準備があるだろうし、昨日の話から夜のほうが時間があるっぽい話し方をしていたから、その時間にメールが来ると思っていたらすぐにメールが来て驚いた。

【多分そうじゃないかと思った(笑)夜にメールか電話するよ】

 そう返事が返って来て、思わず苦笑してしまった。そのメールに【わかりました】と返し、ご飯を食べて病院へ行く支度をすると、鞄に必要なものを入れて出かけた。
 病院ではネットができる場所でブルーインパルスのスケジュールを確認してみた。本当に全国あちこち行っているようで、「ここってどこっ?!」って思った知らない名前もあった。その場所を検索したりそれをメモしたりしながら待っていると、名前を呼ばれたので診察室へと行く。
 先生に昨日捻挫したことや手当てしてもらったこと、基地のお医者さんに言われたことやお薬を飲んだことを伝えると、先生は包帯を解いてから足首を見て頷いたあとで「念のためレントゲンを撮ろう」とレントゲンを撮った。確かにかなりひどい捻挫をしているけど骨に異常はないとのことだったのでホッと息をつき、手当てをされたあとで診察室を出た。
 院内薬局でお薬をもらい、支払いを済ませて病院を出るとお昼近くになっていた。休み明けで混んでいたし、診察するまでもお薬をもらうまでも相当待たされたから仕方がない。まあ、その間にブルーインパルスの今後の予定や入間基地にいるヘリコプターなどを検索できたのはよかった。
 自宅に戻るとパソコンを立ち上げ、仕事依頼のメールや通販サイトのメールが来ていないか確認すると、二件あった。その内の一つのメールを見て驚く。

「おお?! 大量の発注依頼なんて珍しい!」

 そんなことを呟いて内容を確認し、それに返事を出す。何回かやり取りをして納期やどんなアクセサリーなどがほしいのか確認すると、今度は通販サイトの方のメールを確認する。珍しいことにこちらもオーダーメイドで作れないかというもので、いつも買ってくれるお客さんからの依頼だった。結婚式に使いたいとのことだったので、これにも返事をしたり納品に一週間かかると返事をしたところでスマホに電話がかかって来て、画面を見ると実家からだった。
 話を聞くとビーズでバッグチャームや動物のスマホや携帯ストラップがほしいとのことだったので、どんな動物がいいかあとでメールしておいてとお願いした。

「あ、そうだ。お母さん、店でヘリコプターとか戦闘機のストラップがほしいって言うお客さんはいる?」
『なんだい、急に。そんなこと言うなんて珍しいじゃない。そもそも基地が近いのにヘリコプターの『ヘ』の字にすら興味がない子だったのに。何かあったの?』
「あったと言うか……。昨日みさちゃんと一緒に航空祭に行ってね。そこで初めてブルーインパルスを見て感動したからさ……」

 さすがにまだ『ドルフィンライダーの彼氏が出来ました!』とは言えなかった。今はもの珍しくて付き合ってって言ったかも知れない、って不安な気持ちもあったし、本当に何のとり得もない私だから、もしかしたら『ごめん』って藤田さんに言われるかも知れないと思っていたからだ。

『あらあら、今頃かい?! まあいいけど』
「今頃なの! いいでしょ、別に! で、どうなの?」
『そうねえ、聞かれることはあるわよ? だからひばりにお願いしてもいいかと思ってたんだけど、あんたちっとも興味なさそうにしてたから言わなかったのよ』
「……」

 母にそう言われて黙り込む。確かに興味がないものに関して、私は作ったりしないと自覚していたからだ。

『興味を持ってくれたことは嬉しいけどね。そうねえ……手始めにヘリコプターからなんてどう? 立体にするのは難しいだろうから、平面でいいわよ』
「そうだね……。試しに何か作ってみる。できたら評価してくれる?」
『いいわよ』

 そんな話をしてから引っ越しのことなどを話し合い、契約の更新はしないと連絡しなければならない不動産屋さんには父が一緒に行ってくれると言ってくれたのでお願いし、その日にちなどを決めてから電話を切った。それからパソコンを見ると、オーダーメイドして来た人はそれで大丈夫だと書かれていたので、料金やデザインなどを話し合ったりして、いろいろと決めた。
 それからパソコンでもう一度ヘリコプターやブルーインパルスの写真を探したりしている時、航空自衛隊のサイトを見つけた。

「おおお……っ! これはすごいっ!」

 壁紙がダウンロードできたり、3Dで飛行機が作れるものがあったり、フォトギャラリーみたいなのもあった。ダウンロードできるものはして、飛行機が作れるものは厚紙を買って来てからすることに決めた。これを見ながらやれば、ビーズで立体の飛行機が作れるかも知れないと思ったからだ。

「うまく作れるかどうかはともかく、まずは平面からだよね」

 そう呟いてビーズのセットを出してくると、先に仕事の依頼をこなす。慣れているとはいえそう簡単に作れるものではないし、それなりに時間もかかるからだ。バリ取りは買って来てすぐにやるようにしているので、見逃しがなければさっさと作れるし、見逃しがあってもその場で削るか別のを使えばいいだけだ。
 そんなこんなで休憩を入れつつ、依頼品を作っていった。そしてその日の夕方、仕事帰りの美沙枝から『会いたい』とメールが来た。我が家の近くにいるというので来てもらう。自宅に来たところで紅茶を出すと、美沙枝はそれを一口飲んでから意を決したように顔をあげた。

「何かあったの? 何か嬉しそうだね、みさちゃん」
「う……わかる? 実は、ずっと好きだった人と付き合うことになった」
「え……?! ほんとに?! よかったね!」
「うん!」

 顔を真っ赤にしながら教えてくれた人の名前は、なんと昨日一緒にいた藤堂さんだった。藤堂さんは美沙枝の隣の家に住んでいて、一回り年上の幼馴染だそうだ。それが藤堂さんだった。
 私と別れたあと藤田さんを基地に送り届け、そのあとドライブデートした時に告白されたんだって。

「近くにいていいなあ……」
「そうだけど、なんでそんなこと言うの? はっ! ま、まさか、四番機の藤田さんと何かあったの?!」
「え?! えっと、その……お付合いするとこになった……」
「マジ?! あの、塩対応がデフォの藤田さんと?!」
「うん。ていうかみさちゃん、塩対応ってなに?」

 塩対応はわかるけど、なんで藤田さんがそう言われるのかわからなくて聞いたら、彼はカメラを向けてもあまり笑顔を出さない人だそうで、ファンの間ではそう言われてるらしい。

「えー? 全然そんなことなかったけど?」
「だよね……。昨日の態度を見る限りそんなことはなかった。『但し、ひばりに限る』って感じだったよ?」
「そうなの?」
「そうなの! 昨日の帰りとか、こっちが話しかけても一言、二言話して終わりだったし、ひばりと話してた時みたいに笑顔じゃなかったもん」

 その対応の違いに、本当に驚く。昨日の藤田さんは本当ににこやかな対応だったからだ。

「確かに『気に入った!』とは言われたけど……」
「でしょ?! そういう感じだったもん」

 いいなあとぼやく美沙枝に、「自分だって彼氏ができたでしょ? しかも片思いを実らせて!」と言うと、美沙枝は視線を逸らせて「えへっ!」と照れたように笑った。そしてしばらく雑談してから美沙枝は帰って行った。
 一人になってからテレビをつけ、ご飯の支度をして食べる。その途中でスマホが着信を告げ、誰かと思って見たら藤田さんからのメールだった。無事に基地に着いたことにホッとして、【お疲れ様でした】とメールを返す。そこからしばらく他愛もないメールのやり取りをして、その日のメールは終わりを告げた。
 そのあとは食器を洗ったり片付けをしてからお風呂に入り、湿布を取りかえたりしてから依頼品作成の続きをする。ある程度終わらせると作業机を片付け、ビーズの在庫を確かめると、少なくなって来た色や天然石があったので、近所で手に入るもの以外のものをネットで注文する。
 それからパソコンにヘリコプターの画像を出してそれを見ながら、使えそうなビーズの色を探すものの、どうしても足りない色があったので溜息をつく。

「うーん……明日買いに行かないとダメかも……」

 まだ足が痛いんだけどなあと思いながらも予定を組み、必要なビーズの色をメモするとビーズを片付けてから布団に潜り込んで寝てしまった。


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