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北北西の国・ウェイラント篇

こんごのよていでしゅ 2

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 で、宝石のカットに関してはのちほど図面を描くことになったのはいいが、問題は皮をどうするかという話に。
 そもそもの話、皮は専門に扱っている工房などに卸し、それを加工することで商品として成り立つ。主に鞄や靴、防具などだ。
 その中でもこの国に限っていえばウルフ系やディア系、ボア系の革鎧は初心者の装備として充分に役立つうえ、需要がある。なので、できればなめしたものをどこかの工房に卸したいと考えているみたいなんだけど……。

「スタンピードで出たものは、一段上の素材になっているのよ」
「だから、扱える職人がいるかどうか……」

 ってことらしい。
 たとえば、ホーンラビット。森に棲息しているものとダンジョンに棲息しているものとでは、名前は同じでもレベルが違うそうだ。ダンジョンの規模やランクによっては、森に棲息しているものと比べると、五から二十近いレベル差が出るという。
 その差はダンジョン内に内包する魔素の濃さや、ダンジョン内でも弱肉強食なのは当然なので、同じ種族間でも戦闘してレベルを上げるような個体もいるそうだ。
 そんな個体のことを特異個体、変異体と呼ばれるという。国によって呼び名が違うだけで、実際は同じものなわけ。その特異個体の実例が玻璃はりね。
 で、それを踏まえたうえで今いる国の現状だと、スタンピードがあった国とこの国では魔素の濃さがまったく違う関係で、地上の森に棲息しているホーンラビットといえど、レベル差があるそうな。しかも、今回なめして使おうとしている皮はダンジョンから溢れ出た魔物のものなうえ、この国よりも五倍以上は濃い魔素が漂っているダンジョンから溢れ出たもの。
 しかも、魔素が薄い関係でこの国にはダンジョンがなく、ダンジョン内は地上よりも魔素が濃いのが常なので、この国のホーンラビットしか扱ったことがないとなると、ダンジョン産の皮の扱いは難しいかもしれないとは、キャシーさん談。

 それって、ある意味詰んでるじゃん!

 技術力向上を狙って研鑽している国や町であれば、なめしたものを卸して「あとはお好きにどうぞ」と言えるが、この国に限っていえばそれができない。もちろん技術の向上を目指している工房もあるので、そっちに卸すのはやぶさかでないそう。
 とはいえ、そんな向上心ある工房が今いる町にあるかというと、そんなことないわけで……。

「いっしょのこちょ、みにゃしゃんでちゅくってうったらろうでしゅか?」
「んー、そうね。隣国に行くまで商売を何もしないのは、怪しまれるだけだし」
「ステラ。それなら、何を作ったらいいかね?」
「かわいいデジャインのマジックバッグでしゅ」
「「「「「は?」」」」」

 なんで呆けた顔してるのさー?
 しょうがないので、舌足らずながらも今までみたマジックバッグの話をしてみた。
 布製のマジックバッグはあれどトートバッグサイズ。なので、買い物に行く主婦な女性には人気だけど、そこはトートバッグ、冒険者には向かないし容量もそこまで大きくない。日本でいうところの、スーパーの買い物かご二個分が限度。
 で、革のマジックバッグの場合、バッグの大きさは腰につける化粧ポーチサイズとビジネスバッグサイズで斜め掛けのもの、あとはリュックと三種類しかない。容量に関してもそこまで大きいものはなく、化粧ポーチサイズで最大容量は八畳、ビジネスバッグサイズがLDK12畳、リュックが庶民の平屋で2DK、トイレあり・お風呂なしの一軒家前後。
 もちろんこれは作る人の魔力や個人のレベル、職業ランクうあそれに付随した熟練度が関係しているそうなので一概にはいえないけれど、一般的なものというか流通しているのは上記のサイズがほとんどらしい。
 つまり、大きいサイズのマジックバッグがないし、あってもダンジョンの下層、しかもボス部屋に出る宝箱からしか出ないか、作れてもギリでBランク上位以上の冒険者や大店の商店しか買えないお値段だそうで。
 つまり、お金を持っていることが大前提か、ダンジョンに潜って独り占めするしかない。ぶっちゃけると、私が持っている黒猫の無限収納で時間停止なマジックバッグは、作れる人がいないのが現状。
 ちなみに、神獣たちはそれらを作ることはできるけど、売りに出したとしてもかなりのお値段になるそうなので、実用的ではないことを記しておく。
 まあ、それはレベルだの魔力だの、そもそも生きてる年数が違うんだからしょうがないことなんだけど、それ以前にデザインがね! 無骨なのしかないのよ! しかも、大きいしリュックなんてポケットもないし!
 少年や女性の冒険者もいるんだから、もう少し小さいものや細工しているバッグがあってもいいと思うの!
 そういうことを話したうえで提案。

「しぇめて、ポケットがあればいいとおもうんでしゅ。ふちのところをぬのにちて、しょこにししゅうしたり」
「あら……」
「あちょは、かわじたいにしゃいくしゅるとか」
「なるほど……」
「目立つのはよくないが、濃い色の布や糸で刺繍すればダンジョンや森の中でも、目立つことはないですな」
「そうねぇ。それに、革を掘るのもいいわね」

 私の話を聞いて思案顔だったセバスさんとキャシーさんが賛同してくれる。
 そこからはデザインのプレゼンをしたよ! つうか、異世界に来てまでプレゼンするとは思わなかったよ……トホホ。
 でなわけで、一般的な容量且つ、可愛いデザインのマジックバッグと、カットした宝石を使った可愛いデザインの装飾品を作って売ることが決定した。

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