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死の森篇

おかねのしゅるいでしゅ

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 スープとパン、肉が載ったサラダと目玉焼きという、朝にしては量の多いご飯を食べる。お肉はヴォーパルラビットだって。
 大人たちからしたら二口ほどで終わってしまう量だが、幼児の私にしてみればそれでもうお腹いっぱい。しっかり私が食べる分量が把握されていて、笑ってしまった。
 ご飯が終わればお茶を飲み、しっかりとお腹を休める。その時にバトラーさんとキャシーさんが湖で起こった出来事を話すと、テトさんもセバスさんもセレスさんも、禍々しいオーラを出して激おこになっている。
 ……こわっ!
 それだけ、私が大事にされているってことでいい……んだよね?
 転生前も愛されて大事にされてきたことはわかっているけれど、この世界に転生したことで、それがなくなるのかと怖かった。だけど、神獣とはいえ、愛し子として大事にされて愛されているとわかる。

「えへへ……」

 それはとても嬉しいし、どこか寂しさを感じていたものが晴れていくように感じる。だから、嬉しいとありがとうと伝え、一人ずつ感謝を込めて抱きしめたら、怒りを鎮めてくれた。
 ……単純と言ってはいけない。
 お腹も落ち着いたので、そろそろ出発だ。テトさんが家をしまい、北に向かって歩く。

「できれば午前中にあの森を抜けたいですね」
「では、我がステラを背の乗せよう」
「そうですね。わたくしたち夫婦ですと、大きすぎますし」
「ステラちゃんはあたしが支えるわ」
「いえ、わたくしが支えます」
「なんですって?」

 おおう、なんだか夫婦揃って不穏な空気が! すわ、夫婦喧嘩勃発か⁉

「既にずっとステラを抱っこして移動しているではないですか、セレスは」
「ぐぬぬ……。仕方ないわね。わかった。セバスに譲るわ」
「ありがとうございます、セレス」

 なーんて思ったら、呆気なく収まってしまった。何というか……譲り合いの精神というか、似た者夫婦というか。
 とにかく、喧嘩にならなくてよかったと胸を撫で下ろしていたら、私を縦抱っこしたセバスさん。大きなトラになったバトラーさんのところへといくと、そのまま軽~い感じで飛び乗る。
 普通に考えたら、体高二メートルもある場所に予備動作なしで飛び乗るなんてことはできないんだけどなあ……。さすがは神獣というべきか、持っているスキルのせいなのか。
 そこはわからないけれど、突っ込むのはやめよう。
 出発準備が整ったので、すぐに移動を開始。胡坐をかいたセバスさんの足の間にちょこんと座り、景色を楽しむ。寒くないよう毛布までかけてくれる過保護っぷりだ。

「セバスしゃん、わたちにおかねのしゅるいをおちえてほしいでしゅ」
「おや。何かありましたか?」
「ダイヤモンドをかんていしたときに、しぇいれいきんかってでたんでしゅ。まらおかねをみたことがないので、しゅるいだけでもちりたいんでしゅよ」
「なるほど。実物は手持ちがありませんし。いいでしょう」
「ありがとうごじゃいましゅ!」

 そんなわけで、セバス先生によるお金の講義が始まった。
 この世界のお金は、基本的に世界共通の硬貨があるそうなので、それを使用する。一応紙幣もあるが、ごく一部の国でしか使われていないので、それは割愛。
 共通硬貨は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、精霊金貨の六種類。基本的なお金の流れは、金貨までだそうだ。
 稀に白金貨も流れるけれど、それは大商人や貴族、国が使うものらしい。
 つまり、それだけ価値が高いってことなんだろう。
 まあ、白金貨や精霊金貨は数が少ないし滅多に使うものではないそうなので、店で見ることはないんだとか。

「国によって多少異なりますが、これから行く国ですと、銀貨三枚か四枚枚あれば、平民の一家五人で一月ひとつきは暮らせますよ」
「にゃるほろ~」

 物価がわからない以上、日本のお金に換算するのは難しいな、これ。ラノベだと銀貨一枚で千円だったり百円だったりするからね。
 そこはマジで町に着いてからじゃないとわからないなあ。
 セバスさんの説明はまだ続く。
 鉄貨百枚で銅貨一枚、銅貨百枚で銀貨一枚になるそうだ。

「それではステラ。銀貨百枚では?」
「きんかいちまいでしゅか?」
「正解です。よくできましたね」
「えへへ~」

 優し気な微笑みを浮かべて私の頭を撫でるセバスさん。手袋をしているけれど、その温かさになんだか父を思い出した。

 両親は叱る時はきっちり叱るし、褒める時は大げさなくらいに褒める人たちだ。両極端な行動が目立っていたが、叱ったあとは抱きしめてくれたなあ。
 家事や育児も母に任せっきりにすることなどなくて、どちらかがさり気なくフォローしていたっけ。布団は必ず自分で干すとか、洗濯物を畳んだら自分で持っていかせて、自分で箪笥にしまうとか。
 母が料理を作ったら父が洗い物をして、その逆もあった。父の作ったカレーは美味しかったなあ。
 私にとって、両親は理想の夫婦だったんだよ。もちろんそれは他の兄弟にもいえることだが。
 おっと、脱線した。
 とにかく、セバスさんはとても愛情深い人なんだと感じたことは確かだし、セレスさんにも同じように感じている。もちろんそれは、バトラーさんとテトさん、キャシーさんと蜘蛛さんにもいえることだが。
 他に知りたいことがないか聞かれたが、特にこれといったことは思いつかず。

「まちにちゅいたら、いろいろおちえてくらしゃい」
「ふふ……。かしこまりました」

 微笑みを浮かべて頷くセバスさん。国が変われば常識が変わるように、世界が変わったんだから常識だって違うのは当たり前だ。
 先にある程度教えてもらうにしても、実践に勝るものはない。なので、移動しつつも少しずつ常識を教えてもらっている最中だ。
 その後はセバスさんが指さす方向やテトさんが採取した植物、途中で出くわした魔物を鑑定しつつ移動する。移動速度が速いから景色も流れるようにうしろへと移動するし、どんどん植生が変わっていくのも面白い。
 それに伴って気温も下がっていきているのか、顔が冷たく感じ始めるに従って、セバスさんが毛布を用意してくれた意味もわかるってもんだ。まあ、風を切って移動しているから、寒いのは当然なんだが。
 風が直撃しないよう、一応魔法を使って結界か膜を張っているみたいなんだが……それでも寒いものは寒い。真冬は氷点下まで下がるんだろうなあ……なんて考えると、ちょっと憂鬱になる。
 とはいえ、これから行く国では、真冬は買い物に行く他は家に閉じこもって出ないそうなので、その間に料理や常識を習ったり、勉強しようと思う。恐らくだけれど、そのために大人たちは食料と薪になる倒木を集めまくってるんだろうし。
 そんなことを考えたりセバスさんやバトラーさんと雑談をしていたら、いつの間にか森を抜けていた。そこから一時間ほど走るとまた森の中へと入り、すぐに開けた場所に出た。
 そこだけ木々がなく、ぽっかりと穴が開いているような空間だ。

「ここでお昼にしましょう」
「テト、家は出さなくていいわ」
「わかった」

 セレスさんの言葉にテトさんが頷き、簡易竈を組んでいくテトさん。私はセバスさんに抱っこされてバトラーさんの背から下ろしてもらうと、薪集めに参加する。
 当然のことながら一人で行動することは許されていないので、キャシーさんと一緒に薪拾い。途中でキノコを見つけて採取し、キャシーさんの合図でテトさんのところへと戻った。

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