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北北西の国・ウェイラント篇

おうとへゴーでしゅ 6

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 畑がある場所を抜けると林が広がってくる。さっきまでは晴れ間も見えていたのにいつの間にか雲に覆われ、雪がちらつき始めている。

「寒いと思ったら雪だわ……」
「もうじき休憩所に着く。そこで休憩したら移動して、馬車ごと泊まれる場所を探そう」

 キャシーさんのぼやきにアルバートさんが指示を出してくれる。あと十五分も走ると休憩所に着くそうで、大人たちはバタバタと準備に入る。
 私? なにもさせてもらえないので、玻璃を抱っこしてムニムニしてますとも。
 そうこうするうちに休憩所に着いたが、定期便らしい大型の馬車と護衛の冒険者たちがいた。とはいえ、私たちが着いてすぐに休憩所を出たのでトラブルなどもなく、水分補給とトイレ事情などの解消をしたあと、王都に向かってまた走り出す。
 一時間くらい走っただろうか? 目的地に着いたようで、馬車が停まる。

「今日はここで一泊する」
「それはいいが、馬車内で? それとも家を出す?」
「馬車でもいいが……家? ってなんだ、テト」
「実は」

 アルバートさんに、今まで私たちが使っていたコテージというかログハウスというか、それすらも越えつつある一軒家のことを話すテトさん。それを聞きつつ、私は窓から周囲を見回す。
 林にしては少し深い、小さな森ともいえる木々の密集具合に、ぽっかりとそこだけ広場のような場所が広がっている。うしろにあるドアから窓を覗くと、その先は馬車一台が通れるくらいの道幅なのに、なぜか途中で木々が寸断していた。

「どうにゃってるにょ……?」
「ん? アルバート、種族スキル」
「にゃるほろー」

 一緒に移動していたスーお兄様が簡潔に説明してくれた。要は、アルバートさんの種族スキルに木々を移動させるようなものがあり、それを使ったとのこと。
 ……意味がわからん。あれか? 猫なバスが出てくるアニメで木々が動く、あのような感じなのだろうか。あんな感じなんだろうな、と勝手に想像し納得しておく。
 機会があれば見せてもらおうっと。

「じゃあ、その家ってやつで頼むわ」
「いいよ。じゃあ、準備するな」
「おう」

 結局、家を出すようだ(笑)
 馬車もあるけれど、家を出すには少々手狭な広場のようで、馬車をしまうことに。なので、スーお兄様に抱っこされて馬車を降りる。玻璃は私の腕の中だ。
 全員が降りたところでゴーレム馬ごと馬車をしまったテトさんは、できるだけ端っこに寄せるような位置に家を出す。
 ……なんか、以前のよりも一回り大きくなっているような……?
 その疑問は当たりで、一部屋増えていたのと、いつの間にか設置されていたバステト様の像が安置され、お供えできる部屋が若干広くなっていた。バステト様の像は、私が会ったあのお姿。
 像ではあるが、やっぱりそのご尊顔もわがままボディも生で拝見したままという、バッチリさなのだ! ……セレスさんやステイシーさんもそれなりにデカいが、バステト様のお胸様はもっとご立派であ~る!
 セレスさんとステイシーさんがG前後、バステト様はJかKカップはあるんじゃなかろうか。要はアメリカサイズというか、日本だと確実にオーダーメイドサイズだ。
 生前の自分はEサイズだったのでそこそこな大きさではあった。が、同じ女としてもあのサイズは触ってみたいと思う。そして埋もれてみてーーーっ!!
 ……肩凝りがヤバそうだけどな。

 そんなお胸様事情はともかく。
 一旦全員で外に出て、薪拾い。私とバトラーさん、キャシーさんとスーお兄様、残りとでグループをふたつ作り、それぞれが反対方向へと動く。
 薪自体はテトさんもバトラーさんもたくさん確保しているが、あくまでもそれは冬ごもりのためのもの。なので、こういった移動中での薪はその場所にある倒木などを拾うか、途中の町で炭や薪も売っているので、それを買えばいい。
 で、今回はどちらも必要ないとの判断で買っていないので、薪拾いをしているんだが。倒木が数本倒れている場所を発見。しかも、大小の足跡がいっぱいだが、私には区別がつかない。
 そんな状況だからなのか、バトラーさんたちが警戒を強める。

「ん? これは……ホーンラビットとフォレストウルフだな」
「ウルフ単体、珍しい。……はぐれ?」
「そうかもね。倒木のあたりをうろついていたようだケド……なにをしていたのかしら?」
「獲物、捕獲失敗した、とか?」
「あり得るわね」

 倒れ方から推察するに、フォレストウルフに襲われたホーンラビットが逃げまどい、偶然か故意かはわからないけれど、フォレストウルフとホーンラビットの間に倒れた樹木が、ホーンラビットが逃げるだけの隙を与えたのではないか、とのこと。
 神獣おとなたちがいるといえど、お腹が空いていたなら神獣とわかっていても襲われることもあるそうなので、警戒は必須。キャシーさんとスーお兄様が警戒しているうちにバトラーさんが倒木を亜空間にしまう。
 青い血がなかったので、倒木に押し潰されることなく逃げられたんだろう。そのことにホッとするも、バトラーさんもキャシーさんもスーお兄様も、雰囲気は硬いままだ。

「ここからすぐに離れたほうがいいな」
「そうね。ステラちゃんもいるしね」
「ステラ、行こう。手、繋ぐ」
「あい」

 スーお兄様に促され、差し出された手を掴んで一緒に一、二歩進んだ時だった。

「「え?」」
「ステラ!」
「スティーブ!?」
「にゃーーー!?」
「うわっ!」

 二人の足元に穴が開き、揃って落ちた。

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