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死の森篇

ぬし?としょうぐうしたでしゅ

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 翌朝。バトラーさんとキャシーさんの三人で、湖へお散歩。その間にテトさんとセレスさんがご飯を作り、セバスさんは魚を氷漬けにするんだって。
 氷漬け……?
 昨日の夜、バトラーさんに私のことを話していいかどうか許可を取ったあと、テトさんとキャシーさん、セバスさんとセレスさんに話をすることにしたんだけれど。どうもその時に、私の世界にあった魚の保存方法が気になったみたいなんだよね。
 なので、発泡スチロールに氷を入れて魚を保存していたのと、冷凍保存の話をしてみた。とはいえ、この世界には時間が経過しない鞄や亜空間の存在があるので、あまり意味をなさないと思ってた。
 私としてはそう思ってたんだけど、どうもセバスさんはそこがツボだったらしく、いろいろと試してみたいと考えたらしい。特に発泡スチロールなんてないしね、この世界は。
 なので、それに代わるものをいろいろ試しつつ、あれこれ試行錯誤するらしい。研究熱心だなあ。
 ずっと見てるのも面白そうだけれど邪魔になるのも悪いし、キャシーさんと朝の散歩に行く約束をしていたし。バトラーさんもたまには私と散歩をしたいと思ったようで、一緒に来ることになった。
 家からすぐのところにある湖岸に着くと、昨日のように中を覗いてみる。すると、今日も黒い魚影が見えた。
 ただし、昨日の三倍以上の大きさがあるが。

「ボニートがいるな」
「奥にはトンノもいるみたいね」
「ろんなおしゃかなでしゅか?」
「うーん……。説明が難しいわね。ちょっと待ってね」
「あい」

 どんな魚だろうとワクワクしていると、昨日同様に投網で魚を捕え、引き上げるキャシーさん。昨日よりも数は少ないけれど、その分魚が何倍もデカい!
 しかも、テレビとかスーパーで見た魚の姿ばかりなのはいいんだけれど……。

「これがボニートで、こっちがトンノだ」
「これがアミアでこれがぺスよ」
「ふおおお! おしゃしみー! だしのもとーー!」
「「おさしみ? だしのもと?」」

 不思議そうに首を傾げるバトラーさんとキャシーさん。名前は日本とは違うけれど、見た目はまんま知っているものばかりだった。
 ボニートはかつお、トンノがマグロ。アミアがゴマサバで、ペスがトビウオだったのだ! もちろん鑑定して確認したとも!
 なので、鰹節もサバ節もあごだしもできる! もちろんお刺身も食べられる!

「にょほほ~♪」
「ステラちゃんが喜んでいるわね……」
「美味いものが食べられそうだ」
「確かに!」

 キャシーさんとバトラーさんが何か話しているけれど、キニシナーイ! 二人にお願いして魚の〆アーンド血抜きをしてもらい、黒猫の鞄にしまっていく。一メートルくらいはあるボニートが鞄に入るか心配だったけれど、杞憂に終わった。
 とりあえず、全種類五匹ずつ自分の鞄に入れ、残りはバトラーさんが亜空間に入れてくれた。あとでテトさんに渡すんだって。
 テトさんたちが作ってくれる料理も楽しみだなあ~♪
 湖の水をちょっと舐めてみたら、真水だった。日本で飲んだ天然水にのような味だから、軟水なのかな? だけど、なんでそんなところに、海の魚がいるのかなあ?
 異世界だから?
 海水じゃないから魚の味が気になるが、そこは食べてのお楽しみだ。味がぼやけていたら、ヅケにしたり焼いたり、煮たりスープにしてしまえ。あとは出汁用だな、うん。
 作業が終わったら、再び散歩を開始。地面にはちょっと毛足の長い芝生のような草と、薬草がちょろちょろ生えている。とはいえ、このあたりの気温はかなり低いし、これから向かう先はうっすらと白く染まっている。
 たぶん、雪が降っているんだろうね。だからなのか、草の一部は茶色くなって枯れ始めている。
 砂浜のようになっているところに近づいてみると、大小様々な、まあるい石がゴロゴロ転がっている。それに交じって赤や黄色、緑や透明、青やオレンジ、ピンクや黒い石もあって面白い。
 何気なく透明の石を拾って鑑定してみたら。


 【 ダイヤモンド 】

   湖の波で洗われ、角が取れた宝石
   大きさとしては希少品。加工することで装飾品にできる
   売価価格:精霊金貨300枚


 …………はい?

「にゃーーー!?」
「ステラちゃん、どうしたの、って。あら、ダイヤモンドね。ここで見つかる大きさは貴重だし、希少でもあるのよ~」
「よく見つけたな、ステラ」
「しょ、しょんなかんたんにいわにゃいでくらしゃい!」

 バトラーさんとキャシーさんはのほほんとしてるけれど、私はそれどころじゃない! 精霊金貨ってなに!?
 しかも、何気なく手に取った、大人の拳大はあるやつがダイヤモンド!? 妙にキラキラと輝いていたとはいえ、ガラスかと思ってたよ!
 とりあえず、あとでどんなお金の種類があるのだけでも聞かねばならぬと決意したあと、手に持っていたダイヤモンドはキャシーさんに渡した。欲しそうな顔をしてジーっと見てたからね。
 この分だと、他にも色のついたやつは宝石の類だろうなあ……なんて思って鑑定したら、全部宝石だった。エメラルドとかサファイヤとか、ルビーとかピンクダイヤとか。
 あとはラピスラズリにオニキス、アンバーなどなど、なんでこんなところにあるんだよ! ってくらい、大小様々な大きさの宝石がのだ!
 さすが異世界、本当~になんでもアリだな!
 顔を引きつらせつつもしっかり拾ったとも。そのうち、装飾品を作ってみたいな。
 そんな感じで宝石を拾ったりしていたら、突然水鳥たちが鳴いて騒ぎ、飛び立った。そして湖面に波が立ったと思ったら赤くて丸いものが現れ、同時に何か伸びて来たと思ったら、体が宙に浮いた。

「にゃーーー!?」
「ステラ!」
「ステラちゃん!」

 すぐに剣を抜いて飛んできたバトラーさんが、私のうしろを切る。そのまま湖に落ちる! と目を瞑ったら、グイっと今までいたほうへと引っ張られた。
 何事かと目を開けたら、口からぶっとい糸を吐き出している蜘蛛さんと、その糸を引っ張っているキャシーさんが見えた。そのままキャシーさんのムキムキマッチョな大胸筋にドーン!

「キャシーしゃん、くもしゃん。ありあとうごじゃいましゅ!」
「いいのよ! 無事でよかったわ」

 ホッとしたように息をつくキャシーさんと、ギチギチと鳴いて片手を上げる蜘蛛さん。助かったという思いが込み上げてきて、つい涙目になってしまった。

「大丈夫よ、ステラちゃん。あとはアタシたちとバトラーに任せなさい」
「……あい」

 キャシーさんの声がいつになく低くて野太く、ギチギチギチィ! と鳴く蜘蛛さんの声も怒っているように聞こえる。私をギュッと抱きしめたあと、キャシーさんは地面に下ろす。
 そして蜘蛛さんは、私を護るかのように片足で抱き寄せてきたので、お礼を言いつつ抱きつくと、よしよしと頭を撫でてくれた。キャシーさんも蜘蛛さんも優しいな。
 そんなことをしている間にも、実は蜘蛛さんがぶっとい糸を吐いていて、私を襲ったモノに絡みついたままだ。
 その糸を辿り、バトラーさんが糸の上を走っているのが見える。
 地面を見れば、私に絡みついていたものがピクピクと蠢いている。そこにあったのは、クソバカデカい吸盤。
 しかも、うっすらと赤い色。
 ……もしかして、タコじゃね?
 そんなことを考えていたら。

「あら、クラーケンね」

 なんて、キャシーさんの呟きが聞こえた。

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