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本編
記念撮影?
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名前を返したら、藤田さんが嬉しそうに笑った。その笑顔にまたドキドキしてくる。くそう……イケメンはこういう時、得だよなぁって思う。
「ジョー、俺とひばりちゃんのツーショット撮ってよ」
「構わないよ。スマホを出して。あと、よければキミも」
「あ、立つのはきついだろうからベッドに座ってて」
「は?!」
突然藤田さんにそんなことを言われて素っ頓狂な声をあげてしまった。いきなりそんなこといわれても困る! なんて思ってるうちに藤田さんは私の隣に座ってしまった。しかもいきなり名前呼びとか……ええっ?! なんで?!
「ほら、ひばりちゃんも早くスマホ出して」
「う……」
肩を引き寄せられて、耳元でそう囁かれる。え、ちょっ、なんなの?!
とか思っているうちにこめかみにキスされて、それと同時にカシャッ、とシャッター音がした。そっちを見たら、お医者さんが青いスマホで写真を撮っていた。
「さすがジョー、ナイスタイミング!」
「いやいやいや、何をしてるんですか?!」
「抱っこするから、それも撮って」
「はぁっ?!」
「はいはい。ほら、キミもこっち向いて笑って」
そんなことを言われて、ついお医者さんのほうを向いて笑ったらそれも写真に撮られてしまった。そして藤田さんには「スマホ出して」とまた言われてしまったので、ついスマホを渡してしまった。彼はお医者さんに私のスマホを渡し、同じように写真を撮られてしまった。
そう言えばさっき、美沙枝が青いツナギを着た人と写真を撮ってほしいって言ったから、美沙枝のスマホで撮ってあげたんだっけ。確か一番機の隊長さんだって言ってた。笑顔が素敵な渋カッコいい人だった気がする。
その時は青いツナギの人は人気があるんだなあ、くらいにしか思ってなかった。だから私も、よく知らないけど写真を撮ってくれるならいっか、くらいの軽い気持ちでスマホを渡したんだけど……。失敗したかも、って思ってるうちに藤田さんは私を軽々と持ち上げると、彼の股の間にちょこんと座らされる。そして後ろから手を伸ばして来て私のお腹のあたりで手を組むと、頭に顎を乗せた。
「いいね~ジッタ、その格好。じゃあ撮るよ」
「は?!」
「ほら、笑ってって」
「擽ってやろうか?」
ニコニコと笑うお医者さんと、何故か色気のある声でそんなことを言う藤田さんについドキドキしてしまう。だからその声は反則ですって! なんて思ってたら藤田さんの手が擽るように動き出したので慌ててそれを止め、なんとか笑顔を向けると二台のスマホからシャッターが立て続けに切られた。
それに内心溜息をついて美沙枝の方を見れば、彼女はなにやら緑のツナギの人と楽しそうに話してるし、藤田さんは私を抱きしめたまま動かないし。
(どうしてこうなったんだろう……)
怪我を治療してもらったらすぐに帰るつもりだったのに……と、思わず遠い目になってしまう。
「あ、そうだ。このあと時間ある?」
「どうしてですか?」
「俺と……いや、俺たちとメシ食いに行かないか?」
「……はぁ? なんでそうなるんですか?!」
「え? もう少し一緒にいたいし、もっと話を聞きたいし」
「え……」
「それに、あっちはあっちで盛り上がってるみたいだし」
ほら、と指さされた方を見ると、美沙枝は嬉しそうにご飯がどうとか話していた。うわぁ……決定、ですか?
足が痛いから帰りは父か母に迎えに来てもらってマンションまで送ってもらうしかないかなー……と遠い目をしていたら、美沙枝たちがこっちに来た。
「ひばり、この人たちと一緒にご飯食べに行こうよ!」
「え、でも……この足だし……」
「帰りは俺たちが送っていくよ。ジッタももちろん行くだろ?」
「ああ」
「ねぇひばり、行こうよ! そこでドルフィンライダーの話も聞きたいし! あ、学さん、店は私んちでどう?」
「みさんちか、久しぶりだな! ジッタもそこでいいか?」
美沙枝の家は基地の近くにあって、ランチを出す居酒屋というか小料理屋というか、そんな店をやってる。よく自衛官が晩御飯を食べに来てるそうだけど、私は時間帯的にお昼に行くことが多いから自衛官と会ったことはなかった。もう一人の人(藤堂と名乗った)が藤田さんに店の名前と場所を説明したら彼はその場所を知ってるらしく、「俺も久しぶりに女将さんと大将に会いたい」と言ったことから、美沙枝の実家でもある店でご飯を食べることになった。
最後にお医者さんが立った状態で藤田さんとのツーショットの写真と美沙枝と藤田さんのツーショット写真、そして私と藤堂さんのツーショット写真と各自のスマホで四人の集合写真を撮ると、藤田さんとスマホの赤外線で渋々連絡先を交換し、男性二人はまだ仕事があるからと美沙枝の店で待ち合わせすることになった。
「じゃあ、奥の座敷で待ってるね。ひばり、歩ける?」
「よっと……うん、なんとか」
「折れてないけど、必ず病院に行ってね。痛くなくても、寝る前にさっき渡した痛み止めのお薬を飲んで」
「はい、わかりました。色々とありがとうございました」
「いえいえ」
少しだけゆっくり歩いて確かめ、大丈夫だったから安心した。そしてお医者さんにお薬のことを言われたのでそれに返事をし、治療してくれたことにもお礼を言うとにっこり笑いながら手を振ってくれた。この人も声とか雰囲気に色気のある人だよなぁ。
外に出ると陽が傾いて来ていて、風が冷たくなって来ていた。
「それじゃ、あとでな。ジッタ、行こう」
「ああ。あとでね、ひばりちゃん」
まだ見学者はいたけどそろそろ閉まる時間なのか、人々がゲートの方へ歩いて行くのが見える。そして歩き出そうとしたら藤田さんに腕を掴まれ、耳元で囁かれた。そのことで顔を真っ赤にしたら藤田さんが妖艶に微笑んでいて、その笑顔になぜか背中がゾクリと震えた。
それに内心首を傾げつつ、私は美沙枝と一緒にゲート方面へ、藤田さんたちは基地の奥の方へと歩いて行った。そしてゆっくり歩くこと十分。美沙枝の家に着いた私たちは、一旦彼女の部屋へと向かう。その途中で美沙枝が「あとで学さんたちがくるから、奥の個室を予約ね!」と言って母親を呆れさせていたっけ。
スマホの充電はまだあるけど、心許ないからと美沙枝にお願いし、彼らが来るまで充電させてもらいながら今日のことを話したり二人してオンノベを読んだりしてたんだけど……会話が途切れたところで藤田さんに言われたことを考える。
――ひばりちゃんを彼女にしたいから、あとでいっぱい口説くね。
耳元でそう言った藤田さん。
生まれてこのかたそんなことをされたこともなければ、ナンパ紛いなことをされたこともない。ついでに言うなら、憧れてた先輩はいたけど告白したことがないから彼氏がいたこともない。だから、どうして藤田さんがあんなことを言ったのか、不思議でしょうがない。
考えてもしょうがないからと考えるのを止めて、スマホで撮った写真を整理していく。
(うう……相変わらず下手だなあ……)
写真を撮るのは苦手だーと思いつつ、さっき藤田さんと一緒に撮った写真を見て、またどうしてあんなことを言ったんだろうって考えてしまう。爽やかな笑顔を浮かべた藤田さんが素敵な人なのは間違いない。けど、どうしてあんなことを言ったのかがわからない。
客観的に見た私は平凡だと思う。美沙枝は「可愛いよ」って言ってくれるけど他の人に言われたことはないし、私自身は普通だと思ってるし、告白されたこともない。なんだかなぁと思っているうちに充電も出来たし、そろそろ時間だからと美沙枝に促されて部屋から出るとお店の方へ行く。店内を見ればちらほらと紺色の制服や緑のツナギを着た人が席に座っていた。
それを横目に見つつ奥にある個室へと行く。この個室は座敷だけど掘り炬燵になっていて、陽が落ちて寒くなって来たからか炬燵には電気が入っていた。但し、お酒や料理を溢されると困るからなのか、或いは布団に引っかかって転ぶと危ないからなのか、炬燵布団はない。
美沙枝と向い合う形で席に着くと、そこにひょっこりとおばさんが顔を出した。手にはおしぼりとお通しを持っている。
「ひばりちゃん、いらっしゃい」
「こんばんは、おばさん」
「はい、こんばんは。美沙枝、予約って言ってたけど、他に誰がくるんだい?」
「隣の学兄さん」
「おや、学くん? 最近見なかったけど、別の基地に移ったのかい?」
「ううん、入間にいるよ。あともう一人一緒に来るの。しかもドルフィンライダー!」
「おやおや。ドルフィンライダーが来るなんて初めてじゃないかい?」
そんな話をしながらお通しを置くと、おばさんは「いらっしゃい!」というバイトの人とおじさんの声に反応してお店の方へと戻って行った。
「学くん、久しぶりだね。奥に案内するよ。そして……あら? もしかして章吾くんかい?!」
「はい。ご無沙汰してます、女将さん」
「やっぱり! 立派になって!」
遠くからおばさんと男性二人の声が聞こえて来た。男性たちはさっきまで一緒だった藤田さんと藤堂さんの声で、会話の内容から藤田さんを知っているみたいだった。その声がだんだん近づいて来て、仕切りになっている障子を開けると、おばさんと藤田さんたちが顔を出した。
「四人とも何を飲む? ああ、学くんと章吾くんは最初の一杯は立派になった二人のお祝いとしてあたしのおごりだよ。遠慮なく頼んでね」
「えー?! 二人だけずるい!」
「ずるいじゃないでしょ? 娘と言えど、店に客として来たならお金を取るに決まってるじゃないか。しかもひばりちゃんと違って家にいるんだから、それくらい余裕でしょ?」
「うう……」
二人の会話に美沙枝以外の三人で苦笑しつつ、それぞれ飲み物を頼む。お酒が飲めないわけじゃないけど私はさっきお薬を飲んじゃったし、帰ってからもお薬を飲まなきゃならないからウーロン茶を頼んだ。
藤田さんたちはお酒を頼むのかと思っていたら、「送っていくし、明日も仕事だし響くと困るから」とウーロン茶を頼んでいて、美沙枝だけカクテルを頼んでいた。それにしても、薬を飲むためにおにぎりを二口食べたとはいえ、ほとんど食べずにお昼を抜いたからお腹が空いた……。
料理は皆でつまめるものや個人で食べたいものを注文する。皆でつまめるものは唐揚げやフライドポテトなどの定番で、私はお腹が空いたので海鮮丼を頼んだ。ここの海鮮丼は美味しいんだよ、しかも定食になってるからお味噌汁と橋休めのお新香付き。お新香はおばさんが漬けてる糠漬けだから、すっごく美味しいんだ。
(あとで売ってくれないか聞いてみようかな……)
なんて図々しいことを考えていたら飲み物が来たので、「お疲れ様でした!」と乾杯した。
「ジョー、俺とひばりちゃんのツーショット撮ってよ」
「構わないよ。スマホを出して。あと、よければキミも」
「あ、立つのはきついだろうからベッドに座ってて」
「は?!」
突然藤田さんにそんなことを言われて素っ頓狂な声をあげてしまった。いきなりそんなこといわれても困る! なんて思ってるうちに藤田さんは私の隣に座ってしまった。しかもいきなり名前呼びとか……ええっ?! なんで?!
「ほら、ひばりちゃんも早くスマホ出して」
「う……」
肩を引き寄せられて、耳元でそう囁かれる。え、ちょっ、なんなの?!
とか思っているうちにこめかみにキスされて、それと同時にカシャッ、とシャッター音がした。そっちを見たら、お医者さんが青いスマホで写真を撮っていた。
「さすがジョー、ナイスタイミング!」
「いやいやいや、何をしてるんですか?!」
「抱っこするから、それも撮って」
「はぁっ?!」
「はいはい。ほら、キミもこっち向いて笑って」
そんなことを言われて、ついお医者さんのほうを向いて笑ったらそれも写真に撮られてしまった。そして藤田さんには「スマホ出して」とまた言われてしまったので、ついスマホを渡してしまった。彼はお医者さんに私のスマホを渡し、同じように写真を撮られてしまった。
そう言えばさっき、美沙枝が青いツナギを着た人と写真を撮ってほしいって言ったから、美沙枝のスマホで撮ってあげたんだっけ。確か一番機の隊長さんだって言ってた。笑顔が素敵な渋カッコいい人だった気がする。
その時は青いツナギの人は人気があるんだなあ、くらいにしか思ってなかった。だから私も、よく知らないけど写真を撮ってくれるならいっか、くらいの軽い気持ちでスマホを渡したんだけど……。失敗したかも、って思ってるうちに藤田さんは私を軽々と持ち上げると、彼の股の間にちょこんと座らされる。そして後ろから手を伸ばして来て私のお腹のあたりで手を組むと、頭に顎を乗せた。
「いいね~ジッタ、その格好。じゃあ撮るよ」
「は?!」
「ほら、笑ってって」
「擽ってやろうか?」
ニコニコと笑うお医者さんと、何故か色気のある声でそんなことを言う藤田さんについドキドキしてしまう。だからその声は反則ですって! なんて思ってたら藤田さんの手が擽るように動き出したので慌ててそれを止め、なんとか笑顔を向けると二台のスマホからシャッターが立て続けに切られた。
それに内心溜息をついて美沙枝の方を見れば、彼女はなにやら緑のツナギの人と楽しそうに話してるし、藤田さんは私を抱きしめたまま動かないし。
(どうしてこうなったんだろう……)
怪我を治療してもらったらすぐに帰るつもりだったのに……と、思わず遠い目になってしまう。
「あ、そうだ。このあと時間ある?」
「どうしてですか?」
「俺と……いや、俺たちとメシ食いに行かないか?」
「……はぁ? なんでそうなるんですか?!」
「え? もう少し一緒にいたいし、もっと話を聞きたいし」
「え……」
「それに、あっちはあっちで盛り上がってるみたいだし」
ほら、と指さされた方を見ると、美沙枝は嬉しそうにご飯がどうとか話していた。うわぁ……決定、ですか?
足が痛いから帰りは父か母に迎えに来てもらってマンションまで送ってもらうしかないかなー……と遠い目をしていたら、美沙枝たちがこっちに来た。
「ひばり、この人たちと一緒にご飯食べに行こうよ!」
「え、でも……この足だし……」
「帰りは俺たちが送っていくよ。ジッタももちろん行くだろ?」
「ああ」
「ねぇひばり、行こうよ! そこでドルフィンライダーの話も聞きたいし! あ、学さん、店は私んちでどう?」
「みさんちか、久しぶりだな! ジッタもそこでいいか?」
美沙枝の家は基地の近くにあって、ランチを出す居酒屋というか小料理屋というか、そんな店をやってる。よく自衛官が晩御飯を食べに来てるそうだけど、私は時間帯的にお昼に行くことが多いから自衛官と会ったことはなかった。もう一人の人(藤堂と名乗った)が藤田さんに店の名前と場所を説明したら彼はその場所を知ってるらしく、「俺も久しぶりに女将さんと大将に会いたい」と言ったことから、美沙枝の実家でもある店でご飯を食べることになった。
最後にお医者さんが立った状態で藤田さんとのツーショットの写真と美沙枝と藤田さんのツーショット写真、そして私と藤堂さんのツーショット写真と各自のスマホで四人の集合写真を撮ると、藤田さんとスマホの赤外線で渋々連絡先を交換し、男性二人はまだ仕事があるからと美沙枝の店で待ち合わせすることになった。
「じゃあ、奥の座敷で待ってるね。ひばり、歩ける?」
「よっと……うん、なんとか」
「折れてないけど、必ず病院に行ってね。痛くなくても、寝る前にさっき渡した痛み止めのお薬を飲んで」
「はい、わかりました。色々とありがとうございました」
「いえいえ」
少しだけゆっくり歩いて確かめ、大丈夫だったから安心した。そしてお医者さんにお薬のことを言われたのでそれに返事をし、治療してくれたことにもお礼を言うとにっこり笑いながら手を振ってくれた。この人も声とか雰囲気に色気のある人だよなぁ。
外に出ると陽が傾いて来ていて、風が冷たくなって来ていた。
「それじゃ、あとでな。ジッタ、行こう」
「ああ。あとでね、ひばりちゃん」
まだ見学者はいたけどそろそろ閉まる時間なのか、人々がゲートの方へ歩いて行くのが見える。そして歩き出そうとしたら藤田さんに腕を掴まれ、耳元で囁かれた。そのことで顔を真っ赤にしたら藤田さんが妖艶に微笑んでいて、その笑顔になぜか背中がゾクリと震えた。
それに内心首を傾げつつ、私は美沙枝と一緒にゲート方面へ、藤田さんたちは基地の奥の方へと歩いて行った。そしてゆっくり歩くこと十分。美沙枝の家に着いた私たちは、一旦彼女の部屋へと向かう。その途中で美沙枝が「あとで学さんたちがくるから、奥の個室を予約ね!」と言って母親を呆れさせていたっけ。
スマホの充電はまだあるけど、心許ないからと美沙枝にお願いし、彼らが来るまで充電させてもらいながら今日のことを話したり二人してオンノベを読んだりしてたんだけど……会話が途切れたところで藤田さんに言われたことを考える。
――ひばりちゃんを彼女にしたいから、あとでいっぱい口説くね。
耳元でそう言った藤田さん。
生まれてこのかたそんなことをされたこともなければ、ナンパ紛いなことをされたこともない。ついでに言うなら、憧れてた先輩はいたけど告白したことがないから彼氏がいたこともない。だから、どうして藤田さんがあんなことを言ったのか、不思議でしょうがない。
考えてもしょうがないからと考えるのを止めて、スマホで撮った写真を整理していく。
(うう……相変わらず下手だなあ……)
写真を撮るのは苦手だーと思いつつ、さっき藤田さんと一緒に撮った写真を見て、またどうしてあんなことを言ったんだろうって考えてしまう。爽やかな笑顔を浮かべた藤田さんが素敵な人なのは間違いない。けど、どうしてあんなことを言ったのかがわからない。
客観的に見た私は平凡だと思う。美沙枝は「可愛いよ」って言ってくれるけど他の人に言われたことはないし、私自身は普通だと思ってるし、告白されたこともない。なんだかなぁと思っているうちに充電も出来たし、そろそろ時間だからと美沙枝に促されて部屋から出るとお店の方へ行く。店内を見ればちらほらと紺色の制服や緑のツナギを着た人が席に座っていた。
それを横目に見つつ奥にある個室へと行く。この個室は座敷だけど掘り炬燵になっていて、陽が落ちて寒くなって来たからか炬燵には電気が入っていた。但し、お酒や料理を溢されると困るからなのか、或いは布団に引っかかって転ぶと危ないからなのか、炬燵布団はない。
美沙枝と向い合う形で席に着くと、そこにひょっこりとおばさんが顔を出した。手にはおしぼりとお通しを持っている。
「ひばりちゃん、いらっしゃい」
「こんばんは、おばさん」
「はい、こんばんは。美沙枝、予約って言ってたけど、他に誰がくるんだい?」
「隣の学兄さん」
「おや、学くん? 最近見なかったけど、別の基地に移ったのかい?」
「ううん、入間にいるよ。あともう一人一緒に来るの。しかもドルフィンライダー!」
「おやおや。ドルフィンライダーが来るなんて初めてじゃないかい?」
そんな話をしながらお通しを置くと、おばさんは「いらっしゃい!」というバイトの人とおじさんの声に反応してお店の方へと戻って行った。
「学くん、久しぶりだね。奥に案内するよ。そして……あら? もしかして章吾くんかい?!」
「はい。ご無沙汰してます、女将さん」
「やっぱり! 立派になって!」
遠くからおばさんと男性二人の声が聞こえて来た。男性たちはさっきまで一緒だった藤田さんと藤堂さんの声で、会話の内容から藤田さんを知っているみたいだった。その声がだんだん近づいて来て、仕切りになっている障子を開けると、おばさんと藤田さんたちが顔を出した。
「四人とも何を飲む? ああ、学くんと章吾くんは最初の一杯は立派になった二人のお祝いとしてあたしのおごりだよ。遠慮なく頼んでね」
「えー?! 二人だけずるい!」
「ずるいじゃないでしょ? 娘と言えど、店に客として来たならお金を取るに決まってるじゃないか。しかもひばりちゃんと違って家にいるんだから、それくらい余裕でしょ?」
「うう……」
二人の会話に美沙枝以外の三人で苦笑しつつ、それぞれ飲み物を頼む。お酒が飲めないわけじゃないけど私はさっきお薬を飲んじゃったし、帰ってからもお薬を飲まなきゃならないからウーロン茶を頼んだ。
藤田さんたちはお酒を頼むのかと思っていたら、「送っていくし、明日も仕事だし響くと困るから」とウーロン茶を頼んでいて、美沙枝だけカクテルを頼んでいた。それにしても、薬を飲むためにおにぎりを二口食べたとはいえ、ほとんど食べずにお昼を抜いたからお腹が空いた……。
料理は皆でつまめるものや個人で食べたいものを注文する。皆でつまめるものは唐揚げやフライドポテトなどの定番で、私はお腹が空いたので海鮮丼を頼んだ。ここの海鮮丼は美味しいんだよ、しかも定食になってるからお味噌汁と橋休めのお新香付き。お新香はおばさんが漬けてる糠漬けだから、すっごく美味しいんだ。
(あとで売ってくれないか聞いてみようかな……)
なんて図々しいことを考えていたら飲み物が来たので、「お疲れ様でした!」と乾杯した。
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