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北北西の国・ウェイラント篇
おうとへゴーでしゅ 7
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シュルッと音がして、スーお兄様と一緒に体になにかが巻き付く。それを見ればロープと呼べるほどぶっとい糸で、視線を辿って上を見ると、キャシーさんが糸を引っ張っていた。どうやら糸はスーお兄様が出し、私と一緒にくくったあとでキャシーさんに糸を飛ばしたようだ。
一瞬でやるなんてすげーな! さすが神獣だよね!
「ふんっ!」
気合一閃――野太い声を出し、盛り上がった筋肉が糸を持ち上げる。さながら、大型の魚を釣ってるみたい。……ドッカデ見タ光景ダナー(棒)
蜘蛛コンビによる連携で、あっという間に地上に戻った私たちに、他の大人たちはホッとした顔をしたあと、なぜか眉間に皺が。つーか、なんでこんなとこに穴があるんだろうね!
「ステラ、怪我は!?」
「にゃいでしゅ」
「それならよかった……!」
糸がほどけてすぐにテトさんが寄ってきて、そのまま抱き上げてくれたはいいものの。両脇に手を入れて持ち上げたものだから、猫がぶら下がっている状態に……。
そのまま上下左右を確認後、特に怪我もないとわかると、やっと左腕に乗せる状態の縦抱っこになった。
とはいえ、私とスーお兄様の安全確認が終わった大人たちの視線は、ぽっかりと開いた穴に向けられているわけで。神族特有のダンジョンに対する嫌悪感のようなものはないか聞かれたが、旅の途中で感じたようなゾワゾワ感はまったく感じないというと、全員ホッとしていた。
だって、今いる国はダンジョンができるほどの魔素はないはずなんだもの。それなのにダンジョンができていたら大問題。
単なる穴なのであれば問題はないが、それでも街道に近い場所に大きな穴があること自体がダメらしく、誰かが確認に行くことになったわけだが。結局、穴の大きさがわからないということで、少年スタイルになったスーお兄様と激怒しているテトさんが行くことに。
地面に降ろされたので近くにいたキャシーさんの側に寄ると、今度はキャシーさんが縦抱っこしてくれる。そのままの状態でバトラーさんたちに近づくキャシーさん。
「ねえ……あれ、なんだと思う?」
「恐らくだが、ホーンラビットの巣穴ではないか?」
「そうよね、アタシもそう思うわ」
だって、周囲は血痕だらけだったものねぇと溜息をつくキャシーさんと、それに便乗して頷く、他の神獣たち。
だよねぇ……ダンジョンでなければ、そういう類いのものになるものね。あとは元々大きな木があったが、それを引っこ抜いたとかね。
そう聞けば、みんなもそう思うと頷く。
それから五分も経たないうちにスーお兄様とテトさんが戻ってきた。二人とも、なんとも形容しがたい表情をしているんだが、なにかあったんだろうか。
全員で首を傾げたら、テトさんが一言。
「ホーンラビットの巣穴だった」
やっぱりかー!
だが、そこで話は終わらなかった。
「ホーンラビットの巣穴の残骸ではあったけど、中にいたのは特殊個体と思しきものと普通のホーンラビット。他には、いるはずのないフォレストベアの死骸やディアの骨もあった」
「え……それって……」
「憶測になるけど、その特殊個体がベアやディアを狩って、家族と一緒に食べていたんだろう。でないと、たくさんあった骨の説明がつかない」
『……』
こわっ! ホーンラビットが自分の上位種や捕食者を襲って食べたってことでしょ? 怖すぎー!
しかも、特殊個体が名前の通り特殊すぎていて、その名もダギンラビットというのだそうだ。しかも、魔素の薄い森や林に棲息しているホーンラビットからは直で出るようなものではなく、魔の森や死の森の奥深く棲息しているヴォーパルラビットの進化先とも、その前段階とも言われているらしい。
ヴォーパルよりも前なのかあとなのかはその時々で違うそうだが、それでも魔素の薄い森のホーンラビットから出るような個体ではない、らしい。それらの情報を踏まえたうえで出した、神獣たちの結論は。
隣国から流れてきたフォレストベアとフォレストディアが縄張り争いと小さな森の食材荒らしをし、ホーンラビットたちの食べるものがなくなってしまった。あまりにも被害が大きくなった結果、特殊個体が出てベアたちを倒し、捕食したのではないか、ということだった。
「フォレストウルフの足跡もあったから、ベアとディアを追って来たのだと思う。が、先に倒されていて激怒したウルフがこの巣穴を襲った」
「だけど、中にはダギンラビットという想定外のものがいて、戦った結果相打ちになったんじゃないか?」
「だろうね」
現場検証の結果、それが一番わかりやすい理由付けらしい。
とりあえず、これ以上の被害はなさそうなのは安心した。んだけど。
「ステラ、念のために浄化してみないか?」
「え……?」
なんで浄化? 疑問に思ったので聞いてみたところ、戦って死んだらしいダギンラビットの怨念というか後悔というか、そういうのが凄まじいとテトさんが話す。
「このままだと、周囲の骨すらも巻き込んでアンデッドになりかねない。だから、ステラに浄化してほしいんだよ」
「……わかりまちた。やるでしゅ」
「ありがとう!」
以前聞いた、神族の種族特性。回復系の魔法もだけど、浄化能力が神殿や教会関係者よりもずば抜けて高いという。しかも、最高峰の浄化能力を持つという教皇や聖女、聖人よりも高いというんだから驚きだ。
やり方がよくわからないが、きっと光魔法にそういうのがあるはずだと、ステータス画面を開いて光魔法をタップ。すると、ありましたよ、浄化魔法が。それも、神獣やバステト様並みに強いという注釈が付いてるんだけど!
詠唱も書かれているが、魔法はイメージが大事なので、なんとなくそれをすっ飛ばしてもイケる気がする。
てなわけで、テトさんとバトラーさんが護衛について、穴の中へ。
「……」
おおぅ、骨とかバカデカい三本角のウサギの死骸を見たら、黒い靄みたいなのが出ているように見える。しかも、それがゆらゆらと揺れていてところどころ目とか牙が生え裂けた口に見えて不気味だし、ダンジョンを感知したように背中がゾクゾクするぅ!
テトさんとバトラーさんにそう言ったら、綺麗さっぱり浄化しなさいと目が笑っていない深~い笑みで言われ、内心でガクブルしながらさっさと浄化することに。
「じょうか!」
言葉を発すると死骸や骨が光り、穴の中を照らす。春の日差しのような柔らかい光が周囲を照らし、黒い靄を包み込み、まるで癒しを与えているように見える。
その証拠に、靄の中に見え隠れしていた目は穏やかになり、裂けた口は元通りに
なっていっているように見えたのだ。それはテトさんとバトラーさんも――特にテトさんが感じているようで、心なしか雰囲気が穏やかになった気がするのだ。
テトさんは死神だそうだし……まあ、これ以上は詮索しないでおこう。
柔らかい光は次第に消え、あとにはなにも感じなくなった骨とデカいウサギの死骸だけが残る。日本式に手を合わせ、安らかな眠りと、どんな種族になろうとも、次は親兄弟を、仲間を護れるような子になれるようにと祈りを捧げた。
「……ステラ、ありがとう」
「どういたしまして」
私とは別に祈っていたテトさんが、お礼を言う。そんなテトさんはもう一度祈りを捧げると、ダギンラビットの死骸を亜空間に入れ、残った骨は灰になるまで燃やした。
穴から出たあとは穴自体を埋め直してまっさらな状態にし、近くにあった若木を植樹したあと、春になると芽が出る薬草や花の種を蒔くテトさんとアルバートさん。
「よし、これでいいだろう」
土をはらうようにパンパンと手を叩いたアルバートさんは、ここでは気まずかろうと別の場所に移動を提案し、採用された。すぐに徒歩で十五分ほど王都寄りの場所に着くと、そこで一夜を明かした。
翌朝、それぞれ思うところがあったのか普通~にパンでご飯を食べ、王都に向けて出発。TKGの存在を思い出したのは、王都に着く直前の休憩所だった。
一瞬でやるなんてすげーな! さすが神獣だよね!
「ふんっ!」
気合一閃――野太い声を出し、盛り上がった筋肉が糸を持ち上げる。さながら、大型の魚を釣ってるみたい。……ドッカデ見タ光景ダナー(棒)
蜘蛛コンビによる連携で、あっという間に地上に戻った私たちに、他の大人たちはホッとした顔をしたあと、なぜか眉間に皺が。つーか、なんでこんなとこに穴があるんだろうね!
「ステラ、怪我は!?」
「にゃいでしゅ」
「それならよかった……!」
糸がほどけてすぐにテトさんが寄ってきて、そのまま抱き上げてくれたはいいものの。両脇に手を入れて持ち上げたものだから、猫がぶら下がっている状態に……。
そのまま上下左右を確認後、特に怪我もないとわかると、やっと左腕に乗せる状態の縦抱っこになった。
とはいえ、私とスーお兄様の安全確認が終わった大人たちの視線は、ぽっかりと開いた穴に向けられているわけで。神族特有のダンジョンに対する嫌悪感のようなものはないか聞かれたが、旅の途中で感じたようなゾワゾワ感はまったく感じないというと、全員ホッとしていた。
だって、今いる国はダンジョンができるほどの魔素はないはずなんだもの。それなのにダンジョンができていたら大問題。
単なる穴なのであれば問題はないが、それでも街道に近い場所に大きな穴があること自体がダメらしく、誰かが確認に行くことになったわけだが。結局、穴の大きさがわからないということで、少年スタイルになったスーお兄様と激怒しているテトさんが行くことに。
地面に降ろされたので近くにいたキャシーさんの側に寄ると、今度はキャシーさんが縦抱っこしてくれる。そのままの状態でバトラーさんたちに近づくキャシーさん。
「ねえ……あれ、なんだと思う?」
「恐らくだが、ホーンラビットの巣穴ではないか?」
「そうよね、アタシもそう思うわ」
だって、周囲は血痕だらけだったものねぇと溜息をつくキャシーさんと、それに便乗して頷く、他の神獣たち。
だよねぇ……ダンジョンでなければ、そういう類いのものになるものね。あとは元々大きな木があったが、それを引っこ抜いたとかね。
そう聞けば、みんなもそう思うと頷く。
それから五分も経たないうちにスーお兄様とテトさんが戻ってきた。二人とも、なんとも形容しがたい表情をしているんだが、なにかあったんだろうか。
全員で首を傾げたら、テトさんが一言。
「ホーンラビットの巣穴だった」
やっぱりかー!
だが、そこで話は終わらなかった。
「ホーンラビットの巣穴の残骸ではあったけど、中にいたのは特殊個体と思しきものと普通のホーンラビット。他には、いるはずのないフォレストベアの死骸やディアの骨もあった」
「え……それって……」
「憶測になるけど、その特殊個体がベアやディアを狩って、家族と一緒に食べていたんだろう。でないと、たくさんあった骨の説明がつかない」
『……』
こわっ! ホーンラビットが自分の上位種や捕食者を襲って食べたってことでしょ? 怖すぎー!
しかも、特殊個体が名前の通り特殊すぎていて、その名もダギンラビットというのだそうだ。しかも、魔素の薄い森や林に棲息しているホーンラビットからは直で出るようなものではなく、魔の森や死の森の奥深く棲息しているヴォーパルラビットの進化先とも、その前段階とも言われているらしい。
ヴォーパルよりも前なのかあとなのかはその時々で違うそうだが、それでも魔素の薄い森のホーンラビットから出るような個体ではない、らしい。それらの情報を踏まえたうえで出した、神獣たちの結論は。
隣国から流れてきたフォレストベアとフォレストディアが縄張り争いと小さな森の食材荒らしをし、ホーンラビットたちの食べるものがなくなってしまった。あまりにも被害が大きくなった結果、特殊個体が出てベアたちを倒し、捕食したのではないか、ということだった。
「フォレストウルフの足跡もあったから、ベアとディアを追って来たのだと思う。が、先に倒されていて激怒したウルフがこの巣穴を襲った」
「だけど、中にはダギンラビットという想定外のものがいて、戦った結果相打ちになったんじゃないか?」
「だろうね」
現場検証の結果、それが一番わかりやすい理由付けらしい。
とりあえず、これ以上の被害はなさそうなのは安心した。んだけど。
「ステラ、念のために浄化してみないか?」
「え……?」
なんで浄化? 疑問に思ったので聞いてみたところ、戦って死んだらしいダギンラビットの怨念というか後悔というか、そういうのが凄まじいとテトさんが話す。
「このままだと、周囲の骨すらも巻き込んでアンデッドになりかねない。だから、ステラに浄化してほしいんだよ」
「……わかりまちた。やるでしゅ」
「ありがとう!」
以前聞いた、神族の種族特性。回復系の魔法もだけど、浄化能力が神殿や教会関係者よりもずば抜けて高いという。しかも、最高峰の浄化能力を持つという教皇や聖女、聖人よりも高いというんだから驚きだ。
やり方がよくわからないが、きっと光魔法にそういうのがあるはずだと、ステータス画面を開いて光魔法をタップ。すると、ありましたよ、浄化魔法が。それも、神獣やバステト様並みに強いという注釈が付いてるんだけど!
詠唱も書かれているが、魔法はイメージが大事なので、なんとなくそれをすっ飛ばしてもイケる気がする。
てなわけで、テトさんとバトラーさんが護衛について、穴の中へ。
「……」
おおぅ、骨とかバカデカい三本角のウサギの死骸を見たら、黒い靄みたいなのが出ているように見える。しかも、それがゆらゆらと揺れていてところどころ目とか牙が生え裂けた口に見えて不気味だし、ダンジョンを感知したように背中がゾクゾクするぅ!
テトさんとバトラーさんにそう言ったら、綺麗さっぱり浄化しなさいと目が笑っていない深~い笑みで言われ、内心でガクブルしながらさっさと浄化することに。
「じょうか!」
言葉を発すると死骸や骨が光り、穴の中を照らす。春の日差しのような柔らかい光が周囲を照らし、黒い靄を包み込み、まるで癒しを与えているように見える。
その証拠に、靄の中に見え隠れしていた目は穏やかになり、裂けた口は元通りに
なっていっているように見えたのだ。それはテトさんとバトラーさんも――特にテトさんが感じているようで、心なしか雰囲気が穏やかになった気がするのだ。
テトさんは死神だそうだし……まあ、これ以上は詮索しないでおこう。
柔らかい光は次第に消え、あとにはなにも感じなくなった骨とデカいウサギの死骸だけが残る。日本式に手を合わせ、安らかな眠りと、どんな種族になろうとも、次は親兄弟を、仲間を護れるような子になれるようにと祈りを捧げた。
「……ステラ、ありがとう」
「どういたしまして」
私とは別に祈っていたテトさんが、お礼を言う。そんなテトさんはもう一度祈りを捧げると、ダギンラビットの死骸を亜空間に入れ、残った骨は灰になるまで燃やした。
穴から出たあとは穴自体を埋め直してまっさらな状態にし、近くにあった若木を植樹したあと、春になると芽が出る薬草や花の種を蒔くテトさんとアルバートさん。
「よし、これでいいだろう」
土をはらうようにパンパンと手を叩いたアルバートさんは、ここでは気まずかろうと別の場所に移動を提案し、採用された。すぐに徒歩で十五分ほど王都寄りの場所に着くと、そこで一夜を明かした。
翌朝、それぞれ思うところがあったのか普通~にパンでご飯を食べ、王都に向けて出発。TKGの存在を思い出したのは、王都に着く直前の休憩所だった。
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