上 下
67 / 87
北西の国・ミルヴェーデン篇

つよいでしゅ

しおりを挟む
 私というか、私たちの旅に一緒に来ることになったシルバースライムちゃんだが、今は森と草原の境界で狩りをしている。

「ぷぷーっ♪」
「……たのしそうでしゅね」
「そうだな。ちょうど、フォレストウルフを捕まえたようだ。ほら」
「あ~……」

 視線の先には、何十倍もの大きさのフォレストウルフを包みこもうとしているスライムの姿が。あっという間に包み込むと、青白いウルフの体毛が見えなくなった。
 それがどんどん縮んでいくのが面白いというか、恐ろしいというか。
 そもそも、どうしてシルバースライムが狩りを始めたかというと、セバスさんの突っ込みが原因だった。

「餌を求めてここまで来たんじゃないのか?」
「ぷ~? ……ぷっぷぷっ!?」

 セバスさんの指摘にちょっと考えたあと、まるで「忘れてた!」みたいな声と顔をしたあと、すんごいスピードで森の中に入っていったんだよね。すぐに「ぴぎゃー!」って声がしたかと思うと銀色の塊が森と草原の境界に現れた。
 セバスさんがスライムが食事中だと教えてくれなければ、どんどん小さくなる銀色の塊に慄いているだけだったと思う。
 まあ、今もその食事スピードと、大きさに関係なく包み込める体積がどこにあるのかと、慄いてるが。
 私が見つけたシルバースライムは、テニスボールくらいの大きさしかないんだけどなあ。シルバースライム自体は、そんなの関係ねえ! とばかりに、自分よりも大きな魔物を捕食しているが。

「……しゅごいでしゅね」
「そうだな」
「あんにゃにちっちゃいのに、どうやってくるんでるんでしゅかね」
「さてなあ。スライムの神獣もいるが、さすがに出会ってはいないからな」
「しょうれしゅか」

 セバスさんですらスライムの神獣に会ったことはないのか。
 つうか、スライムも神獣になるんか。
 どんだけ強いんだよ、そのスライムは。会ってみたいけれど、会えないよねぇ。
 とか言ってるとフラグが立つんだよな、これが。まあ、なるようになるでしょ。
 なーんて、セバスさんとのんびり話しながら、シルバースライムの食事風景を見ていたわけだが、フォレストウルフが終わり、次の獲物を探しに森に入るシルバースライム。
 いい加減、名前をつけてあげたいんだけど、勝手につけたらダメだよねぇ。セバスさんに聞いてみるか。

「あにょ、セバスしゃん」
「ん? どうした?」
「あのスライムににゃまえをちゅけても、だいじょぶでしゅか?」
「大丈夫だと思うが、念のためあいつに聞いてみるといい。スライムによっては名前をつけることで、従魔になってしまったりするからな」
「おおう……、そりぇはらめでしゅよね」
「そうだな」

 そうか、従魔になっちゃう子もいるのか。
 テイマースキルがなければ従魔としてテイムすることはできないそうなんだけど、魔物の中には本人を気に入って、従魔になってくれる子もいるんだそうだ。その場合はテイムスキルがなくても従魔になってくれるけれど、本当に極稀におきる現象らしい。
 とはいえ、私とあの子の場合、それはないだろうとセバスさん。なぜならば、私があの子の話す内容がわからなかったから。
 私と一緒に行動してもいいと思ってくれたことは事実だが、あの段階でわかったのであれば、それは私の従魔になってもいいよという意思表示でもあるんだって。
 それがないってことは、現段階では従魔になるほど私を信用・信頼していないか、信用・信頼はしているが、誰かの従魔になる気はないかのどちらかなんだそうな。

「信用も信頼もしているとは思う。が、従魔にはなりたくないみたいだな」
「しょうなんでしゅか?」
「ああ。自由でいたいし、誰かに縛られるのは嫌だと言っていた」
「にゃるほろー」

 いくら言語理解の魔法があろうとも、さすがに魔物の言葉はわからないってことか。そういえば、バトラーさんと初めて会った時、魔物の姿だったけれど私にもわかる言葉だったもんなあ。
 きっと神獣だからというのもあるだろう。
 あとは、この世界の人間たちが使う言葉限定での言語理解かもしれない。
 だって、全種族って書かれてないし。
 全種族だったら魔物の言葉もわかるはずだもの。それがないってことは、ヒトとして生活している者限定なんだろう。
 まあ、宿屋で会ったステイシーさんによると、大陸ごとや国によっても言葉が違うそうだしね。そのへんは地球に似てるのかも。
 なにせ、文字の勉強をしている時に、大陸共通語があるんだよと教わったくらいだし。
 あれかな、地球でいう英語みたいなものなのかな。
 この言語であれば、他国の人でもわかる、みたいな。
 とはいえ、言語理解がある以上、私には関係ないらしい。私は意識していないけれど、ステイシーさんと話した時、あの国の言葉だったらしいから。

 おっと、脱線した。

 視線の先にはシルバースライムちゃん。別の魔物を狩ってきたらしく、その毛皮は見事な銀色だ。

「おい、そのシルバーフォックスの毛皮は、こちらにくれないか? ステラのコートにしたいんだが」
「ぷっぷー♪」
「ありがとな」
「ぷ~♪」

 セバスさんの問いかけに、楽しそうに返事をするシルバースライム。なんだかいいよって感じの返事だったね。セバスさんに聞くと、いいよと言っていたらしい。
 つうか、この世界にもシルバーフォックスがいることに驚いた。
 どんな姿の魔物なのかな? 初めて見るから、楽しみだ♪

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

自重をやめた転生者は、異世界を楽しむ

饕餮
ファンタジー
書籍発売中! 詳しくは近況ノートをご覧ください。 桐渕 有里沙ことアリサは16歳。天使のせいで異世界に転生した元日本人。 お詫びにとたくさんのスキルと、とても珍しい黒いにゃんこスライムをもらい、にゃんすらを相棒にしてその世界を旅することに。 途中で魔馬と魔鳥を助けて懐かれ、従魔契約をし、旅を続ける。 自重しないでものを作ったり、テンプレに出会ったり……。 旅を続けるうちにとある村にたどり着き、スキルを使って村の一番奥に家を建てた。 訳アリの住人たちが住む村と、そこでの暮らしはアリサに合っていたようで、人間嫌いのアリサは徐々に心を開いていく。 リュミエール世界をのんびりと冒険したり旅をしたりダンジョンに潜ったりする、スローライフ。かもしれないお話。 ★最初は旅しかしていませんが、その道中でもいろいろ作ります。 ★本人は自重しません。 ★たまに残酷表現がありますので、苦手な方はご注意ください。 表紙は巴月のんさんに依頼し、有償で作っていただきました。 黒い猫耳の丸いものは作中に出てくる神獣・にゃんすらことにゃんこスライムです。 ★カクヨムでも連載しています。カクヨム先行。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生幼女の異世界冒険記〜自重?なにそれおいしいの?〜

MINAMI
ファンタジー
神の喧嘩に巻き込まれて死んでしまった お詫びということで沢山の チートをつけてもらってチートの塊になってしまう。 自重を知らない幼女は持ち前のハイスペックさで二度目の人生を謳歌する。

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 【5/22 書籍1巻発売中!】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。