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死の森篇

せんとうきなみにはやいでしゅ

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 雪が舞う曇天の空を滑空する、大きな影。旅客機や戦闘機のようにかなり上空を飛んでいるとはいえ、下に誰かがいたら驚くだろうなあ。
 まあ、雪が降っているのに外に出る人間はいないだろう。それを見越して、ドラゴンの姿で飛んでるようなものだしね。
 コートを三枚も着て全身もこもこ状態だし、風除けの魔法障壁なるものを張っているからか、そこまでの寒さはない。もちろん毛布も被っているし、さらに天然の毛皮で護られているから、暑いくらいかもしれない。
 ええ、天然の毛皮だよ。

<ステラ、寒くないか?>
「らいじょうぶでしゅ」
<そうか>

 ぐっとお腹のほうに抱き寄せ、寒くないようにしてくれているバトラーさん。なんといつも寝る黒虎サイズになり、私を包んでくれているのだ! めっちゃあったかーい! そしておっとこっまえー!
 私が寒いと考えたらしく、人型だったのにすぐにティーガーの姿になると、私を抱き込んで座った。しかも、猫でいう香箱座り。
 その足と首の下の間にちょこんと挟まっておりまする。神獣で黒虎とはいえ、いつかやってみたかった、お手手の間に指を入れる動作の体バージョンであ~る。
 念願が叶ってよかった……!
 にへら~っと笑いつつ、地上を見る。マジで飛行機よりも速いスピードで飛ぶセバスさんは、戦闘機だ。戦闘機に乗ったことないから実際のスピードは知らんけど。
 けれど、マジでジェットエンジン搭載の飛行機より速くて、雪は真横に流れてゆく光景を見るのは面白い。つうか、これでゆっくりとは……なんとも恐ろしい。
 広大な森をあっという間に超えて平原に辿り着き、そこも一瞬で超える。景色が流れていく一方で雪が深くなり、緑色に交じっていた白が徐々に逆転していった。
 そして樹海のような森に入った段階で、だいたい一時間弱とバトラーさんが教えてくれる。ぬくぬくしたりバトラーさんと話してしたからなのか、あっという間だった。
 樹海もどきを抜けた先に平原があり、そこで休憩と交代。降りた時にセバスさんの翼を触らせてもらったんだけれど、ふっかふかのもっふもふ、これぞ至福! 最の高な羽毛でござった!
 セバスさんとセレスさん以外の人たちでスープを飲み、暖を取る。飲み終わったらキャシーさんと一緒にセレスさんに乗る。

「くもしゃん、しゃむくないれしゅか?」
「大丈夫ですって」
「キャシーしゃんは?」
「アタシも大丈夫よぉ♪」

 右手を挙げて応える蜘蛛さんと、ご機嫌な様子のキャシーさん。キャシーさんも蜘蛛さんも、もふもふまみれだもんなあ。
 そんな私は脚を折り畳んで座っている蜘蛛さんの横に座ると、被っている毛布の上から糸を巻き付けて固定してくれる。落ちないようにするための措置だそうだ。
 ありがたや~。

<じゃあ、いくわね>
「あい!」

 準備が整うとセレスさんが声をかけてくれる。セバスさんと違って、セレスさんはそのままふわりと上へと上がった。
 なんていうか、ヘリコプターがそのまま上に上がった感じ? 垂直離陸っていうんだったかな。そんな感じで飛んだというか浮かんだというか。
 すーっと上がったらそのまま動き始めるセレスさん。実は、こっちも憧れてたんだよね。
 今の見た目と同じくらいの年齢かちょい上だったと思うんだけど、アニメでやっていた昔話を見たことがある。祖父母の家に行くといろんなDVDを見せてくれたのだが、その中のひとつが昔話だったのだ。
 それは祖父母が持っていたもので、DVDのセット。もともとは父とその兄弟、祖父母の甥や姪に見せるためにビデオテープへ録画したものだそうだが、何回も見てテープが擦り切れていたこととちょうど兄やいとこたちが生まれたこともあり、DVDを買ったらしい。
 で、昔話のアニメのオープニングに映し出されていたのは、緑色の龍に乗り、赤い服と太鼓を持った男の子。当時は架空の存在だなんて知らなかったから、いつか乗ってみたいと思っていたのだ。
 まあ、大きくなるにつれて架空や伝説、神話にしか登場しない存在だとわかり、がっかりしたのだが。
 けれど今、その夢が叶ったわけで。
 しかも、某国の神話に登場する、天帝と呼ばれる存在に乗っているわけで。
 これでテンションが上がらないなんてことはなく、ずーっとテンションアゲアゲでキャシーさんと喋ったり上空や地上を眺めた。
 平原を抜けるとまた森になり、どんどん山脈が見えてくる。裾野から広がった森はさっきの樹海なんて目じゃないくらい木々が密集していて、ところどころに大きな岩があったり、ぽっかりと開いていたりと様々な姿を見せてくれる。
 真っ白に染まった山脈の向こうは全く見えず、あっちも雪が降っていることが伺えた。

<そろそろ山を抜けるわ。あそこは風が強いから、気をつけてね、キャシー>
「ええ、わかっているわ。ステラちゃんは糸で括り付けてあるし、障壁の他に結界も張るから、安心してちょうだい」
<わかったわ。じゃあ、いくわよ!>

 セレスさんの合図で、魔法障壁だけじゃなく結界も張られる。そして念のため蜘蛛さんが糸を出し、背中の凸凹に巻き付けた。
 それを確認したセレスさんは、セバスさんと一緒にスピードを上げ、前方から吹き付ける風に負けないように飛ぶ。とはいえ、負けないようにといっても風に乗っている状態というか、隙間を泳いでいるというか、そんな感じで飛んでいるのだ。
 スピードが上がったことであっという間に樹海と山脈を通り越し、すぐに真っ白な雪山が見える。そこから山肌を通って木々が広がり、樹海になっていた。
 その先に見えるのは平原だ。
 しばらく樹海の上空を飛ぶとスピードを落とし始めるセレスさんとセバスさん。ゆっくりになったことで結界が解かれたけれど、魔法障壁はそのままだ。
 そして山を越えた途端に雪の粒が大きくなり、その数を増していく。地上を見れば、森と平原の切れ目のちょっと先に住宅が見える。あれが森に近い村なんだろう。煙突から煙が出ていることと雪かきをしたからか、屋根がしっかりと見えている。
 そこを通りすぎ、さらに北へと向かう私たち。遠くに城壁のような壁が見えたところで、空の旅は終わりとなった。

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